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AIを活用したマーケティングの未来【セミナーレポート】【後編】
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AIを活用したマーケティングの未来【セミナーレポート】【後編】

生成AIの普及により、マーケティング業務の自動化・効率化は急速に進んでいます。しかし、テクノロジーやアルゴリズムによる最適化が進む一方で、どの企業も同じ「正解」にたどり着いてしまう「同質化」という新たな課題が浮上しています。

博報堂DYグループは、こうした課題に対し、AIを単なる効率化の道具ではなく、人の創造性を拡張するパートナーとして捉える「AI-POWERED CREATIVITY」という戦略を掲げています。

本記事では、博報堂DYグループが主催する“生活者データ・ドリブン”マーケティングセミナー「AIを活用したマーケティングの未来」の様子を編集し、お届けします。レポート後編では、ECやCRM領域においてAIエージェントと共創し、顧客との関係を深める「CX AI STUDIO™」について、博報堂 CXクリエイティブ局の池田がご紹介します。


レポート前編はこちら
 

「管理」から「ストーリーテリング」へ変革する「CX AI STUDIO」

池田
ここからは「CX AI Studio 編集部AI」について、AIをチームメイトに、生活者との関係をどう育てていくかをお話していきます。
CX AI Studioは、「生活者発想プラットフォーム」をベースにしたソリューションで、博報堂の発想ノウハウを実装した「AIエージェント」です。そのAIエージェントたちとチームを組んで協働し、AIとプロジェクトチームを編成します。 また、「CX」と書いているように、顧客体験の価値を向上させる我々のノウハウを学ばせて、クライアント企業の商品やブランドに対してのオリジナルの専門家を作っていくということも可能にさせます。

今回はテーマを絞り、ECやCRMの専門チームとしてAI Studioをどのように活用するかということで、「編集部AI」をご紹介します。 真ん中にあるのは「バーチャル生活者」です。その周りに「編集長AI」やコンテンツを作ってくれる「ライターAI」、「デザイナーAI」というAIエージェントたちを配置し、彼らとどのようにEC、CRMを変えていくのかというのをお話していきます。

「生活者との関係についてストーリーを通じて深めていく」という中心にお話しますが、 CRMやECでも、タッチポイントがたくさんありますよね。バナー、Webサイト、ランディングページ、アプリやSNSもありますが、そうした様々な接点におけるストーリーを作っていくことができるのが「編集部AI」になります。
まずEC・CRMにおいてこれまでご紹介していた「バーチャル生活者」をどのように活用するのかと、実際にその「編集部AI」たちとどう共創するのかという2部構成でお話ししたいと思います。

「顔の見えるCRM」へのシフト

前提として、現在のECやCRMの現場では、データ活用が進み、効率的な運用が行われています。購買データや行動データをもとにユーザーをグリッド状にセグメントし、リコメンド、マーケティングオートメーションツールを使って、コンテンツのマネジメントが可能になっています。

しかし、CRMデータは「行動ログ」である為、行動履歴は分かっても、「なぜその時に離脱したのか」「なぜこの人はロイヤルファンになってくれたのか」という、その瞬間の「心の動き」や文脈までは見えてきません。「生活者の心理や行動の理由、顔が見えづらい」というジレンマが出てきます。 

だからこそ私たちは、顔が見えるCRM「マネジメント」から「ストーリーテリング」が必要だと考えています。これは、単に行動を促すための「通知・販促」を行うのではなく、生活者の感情や行動心理に寄り添い、関係を育てる「手紙」を送るような「心を動かす」コミュニケーションへどう進化させるかという価値転換です。

4つの心理タイプで解き明かす顧客との関係構築

ECやCRMでの生活者理解に焦点をあてることが必要になってきます。私たちは、購買心理から、生活者を大きく4つのタイプに分類しています。これは「単なる買い方の分類」ではなく、統計心理学の「ビッグファイブ」にもマッチしており、生活者の「行動心理・価値観のOS」の可視化です。

1.    安心・定番派:購買する上で安心とか協調性を重視するタイプ。
2.    こだわり・目利き派:ファクトを重視して未来に積み上げる投資を買い物ではしていこうというタイプ。
3.    理想・向上派:自分の成長ロードマップを描きながら投資をしていくタイプ。
4.    感性・自分流派:今の体験とか発見の喜びに対して価値を感じる方。

皆様の企業のブランドターゲット層の中に、属性・商品ニーズがこうした4タイプの方が存在するという想定になりますので、ご理解いただければと思います。
では「編集部AI」は具体的にどのような役割を果たすか。顧客のタイプによって、心に響くメッセージはそれぞれ異なります。つまり、編集部内に各ターゲットに向けた「専属ライター」を配置するような感覚で、AIを活用していくことになります。

