おすすめ検索キーワード
人々の「コンタクトレス化」をテクノロジーはどう支えるのか ──コロナ禍における「欲求」の満たし方【後編】
PLANNING

人々の「コンタクトレス化」をテクノロジーはどう支えるのか ──コロナ禍における「欲求」の満たし方【後編】

博報堂行動デザイン研究所の分科会の一つ「NewTech分科会」は、人々の五感とテクノロジーを関係づけたマップをつくり、それをクリエイティブやプランニングに活かすことを提唱しています。コロナ禍において行動を制限され、「安心も充実もしたい」という相反する欲求を抱くようになった生活者に対し、テクノロジーはどのような価値を提供できるのでしょうか。NewTech分科会の座談会の後編をお届けします。
前編はこちら

石毛正義
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局/行動デザイン研究所 研究員

中原大輔
博報堂 第三クリエイティブ局/行動デザイン研究所 研究員

新倉健人
博報堂 第三プラニング局/行動デザイン研究所 研究員

廣瀬優平
博報堂 第一クリエイティブ局/行動デザイン研究所 研究員

生田大介
博報堂アイ・スタジオ バリュープランニングセンター/行動デザイン研究所 研究員

「コンタクトレス・クリエイティブ」の5つのパターン

──五感とテクノロジーの組み合わせは、コロナショック下でどのように実現してきたのでしょうか。

中原
僕たちは、その組み合わせの形のことを「コンタクトレス・クリエイティブ」と呼んでいます。現在のところ、コンタクトレス・クリエイティブは、大きく5つのパターンに分けることができます。その1つ目が、「見る+聞く」と「LIVE+UNITE」を掛け合わせたものです。

──LIVEとは「その場限りの限定感」、UNITEは「心理的な一体感」のことでしたね。

中原
そうです。このパターンの典型的なクリエイティブが、バーチャル空間で行われるイベントです。ハロウィンや年末のカウントダウンなど、密集によって生まれる熱狂をオンライン上で再現したもので、VR(仮想現実)やアバターなどの活用にクリエイティビティが発揮されています。
このようなバーチャルイベントはリアルの熱狂を完全に代替できるものではありませんが、そのぶん、アバターであれば普段は絶対に近づくことのできない有名人と触れ合うことができるなど、バーチャルならではの熱狂を生み出すことができます。
廣瀬
以前からバーチャル空間の中にコミュティをつくるサービスはありましたが、それがライブやイベントなどいろいろな用途で使われるようになって、より一般化した感じですね。
新倉
タイプはちょっと違いますが、リモート飲み会などもこのカテゴリーに入れられるかもしれません。

──2つめのパターンはどのようなものですか。

中原
「見る+聞く」と「LIVE+UNITE」の掛け合わせという点では、1つめのパターンと同じなのですが、こちらはドライブインシアターのように、以前からある技術を組み合わせたものです。ドライブインシアターは、ご存知のように、巨大な駐車場にみんなで車で集まって、車内のFM装置と屋外の大画面で映画を見るエンターテインメントです。「その場限りの限定感」も「心理的な一体感」もあって、視覚と聴覚の欲求も満たします。それをリアルの空間で実現しているわけです。
生田
ドライブインシアターの歴史は古いのですが、コロナ禍以前は忘れられていた感があります。それがコロナ禍でリバイバルしたのですが、実は新しい要素も加わっています。例えば、それぞれの車に食事をデリバリーできるサービスなどです。以前からあったけれど、最新技術によってアップデートされたエンターテインメントと言っていいと思います。
廣瀬
トイレが密にならないように、アプリで予約できるサービスのあるドライブインシアターイベントもありました。同じエンターテインメントでも、タイミングやコンテクストが異なれば、体験もバージョンアップされるということです。

──必ずしも最新テクノロジーだけを駆使するのではなく、古い技術同士の組み合わせ、あるいは古い技術と新しい技術の組み合わせの工夫によっても新しい価値を生み出すことができるわけですね。

新倉
それは非常に重要な視点です。結果として人々の欲求を満たしたり、世の中に役に立ったりすることにつながればいいわけですから、そのテクノロジーが新しいか古いかということはあまり大切ではないんです。

テクノロジーの力で「親密感」を生み出す

──3つめのパターンをお聞かせください。

中原
「見る+聞く」の組み合わせを「UNITE+SYNC」と掛け合わせるのが3つめのパターンです。

──SYNCは「ふるまいの同期感」に関わるテクノロジーですね。ビジュアルや音を使いながら、心理的な一体感と行動の一体感の両方を実現するということでしょうか。

中原
そのとおりです。その代表的なものが、多くの人で歌を歌ったり、楽器を演奏したり、ダンスをしたりして、1つの動画をつくり上げていくもので、コロナ禍以降、世界中でたくさんの人がチャレンジしています。技術的には、参加者全員がスマホをもっていれば簡単にできる動画なのですが、以前はあまり試みられていませんでした。コロナ禍初期を象徴するクリエイティブと言っていいと思います。
新倉
でも、コロナショックが起きてからの1年間であまりに多くの似たような動画がつくられたので、ちょっと飽和感が出てしまっていますよね。もう、あまり新しい感じがしないというか。
生田
オンライン飲み会にも似たところがあります。当初は目新しかったのですが、不便さの方が勝ってしまい、あまり開催されなくなりました。もっとも、動画にしてもオンライン飲み会にしても、特性を活かした企画や演出の工夫を施したり、別のテクノロジーを加えたりすることで、クリエイティブはアップデートされ続けていくと思います。

