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博報堂DYグループが目指すAI変革の現在地 ——CAIOの視点から見た変革期の組織と人材
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博報堂DYグループが目指すAI変革の現在地 ——CAIOの視点から見た変革期の組織と人材

博報堂DYホールディングスの執行役員 Chief AI Officerである森正弥が、3月23日に行われたJAC Digitalオンラインセミナーにて「博報堂DYグループが目指す『AI変革』の現在地」と題し、現在の取り組みや、CAIOの視点から見た変革期における組織と人材像の変化について、JAC Digitalアドバイザーの澤 円氏と対談を行いました。

(左から)
博報堂DYホールディングス執行役員Chief AI Officer
Human-Centered AI Institute代表
森 正弥 

JAC Digitalアドバイザー
株式会社圓窓 代表取締役 
澤 円 氏

AIとクリエイティビティの交差点

森さんはこれまで、コンサルティングから事業会社、そして再びコンサルでキャリアを重ね、博報堂DYグループへの参画、というキャリアを歩んでこられました。博報堂DYグループを選ばれた経緯などお聞かせいただけますでしょうか。
コンサルタントとして働いていると、「テーブルの向こう側に座りたい」と思う時があるんです。支援者ではなく当事者としてその課題と格闘したくなる。逆に事業会社にいると、もっと幅広く業界全体や社会に貢献できるんじゃないかと思い、コンサルに戻りたくなる。その振り子でキャリアを歩んできたのかな、という自覚があります。

このタイミングで博報堂DYグループに参画した背景には、生成AIの登場という大きなトレンドがあります。私は2017年当時、楽天の研究開発トップとして「これからはクリエイティブAIの時代が来る」と情報発信していました。5年後に来ると予測していたのですが、まさかここまでの規模感とインパクトでやってくるとは思っていませんでした。

予測の「外れ方」が想定を圧倒的に凌駕するという、なかなかできない体験ですよね。
そうなんです。ちょうどそのタイミングに、「AI×ガバナンスや、AIの安全性の議論に閉じず、これからはクリエイティビティ×AIがテーマになるべき。そして、それを博報堂DYグループがリードしていくんだ」、とオファーをいただきました。世の中で起きていることとシンクロしているのも見て、自分の中で「クリエイティビティ×AI」が腹に落ちた瞬間があり、入社を決めました。

広告・マーケティング・クリエイティブ業界は、AIによるディスラプションを最も直接的に受ける業界といわれており、海外では大手エージェンシーがAIシフトを加速させています。しかし私は、博報堂DYグループ含めた日本の広告業界が、次の社会に貢献できる業界の姿を見出していかなければならないと考えています。そこに自身のこれまでの知見や経験を活かし、役立てることをやっていきたいと思ったんです。

入社されて、見ている世界は変わりましたか?
もう全然違いましたね。正直、コンサル業界にいたときはある程度一緒でしょうと油断していたんです。コンサル業界もエージェンシービジネスに近づいているし、広告業界もコンサルティング事業に取り組んでいるし、と。でも入ってみたら脳みそを叩き割られるような衝撃をいろいろ受けました。

一番大きかったのは、コンサルは突き詰めるとロジカルな業界なのに対して、広告業界はやはりクリエイティブな業界だということです。

博報堂DYグループでは「正解ではなく別解」という言葉を大切にしています。課題に対してただ正解を求めるのではなく、「この課題の定義は、本当にそうですか?」と返すところから始まる。そして「こういう見方もありますよね」というところから、前例のないソリューションを生み出していく。それが我々の価値だという考え方です。

人材の多様性という意味でも、何か感じるものがありましたか?
コンサルティング業界でももちろん、多様性は大切にされているのですが、コンサルタントとしての素養・スキル・アプローチの仕方など、共通軸がとても強く存在しているように思います。一方、博報堂DYグループには「粒ぞろいより粒ちがい」というカルチャーがあり、一人ひとりの違った個性が集まり、チームを組むことが新たな価値を生み出すという考え方です。

一緒に働いているメンバーが本当にクリエイティブで、枠にはまらない。びっくりさせられることがとても多い。だからこそ世の中を「裏切る」ようなソリューションが生まれてくるんだと思います。

「AI浅慮」という課題―AIに渡してはいけない聖域

AIを使うと考える力が失われるという懸念について、森さんはどうお考えですか?
この問題に関する研究レポートは続々と出てきているんですが、あまり人口に膾炙していないといいますか、取り上げられていない印象があります。

2025年4月にマイクロソフトとガートナーの研究者が出した共同研究では、AIを使うことで認知的な努力が低下することが、知的労働者380名を対象に示されました。6月にはMITメディアラボが脳波分析から「生成AIを使うと集中力が下がる」ことを明らかにしています。今年1月にはAnthropicが150万のユーザーのプロンプトデータを分析して「ユーザーが無気力になっている」という現象を分析し報告しています。さらに、個人としてではなく、チームとしてもパフォーマンスが下がるという意見も出てきているんですね。

