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マーケティングシステムの今~マーケティング&ITの実務家集団が語る事業グロースへのヒント【特別編②】Google Cloud Next '26で見えた「買い物の未来」——Agentic Commerceが変える顧客体験とマーケティング
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マーケティングシステムの今~マーケティング&ITの実務家集団が語る事業グロースへのヒント【特別編②】Google Cloud Next '26で見えた「買い物の未来」——Agentic Commerceが変える顧客体験とマーケティング

前回に引き続き、2026年4月にラスベガスで開催されたGoogle Cloud Next '26の現地レポートをお届けします。
前回は「AIエージェント時代の到来」と題して、AIが実験対象から経営資源へとシフトする潮流と、日本企業が向き合うべき3つの構造変化を取り上げました。
今回はその続編として、AIエージェントが購買体験そのものを根本から変える「Agentic Commerce(エージェンティック・コマース)」に焦点を当てます。

生活者がキーワードを打ち込んで商品を比較する時代から、AIとの対話の中で発見から決済までが完結する時代へ。さらにカスタマーサポートが「コスト」から「売上創出チャネル」へと変貌する兆しも見えています。本稿では、この変化が日本のマーケティングにもたらすインパクトと、今から備えるべきことについてお伝えします。
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土井 京佑
株式会社博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局
データプラットフォーム推進部 部長 
 

1. 購買ファネルが「消える」── Search、Intent、そしてDelegation

皆様の顧客が、最後に「検索窓にキーワードを入力して商品を探した」のはいつだったでしょうか。

これまでのデジタルコマースは「検索→比較→検討→購入」という直線的なファネルが前提でした。しかし今、このファネルそのものが急速に姿を変えつつあります。Google Cloud Next '26の複数セッションで示されたのが、購買行動の3段階進化モデルです。

第1段階:Search(検索)。現在の主流。生活者がキーワードを入力し、検索結果から商品を選ぶ。

第2段階:Intent(意図の理解)。生活者がAIに自然言語で意図を伝え、AIが文脈を理解して最適な選択肢を提案する。「30代の父親に贈る誕生日プレゼント、アウトドア好き、予算1万円」──キーワード一致ではなく、意図の理解が購買の起点になります。

第3段階:Delegation(委任)。 生活者がAIエージェントに購買行為そのものを委ねる。「毎月の日用品の補充を、家族構成と消費ペースに合わせてよろしく」──AIが自律的に選定・発注し、消費者は個別の商品ページを見ることすらありません。

この先に描かれるのが「The Invisible Transaction(見えない取引)」です。決済ボタンが画面から消え、生活者側と企業側のAIエージェント同士がバックエンドで取引を完了させる世界です。実際にある事例発表では、AI経由のトラフィックの41%が直接商品詳細ページに着地し、従来チャネルよりコンバージョン率が高いことが報告されました。

マーケターにとって、この「ファネル圧縮(Funnel Compression)」のインパクトは計り知れません。比較検討プロセスがAIとの数往復の対話に置き換わるとすれば、ファネル各段階に最適化してきたマーケティング施策の前提が根底から揺らぎます。

【図表①:購買行動の3段階進化モデル──Search → Intent → Delegation】 

2. SEOからAIOへ──AIに「選ばれる」ためのデータ戦略

ファネルの起点が「キーワード検索」から「AIとの対話」に移るとき、企業のデータ戦略は根本的な転換を迫られます。

SEOの時代は「生活者が入力するキーワード」を予測し上位表示させる勝負でした。しかしAIエージェントは「キーワード」ではなく「意図」で商品を選びます。ここで重要になるのが「AIO(AI Optimization)」──AIエージェントが自社商品を「理解」し、適切な文脈で「選んでくれる」ためのデータ整備です。

生活者がAIに「敏感肌の5歳の子ども用日焼け止め、プールでも落ちにくくて石鹸で落とせるもの」と依頼したとします。AIが参照するのはキャッチコピーではなく、成分表、対象年齢、使用制約、利用シーンといった構造化されたメタデータです。AIに「選ばれる」には、商品カタログを「AIが読み解ける形」に整備する必要があるのです。

これまでのECサイトにおける商品情報管理(PIM)は、人間の消費者が読んで理解できる商品説明文の作成が主眼でした。しかしこれからは、AIエージェントが曖昧な依頼から商品を正確に特定できるよう、用途・成分・制約条件・利用シーン・組み合わせ可否といったメタデータを体系的に充実させる──いわば「AI-Readyなカタログ」の構築が競争力の源泉になります。

この変化は、競争の軸そのものを移動させます。これまでのECは「品揃えの幅」と「価格」が主戦場でした。しかしAIOの世界では、10万SKUを浅く並べるよりも、1万SKUを深い文脈情報とともにAIに理解させるほうが、エージェントに「選ばれる」確率は高くなり得る。競争の軸が「規模とデータ量」から「文脈の理解力」に移るのです。商品データにおいてスペック(What)は記載されていても、「この商品がどんな生活者の、どんな場面で、なぜ必要とされるのか」という文脈(Why)が欠落している。AIOの時代に備えるとは、商品データにも「Why」を埋め込むことに他なりません。

3. カスタマーサポートが「売上を生むチャネル」に変わる──Service to Sales

Agentic Commerceのもう一つの大きなインパクトは、カスタマーサポートの位置づけを根本から変えることです。

多くの企業にとって、カスタマーサポートは「コストセンター」です。しかし今、AIの進化によって「プロフィットセンター」──売上を生むチャネルへと変貌する可能性が見えてきました。この「Service to Sales」という概念は、Google Cloud Next '26でも複数セッションで議論されていました。

