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日々生成される膨大なデータを核としたマーケティング手法として注目を集めるデータドリブンマーケティング。しかしマーケティング初心者にとって、この移り変わりの激しい領域を正確に理解するのは容易ではありません。そこで、連載形式でマーケティング担当者が最低限押さえるべきポイントを解説していきます。

第1回のテーマは「データドリブンマーケティングが顧客体験向上に必要なワケ」。
講師:博報堂データドリブンマーケティング局 局長 辻田敏宏

「データドリブンマーケティング」とは一体何なのか?

日常生活の中で生み出される多種多様なデータを分析し、その成果をマーケティング施策やクリエイティブ表現に生かして、売上やブランド価値向上につなげる。これこそデータドリブンマーケティングの本質であり、その機能です。

 2010年代に入り「ビッグデータ」というバズワードが世界を席巻して以来、日本でもデータドリブンマーケティングに注目が集まるようになりました。

 多くの方が想像される通り、インターネット回線の高速化とスマートフォンやIoTデバイスの普及、使い勝手がいいWebサービス、アプリの登場が、データドリブンマーケティングの普及を後押ししています。

 しかし、データを重視するマーケティング手法が2010年代を境に突如として現れたわけではありません。

 インターネットが存在する前から、アンケートやパネルデータ、テレビ視聴率調査、POSデータ、政府や民間が公表する各種統計データをマーケティング活動に生かす取り組みは行われていたからです。

 では、現在と過去とでは何がどう異なっているのでしょう?

様々な側面を持つ生活者を丸ごと理解して、働きかけることが重要

 もとより、扱うデータがデジタルなのかアナログなのかという違いはあります。しかしそれはデータ形式や保存方法の違いが主であり、決定的な違いとまでは言えないでしょう。では何が違うのか? それは、データの「量」「種類」「質」の3点における大きな隔たりです。

 まず量について申し上げると、マーケティングに活用されるデータ量は、デジタルデバイス、メディア、チャネル、センサーの増加に加え、データの収集、蓄積技術の進歩によりその数を幾何級数的に増大させています。

 たとえば、ユーザーをブラウザ単位で識別するCookieデータや、デバイス単位で識別する広告IDを蓄積するデータベース単体で、レコード数が数千万から数億、数十億件にのぼることもあるほどです。

国際的なデジタルデータの量は2020年には約40ゼタバイトに到達する見込み

 またデータの種類について言えば、Webサイトの閲覧ログやソーシャルグラフ、商品やサービスの購買履歴、位置情報や各種センサーデータなど、デジタルデータだけに限っても相当な種類のデータが集められるようになっており、その種類は細分化、詳細化する傾向にあります。

 その量と種類を前にすると圧倒されてしまいそうですが、データドリブンマーケティングの全体像を掴むためには、まず、データの量や種類の多さ以上に、データの「質」の変化がマーケティングのあり方に大きな影響を与えていることを理解すべきでしょう。

データの「質」が違う、とはどういうことか?

 かつてマーケティングに活用されるデータと言えば、どれも断片的かつ限定的なものでした。

 ひとりの人物が複数の店舗で買い物をしたり、携帯やPCで何らかのサービスを利用したりしても、それらの行為を関連付け、同一人物の振る舞いだと特定する仕組みが存在しなかったからです。

 しかし現在では、オンライン、非オンラインを問わず、共通ポイントカードやECサイトの会員情報、CookieデータやアドIDなどをもとに、利用者の行動を連続的にトレースすることが可能になりました。

 つまり現在、世界中で収集されているデータを上手に活用すれば、断片的な消費行動を分析するだけでは見えづらかった、一人一人の行動をリアルタイムに把握することも可能になったのです。

スマートフォンは個人のデータを連続的に補足する代表的なテクノロジー

 アナログ時代のマーケティングが扱っていたデータを、時間をおいて撮影されたスナップショットの集積だとすると、今日われわれが手にすることができるデータは、まさに高精細なストリーミング動画のようなものと言えそうです。

 もちろん、こうした詳細なデータを安全かつ有効に利用するには、社内外に点在する複数のデータベースを統合し、データの安全性を確保するため個人情報保護を徹底する必要があることは、言うまでもありません。

 決して楽なプロセスではありませんが、これらの課題をクリアすれば、10年前には夢物語でしかなかった、顧客体験のトータルな理解が可能となるのです。

AIの発達でマーケターの仕事はどうなっていく?

