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「Social-Me Good」という新しい価値観──withコロナ時代の「eXpand」の形【前編】
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「Social-Me Good」という新しい価値観──withコロナ時代の「eXpand」の形【前編】

「Pool」 (情報を引き寄せ貯めておく)、「Ignite」 (気持ちに⽕が点く)、「eXpand」(体験して情報圏を拡げる)という3つの行動をループさせながら⾃⼰充⾜を図る生活者の行動デザインモデル「PIXループ™」。新型コロナウイルス禍によって生活者の行動やマインドが変わったことで、とりわけ生活者の体験にかかわる「eXpand」のアップデートが必要となっています。PIXループを提唱する博報堂行動デザイン研究所のeXpand分科会メンバーに、withコロナ時代の「eXpand」の新しい形について語ってもらいました。

固有のリソースを用いて「体験装置」をつくる

──あらためて、PIXループにおける「eXpand」についてご説明ください。

中川
自分に合った情報を引き寄せて貯めておき、何かをきっかけにして気持ちに火が点いて、「やってみよう」と考え、新しい体験が生まれる──。そんなスマートフォンを主としたデジタル時代の生活者の新しい情報行動を私たちはPIXループと呼んでいます。eXpandは、そのうちの「やってみる」、つまり、行動し体験して情報圏を広げるというフェーズにあたります。
池田
PIXループはその名称のとおり、一発の行動ではなく、ループになって継続的に続いていくものだと私たちは捉えています。しかし、それは自動的に続いていくものではありません。商品やサービスを売る側が、生活者との関係を継続させていくための「仕組み」や「装置」をつくらなければなりません。eXpandとは、売り手から見れば「体験装置」をつくるフェーズということになります。

その体験装置をつくるための発想ツールとして私たちが提案しているのが「リソースマップ」です。これは、企業が生活者と継続的な関係をつくるための固有のリソースを整理し一覧にしたものです(図参照)。

リソースには、商品や店舗だけでなく、社員などの人材も含まれます。また、オウンドメディアや生産現場なども重要なリソースです。これらのリソースを上手に組み合わせながら、「体験装置」をつくっていくことが必要です。

木村
このマップは、PIXループの観点から成功しているブランドの事例を数多く集め、それらを検証する中から生まれたものです。例えば成功事例の中には、社員がブランドの価値を伝える役割を果たすことで生活者の新しい体験を創出している例があります。つまり、社員がブランドの「エヴァンジェリスト(伝道者)」の役割を果たしているわけです。このリソースマップを見ることで、そのような「価値があるのに埋もれているリソース」に気づいていただくことが非常に重要な作業になります。

社会と自分、その両方のためになる消費

──新型コロナウイルスの影響で、PIXループのベースとなっている生活者のインサイトにも変化があったようですね。

山本
おっしゃるとおりです。私たちはその変化を大きく3つの軸で捉えています。一つは、「ソトへの拡散からウチ側の充実へ」という変化です。これまで生活者の欲求は、外部に向けて拡散していく傾向がありました。家事をアウトソーシングしたり、コンビニを冷蔵庫代わりに使ったり、インスタグラムでのバズを求めて旅行に行ったり、といった欲求です。しかし、コロナショック下での自粛生活などを経て、安心・安全への欲求が高まり、「ソト」よりも「ウチ側」を充実させたいと考える人が増えています。例えば、料理に手間をかける、DIYに凝る、あるいは「おうちカフェ」を家族で楽しむ。そんな行動が多くなっています。

二つめは、「社会の“自分ごと化”」です。以前は、自分の生活と社会は別物であるという意識が多かれ少なかれあったと思います。しかし、新型コロナウイルスショックは、「社会を守ることが自分や自分の家族を守ることになる」という意識を高めました。社会にウイルスが蔓延すれば、それだけ自分たちのリスクが高まるからです。これは、「社会・他人を傷つけないための自己コントロール意識」が顕在化してきたとも言えるし、生活者が自分の「ウチ側」に「社会」を取り込み始めたとも言えます。博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所が2020年5月下旬に行った「コロナ後の生活意識」に関する調査によれば、「社会や他者のためにすることが、巡り巡って自分の利益につながると思う」と「まずは自分の利益を中心に考えると思う」の二択において、前者寄りの意識をもつ人が非常に多いという結果になりました。

その変化を受けて「社会=自分のためになる消費」を多くの人が求めるようになっているというのが三つめの変化です。社会に役立つ価値をつくり出している企業からモノやサービスを買うことが、自分の欲求を満たすことになる。つまり、「社会のため」が「自分のため」になり、自分の「ウチ側」を充実させ心地よいものにしてくれる。そう考える生活者が増えていると私たちは捉えています。