仕組みはこうです。お客様がカスタマーサポートに問い合わせた際、AIエージェントがまず問題を迅速に解決します。不満が解消された直後──お客様の感情が「怒り」から「ニュートラル」に戻った、その瞬間こそが最も受容性の高いタイミングです。ここでAIが、問い合わせ内容、過去の購買履歴、利用状況などの文脈を統合的に理解し、自然な流れでアップセルやクロスセルの提案を行う。「お困りの件は解決しました。ご利用状況を拝見すると、こちらのプランのほうが月額で2,000円ほどお得になりそうです」──こうした提案が、人間のオペレーターの勘に頼るのではなく、AIによって全問い合わせに一貫して実行される世界です。

実際に成果も出始めています。ある大手家電量販チェーンでは自己解決率が50%以上向上、ある通信事業者ではAIチャットボットで通話量30%削減に加え、5ヶ月間で350回以上の自動チューニングを本番適用。APAC地域のある通信事業者は、ハイパーパーソナライゼーションにより初年度7,200万ドルの価値を創出しています。

ただし、ここで重要な実務上の教訓があります。すべての問い合わせをLLM(大規模言語モデル)で処理しようとするのは非現実的です。先進的な企業が採用しているのは「ハイブリッド・アーキテクチャ」──定型的な問い合わせ(残高照会、配送状況確認など)はルールベースで高速処理し、複雑な意図解釈や感情的な対応が必要なケースにのみLLMを投入する「トリアージ」設計です。

KPIの転換も重要です。従来の「呼量削減」は「お客様に問い合わせさせない」ことを目指す守りの指標です。Service to Salesの文脈では、真に追うべきKPIは「初回解決率(Resolution)」──課題を一度の接触で確実に解決し、その先のアクションにつなげる力です。先行企業に共通する成功パターンとして「Progress over perfection(完璧より前進)」──全問い合わせの80%を占める上位20%のユースケースからまず着手するアプローチも示唆的でした。そしてAIの目的は完全無人化ではなく「共感(Empathy)のスケール」──定型的な問い合わせをAIが引き受け、人間のオペレーターが共感的な対応に集中できる環境をつくることにあります。

【図表②:カスタマーサポートのパラダイムシフト──「コストセンター」から「プロフィットセンター」へ】 

4. 日本企業が今から備えるべき3つのアクション

Action 1:商品カタログを「AI-Ready」にする

自社の商品データを「AIが理解できる形」に再構築します。各商品に対して「どんな人が」「どんな場面で」「なぜ必要とするのか」を構造化データとして整備。日本市場特有のポイント経済圏やクーポン制度もAIが参照できる形にしておけば、カート離脱防止の強力な武器になります。

Action 2:FAQボットを「パーソナルショッパー」に格上げする

既存のFAQチャットボットを、インスピレーション提供からカート投入・決済までを一貫代行する「パーソナルショッパー」へ進化させます。鍵となるのは購買履歴(What)だけでなく「なぜその商品を選んだか」(Why)の文脈データをAIに参照させること。既存データ資産の価値を最大化する取り組みです。

Action 3:1st Party Dataの「死守」と、APIファーストへの転換

購買接点がAIに仲介される時代、「誰に売ったか」のデータを失うリスクが致命的です。A2A(Agent-to-Agent)コマースに備え、自社システムを外部AIと対話可能なAPIファースト設計に刷新しておく。同時に実店舗は「発見・インスピレーション・コミュニティの場」として再定義が必要です。

【図表③:Agentic Commerce時代に向けた3つのアクションと着手優先度マトリクス】 

5. 「AIに選ばれる企業」になるために

Agentic Commerceは、一見するとテクノロジーの話に見えます。しかし本質は、「生活者との関係性を誰がデザインするか」という問いです。AIが購買の仲介者になる世界で、自社商品が生活者の「選択肢」に入り続けられるか。AIエージェントが「この商品がこの人に最適です」と推薦してくれるだけの情報を、自社は提供できているか。

必要なのは最新のAIツールを導入することではありません。自社の顧客を深く理解し、その理解をデータとして構造化し、AIが「正しく推薦できる状態」を作ること──テクノロジーの前にある「顧客理解の基盤」を整えることです。

博報堂には「生活者発想」という100年以上にわたる思想の蓄積があります。生活者を「商品を買う存在」ではなく、「価値観を持ち、文脈の中で意思決定する一人の人間」として捉える視点。この視点は、AIが購買の仲介者になる時代にこそ重要性を増すと我々は考えています。我々マーシス局は、マーケティング戦略の立案からデータ基盤設計、AI活用設計、実装・運用まで「構想」と「実装」の両方に責任を持てる実務家集団です。

完璧なロードマップが描けるのを待つ必要はありません。まずは自社の商品カタログに「文脈」を1つ加えることから始められます。Agentic Commerceの波が来たときに備えができているか。その備えを、ともに考え、ともに実装していく。それが我々マーシス局の使命だと考えています。

※肩書は取材当時のものです

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  • 株式会社博報堂
    マーケティングシステムコンサルティング局
    データプラットフォーム推進部 部長
    生成AIの実装支援から新たなCX開発、事業戦略支援まで、データ・AI活用によるクライアント支援を推進。プロトタイピングによる高速検証、生成AIを活用した人材育成・業務効率化・マーケティングデータ活用・CX革新など、幅広いテーマに対応。データ・AI活用における「Can be(現実的に実現可能なこと)」を重視し、ビジネス成果に直結するデータ・AI利活用モデルの確立に取り組んでいる。

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