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解き放たれる生活者 ―次世代インターネット空間で実現する生活者エンパワーメント― 【生活者インターフェース市場フォーラム2022レポート】
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解き放たれる生活者 ―次世代インターネット空間で実現する生活者エンパワーメント― 【生活者インターフェース市場フォーラム2022レポート】

生活者のあらゆる接点がインターネットでつながることで生まれる「生活者インターフェース市場」。メタバースをはじめとした「次世代インターネット空間」が広がりつつある今、これまでとは違う生活を手に入れる新たな生活者が誕生しつつあります。
物理的な制約から解放された生活者は、もっと自由で平等な社会を手に入れ、より自分らしく、感情的に、豊かな生活を実現しようとするでしょう。
博報堂DYグループは、クリエイティビティとテクノロジーを駆使し、次世代インターネット空間において生活者の可能性を拡張していくこと、「生活者エンパワーメント」を実現することが、私たちが提供すべき価値であると考えています。
本稿では、先日行った「生活者インターフェース市場フォーラム2022 解き放たれる生活者―メタバースで生まれる新たな自由と可能性―」における代表取締役社長・水島正幸によるオープニングの内容をご紹介します。

現実世界の制約から解き放たれ、生き生きと活動する「新しい生活者」

本フォーラムは2019年にスタートして今年で4回目となります。
コロナ禍の影響でオンラインでの開催が続きましたが、今年はリアルとオンラインのハイブリッド開催となります。こうしてリアルとオンラインを分けるのも、ひょっとしたらあと数年のことかもしれません。なぜならメタバースの世界では、リアルとオンラインの境界は曖昧になるからです。メタバースでは、私たちを取り巻く環境がリアルとバーチャルを融合しながら拡張していきます。VRやARの登場によって可能になったこの拡張世界を、我々博報堂DYグループでは「次世代インターネット空間」ととらえ、それを総称してメタバースと呼んでいます。
今日は私たちが考えるメタバースの世界についてご説明したいと思います。生活者発想をフィロソフィーとする私たちは、メタバースを単なる新しいテクノロジーの登場と捉えるのではなく、「新しい生活者」の誕生であると考えています。
メタバース上の生活者は、これまでの「自分」「常識」「社会」から解き放たれ、現実空間以上に、自分らしい生き方や生活を楽しむようになるのです。

メタバースは、私たち生活者を「時空間の制約」から解放します。
すでに私たちは、オンライン会議によって世界中どこからでも同じ場所に集まれることを体感しています。メタバース空間が広がれば自宅にいながら、訪れたことのない海外の絶景スポットを旅することもできますし、生まれる遥か前の時代を訪れることもできるようになります。すでに旅行業界では、「VRならでは」の旅行体験を提供する試みも始まっています。インターネットによって私たちが世界中の「情報」にアクセスできるようになったように、メタバースによって、生活者は時空間を超えたあらゆる「体験」ができるようになるのです。
未知で多様な世界との出会いと、想像を超える豊かな体験は、「もっと知りたい」「もっと新たなものに出会いたい」という好奇心を刺激し、人間が本来もっているクリエイティビティと冒険心を解放していくことでしょう。

メタバースは「自分」という制約からも私たちを解放します。
アバターというもう一つの人格を持つことによって、メタバース上で「なりたい自分」になることができます。自動翻訳ツールを介して言語の壁を超えることも、現実世界では出会えない人との出会いも可能になっていきます。障害がある方にとっては、アバターが自分の代わりにリアクションするといったこともできるようになります。アバターというインターフェースを介して人種、性別、年齢、身体から解放され、誰もが公平に平等に自分の思いを表現したり、好きな人と交流できるようになります。

さらに、ブロックチェーンなどのWEB3関連技術も生活者を解放していきます。
生活者自身が自分の行動データを管理し、活用するようになるのです。自分のこれまでの履歴、例えば学んだスキルや資格、鑑賞した音楽や映画の履歴などを自分のウォレットで管理するようになります。生活者自身が、つながりたい企業や使いたいサービスだけを選んで、自らの意思で自分のデータを渡すこともできます。なりたい職業につくための最適な教育を受けたり、価値観の合う人だけが集まるイベントに参加できるようにもなります。メタバース上では生活者がデータの主導権をもつということです。

