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スポーツで拓く、未来の街づくりの可能性
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スポーツで拓く、未来の街づくりの可能性

去る4月12日(水)、虎ノ門ARCHにて開催された「スポーツ×未来・街づくり」と銘打ったセッションに博報堂DYメディアパートナーズ・博報堂の市川貴洋、宮川幸久が登壇。DeNAの鐵智文さんと共に、スポーツを活用した事業開発や社会課題解決の仕組み、街づくりや周辺ビジネスの可能性などについて語り合いました。

鐵 智文(てつ ともふみ)
株式会社横浜DeNAベイスターズ 執行役員 ビジネス統括本部 副本部長

市川 貴洋
博報堂DYメディアパートナーズ・博報堂
ミライの事業室 グループマネージャー

宮川 幸久
博報堂DYメディアパートナーズ
スポーツビジネス局プロデューサー

日本と米国に見る、スポーツを起点とする街づくりの現在地点

市川
博報堂DYメディアパートナーズの市川です。スポーツビジネスにおける新規事業を推進しながら、外部パートナーとの協業型事業開発に注力しています。昨年10月から本格的な協業プロジェクトが始まったDeNAの鐵さんと、博報堂DYメディアパートナーズの宮川との3人で今日は話をしていけたらと思います。
私はベイスターズでビジネス統括本部に席を置きながら、DeNAのスポーツ・スマートシティ事業本部でも仕事をしています。
DeNAが行うさまざまな事業の根幹には、エンターテインメントと社会課題を掛け合わせて社会貢献を行うという理念があります。なかでもスポーツ事業においては、2011年に横浜DeNAベイスターズに事業参画後に、「スポーツの力でひととまちを元気にする」というビジョンのもと、横浜スタジアムの運営、バスケの古豪である川崎ブレイブサンダースの事業承継、SC相模原というJ3のクラブの保有などを通して、コンテンツや興行によってスタジアム周辺が賑わい、ひいては街全体を豊かにするような戦略を描いています。

より具体的には、まずDeNAの強みであるマーケティング、興行運営のノウハウを投じてコンテンツの魅力向上を図っており、イベント演出やグッズ、飲食、スポンサー営業などを通じて所有するチームの観客動員を伸長させています。
スタジアムと周辺エリアという視点では、スタジアムの改修に投資し収容人数を拡大。川崎には新たなアリーナ、相模原では新スタジアム建設に向けても検討が進んでいます。
さらにその先にある、まち/地域/暮らしという視点では、スタジアムに隣接する商業施設を開業予定で、野球だけではなくさまざまなエンターテインメントとスポーツを飲食と共に提供し、新たな賑わいの創出を目指しています。
さらにはスクール事業や、行政やさまざまな企業と協力し地域課題解決にも取り組んでいます。我々独自で展開する限界もあり、多様なステークホルダーとのリレーション、行政との協力関係、そして企業の皆さんと一緒に、スポーツを活用しながら新しい技術やアイデア、文化の創出ができればと考えています。

企業価値創造のフレームワークとしては、まずスポーツに、事業を成長させる可能性があります。そこから、商品開発や実証実験、ビジネスを拡大させていくマッチングといった実利に結び付けられるような価値を実現したいと考えています。
そして有難いことに我々周辺には、選手、幅広い顧客基盤、さらにはスタジアム/アリーナというハード、興行、そして地域コミュニティとのつながりといった様々なアセットと、皆様のアセットとを掛け合わせることで、一緒にスポーツの未来をつくっていきたい。
たとえば銀行の持つスポンサーシップをサブライセンスし、銀行の先にある支援先である中小企業が選手の商標を使えるようにすることで自社ブランディングや商売に役立てていただいたり、球場に集まった子どもたちを対象にSTEAM教育を提供するといった活動も可能でしょう。国内で価値を共創するパートナー様と一緒に、スポーツの未来を拓く事業をつくり、スポーツ産業の可能性を追求していけたらと考えています。

