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光と遊ぶブロック「SHAKE SYNC」開発秘話
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光と遊ぶブロック「SHAKE SYNC」開発秘話

左から、大阪大学 加藤浩介室長、神吉輝夫准教授、博報堂 福田卿也(中山は当日テレビ電話参加)

博報堂関西支社内のプロジェクトチーム「HACKTS」と、大阪大学、クリエイター集団ゼロバイゼロが共同で開発された、知育玩具のひかるブロック「SHAKE SYNC™」(シェイクシンク)。振ると色が変わり、近づけて色が同期する、シンプルなひし形のブロックは、2018年3月にアメリカ・オースティンで開催された「SXSW Trade Show」でプロトタイプを発表し、子供から大人まで、言葉の壁を超えて、多くの来場者が目を輝かせました。

光の発光パターンの技術を開発された大阪大学 産業科学研究所 神吉 輝夫准教授、産学連携を牽引された大阪大学共創機構産学共創本部イノベーション共創部門イノベーション企画室加藤 浩介室長と博報堂 関⻄⽀社 クリエイティブ・ソリューション局・「HACKTS」代表の福田卿也とデザイナーの中山沙織に、開発の裏側を伺いました。

-まずはじめに「SHAKE SYNC」はどのような玩具なのでしょうか?

福田

「SHAKE SYNC」は、光で遊ぶための知育玩具です。ブロックを振って光の色を変えたり、ブロック同士をくっつけることで光の色を移したりすることができます。その光は、ただ光っているだけではなく、大阪大学(以下、阪大)の神吉先生が発明した技術によって、自然の炎のように光がゆらぎます。

このゆらぎの技術は、光がろうそくの炎のようにゆらいで見えることで癒しの効果が得られたりするので、最初は照明のために使える技術だと思われていました。ただ、そのまま照明にするよりも、もう少し意識的に「光」を感じられる、手に取れるものの方がおもしろいのでは、ということになり、「光」と遊ぶおもちゃというコンセプトで開発に至りました。

光をストイックに楽しむ。こだわりの「72度」

-形がとてもシンプルですが、どういった経緯でここに行きついたのでしょう?

福田

おもちゃにしようと決まった後、なるべくシンプルに一つの形で色々なものを編み出せるようなものにしたいという話はしていたんです。形についてはデザイナーの中山が考えてくれていました。ひし形には三角形と四角形の要素が入っているから様々な形を作ることができる、というのは発見だったし、すごくデザイナー的な視点だなと思いましたね。

中山

ひし形の角度を「72度」にすることによって、5つ並べると360度になり、お花のような形になります。実をいうと、他の形のバリエーションも作ってみたいとは思っていたのですが(笑)、最初は「光をストイックに楽しむ」ということを考え、一つの形にしました。

福田

子どもに触ってもらうと、自分で好きな色に変えながら色々と想像して形を作って楽しく遊んでくれます。大人も結構長く遊べるんですよ。光をじぃっと見てられるんですよね。これは神吉先生の「ゆらぎ」の発明のおかげだと思います。

-そもそも、このプロジェクトが始まったきっかけは何だったのでしょう?

福田

「SHAKE SYNC」の開発には、博報堂は、僕がリーダーを務めている「HACKTS」というプロジェクトチームとして参加しています。このプロジェクトチームは、大学や研究機関、テクノロジー企業が保有する優れた技術を発掘して、クリエイティブアイデアを掛け合わせることでプロダクトやサービスを開発し、生活に新しい価値をもたらすことを目指すクリエイティブチームです。

僕が「HACKTS」をつくろうと思ったきっかけ自体が、加藤室長との出会いだったんですよ。加藤室長が阪大の様々な技術を束ねて、事業化するということをなさっていたときに、僕がマーケティング視点でのお手伝いをさせて頂いていたのですが、その時に出会った阪大の技術が、どれもこれも素晴らしくて、これは強いビジネスになり得るのではと思ったんです。科学技術は、何か専門的な分野を想定して活用されてしまいがちですが、広告会社として僕らのアイデアを組み合わせて、生活者を喜ばせたり、役に立ったりするプロダクト開発に使えそうなものが沢山あったんです。そこで、加藤室長にお願いして、HACKTSのメンバーが技術ブリーフィングを受けさせていただき、大喜利のようにアイデアを出していったのですが、先生からは「おもしろいですね」と評価してもらえたり、時には「ウーン……」と言われてしまったり。(笑)

