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データドリブンマーケティング入門第2回 準備編:仮説構築を重視せよ
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データドリブンマーケティング入門第2回 準備編:仮説構築を重視せよ

データに秘められた潜在力を活用しマーケティング活動に生かす「データドリブンマーケティング」。日進月歩の技術革新により、大量かつ多様なデータを取得・分析できる環境が整いつつあります。しかし、分析の成果を事業課題の解決につなげるためには、【目的理解】【施策設計】【目標設定】【施策実行】【体制構築】の各段階に潜む「落とし穴」を避けて通らなければなりません。今回は、博報堂の島野真と博報堂DYメディアパートナーズの竹下伸哉が、これからデータドリブンマーケティングをはじめようとされる方々に知っておいていただきたいポイントを紹介していきます。
前回【1..顧客体験向上に必要なワケ】はこちら

(右)博報堂 データドリブンマーケティング局 局長代理 島野 真 (左)博報堂DYメディアパートナーズ メディアマーケットデザイン局 データドリブンマーケティング部部長 竹下伸哉

第2回のテーマは「【準備編】仮説構築を重視せよ」
講師:
博報堂 データドリブンマーケティング局 局長代理 島野 真
博報堂DYメディアパートナーズ メディアマーケットデザイン局 データドリブンマーケティング部  部長 竹下伸哉

データドリブンマーケティングの重要ポイント

【1.目的理解】ツールはあくまでも課題解決の手段。射貫くべき目標を正しく認識しよう。

膨大なデータによって裏付けられたマーケティング施策によって、既存事業のてこ入れや新規事業の立ち上げに成功する企業が増えています。これと歩調を合わせるようにデータドリブンマーケティングに取り組みたいという声を耳にする機会が増えました。よく聞くのはこんな要望です。

「最先端のマーケティングダッシュボードを使って手持ちのデータを可視化してみたい」
「ビッグデータを分析すれば顧客理解が進むと聞いた。ぜひ我が社もDMPを導入したい」
「とりあえずありったけのデータを分析して、どんな結果が出るか試してみたい」———。

こうした要望からは、テクノロジーとデータを活用することによって「自社のマーケティング活動を活性化したい」という極めて健全な願望とデータドリブンマーケティングへの大きな期待感が滲んでいます。

しかし、これらの要望にはマーケティング施策を決定し、永続的な改善活動に取り組む上でもっとも重要な点が抜け落ちてしまっていることは見逃せません。データドリブンマーケティングによって「何を達成すべきか」というもっとも大切な要素が欠けてしまっているからです。

マーケティングダッシュボードを使ってデータを可視化することや、DMPを導入することがデータドリブンマーケティングの目的のように捉えられてしまっていることもありますが、これらはあくまでも課題解決のための手段にすぎません。本来データドリブンマーケティングによって解決すべき課題とは、統合的なマーケティング戦略によって、自社製品の認知度やブランド力を高め、ファンを増やし、事業課題である売上や利益を伸ばすことであるべきだからです。

【2.施策設計】過剰なスペック追求はコスト高のもと。目的に見合った手段を選択しよう。

アクセス解析データや購買データ、会員情報、意識調査データ、メディアデータなど、大量かつ多様なデータをかけ合わせ、生活者の見えざる実態を浮き彫りにできるデータドリブンマーケティングの潜在能力には目を見張るものがあります。

ただ、データの収集や保管、分析にはそれぞれコストが伴うのを忘れてはいけません。たとえ秒単位で生活者の動向を捕捉できるツールがあったとしても、目的に見合わなければただの宝の持ち腐れです。日常のレポーティング業務が月次で動いているのであれば、それに合わせたほうがはるかに効率的ということも少なくありません。反映できるサイクルで見るべきものを見る、これが大前提になるからです。