──次は4つめのパターンです。

新倉
4つめは、「見る+聞く」と「LIVE+CLOSE」を掛け合わせたものです。

──CLOSEは「個別応対の親密感」でしたね。

新倉
そうです。このパターンに該当するのが、オンライン個別接客です。アパレルやディーラーなど、リアルで個別接客していた店がテクノロジーを使ってオンラインで接客を行うパターンです。ほかにも、美容師が髪の手入れの方法をオンラインでレクチャーするサービスもあります。
廣瀬
「親密感」という点では、アーティストがオンラインライブをやって観客から投げ銭を集めるというケースもこのパターンに含めてもいいかもしれません。
新倉
オンライン居酒屋もここに該当しますよね。それから、オンライン診療のような新しいサービスも実現しつつあります。

コンテクストは絶えず変化している

──最後が5つめのパターンですね。

生田
5つめは、「見る+聞く+味わう+におう+触れる」と「LIVE+UNITE+SYNC+CLOSE+TRUST」と、全部の要素を掛け合わせたパターンです。これに当てはまるのが、バーチャル山登りです。これは、人が実際に山登りしている様子をカメラ映像によって疑似体験するもので、あたかも一緒に山登りをしているような感覚を得ることができます。
具体的な要素を見ていくと、カメラ中継が「LIVE」に、途中で休憩を一緒にとることが「UNITE」と「CLOSE」に、映像を見ながら家の中で足踏みペダルなどを踏む行為が「SYNC」に、さらにその山がある土地の弁当を取り寄せて食べることが「TRUST」に当たります。

──地元の食材や料理への「信頼」ということですね。体を動かしたり、お弁当を食べたりすることで、すべての五感が刺激されるということでしょうか。

生田
ええ。まさに、五感を使って山登りの空気感を全身で体験するクリエイティブです。

──この1年ほどの間に、以上の5つのコンタクトレス・クリエイティブのパターンが実現したわけですね。

石毛
今のところは5つに大まかに分類していますが、社会の状況も生活者の欲求も常に変化しています。欲求、世の中のコンテクスト、テクノロジーの可能性の関係を考えながら、しっかり仮説をつくって企業や生活者の体験を向上させるプランニングをしていかなければならないと考えています。

人々の「欲求」から発想する視点を

──最後に、このチームのこれからの取り組みや見通しについてお聞かせください。

新倉
生活者の欲求に着目することを忘れないようにしたいですね。人間の根本的な欲求があって、それを満たすためにテクノロジーがある。その順番を間違えてはいけないと考えています。
廣瀬
我々の基本的なスタンスは、テクノロジーを使って、生活者の暮らしをどうよくしていくか。クライアントのビジネス課題をどう解決していくか。であると考えています。生活者ファースト、クライアントファーストという視点をもちながら、テクノロジーにも精通している。そんなバランスを保っていきたいですね。
生田
同感です。僕はもともとエンジニアということもあって、「テクノロジーで何かをやってやろう」という発想になりがちです。でも、行動デザイン研究所でPIXループの考え方に触れてから、人間の欲求や行動から思考できるようになりました。人間の根源的な部分に刺激を与えられるような活動を今後もしていきたいと思います。
中原
先ほども話に出ましたが、特にコロナ禍では世の中のコンテクストは刻一刻と変わっています。状況をしっかり読む力、そしてそれに迅速に対応していく力がこれからはいっそう大切になると思います。コンテクストの変化に柔軟に対応しながら、そのつど価値のあるものを生み出していきたいと考えています。
石毛
みんながすべてを語ってくれたのですが最後に1点だけ、テクノロジーにはデータがつきものです。データ活用についてeXpand分科会では3つの視点「Me」「Community」「Social」で整理しています(詳細はこちら)。
今後、センシング技術が身近なものになってくると体や心の状態を把握、分析することで生活者自身も気づいていない根源的な欲求、ニーズをあぶりだすことも可能になると思いますが最も大切にしたいのは、テクノロジーの力、データの力で生活者をいかに豊かにできるか。その視点をチーム全体で常に問いかけながら新しい価値を生活者に提案する具体のアウトプットにつなげていきたいですね。
sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局/行動デザイン研究所 研究員

  • 博報堂 第三クリエイティブ局/行動デザイン研究所 研究員

  • 博報堂 第三プラニング局/行動デザイン研究所 研究員

  • 博報堂 第一クリエイティブ局/行動デザイン研究所 研究員

  • 博報堂アイ・スタジオ バリュープランニングセンター/行動デザイン研究所 研究員

関連記事