市川
鐵さん、ありがとうございます。
いまお話いただいたような内容も含め、現在、日本全国で、サッカー、バスケットボールなどの競技のアリーナ/スタジアムの再開発、建設プロジェクトが増えています。
スポーツを基点とした街づくりの大きな気運が生まれようとしているのです。こうした動きに先行するのが、米国です。スポーツビジネスにおいて日本よりも10年進んでいるといわれる米国では、どんな取り組みが行われているのか。参考になりそうなお話を紹介します。

アメリカ合衆国カリフォルニア州イングルウッドにある最先端の屋外型スタジアムがSoFi(ソーファイ)スタジアムです。総工費は45億USドル以上。国立競技場が1500、1600億円だったので、およそ3、4倍の額です。収容人数は座席だけで7万人、立ち見を入れると10万人。5万4千人規模との国立競技場と比べても、その大きさの違いがよくわかります。国立競技場の3倍以上のコストをかけた、倍のサイズのスタジアムですが、それがなぜビジネスとして成立しているのか。彼らの取り組みから学べることがあるのではないかと考えます。

概観図を見ると、SoFiスタジアムを中核に、ショッピングモール、キャンパスのようなオフィス、低層マンション、高級ホテル、シネコン、レストランなど、大きな街がつくられています。
全体で国立競技場の10個分という広大な区画がロサンゼルスの空港近くに誕生しつつあります。
このなかにある人工池は、敷地内で使われる再生水の貯水池にもなっている。環境面でも、水資源をどう確保するかは世界的に非常に重視されていますが、人を集める一方でこうしたサステナブルな仕組みをつくっているところに非常に共感します。スタジアム隣には6000人入る劇場もあり、eスポーツの試合やエンターテイメントの興行が行われ、ネーミングライツも売買されています。内部で特徴的なのは、インフィニティサイネージスクリーン。最先端技術を駆使し、研究開発されたものが提供されていて、高品質のコンテンツ配信が行われています。

通常、ビルやスタジアムを建設する場合、メーカーや建設資材会社がサプライヤーとして商品や資材をデベロッパーに提供するという構図になりますが、ここではサプライヤーという立ち位置はなく、一緒にスタジアムの事業、街づくりにコミットし、それぞれが実証実験などに取り組んでいます。ですからスタジアム全体の建設費は45億USドル以上かかっていますが、自治体からの助成は一切なく、すべて民間だけで完結している。民間企業がパートナーとして共創し、巨額の投資の回収も行うわけです。
普段はNFLのロサンゼルス・チャージャーズとラムズのホームでもあり、観客席は4階席まで。大型ビジョンの解像度は非常に高くなっています。
決済についてはSquareというテック企業がサポートしていて、スタジアム内はキャッシュレスで物が買えます。LAに来る観光客がスポーツとエンターテイメントを楽しめるよう、アメリカンエアラインズを始めとする航空、交通機関とも提携。Google Cloudも、データプラットフォームとしてサポートしつつ、サプライヤーとしてというよりも一緒にコミットする立場として、10万人以上の人が集まり生活する場を支える基盤を支えています。

このように、スポーツを媒介に多くの人が集まると、消費が生まれ、地域が活性化し、持続的な発展が可能になります。
コロナ禍の3年間の気づきでもありますが、数万人規模で一度に人を集められるようなコンテンツは、スポーツとエンターテインメント以外にはそうそうないのではないかと思うのです。それこそが、人が集まるリアルな場としての価値。スマートシティというと、効率化やコスト削減の文脈で語られがちですが、それは人口が集中している都市の場合です。
リモートの生活スタイルも定着し、人が分散していくと、人を集める力がますます大事になりますし、リアルとリモートのハイブリッドの魅力があるなかで、リアルに人が集まるスポーツコンテンツを核とした街づくりが、一層地域商圏や街の活性化に大事になってくると思います。そうした事業に、これからDeNAと我々が一緒になって取り組んでいきたいと考えているところです。

具体的な共創パートナーシップの可能性を考えてみる

宮川
ではここから、金融機関、航空/鉄道、食品/飲料/小売りという3つのカテゴリーにおいてどんな共創パートナーシップの可能性があるのか、具体的なケーススタディを考えてみたいと思います。