•    安心派には:親身に寄り添ってくれる「共感者」の専属ライターがメッセージをお届けするコンテンツを企画する。
•    こだわり派には:寄り添う「専門家」。
•    向上派には:前向きな鼓舞をしてくれる「同志」。
•    感性派には:いろんな発想をくれる「演出家」。
それぞれの「専属ライター」がコンテンツを企画し、関係性を作っていきます。

実際は具体的な商品のターゲットを掘り下げてやっていくものですが、今回は、生活者タイプの一つである「安心・定番派」を例に挙げ、ターゲット像の掘り下げと具体的なストーリーの考え方をご紹介します。

 ●「安心・定番派」へのアプローチ

「安心・定番派」は、世間の流行や常識を大切にする、協調性の高いバランサーです。彼らが何より重視するのは「穏やかで変わらない日常」です。

このタイプの方々に提案すべき価値は、「平穏の持続」です。今の心地よさを維持するための「思考や手間を省く仕組み」や、自動的に平穏が更新される定期サポートといった価値が強く響きます。

そのため、編集部のライターは「親身な共感者」として振る舞い、安心感や日々の生活の快適性を訴求していくアプローチが非常に有効です。

私たちが目指すのは、カスタマージャーニーを描き、顧客との関係性を育ててロイヤル化していくことです。 

周囲の温かな評判などに背中を押されてスタートする「始まり」の時期から、「習慣」化し、「愛着」を持っていただくまでには、1年程度の時間がかかります。この過程において最も重要になるのが、習慣化するまでの「歩み」の時期です。

実はここが、離脱する方々が増える「リスク期」でもあります。このタイミングで、いかに顧客との関係性を変換していけるかが最大のトリガーポイントとなります。

例えばサブスクリプション型の商品を利用している場合、このリスク期には「使ってみたけれど、なんか劇的な変化がないな」という迷いや小さな不安が必ず発生します。

その時、商品の効果をどんどんプッシュしてアプローチするのは得策ではありません。「期待値とのギャップ」を、「マイペースな日常の維持」という価値に編み直す必要があります。

この方たちにとっては、「今日も変わらず穏やかでいられること」こそが実は良い成果なのです。 したがって、「今日も変わらず穏やかでいられることこそが、あなたの行動が積み上がっている素晴らしい証拠です」「マイペースで積み上げていって成果が出るのはもう少し先ですよ」と、歩調を合わせて寄り添い、安心させてあげるためのコンテンツを提供していくことが極めて重要です。

その他のタイプへのアプローチ 残りの3タイプも簡単にご紹介いたします。

 ●「理想・向上派」へのアプローチ

目標に向かって努力する自分を誇りに思うリーダー気質の「理想・向上派」。彼らが最も価値を感じるのは、「成長と理想の追求」ができるロードマップです。

編集部の役割:前向きな同志
同じ理想や目標を共有し、挑戦し続ける姿に誰よりも大きな拍手を送り、共に歩む同志としてのアプローチが響きます。

紡ぐべきストーリー:理想を現実にする、挑戦の物語
習慣化の過程で必ず訪れる「中だるみ(停滞期)」こそが、彼らのリスク期です。初期の手応えに満足して落ち着きそうになった時、「今の満足でいいんですか?」と問いかけます。「土台は整いました。今こそ、あの次のステージに挑戦できる準備ができましたね」と、もう一歩先の未来に向けた成長を提案(鼓舞)することで、理想への情熱に再び火を灯し、強固なロイヤリティへと繋げていきます。

●「こだわり・目利き派」へのアプローチ

 感情に流されず、事実を冷静に見極める慎重派の「こだわり・目利き派」。理論派である彼らは、これまでの実績を「未来への投資」として賢く積み上げたいと考えています。

編集部の役割:寄り添う専門家
客観的な事実やデータを誠実に提示し、未来の土台となる確かな提案を通じて信頼を深めていく、専門家としてのスタンスが求められます。

紡ぐべきストーリー:最適解を共創する、納得の物語
リスク期において、彼らは「もっと効率の良い手段があるのではないか」と自らの選択を再検証し始めます。ここで必要なのはファクトに基づくアプローチです。「この蓄積があるからこそ、次なる最適解が見えてくる」と、これまでの利用実績に基づく未来への投資シナリオを提示することで、彼らの「迷い」を「より賢い選択への意欲(納得感)」へと変換します。



●「感性・自分流派」へのアプローチ 

ルールの枠を超える、頼れる演出家。他人の目は気にせず、自分の「好き・嫌い」に正直なマイペースタイプの「感性・自分流派」。彼らが求めているのは、型にはまった継続ではなく「自由と今この瞬間の充足(発見の喜び)」です。