加藤室長

そうでしたね(笑)。元々、「SHAKE SYNC」にはHAKCTSチームに入ってもらう前に、1フェーズあるんです。息を吹きかけたらろうそくが揺れるみたいなもので、それを東京で展示する時、事業化してくれそうな企業を検討していたところ、ちょうどビジネス番組でゼロバイゼロの「音を光に変換するアーティスト」という情報を発見しました。そこで、ゼロバイゼロと一緒にプロトタイプを作ったんです。それが「Fish」という、魚の形の照明器具のようなものです。

神吉先生

「Fish」は、光がモワ~ッとゆらいでいる照明器具です。光が「1/fゆらぎ(えふぶんのいちゆらぎ)」というゆらぎ方をしていて、人にとって心地がいいということは証明できましたね。

加藤室長

「Fish」を開発していくなかで、消費電力の問題や実際にマーケットにうけるようなプロダクトになっているかどうかなどが課題として出てきました。そのタイミングで、プロトタイピングとマーケティングについて、デザインシンキングプログラム等でお世話になっていた福田さんに相談をしたんです。

福田

それが、SXSW(2018年3月)に出展する前年の2017年の夏でしたね。僕と中山でお会いして、Fishを見せてもらって……。「これを何とか料理できませんかね」みたいな話をして。持ち帰って、中山の手にかかったら、魚の形から全部ひし形になっちゃったんですね(笑)これで様々な形をつくれたほうが面白い!と意見をさせていただきまして、そこに懸けてもらうということになったんです。

技術とクリエイティブの歩み寄りが生み出した生活者ファーストのプロトタイプ

神吉先生

我々ができることは、技術開発です。それらを特許化して、技術的にも発達させたけれども、どう使うかというのが、課題となっていました。我々がこの特許を取って10年ぐらいになりますが、その間に様々な企業とも交渉をしてきたのですが、なかなか相互の条件の折り合いがつかず、上手くいきませんでした。やはり産学連携において、双方の「歩み寄り」というのがとても大切なんですよね。

まず、ゼロバイゼロの中に回路が分かる人がいたおかげで、「Fish」ができ上がって、そこにクリエイティブチームであるHACKTSがヒントを得て、この「SHAKE SYNC」まで仕上げていったという過程になるのですが、そこがシームレスに進めていくことができたというところがこのプロジェクトのすごいところだと思っています。元々求めていたものを遥かに超えるものが出来ました。

―SXSW出展までに約半年間でプロトタイプを制作されたということですが、 開発における壁などはありましたか?

中山

やはり、形状が72度のひし形に行き着くまでが結構大変でしたね。ブロックの質感も、やわらかい素材とかにできたらいいんじゃないか等と考えたりしていましたね。この白い素材だけでも、何十種類と試しました。和紙のようにサラサラとしている感じが、手に馴染みますし、大きさも、小さな子の手にも馴染む大きさにしています。素材の色は、白い障子紙のように光がじんわり透ける乳白を選んでいます。

福田

1個あたりのコストを抑えるという点も難しかったですね。やりたいことを全て叶えようとすると、莫大な費用がかかってしまうので、商品化を見越してハイスペックにしすぎないよう努めました。「シンプルなのに、体感はすごく新しい」という境目を一生懸命探しましたね。

言葉の壁を超えて共感を生む可能性を確信したSXSW出展

―2018年3月アメリカ・オースティンで開催されたテクノロジーの祭典SXSWで、初めて「SHAKE SYNC」のプロトタイプを公開されましたが、現地での反応はいかがでしたか?

SXSWトレードショーでは博報堂ブースに出品し、実際に体験してもらった。
福田

海外の方は、直感的でプリミティブな感覚を大事にしてくれるのだなという印象を抱きましたね。色が変わるだけでも喜んでいたし、ブロック同士の色が一気に同期することで、みんながワーッとなって。こういう驚きは万国共通であるのだなと思いました。他の形も作ったら?という意見ももちろん頂きました。アイドルグループをマネジメントするプロダクションの方から、「これはアイドルのアイテムに使えるね」というコメントも頂きましたね。ちなみにその後、実際に雑誌「広告」(※博報堂が出版している定期刊行物)の企画で実現されました。(笑)

加藤室長

現地でも日本企業からも引き合いがあって、このような知育玩具の展示から、新たな技術の可能性を見出していただくきっかけともなったので、大学としては第1の応用先で、第二、第三と発展していき、科学技術が様々な形で世の中の役に立つということができればいいなと思っていましたので、その点ではすごくよかったなと思っていますね。

福田

「イルミネーションにもいいよね」という声もありましたね。

神吉先生

僕もそれは思っていました。「SHAKE SYNC」がイルミネーションになれば、来場した人が一つブロックを持って自分の好きな色を別のブロックへ移したら、ザーッと色が伝播していくわけじゃないですか。こんなイルミネーションって今までないと思うんですよ。キラキラ光っていて美しいという受動的だった楽しみが、能動的に生まれ変わるんですよね。B to Bで大きな規模で使えるものになるのではないかと期待しています。