まず金融機関について。
たとえば、デジタル地域通貨の推進によって地方都市の課題解決やスマートシティ化を目指している、ある金融機関があったとします。キャッシュレス決済から蓄積された購買データを、街の活性化に利活用しています。
また、スーパーの購買データをもとに、ヘルスケアデータを活用した健康促進アドバイスといった施策を行う生命保険会社があったとします。もしここにスポーツを掛け合わせるとどんなことができるでしょうか。多くの人が集まるスタジアムで、地域通貨を利用してもらうといったことが可能でしょうか。

そうですね。横浜スタジアムの場合、数時間の間に3万人以上もの人がいろいろな交通機関を使って集まってきます。街中で飲食をしたりスタジアム内で消費行動をとるほか、試合後にみなとみらいや中華街に寄って帰るというカスタマージャーニーが描けます。地域通貨はそうした地域の経済を潤すことにつながりそうです。またファンの方は試合がない日でも情報を取り、消費行動をとっています。エンターテインメントをつくるなどいろんなサービスを掛け合わせることで、365日活性化しているようなスタジアムがつくれるといいですね。
宮川
確かにファンやサポーターは広がりもあるし熱量も高い。ファンはチームを後援するパートナー企業の商品を選ぶ傾向もあります。DeNAのスクール事業からもさまざまなデータが取れるので、生命保険会社のヘルスケアデータと掛け合わせた健康促進のサービスができそうです。また、社会課題解決という意味で、スタジアムでプラスチック製品を回収し、地域通貨と交換できるような仕組みにすれば、リサイクル促進も実現できそうですね。
まさにスタジアムは大型の集客装置で、ファンの熱量も大きい。チームと一緒に社会課題に取り組もうと発信すれば、多くの人を巻き込むことができそうです。
宮川
では続いて航空/鉄道との共創はどうでしょうか。
ポストコロナの時代、東アジア、東南アジアを戦略エリアのひとつとし、大きな経済圏をつくろうとしているエアライン会社があったとします。一方でバスケットボールの川崎ブレイブサンダースは、アジアNo1のチームを目指しており、羽田空港からのアクセスもいい川崎において、1万人を呼び込む総合アリーナの建設を進めているところです。バスケットボールは中国や東南アジアにおける人気スポーツの一つですし、現実的に海外からの送客は十分見込めると思います。インバウンド需要を呼び込む大きな武器になるのではないでしょうか。

確かに、インバウンド向けのスポーツ観戦体験をしっかりと提供することで、交通・航空会社とも共創できそうですね。
宮川
外国人選手がチームに加入することで、彼らの出身国にファンが生まれたり、出身国で試合の放映ができたりする。エリアとスポーツをつなぐ大きな経済圏ができる可能性があります。スポーツの、人を集める力や熱狂を拡大させる力をビジネス開拓や社会課題解決に活かせるといいですよね。
市川
国内では野球もバスケットボールも盛り上がっていますし、スポーツを中核としたインバウンドビジネスには、今後もチャンスがたくさんありそうです。
宮川
では最後に、食品/飲料/小売りについてです。
B2Cの最前線であり、多くの企業のなかで選ばれるブランドになるには、環境問題にどれだけ真剣に取り組んでいるかが必須の条件です。たとえばスタジアム周辺にコンポストを設置し、たい肥、アルコール、飼料に転換させ、それを利用して野菜や地ビールをつくったり、畜産する。そこから商品化し、販売もしていく。ごみから素材を生み商品に変えるという流れをつくり、その街全体をゼロウェイストシティとすれば、技術や製品をつくるうえで食品飲料小売り企業のパートナーシップの力が発揮できるし、行政から補助金をいただくこともできそうです。
生活者の皆さんの価値観を変えていくことにもつながるかもしれません。
人が集まればいろんなものが消費されます。トイレにも行くしごみも出る。中には、古くなったユニフォームをどうしようかと悩む人がいるかもしれません。サステナブルな社会を目指すために、自分たちでできることはもちろん、他社さんと一緒に何ができるかを考えていきたいです。

世界戦略からDXまで――
スポーツを起点に新しいビジネスを共創していきたい

市川
それでは最後に質疑応答となります。

Q.ゲームで知られるDeNAがスポーツにチャレンジした理由は何ですか?