新しいマーケティングテクノロジーやメソッド、ツール類が続々と誕生するなかで、それらの機能やパフォーマンスに期待を寄せる気持ちはよくわかります。しかし道具の使い手であるべきマーケターが「手段」に踊らされていては、ビジネスの成功に貢献できないのもまた事実です。

データドリブンマーケティングの第一歩は、解消すべき課題を見つけ、明確なマーケティング目標を立てることからはじまります。

そうはいっても、ただ漠然と「売上を伸ばしたい」という大雑把な目標を掲げてデータドリブンマーケティングに取り組むのは考えものです。もう少し絞り込まれた目標設定と改善の対象が費用対効果に見合うかどうかの見極めも欠かせません。そのためにまずは現状の「棚卸し」からはじめましょう。

【3.仮説構築】意味のあるデータ収集や基盤構築をするためにも、仮説構築を重視しよう。

例えば販売が低迷している製品があるとします。担当者の心情からすれば、すぐにでも自社商品や競合商品に関するデータをかき集め、高性能な分析基盤にかけて結果を出したくなる気持ちになりますが、仮説なき施策に力はありません。すぐにいくら予算があっても足りないという状態に陥ってしまうでしょう。

例えば、その製品が発売間もない新製品であれば、売れない理由は市場の認知が足りないせいかもしれませんし、長期にわたるロングセラー商品であれば、若い世代への商品理解を促すアプローチが足りていないのかもしれません。

ですから「販売数を増やしたい」という目的は同じでも、製品が異なれば取得すべきデータ、分析すべきデータは変わりますし、その製品の特性や社内外での位置づけによって、選ぶべき「最善手」も変わります。それを認識しないまま闇雲にデータ収集や分析基盤の整備に走っても、成功する見込みは低くなるばかりです。

つまり売上や会員数、アクセス数といった日常的に触れている数字から、いま何が起こっているのかを読み解き仮説を立てることからはじめ、次に仮説の成否を判断しうるデータを選び、集め、検証し、次の施策につなげていくべきなのです。

生活者を取り巻くデータは数多い。目的に合ったデータを選ぶことが重要だ

また、目標設定が明確で蓋然性の高い仮説をもとに施策を実行したとしても、その施策の影響度が売上全体に対して低すぎて費用対効果が見合わないといったことも起こりえます。

データドリブンマーケティングは魔法の杖ではありません。しかし課題解決につながる最善のアプローチを見つけ、投資効果が見込める分野を見極められれば、最小のコストで最大の効果を得やすいのも確かです。

最初は小さな規模でもシンボリックな成功事例を積み重ねられれば、年を追うごとにより大きな課題に立ち向かえるようになるでしょう。そういう意味においても、正しい目標設定と対象領域の見極め、仮説に基づいた施策の立案は重要なのです。

【4.施策実行】関連部署を巻き込み、成功体験と成果を共有しよう。

データドリブンマーケティングを成功させるための準備にはもうひとつのポイントがあります。それはいかに関連部署のキーマンを巻き込めるか、目的意識を共有する基盤となる信頼関係を築けるかというポイントです。

最近ではさまざまなデータを安全に取り扱える環境が整い、外部から詳細なデータを購入することができるようになりつつあります。しかしこうした外部データを分析するだけではデータドリブンマーケティングは成立しません。

すでに自社内に蓄えられているデータに加え、日々の業務のなかで生成される有用なデータを見極め、集積することによってはじめて、永続的な分析環境を整えられます。

とはいえ、これからデータドリブンマーケティングをはじめようという段階で、社内データが1カ所に集約されていることは非常にまれです。

例えばWeb関連のログデータは情報システム部、営業や販売に関するデータは営業企画部、広告出稿量については広告部、製品企画に関する調査データは商品開発部というように、各部署が自らの担当分野のデータを管理しているケースがほとんどです。そのため、分析や仮説検証を行うために必要なデータを集めるには、各部署との連携が必要になります。