ここまでご説明してきたことは、多くの方にとって、まだ実感のないお話かもしれません。本当にそんな世界が実現するのだろうか?と少し冷静に見ている方もいらっしゃると思いますが、すでにメタバースの世界にいる人たちは存在しています。
実際、この世界を覗いてみると、アバターを身にまとい、現実世界の様々な制約から解き放たれた「新しい生活者」がいきいきと活動しているのが分かります。
彼らは既存の生活とは違う、新たな仲間との関係を築き、新たな楽しみを見つけて、メタ生活を心から楽しんでいるように感じます。

提供価値はメタバースにおける「生活者エンパワーメント」にあり

では、生活者はメタバースがもたらす世界に対してどのようなイメージを持っているのでしょうか?博報堂DYグループは今年9月に調査を行い、生活者のメタバースに対する意識を探りました。

メタバース関連のサービスを知っているという人は全体の36.2%という数字になりました。日本人の約3分の1が、すでに何らかのメタバースのサービスを知っているということになります。またメタバースサービスを利用したことがある人は全体の8.3%、日本人の1割近くがすでに何らかのメタバースサービスを利用しているということです。意外と多いなという印象をもたれるのではないでしょうか?

次にメタバースに対する意識について聞きました。利用層、認知層ともに高かったのは「性別・年齢・国籍関係なく交流を楽しめる」で71.9%の方がそう思うと答えています。ダイバーシティやインクルーシブな交流を促進するものとしてメタバースに期待する人が多いということだと思います。また「新しい市場が生まれる」も70.2%と高く、メタバース上でのビジネスやマーケティングの可能性を生活者は感じているということです。

総務省が先日発表したメタバースの世界の市場予測によると、2021年、389億ドルだったものが、2030年には6,788億ドルまで拡大するという予測です。
メディアやエンターテインメントに留まらず、教育、小売りなど様々な領域での活用が期待されています。生活者の期待に比例するように、産業側のメタバースに対する期待値も高まってきていると言えます。

メタバースの世界が現実になっていけば、そこは「解き放たれた生活者」が集う、新たなインターフェースになっていきます。そこでは、今まで出会えなかった人同士の新たなつながりが生まれ、新たな消費行動、生活行動が生まれるだけでなく、新たなサービスや企業活動も同時に生まれていくはずです。つまり、メタバースはこれまでになかった、巨大な「生活者インターフェース市場」になるのです。

私たちはメタバースで生まれる生活者の新たな欲求やニーズを掴み、その世界をもっと自由にもっと自分らしく楽しめるようにエンパワーする、すなわち「生活者エンパワーメント」が自分たちの提供価値だと考えています。そのための技術や新サービスを提供していくことが、マーケティングやビジネスの進化につながっていくと考えます。

 

3つの領域でマーケティングとビジネスの可能性を模索していく

私たちはマーケティングやビジネスの視点から、3つの領域に成長機会があると考えています。それは、「バーチャルプラットフォーム」「アバター」「Spatial Web」です。それぞれについて、博報堂DYグループの事例も含めて具体像をご紹介していきます。

1つ目の「バーチャルプラットフォーム」とは、メタバース空間そのものを指します。
そこは趣味趣向の合う人が集まり、様々なクリエイティブな活動が行われる空間です。実世界のルールから自由になることで、人々が潜在的に持っているクリエイティビティが発揮され、好きな音楽、絵、衣服、家、欲しいモノやコトを、誰もが自分自身で作り出せる新しい世界が実現していくでしょう。
博報堂DYグループでサポートさせていただいている小学館のメタバース空間「S-PASE(スペース)」では、ここに集うクリエイターが生み出す膨大なコンテンツが、ファンのコミュニティをつくり、エンターテインメント消費やNFT販売などのファン・エコノミーを活性化しています。生活者のクリエイティビティやコミュニティ活動をエンパワーメントすることで生まれるこの新たなビジネスは、次世代のメディア・コンテンツビジネスと言えるかもしれません。
バーチャルプラットフォームが新たなメディアになるということは、広告の新たなタッチポイントになるということです。博報堂DYグループのDACでは、メタバースのゲーミングプラットフォーム「ROBLOX」の広告の国内販売を開始しました。「ROBLOX」とは一日約5,000万人が訪れる米国発のオンラインゲームです。今後は広告配信にとどまらず、メタバース空間でのマーケティング支援やエクスペリエンス設計支援など、サービスを拡充させていく予定です。