編集部の役割:頼れる演出家
合理的な計画のレールは敷きつつも、自由な感性を刺激するような新しい楽しみ方を次々と投げかける、エンターテイナーのような企画力が響きます。

紡ぐべきストーリー:彩りを繋いでいく、発見の物語
「正しい習慣」という重荷やルーチンワークに退屈を感じた時が、彼らのリスク期です。ガチガチに習慣化の枠に当てはめると離脱に直結するため、「ルールは不要です。今日はこんな新しい遊び方で楽しみませんか」と、あえてルールを壊すような「遊び」や「驚きの裏技」を投入します。終わらない発見の楽しみを提供し続けることで、代えのきかない関係性を築き上げます。



それぞれの企業やブランドごとに、この4タイプを詳細に分析することで、出会いから愛着に至るまでの「ロイヤリティロード」を設計し、全体を俯瞰したアプローチが可能になります。 地図のベースとなるフレームワークは、すでに私たちがご用意していますので、「自社の顧客タイプの分析」と「シナリオの設計」という具体的な実務からプロジェクトを開始できます。 

この俯瞰的な戦略を取り入れることで次のような5つの効果をもたらします。
➀ 自社の顧客タイプの構成が見えてくる
➁ ロイヤル化しやすい層に注力できる
➂ 潜在ターゲットが明確に規定できる
➃ 離脱防止やアップ・クロスセルのシナリオが明確になる
⑤ 顧客満足度やNPSが上がり、LTVが向上する

AI編集部員との共創プロセス

では、実際に「AI編集部」をどうやって使っていくのかご紹介します。「CX AI STUDIO」はツールではありますが、単なるツールではなく、AIライターやAIデザイナーと編集会議ができる「ワークスペース」として設計されています。インサイトやアイデアをカード形式で可視化し、生活者理解を深め、新たな発想が生まれるようなインターフェースになるよう工夫しています。

使い方は非常にシンプルかつスピーディです。

まずはアプローチしたい「バーチャル生活者」を選定します。すると、AIアナリストがその人のインサイトを分析し、最適な訴求アイデアやシナリオのライティング、デザインの方向性までを一気通貫で提示してくれます。クリエイティブを見ながら「少しインサイトに戻って考え直そう」といった試行錯誤も、このワークスペース上であれば即座に行うことが可能です。

例えば、「30代男性向け化粧品」のコンテンツを作る際、編集部員の「AIアナリスト」がまずインサイトを分析します。出てきた分析カードに対して、気になるポイントを対話でやり取りしながら理解を深めていきます。

分析する際には「理想と現実のギャップ」に注目します。「本当はこういう風になりたい」というインサイトがあったときに、お金の問題、家族の問題、時間の問題等でできないという「ギャップ」を発見するという視点で分析をし、理解し、そのギャップを解消するストーリーや商品の訴求ポイントを発見していきます。また、あとエピソードに関しては、シチュエーションを大事にしています。 30代の男性向けの化粧品では、「週末の公園で他のパパと比較してみんな若いよね」「なんだか最近自分らしくない・・・」といったもやもやした気持ちに寄り添うとか、「やっぱり娘に褒められたい」というインサイトから、「ちょっと恥ずかしいけど美容習慣どうですか?」のように、同じ人でもいろんな切り口が出てくるので「共感できるエピソード」を大事にしています。

さらに、「AIライター」、「AIデザイナー」と、アイデアを複数検討しながら、ブラッシュアップし、企画からデザインのアウトプットまで形にしていきます。タイプによって、共感できるストーリーが良いのか、新しい気づきを与えるのが効くのか、あるいはしっかりと納得していただくのが効くのか、アプローチはまったく異なります。私たちのAIには、そうしたストーリーテリングのノウハウをすでに学ばせてありますので、『ストーリーカード』を見ながら、それをすぐに絵にして、皆さんで試行錯誤していただくことが可能になっています。 

また、LPや動画はもちろん、様々な活用が可能です。配信頻度の高い「メールマガジン」などのCRM施策においては、離脱防止やアップセルのためタイプ別にメール内容を変更して出し分けが可能です。 

さらに例えば、目的に応じてメッセージを出し分けることができます。

「安心・定番派」への守りのアプローチ:
「最近、肌に変化がない…」という迷いに対して、「それはお肌が整って安定してきたサインです」と現状を肯定し、安心感を与えるメールを送ります。

「理想・向上派」への攻めのアプローチ:
「正直、こんなものかと満足していませんか? もう一歩、美容に力を入れませんか?」と、さらに高みを目指すよう背中を押すメールを送ります。このように、ターゲットに合わせたABテストも即座に実行でき、戦略的なメッセージの出し分けを半自動化していくような運用が可能になります。

