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マーケティングシステムの今~マーケティング&ITの実務家集団が語る事業グロースへのヒント【特別編①】Google Cloud Next '26で見えた「AIエージェント時代」の到来——日本企業が今すぐ向き合うべき3つの構造変化
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マーケティングシステムの今~マーケティング&ITの実務家集団が語る事業グロースへのヒント【特別編①】Google Cloud Next '26で見えた「AIエージェント時代」の到来——日本企業が今すぐ向き合うべき3つの構造変化

2026年4月、ラスベガスで開催されたGoogle Cloud Next '26に、博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局(以下、マーシス局)のメンバーとして参加してきました。世界中から数万人のテクノロジーリーダーが集まるこのカンファレンスで、最も強く打ち出されたメッセージは「AIのパイロット期は終わった。これからはエージェントの時代だ」という宣言でした。本連載「マーケティングシステムの今」では、マーシス局のメンバーが事業グロースに向けた知見を発信していますが、今回は特別編として、現地で肌で感じた最新動向をお届けします。

本稿は単なるイベントレポートではありません。現地のセッションで繰り返し語られたメッセージを起点に、AIの役割が「人間の指示を待つアシスタント」から「自律的に業務を遂行するエージェント」へと変わりつつある今、日本企業のマーケティング責任者が向き合うべき3つの構造変化と、その備え方についてお話しします。
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土井 京佑
株式会社博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局
データプラットフォーム推進部 部長 

1. 「パイロットの終焉」── AIは実験対象から経営資源へ

Google Cloud Next '26で最も強く打ち出されたメッセージは明快でした。「AIのパイロット期は終わった。これからはエージェントの時代だ」──登壇者が口を揃えてそう語っていたのが印象的です。

日本企業でも2024年から2025年にかけて、組織全体で生成AIのPoCに取り組んだ企業は多いのではないでしょうか。チャットボットの導入、議事録の自動要約、コンテンツ生成の効率化──しかし、それらが全社的な業績インパクトにつながったかと問われると、多くの企業が「まだこれから」と答えるのが実情でしょう。同カンファレンスでは、2026年はAIが実験(Experiments)から収益(Earnings)へとシフトする年だと繰り返し語られていました。

象徴的だったのは、ある大手コンサルティングファームが提示した「100% Humanless(完全無人化)」という思考フレームです。文字通りすべてを無人化するのではなく、「この業務が完全に無人で回るとしたら?」という仮説を立て、逆算して「人間が介在すべき意思決定ポイント」だけを特定する──逆算型の業務再設計(BPR)アプローチです。多くの日本企業は既存プロセスを前提に「AIで効率化できるところ」を探しますが、それでは部分最適にとどまります。「完全無人化」を起点にした逆算設計は、業務プロセスそのものをゼロベースで問い直すことを迫ります。

実際に成果を出している企業の規模感は、もはやPoCの域を超えています。ある石油・ガス企業は全社200のワークフローから40を自動化対象に特定し、年間5億ドル規模の財務インパクトを報告。ある大手化粧品メーカーでは4万人のユーザー環境で3万個のノーコードエージェントが日常稼働しています。AIエージェントはもはや「IT部門が管理する先端技術」ではなく、「全社員が日常的に活用する経営資源」になりつつあるのです。

【図表①:AIの進化フェーズ ── PoCから経営資源へ】

2. 構造変化①:AIが「支援者」から「実行者」へ

第一の構造変化は、AIの役割そのものが根本的に変わったということです。

これまでのAI活用は、基本的に「人間が指示を出し、AIがそれに応える」という構図でした。生成AIに質問を投げれば回答が返ってくる。プロンプトを書けばコンテンツが生成される。便利ではありますが、あくまでAIは「支援者(アシスタント)」の立場です。

同カンファレンスで繰り返し強調されていたのは、「支援ではなく業務を完結させる(Complete the work, not just assist)」というメッセージです。AIエージェントとは、目的(ゴール)を与えられると自ら情報を収集・判断し、複数のステップにまたがるワークフローを自律的に遂行する存在です。しかも、それは数分で終わるタスクだけでなく、複数日にわたる業務プロセスにまで及びます。

この変化は「タスクではなく成果を管理する(Manage outcomes, not tasks)」という言葉に集約されます。マネージャーの役割が「作業の割り振り」から「成果の定義と承認」へとシフトするのです。エージェントの活用は、個人向け(Personal)、部門特化型(Team)、全社横断型(Enterprise)の3層で広がっていくと整理されています。個人が日常の定型作業をエージェントに任せるところから始まり、部門ごとの専門ワークフローを担うチーム型エージェント、そして部門横断でシステムやデータにアクセスするエンタープライズ型エージェントへと発展していく構図です。

マーケティングの文脈で考えれば、このインパクトは甚大です。キャンペーンの企画・実行において、ターゲットセグメントの抽出、クリエイティブ素材の生成、配信チャネルの最適化、効果測定レポートの作成──これらの一連のワークフローをAIエージェントが自律遂行する世界が視野に入っています。人間の役割は「キャンペーンの目的と制約条件を定義し、最終アウトプットを承認する」ことに集約されていくのです。

3. 構造変化②:「タスク評価」から「ディレクション評価」への組織シフト

第二の構造変化は、AIの進化が組織のあり方そのものを変えるという点です。

Google Cloud Next '26である登壇者が語った「文脈と信頼のないエージェントは自律的な負債である」というフレーズが印象的でした。AIエージェントに正しく仕事をさせるには、自社のビジネスルール、顧客との関係性、ブランドのトーン&マナーといった暗黙知を明文化し、エージェントが参照できる「スキル」として定義する必要があります。優秀な社員の暗黙知を形式知化することが、最も重要な組織課題になるのです。