───「ウチ側」の「ウチ」は、「家」でもあるし、それぞれの生活者の「内面」でもあるということですね。

山本
そのとおりです。以上の三つの変化を踏まえて私たちが考案した新しい言葉が「Social-Me Good」です。これまでも「ソーシャルグッド」という言葉はありました。社会に役立っているブランドや企業などを表す言葉です。しかし、コロナ禍を経て、社会に役立つことと自分の欲求を満たすことは別々のことではないという意識が顕在化しました。世の中に数ある商品やサービスから選ぶ際、「社会に役立つことで同時に自分を安心させ心地よくさせてくれるもの」という基準で購買する。そんな行動が今後のトレンドになっていくと私たちは考えています。それをひと言で表したのが、「Social-Me Good」です。
木村
山本さんが言うように、以前から消費における社会的視点はありました。社会的に信頼できる企業の商品やサービスを選ぶという視点です。コロナ禍で社会という存在が生活者にとって自分ごと化されたことによって、それがより強まったということだと思います。コロナショックが始まってから、いち早くソーシャルグッドの観点で行動を起こした企業は多くの生活者の支持を集めました。その流れが今後さらに加速していくように思います。
池田
企業は社会的責任を果たさなければならないという考え方は欧米から来たものです。日本では、その考え方は必ずしも生活者全般には浸透していかなかったと思います。感度の高い人たち、いわゆる「意識高い系」の人たちはソーシャルグッドなブランドを選んではいましたが、そうではない人たちも多かった。しかしコロナ禍を経て、ソーシャルグッドの視点でモノを買いながら同時に自分の欲求も満たすという行動がごく普通のことになる可能性があります。それが「Social-Me Good」という言葉に込めた意味です。
中川
SNSなどで自分をアピールしたい、自己実現を果たしたいといった欲求はもちろん今もあるし、これからもあるでしょう。しかし自分の欲求を満たすには、社会の安全・安心がなければならない、自分のことだけを考えていたらよりよい生き方はできない。そんな感覚がコロナ禍によって広まりました。そこにマーケティングのチャンスもあるように思います。社会的価値と自分の欲求をよりよく両立できる商品、サービス、コンテンツなどを提案していける企業が、今後より多くのファンを獲得していくのではないでしょうか。

「Communityデータ」「Socialデータ」という視点

──そのような変化によって、eXpandの考え方も変わるのでしょうか。

池田
自社のリソースを有効に活用するという考え方自体は変わらないと思います。しかし、「Social-Me Good」の意識が生まれたことによって、リソース活用の方法は変わってくると考えています。私たちは、それを「関係性」「売り方」「売り物」の3つの軸で捉えています。

まず「関係性」においては、企業と生活者の間に「信頼」を築くことが最も優先されるようになると思います。「売り方」においては、「いかに生活者に寄り添うことができるか」という視点が重視されるようになると考えます。これには例えば、シニア層でも使いやすいECの仕組みや、オンラインとオフラインの融合などが含まれます。「売り物」の変化としては、モノからコトへというこれまでの流れがさらに加速して、「生活を充実させるためのサービス化」が進行することになると思います。

木村
「Social-me Good」という考え方が広まっていくと、企業側は「Why」の問い直しする必要が出てくると私は考えています。「なぜ、このアクションが必要なのか」をしっかり考え、それをもとにリソースをどう組み合わせてストーリーをつくっていくかを検証するという作業です。そこから、eXpandのフェーズで何をすべきかがおのずと見えてくるはずです。

──withコロナ時代のeXpandを考えていくに当たって、データをどう活用していけばいいのでしょうか。

中川
アクチュアルデータが重要であるという点は、これまでと変わらないと思います。生活者の行動をデータとして把握しながら、体験の設計やコミュニケーションの方法を考えていくということです。
山本
アクチュアルデータは、今後オフラインでも取得できる機会が増えていくと思います。顧客の店内での行動データや、店員との対話のデータなどを商品開発や販売戦略に活かすという動きは日本国内でもすでに出始めています。オンラインとオフラインをシームレスにつなぐデータ戦略が今後いっそう重要になるのではないでしょうか。
木村
リアル店舗だけでなく、例えばイベント最中の参加者の行動などもデータとして把握できるようになっていますよね。リアルタイムでデータを取得し、それを用いてコミュニケーションを迅速にチューニングしていく。そんな動きが活発になるように思います。
池田
先ほど、「売り物」においては「生活を充実させるためのサービス化」が進むのではないかという話をしましたが、そのサービスの設計をよりデータを取得しやすいものにするという考え方もあると思います。例えば、飲料とアプリをセットで提供し、アプリで飲み方の提案などの情報を発信しながらデータを取得していくという方法です。そこでは、コミュニケーション設計におけるクリエイティブのアイデアが非常に重要になると思います。

もう一点、これまでの生活者のアクチュアルデータは、ほぼ「Meデータ」に限られていました。今後は、「Communityデータ」「Socialデータ」という切り口でのデータ取得と分析の方法が必要になってくると思います。コミュニティでどう共感が広がっているのか、企業のアクションがどう社会にインパクトを与えているのか──。そんな視点でのデータ活用に大きな可能性がある。そう考えています。
後編に続く

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  • 博報堂 行動デザイン研究所 所長

  • 博報堂 統合プラニング局
    兼 行動デザイン研究所 研究員

  • 博報堂 統合プラニング局
    買物研究所 所長
    兼 行動デザイン研究所 研究員

  • 博報堂 統合プラニング局
    兼 行動デザイン研究所 研究員

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