データをしっかり分析した上で「バーチャル生活者」を作成しているため、「誰の」「どのタイミング」を狙ってメッセージを届けるかという戦略的な運用が可能になり、一人ひとりの心に寄り添った最適なストーリーを届けることで、顧客をスムーズに「次のステージ」へと後押しすることができます。結果として、ブランドとの関係性が深く育まれ、LTVの向上や事業成長にしっかりと貢献できます。

最後に、「編集部AI」の導入に適した企業のタイプと、実際の導入ステップ、そして私たちが目指すこれからのCRMのあり方について解説します。

このAIソリューションには、「向いていない企業」も存在します。短期的なCVの最大化にのみ注力したい場合や、CRMを単なる効率化ツールとして捉え、「量」をさばくために使いたい企業にとっては、この仕組みは必要ないかもしれません。

一方で、「向いている企業」とは、KPIを追い求めつつも、顧客を単なる「数」ではなく「愛着」や「関係性」を育むことこそが事業成長の鍵と考える企業です。そのような企業に合わせてAIをカスタマイズし、共に生活者との新しい「向き合い方」をデザインしていくこと。それが、私たちがこのAIソリューションを通じて提供したい価値です。

導入にあたっては、まずは「現状の診断」から検討をスタートすることが可能です。これまでご紹介した「4タイプ」や「ロイヤリティロード」の地図をある種のコンパスとして使いながら、以下の3ステップで企業ごとにカスタマイズを進めていきます。 

STEP 1:現状診断「御社の顧客は、誰なのか?」
自社の顧客にはどういうタイプが多いのかを分析し、数字ではなく「心のタイプ」として可視化し、4タイプの診断レポートを作成します。

STEP 2:戦略設計「ロイヤリティロード」を描く
診断レポートをもとに、それぞれのタイプに最適な「無理のない、でも心躍るファン化ルート」を設計します。どういう方たちを獲得すればロイヤル化しやすいかという成長戦略を含めた、専用のロイヤルロード・マップを作成します。

STEP 3:実装・制作「心に刺さる言葉」への変換
戦略設計に基づき、カスタマイズされたオリジナルのプロジェクトチームを構築します。AI編集部が「心に届く言葉」へと変換し、日々のコンテンツを作成・配信していきます。

現在のCRMはデータ活用が高度化し、マネジメントの仕組みとしては成熟しつつあります。私たちが提案するのは、そこからさらに次のステップへ行くための「マネジメントから物語を共有するストーリーテリングへ」の価値シフトです。

 AIを良きチームメイトとして迎え入れ、生活者とのストーリーを共有していく。一人ひとりに寄り添うことで、生活者との関係性が育ち、ブランドが「自分のことを誰よりも深く理解してくれる存在だな」と感じていただけるようになります。

このことが結果的に、競合他社との「同質化」を回避することに繋がります。商品だけの価値にとどまらず、生活者の喜びに貢献する関係性づくりこそが、盤石な事業成長のエンジンとなるはずです。

「CX AI STUDIO」は進化途中と言いますか、スタート地点に立ったAIエージェントなので、クライアント企業の皆様との情報の中でどんどん成長させていければと思っています。ぜひよろしくお願いいたします。

※肩書はセミナー登壇当時のものです。

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  • 株式会社博報堂テクノロジーズ
    マーケティング事業推進センター 開発推進1部
    副センター長兼部長
    2005年、博報堂に入社。ストラテジックプラナーとして業界を問わず50社以上のクライアントのマーケ/コミュニケーション戦略・施策立案やブランディング、ダイレクトビジネス等に従事。
    2012年から、データ/デジタルを担う全社対応組織でのクライアント攻略やソリューション開発、研究開発組織の兼務も経て、現職。
    現職では、CREATIVITY ENGINE BLOOMの開発に携わり、グループ全体で活用可能なプラニング支援モジュールの開発をリード。
  • 株式会社博報堂
    CXクリエイティブ局 クリエイティブ・ストラテジスト
    CX戦略やサービスデザインからAI活用まで、数多くの大手企業の顧客接点変革を支援。生活者発想に基づくAIデザインのプロフェッショナル。
  • 株式会社博報堂テクノロジーズ
    マーケティング事業推進センター 開発推進1部
    2025年博報堂に入社し、CREATIVITY ENGINE BLOOMの開発に参画。なかでも「STRATEGY BLOOM PLANNING」およびバーチャル生活者の開発に携わる。AI×人の共創によるマーケティングの効率化・高度化を支援するプロダクトの企画開発に従事。