2つ目の「アバター」は、生活者の「自分らしさ」への欲求をエンパワーメントします。
自分をもっと表現したい、なりたかった自分になってみたい、そんな思いをアバターなら実現できます。
博報堂DYグループでは、高品質な3Dアバターを高速に生成する技術を持つ企業、 VRCとも連携しながら、アバターの技術研究、ビジネス実装を進めています。私も実際に体験してみたところ、わずか20秒で全身がスキャンされ、私のアバターが誕生しました。このアバターで、違う自分になることが容易に可能です。例えば、着ている服を瞬時に着せ替えしたり、何通りもの自分の姿を同時に眺めることもできます。アバターはいわば、MyPageのような機能になります。ユーザー自身が、自分のプロフィール、身体データ、健康データを主体的に管理し、活用していくのです。
例えば、パーソナルヘルスケアデータを用いて、ユーザーのウェルビーイングを向上させるといった新規ビジネスを展開できるかもしれません。また、メタバースとアバターの組み合わせは、全く新しい買い物体験を現実にします。これまではブランドの世界観の構築や体験の場はリアル店舗がメインでした。これからは自宅にいながら、まるでお店に行ったように試着ができるようになります。

従来の店舗やECでは体験できないバーチャル空間ならではのブランド体験も可能になるのです。さらには、バーチャルで試着した商品を、リアル店舗に行って受け取るといったOMOマーケティングの試みも進んでいくと考えます。

3つ目の「Spatial Web」は、これまでパソコンやスマホの画面の中に閉じていたインターネットを空間に拡張するコンピューティング技術です。
リアルとデジタルを融合するこの技術によって、AR体験を行えるようになります。
生活者の過去の購買履歴やメディア接触履歴をもとに、スマートグラスやスマホにその場にふさわしい情報を出したり、ほしい情報を呼び込んだり、またモノを買ったりもできる、そんな世界がもうすぐそこまで来ています。もっと街を楽しみたい、移動や買い物を便利にしたい、そうした生活者の気持ちをエンパワーメントする、さまざまなサービスが考えられると思います。

こちらは私たちが行った「Spatial Web」のデモ映像です。

スマホやスマートグラス上でリアル空間にナビゲーションや店舗情報などいろいろな情報を表示することが可能になります。こうした新たな体験は、街を好きになるきっかけや、住民との関係づくりにもつながります。様々なステークホルダーがコンテンツやサービスを提供することで、街がより楽しく、便利になっていく。そんな未来が想像できます。

博報堂DYグループは、メタバースによって解き放たれる生活者が、自由に自分らしく、より豊かな人生を送ることができるよう、マーケティングやビジネスの可能性を模索しています。すでにメタバースにおける様々な領域で社会実装の事例を創出しています。バーチャル大阪や仮想伊勢丹新宿店「Rev Worlds(レヴ ワールズ)」は、すでに皆様が体験できるものになっています。その他にも、VR、AR、WEB3それぞれの領域でさまざまなプレイヤーの皆様とアライアンスを組み、新たなビジネス開発、ソリューション開発に取り組んでいます。

メタバースの扉は開かれたばかりです。新たな人間関係、社会とのつながりがここから生まれてくると思います。新たな社会のルールもこれから作っていかなければなりません。皆さまと対話をしながら、解き放たれた生活者をエンパワーメントする社会を、一緒に作っていきたいと考えております。

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  • 株式会社博報堂 代表取締役社長
    1982年博報堂入社。営業局長、経営企画局長、取締役常務執行役員などを経て2017年4月より代表取締役社長。2019年6月より博報堂DYホールディングスの代表取締役社長も兼任。