同時に、ノーコード環境の普及により「全社員がAI開発者になる」潮流が加速しています。マーケティング担当者が自然言語で業務エージェントを構築・稼働させる世界が現実化しつつあります。ただし、トップダウンの号令だけでは現場は動きません。同カンファレンスで強調されていたのは「チェンジマネジメント」ではなく「アダプション(習慣化)」こそが成功の鍵ということでした。ハッカソンやゲーミフィケーションで現場のFOMO(取り残される恐怖)を刺激し、自発的な定着を促すアプローチが有効とされています。

最も本質的な変化は、人事評価の基準が「作業量」から「ディレクション(成果指示)の質」へ移行することです。「どのような成果を定義し、エージェントにどう指示し、どの品質基準で承認したか」──この「ディレクション力」が評価される時代がやってきます。

 【図表②:「タスク管理型組織」から「アウトカム管理型組織」への移行】

4. 構造変化③:「人間を統制する」から「エージェントを統制する」ガバナンスへ

第三の構造変化は、ガバナンスの対象が「人間」から「エージェント」へ広がることです。

Google Cloud Next '26で提示されたのは、エージェント統制の4要素フレームワークです。Gateway(通信制御)、Protocol(連携ルール)、Registry(台帳管理)、Standards(標準化)──この4つでエージェントの挙動を組織的に管理します。

日本企業にとって特に深刻なのが「シャドーAI」です。現場社員が個別に無料AIツールで社内データを入力している状態は、情報漏洩リスクの温床です。ある通信事業者では法務・セキュリティ・人事を含む「AI評議会」を初期段階から組成し、リスク管理と推進のバランスを取っていました。

もう一つ重要なのが推論の可視化(Reasoning Traces)です。AIエージェントが「なぜその判断に至ったか」のプロセスを記録・監査できる仕組みです。たとえばAIエージェントが特定の顧客セグメントをキャンペーン対象から除外した場合、その理由が追跡できなければ施策の改善も説明責任も果たせません。推論の可視化は、AIの信頼性を担保する根幹の仕組みです。

ここで強調したいのは、ガバナンスは「守り」ではなく「攻めの武器」になるということです。運用ルール(人間の注意力)に頼るのではなく、システム的に逸脱が不可能な環境を構築することで、安全にAI適用範囲を広げられます。監査ダッシュボードは「何か起きた時の保険」ではなく、「規制要件をいち早くクリアしてAI活用を加速する」ためのイネーブラーなのです。

エージェントが数百、数千と増える世界では、「ツール管理」ではなく「デジタルワーカーの人事管理」に近い機能が必要です。これを「Agentic Ops」と呼んでいますが、この機能の早期構築が企業競争力を左右するとみています。

【図表③:エージェント・ガバナンスの4要素フレームワーク】 

5. 日本企業のマーケティング責任者が、今日から始めるべきこと

第一に、「逆算型BPR」の思考実験を始めましょう。自社のマーケティング業務フローを一つ選び、「これが100%無人で回るとしたら、どこに人間が必要か?」と問うてみてください。たとえばレポーティング業務であれば、データの抽出・集計・可視化・報告資料の作成のうち、本当に人間が介在すべきは「インサイトの解釈と次のアクションの意思決定」だけかもしれません。この思考実験をするだけで、AIエージェントの適用余地が具体的に見えてきます。

第二に、「Agentic Ops」の設計に着手しましょう。AIエージェントを1つ2つ試すフェーズは終わりつつあります。今後エージェントの数が増えることを前提に、「誰が作ったどんなエージェントが、どのデータにアクセスし、どんな判断をしているか」を一元管理する仕組みが必要です。IT部門だけでなく法務・セキュリティ・人事を巻き込んだ「AI評議会」のような横断体制を検討することを強くお勧めします。

第三に、AIを経営アジェンダへ引き上げましょう。Google Cloud Next '26を通じて最も強く感じたのは、成果を出している企業はいずれもCEO主導のビジネス変革としてAIを位置づけているということです。IT部門主導のPoCではスケールしません。AIエージェントの導入は、業務プロセスの再設計、組織構造の見直し、人事評価の刷新にまで及ぶ全社変革であり、経営トップのコミットメントが不可欠です。

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Google Cloud Next '26の会場で、ある講演者がこう言っていました。「ソフトウェアに1ドル投じると、サービスに6ドルの市場が生まれる」──業務設計、組織変革、ガバナンス構築といった「テクノロジーの周辺」にこそ大きな投資と知恵が必要です。

我々マーシス局は、まさにこの「テクノロジーの周辺」を専門領域としています。AIエージェント時代は、すでに到来しています。3つの構造変化を見据えた上で、自社のマーケティングを次のステージへ進める一歩を、ぜひご一緒に踏み出しましょう。

※肩書は取材当時のものです

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  • 株式会社博報堂
    マーケティングシステムコンサルティング局
    データプラットフォーム推進部 部長
    生成AIの実装支援から新たなCX開発、事業戦略支援まで、データ・AI活用によるクライアント支援を推進。プロトタイピングによる高速検証、生成AIを活用した人材育成・業務効率化・マーケティングデータ活用・CX革新など、幅広いテーマに対応。データ・AI活用における「Can be(現実的に実現可能なこと)」を重視し、ビジネス成果に直結するデータ・AI利活用モデルの確立に取り組んでいる。

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