しかし実際のところ、マーケティング部門が一声かけてすぐに必要なデータが集まるかというと、必ずしもそうではない場合が数多く見受けられます。忙しい通常業務の間を縫ってデータ提供を行うわけですから時間を要することも多く、企業によっては協力を断られることさえあるほどです。

関連部署が連携することによってはじめて精度の高いマーケティングが実現できる
関連部署が連携することによってはじめて精度の高いマーケティングが実現できる

こうした現象を「データのサイロ化」と呼びますが、この問題にマーケターはどのように対処するべきでしょうか。

会社の規模や組織環境によってやり方はいろいろと考えられますが、まず、協力を仰ぎたい相手方の上長や担当者に、データドリブンマーケティングの成功によってもたらされるメリットを事前にきちんと説明し理解を促すこと、さらにデータドリブンマーケティングによって得られた成功体験や成果を共有することは基本中の基本です。

手柄や知見を独占してしまうようでは、さらに大きな経営課題の解決に立ち向かうときに、協力を取りつけることは難しくなってしまいます。データドリブンマーケティングはマーケティング部門の取り組みではなく、全社の取り組みだということを常に意識しておくべきです。

【5.体制構築】蓄積した知見を「仕組み化」し、永続的な取り組みに進化させよう。

前段までに「シンボリックな成功事例を積み重ねれば、年を追うごとにより大きな課題に立ち向かえるようになる」と書きましたが、データドリブンマーケティングをマーケティング部門だけの取り組みに閉じるべきではありません。繰り返しになりますが、データドリブンマーケティングの最終目標は事業課題の解決にあるからです。

データドリブンマーケティングを単発の打ち上げ花火ではなく、永続的な取り組みにするには、関係するすべての人々と成功体験を共有することによって意識をひとつにし、PDCAサイクルを回しながら施策の精度を高めることが重要です。

仮に、関連部署からデータを供出してもらうだけでなく、各部署の担当者が実際にデータを持ち寄って仮説や施策を検討する会議体が設定できたら、仮説立案や分析の精度は大きく向上するはずです。

もしこうした状況をつくることができれば、売上のみならず企業ブランディングの向上など、データドリブンマーケティングの対象領域はさらに広げることもできるでしょう。これからのマーケターには、こうした大きな動きを先導する意識が求められているのです。

簡単にデータドリブンマーケティングをはじめるにあたって注意すべき5つのポイントを挙げましたが、実際に生活者データの活用したデータドリブンマーケティングの実践には、さまざまなテクニックとプロセスが必要になります。

——次回はデータの扱うためのツールやインフラに解説する予定です。ぜひ次回もお楽しみに。

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  • 株式会社 博報堂 データドリブンマーケティング局 局長代理 シニアストラテジックプラニングディレクター
    1991年に博報堂に入社。主にマーケティングセクションに在籍。飲料、通信、サービスなど様々な業種の得意先を担当し、コミュニケーション戦略、ブランド戦略、商品サービス開発などのマーケティング戦略立案に従事。2012年よりアカウンタビリティ推進部長として、ROI最大化に向けた取組を進める。その後、データドリブンマーケティング部長を経て、2017年より現職。全体最適視点でのデータ活用による戦略企画や、そのために必要となる新たなソリューション開発による統合マーケティングマネジメントの進化を推進する。共著:基礎から学べる広告の総合講座(日経広告研究所)
  • 株式会社 博報堂DYメディアパートナーズ メディアマーケットデザイン局 データドリブンマーケティング部 部長
    通信キャリアでSE、広告宣伝、サービス開発を担当し、2006年に博報堂入社。以降、マーケティングプラナーとしてクライアントのマーケティング支援に関わり続け、2013年より博報堂DYメディアパートナーズ。ここ数年はスマートデバイスアプリ活用や、企業が保有するデータと博報堂の生活者データを組み合わせた、統合型のマーケティングプランニングを推進中。家にAmazon Echoが氾濫中。