 膨大かつ多様なデータを活用できることは、マーケティング精度を高める上で喜ぶべきことですが、取り扱うデータの量や種類が増えると、それに比例してデータの下処理に費やす時間も増えていきます。

 最悪の場合、最も重要なマーケティング施策を検討する前に、マーケターが業務過多に陥り、力尽きてしまうかもしれません。

 そこで近年注目を集めているのが、AIや機械学習を駆使したマーケティングプロセスの効率化や自動化するソリューションの数々です。現在、複数のチャネルやメディアからの情報を統合し可視化するツールや、見込み客の獲得や顧客体験をパーソナライズするための各種サービスの登場はその一例と言えるでしょう。

では、このまま効率化が極限まで進展すると、マーケターの仕事はどのように変わるのか。

 人工知能の世界的権威、レイ・カーツワイル博士が唱えるシンギュラリティ(2045年頃にAIの能力が人類を凌駕するという説/技術的特異点)が現実となった時、マーケティング施策の立案や実行も自動化され、マーケターは淘汰されてしまうのでしょうか?

 遠い未来にまで思いを馳せれば、そうした変化が起こらないとは言い切れません。しかし当面、マーケターの仕事がすべてAIに置き換わるような事態は訪れないでしょう。

 コンピュータは膨大なデータを処理したり、多様なデータソースから相関関係をあぶり出したりすることは得意でも、データの海の中から、因果関係を読み解き仮説を立て、人の心を動かすようなストーリーやクリエイティブを紡ぎ出すことは不得意だからです。

データドリブンマーケティングはマーケターを本質に向かわせる

 たとえば、ある男性がそれまで閲覧したことがない育児情報サイトを訪れるようになったり、ECサイトで粉ミルクを定期購入するようになったりしたら、おそらくかなりの確率で彼の家庭に赤ちゃんが生まれたことが予想できます。

 こうした情報を察知できれば、パパになったと思われるこの男性に対し、適切なタイミングで紙おむつ製品を紹介することは可能です。ただ、機械的に紹介するだけでは生活者の気持ちを動かすことはできません。マーケターは、データから人々の気持ちを想像し、適切なクリエイティブに変換する必要があります。

 たとえば日曜の午後、新米パパが「毎日の育児お疲れ様です。せっかくの休日。少しでも体を休められるよう、こんなに便利なおむつはいかがですか?」といった趣旨の広告を目にしたらどうでしょう。こうした人の気持ちに寄り添うようなクリエイティブは、いまのところAIにはつくれません。

 さらに、普段よく利用する情報サイトやニュースアプリの利用履歴から、伝統的な暮らしや環境保全に関心があることが推察されれば、普段仕事のために閲覧しているビジネスサイトに「天然素材の素晴らしさ」や「環境に負荷を与えないものづくり」に焦点を当てた広告を載せることで、ごく自然な形でこの製品に関心を持ってもらうことができるかもしれません。

 また、こうした取り組みが功を奏せば、他のベビー用品や学資保険、ランドセルなどの販促に応用し、子どもの成長に合わせた長期的な広告提案も行えるでしょう。

 つまりデータドリブンマーケティングを活用すれば、生活者にとって適切なタイミングに適切な形で情報を届けることが可能になるのです。

 ターゲットとなる生活者の心を動かすためには、認知から行動に至りファンになってもらうまるまでのストーリーを設計し、クリエイティブに反映させることが欠かせません。

 これからのマーケターはAIを優秀なパートナーとし、優れたマーケティング活動に専念できるようになるでしょう。ここにマーケターの未来があると私は考えます。

データの有効活用によって、従来は断絶しがちであったマーケティングの各段階を一気通貫。 真の統合マーケティングの実現へ

 データドリブンマーケティングの成功は、生活者に顧客体験の向上を通じて、便利で豊かな生活をもたらし、マーケターには洗練されたワークスタイルをもたらします。

 AIや機械学習、データマイニング技術がさらに進化すれば、マーケターは煩雑で手間がかかる割に、マーケティングの精度に直接影響を与えない作業を手放せるため、より一層、顧客体験の向上やブランド力向上のための施策づくりに専念できるようになるからです。

 テクノロジーの力で自由になったマーケターは、空いた時間を使って、生活者の秘められた願望を顕在化させる推理力や生活者の心を動かすクリエイティビティを駆使して、マーケティング目標の達成に取り組むことになります。

 デジタル全盛の時代だからこそ、マーケターにはデータを使いこなす技量だけでなく、優れた感性や発想力が求められるようになるのです。

プロフィール

辻田 敏宏
博報堂 データドリブンマーケティング局 局長 
エグゼクティブストラテジックプランニングディレクター

1990年年東京大学法学部卒業。同年、博報堂入社。 以来 20年間、マーケティングセクションにて、さまざまな業種の広告主に向けた新商品開発や広告戦略の立案、ブランド戦略構築などに関わる。2014年から現職。

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2018.10.11

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