プロ野球に参入した2011年当時、リアルアセットに挑戦することに懸念を示す声も社内ではあったようですが、スタジアムとスポーツの掛け合わせによるビジネスチャンスの可能性、また今後のスポーツ産業を切り拓くという熱意ある社員が後押しをしたようです。12球団中オーナー会社が変わるというのはそうそうない、千載一遇のチャンスでもある。大きな転換点でした。

Q.アウトバウンド需要において、どのスポーツに注目していますか?

バスケとサッカーは世界中で人気のスポーツなので、世界戦略を描きやすい。比較すると野球は世界的には競技人口が少ないですが、そのなかでも我々ベイスターズは世界一のスポーツチームを目指そうとしています。また我々のビジネスモデルをアジアなどに持ち込むことで、現地のスポーツが活性化し、世界に一緒に出ていくような機会がつくれたらいいとも考えます。

Q.共創型の街づくりにおいては、どういうテーマを立てようとしていますか?

高層ビルを建てたり自動運転の車を走らせるといったスマートシティの街づくりは、我々にはできません。我々ができるのは、スポーツを中核に、そこから魅力を染み出させ、熱量を街づくりに生かすこと。互いの強みを活かすことが必要かと考えます。

Q.ヘルスケア事業とスポーツはどういう掛け合わせができそうでしょうか?

観戦人口はどんどん高齢化しているので、シニア層向けに、楽しみながらデータを活用し、健康を活性化していくようなサービスが考えられそうです。

Q.近年は子どもたちとスポーツとのかかわりが薄くなってきています。そういう環境下でできることは何でしょうか?

確かに少子化や部活の地域移行などで、子どもたちがスポーツに触れる機会が縮小してきており、スポーツ産業の発展という意味でも危機感を抱いています。我々スポーツ界は、楽しい場づくりだけじゃなく、地域の子どもたちが自然にスポーツに触れられるような環境をつくるべきですし、教育事業者や保険会社さんなどと共創していけたらと思います。

Q.スポーツバーなど、スタジアム外での盛り上がりの創出についてはどうとらえていますか?

市川
スポーツ観戦と、お酒を飲んだり、みんなが集まれる場所の相性は非常にいいですよね。イギリスでよく見られるような、スポーツバーで試合観戦しながらリアルタイムでスポーツベッティング(賭け)を楽しむというビジネスもあり得るのではないでしょうか。
アメリカの放映権が高額化しているのも、ベッティングの影響と聞いたことがあります。ワンプレーごとに盛り上がるからこそ、テレビを見るようになっている。国内では法規制やファン心情もケアする必要もあり実現には様々な課題はあると思いますが、純粋にスポーツを楽しむという機会を旧市庁舎再開発エリアに作っていく予定です。ホームで試合が行われない日も、スタジアム周辺にみんなが集まり、大型画面で試合を見て盛り上がれるようなライブビューイングの場を、我々も検討しているところです。

Q.顔認証やキャッシュレスについてはどう進めていきますか?

完全キャッシュレスは非常にスムーズですが、お客様を選ぶ一面もあります。高齢者や小さい子どもたちが取り残されないよう、ケアは必要だと思います。一方でDXによって、たとえば途中退席した人の席をまた別の人に売ることができるようになれば、便利ですよね。そういう技術をどう導入し、横展開していけるか、検討の余地はありそうです。
市川
いずれにしてもDXは重要です。米国の4大スポーツは、完全にアプリを活用しています。産業を変えていくチャンスでもありますから、一緒に共創を進めていけたらと思います。

本日は以上になります。

ぜひ皆さんと一緒に、スポーツを起点に、何か新しい、面白いことに挑戦していけたらと思います。
ご清聴ありがとうございました。

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