福田

そうですね。知育玩具としての商品化も進めていきますが、「SHAKE SYNC」を見てインスパイアされた方々が様々なアイデアをくれて、そこに僕らがまたソリューションを提案していくみたいなのが、そういう流れができていっていますよね。

人々のクリエイティビティを刺激する「プラットフォーム」としてのプロトタイプ開発

福田

色々とプロトタイプは作ってきましたが、ここまで汎用性が広いだけでなく、汎用性を“刺激する”プロトタイプもなかなか珍しいなと思っています。それは、このプロダクトに意味を与え過ぎてないというか、その物自体が持っている良さみたいな感覚的な部分を大切にしていて、実際に体感することで可能性を感じてくれるというプロダクトになっているのではないかと思いますね。

加藤室長

訴えかけがとてもシンプルなんですね。シンプルだからこそ、基盤になるし、その基盤の上に自分のアイデアを重ねていける。

福田

ある種、プラットフォームのようなものですよね。学術機関が持つ技術とマーケットの間には、やはり最初は大きな溝がありますので、「HACKTS」はクリエイティブアイデアでそこを埋められる存在でありたいと思うんです。まず、シンプルなプロトタイプを作ることで、技術そのものの良さやコンセプトの可能性を試して、それがプラットフォームとなって新たなアイデアが出てきてマーケットが出来れば、そこで僕らがマーケットデザインをお手伝いしていく。僕ら「HACKTS」は、マーケットデザインする前段階の「プラットフォーム開発」をやっているのかなという気がしますね。そういう意味では、技術だけでなくデータや伝統工芸もいまの生活者と距離感があるものが沢山ある。それらの持っている可能性を引き出せると思っています。

-今後の展望についておしえてください。

福田

プロダクトの改善という点では、僕はこの「SHAKE SYNC」のつなぎ目を無くして、接触型の充電にしたいですね。欲しいと言って下さる方が沢山いますので、早く商品化して量産したいなと思います。そのために、クラウドファンディングなども検討していますし、量産に関心を持っていただけるメーカーを探しています。

中山

さきほどお話にも出たように、イルミネーションやライブ会場など、派手な見せ方でも実績を作っていきたいと思います。「新しいエンタメ」としてこの「ゆらぎ技術」があるというのを世の中に発信していきたいんです。その実現に向け、今は色々な企業・団体へはたらきかけています。

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  • 神吉 輝夫
    神吉 輝夫
    大阪大学 産業科学研究所 准教授
    2004年大阪大学 基礎工学研究科 博士課程修了(理学博士)。
    専門は新しいエレクトロニクスの電子材料の研究。量子力学・統計力学を駆使して、世の中の役に立つ材料開発を行っている。
    2006年から生体に学んだシステム開発のプロジェクトに携わり、今では生体システムの脳情報処理など物性物理学を駆使して生体情報処理を模倣するような材料デバイスの研究を行っている。
  • 加藤 浩介
    加藤 浩介
    大阪大学共創機構 産学共創本部 イノベーション共創部門 イノベーション企画室長
    2006年に大阪大学先端科学イノベーションセンターの助手に着任して以来、各種の産学連携・事業化支援を担当。
    ボストン大学Fellowとして科学技術を事業化する実務に従事後、大阪大学産学連携本部にて、研究成果を実用化するための仕組みづくりとプロジェクト支援を担当し、科学技術を実用化・ベンチャー起業・投資獲得に導く。
    熊本大学大学院自然科学研究科 博士後期課程修了。博士(学術)。
    国際認定・技術移転プロフェッショナル(RTTP)
  • 博報堂 関西クリエイティブ・ソリューション局  HACKTS代表 開発チームチームリーダー
    1998年入社。営業を経験後、2002年よりマーケティングプランナーに。
    クライアントにした広告コミュニケーションの戦略立案に加え、新商品開発、事業開発業務も手がける。
    最近では、デザイン思考によるイノベーション創発や要素技術の用途開発、街づくりのビジョン策定など幅広く“成長・開拓の仕事”に携わる。京都大学デザインイノベーションコンソーシアム フェロー。
  • 博報堂 関西支社 クリエイティブ・ソリューション局デザイナー
    2012年博報堂入社。商業施設・化粧品・日本酒・地方創生などの広告業務をしながら
    HACKTSにて新技術を使ったプロダクトを開発。
    技術とアイデアで「さわれる面白い媒体を開発する」ことを目標にしています。