私はそれを「AI浅慮」という言葉で解説し、課題意識を持っています。AIのアウトプットをそのまま受け入れてしまうことによって、結果としてAIを使う前よりも品質が下がったり、生産性が下がったりしてしまう現象です。

どのように対策すればよいのでしょうか。
AIが出したアイデアに対して人間が選ぶ、あるいは人間が自分の視点を加える、AIにもっと深堀させて思考を突き詰めていく、さらにはAIエージェント同士の議論の審判として人間が視座の高い思考を行う、など対処策のようなものはいくつかあると思います。しかし、本質的には自分自身の経験や視点を深めていく必要があり、博報堂/SIXのクリエイティブ・ディレクターである藤平達之さんが提唱している「そもそも・例えば・つまり」という思考の構造は、AI浅慮においても重要なのではないかと整理できました。

「そもそも」は問題の本質を掘り下げること、「例えば」は類似事例や関連情報を広げていくこと。この二つにはAIの力をいくらでも使っていいと思っています。縦に深く、横に広くという作業はAIが得意とするところですから。

しかし、「つまり、これはこういうことだ」という自分なりの結論を導く部分は、自分でやらなければいけない。AIを使っている人の中で、「つまり」の部分まで聞いてしまう人が多いんです。それがまさに認知能力の低下や無気力化につながっているのではないかと思っており、「つまり」は自分の生き様を出すところなので、ここをAIに渡してはいけないんです。

本当にその通りで、最近、具体と抽象を意識していきましょう、といった内容を色々な方が様々な形でおっしゃっているんですが、まさに「つまり」の部分こそ聖域だと思うんです。

「そもそも」はたいていある個別具体の何かの事象があり、そこから導き出される一つの結論のようなものであり、それを抽象化すると「例えば」に進化させることができて、さらに理解を進めることができる。その「例えば」はバリエーションがあった方が分かりやすいので、そのバリエーションをたくさん生み出すために生成AIに託す、のは一つの手順としては十分にありですよね。しかし「つまり」まで任せてしまうと、そこは自分の力、自分の生き様でもあるので、ビジネスパーソンとしての生き様を手放すことになってしまいますよね。

バックグラウンドの掛け合わせが新しい価値を生む

広告・IT両業界ともに未経験の人材が博報堂DYグループのような広告会社に参画する際、実際にどのような働き方や貢献が期待できているのでしょうか。
私自身のチームでいうと、メーカー出身者もいれば、コンサル出身者もいれば、新卒から博報堂の社員もいます。さまざまなバックグラウンドの知識を組み合わせることで、新しいメソドロジーやアプローチを生み出しながら、全社のAI推進・変革を仕掛けている組織です。

具体的なエピソードとして、製造業でVE(バリューエンジニアリング・価値工学)を経験してきた方がいるんですが、そのアプローチで広告・クリエイティブ業界のビジネスプロセスを分析すると、まったく新しい発想が見えてくるんです。広告業界にはそもそもVEという発想がないので、このように他業界出身者の知識は、本当にありがたいと感じる瞬間があります。

異業種の経験がそのまま武器になるということですね。
そうですね。ここで重要なのは、「自分の過去の経験が正しい」ではなくて、「自分の経験と新しいフィールドを掛け合わせたら何かが起こる」というマインドセットです。過去の資産を活かしながらも、オープンマインドで臨む。そういう人が合っている気がします。私自身、異業種から来た一人として、今も毎日そのスタンスで仕事をしています。

3つのAで業界の枠を超えた「社会的OS」を目指す

3年後のビジョンにお話を移すと、今後どのような変化が起きていくと見ていますか?
直近3年では「AIによる同質化・均質化」が大きなテーマになると思っています。TARO WORKSの調査では、広告・クリエイティブ・マーケティング領域の責任者の8割が「AIを使うと競争力が下がるのではないか」と危惧しているという結果が出ています。AIを使えば便利だけれど、みんな同じになってしまうという懸念です。

だからこそ、AIで生産性をリープさせながらも、違う価値を出していくことを組み合わせることが重要です。それが「テクノロジーと感性の融合」というビジョンにつながっています。

博報堂DYグループでは、AI活用における「3つのA」を大切にしています。効率化「Automation(オートメーション))は当然重要です。でもそれ以上に大切なのは人間の創造性の拡張「Augmentation(オーグメンテーション)」。そしてその両方を支えるのがAIとともに抱く大志「Aspiration(アスピレーション)」だと考えています。

では、さらに10年後のビジョンはどのように描いていますか?
10年後には、企業対企業、取引先対顧客という従来の枠組み自体があまり意味をなさなくなると思っています。協力し合うことで新しい価値を生む、そのことの重要性がどんどん高まってくる。

広告業界は360度すべての業界がお客さまであり、あらゆる業界を横断しています。この特性を最大限に活かして、新しいビジネスや産業を生み出す「社会的OS」になっていくべきではないかと、考えています。

※肩書は取材当時のものです 

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