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雑誌『Tarzan』のコミュニティ「TEAM Tarzan」と考える、 コミュニティコマースの可能性
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雑誌『Tarzan』のコミュニティ「TEAM Tarzan」と考える、 コミュニティコマースの可能性

さまざまな企業が自社コミュニティの構築に取り組むいま、ユーザー同士の交流の場としてブランドロイヤリティを高めるだけでなく、マーケティングやビジネスの手法としてコミュニティを活用する動きが活発になっています。今回は、1986年創刊の雑誌『Tarzan』から生まれたコミュニティ「TEAM Tarzan」の運営リーダー 髙橋優人さんと、博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局の福井健史が、コミュニティコマースの可能性について語ります。

髙橋 優人
株式会社マガジンハウス
Tarzan編集部 デジタルビジネスディレクター

福井 健史
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 統合ディレクター

読者同士がつながるっておもしろい。「脱げるカラダ」の控え室で見た光景が、コミュニティづくりの原点

福井
はじめに、Tarzanのコミュニティが生まれたきっかけを教えてください。
高橋
僕はもともと現場の編集者で、「脱げるカラダ」という読者参加型企画の立ち上げを担当していました。書類選考を通過した30~40名くらいの方をお呼びして審査会を開催し、撮影をするのですが、そのときの控え室がものすごく盛り上がるんですね。「めっちゃいい筋肉ですね」「どうやって鍛えているんですか」とか。リアルな読者さんの交流を目の前にしたときに、読者同士がつながるっておもしろいなと思ったのがひとつのきっかけ。それが2016年くらいですね。
その後会社の中で読者組織をつくる流れが生まれて、2019年にメルマガ会員としての「CLUB Tarzan」をスタートしました。1万人くらいの会員さんが集まり、コロナ禍前だったこともあってリアルなイベントも開催。手応えを感じながら、次のステップとして読者の方から会費をいただくというビジネスプランを考え、コミュニティというアイデアが生まれました。「TEAM Tarzan」がスタートしたのは、2020年の7月になります。

福井
なるほど。なんとなくコミュニティをつくりたいではなく、「脱げるカラダ」の控え室で繰り広げられていた交流に「場」を提供したというお話は、非常に自然な流れだなと感じました。みんながベンチマークにするようなうまくいっているコミュニティって、「コミュニティをつくろう!」と思ってつくるというより、自然にファン同士がしゃべって盛り上がっている現象が生まれていて、そこに「場」を提供しただけ、という成り立ちが多かったりするんですよね。
僕自身もコミュニティを中心としたビジネスをお手伝いすることがあるんですが、たとえばとある自動車メーカーでは、電気自動車の充電ステーションをどこに設置するかなど、初期の段階からオーナーの声を参考にサービスをつくりあげ、会社とオーナーとの間に信頼関係を築いてきたと言われています。「TEAM Tarzan」では、メンバーと編集部の間でどのような交流が生まれていますか?
高橋
マガジンハウスは雑誌というプロダクトをつくって売っていく というサイクルの会社なので、ひとつのサービスをつくって定着させるということには不慣れ。そのなかで、メンバーの皆さんからコミュニティや雑誌に対するフィードバックをいただけるのはひとつの財産ですね。
雑誌に対する感想を求めたり、企画募集をしてみたり。今まで知ることのできなかった「読者の生の声」を聞けるのは、コミュニティという場があってこそです。

コミュニティから生まれたアイデアを、多くの人が楽しめる企画に翻訳する

福井
コミュニティと企業が共創を目指す場面では、「企画」がとても大事になりますよね。
コミュニティから生まれたアイデアを、より多くの人に楽しんでもらえる企画に翻訳するのが、我々プロの仕事なのかなと実感しています。「TEAM Tarzan」の場合、マガジンハウスが培ってきた編集のちからが軸になるでしょうし、僕らは広告で培ったスキルがあるから、企業の狙いと生活者の求めていることをうまく融合させた企画をつくることができる。その企画力をどう発揮できるかに真価が問われると思います。

高橋
おっしゃる通りですね。我々もオンラインイベントを開催したあとにアンケートでお声をいただくんですが、そのなかにキラッと光るヒントもあったりするんです。そこを見逃さずにどう生かすかが勝負。
福井
ユーザーの皆さんからの声をどのように翻訳するかももちろんですが、コミュニティの参加者を増やし、盛り上げていくためにどんな企画をするか、高橋さんなりの工夫はありますか?
高橋
参加型にするということは常に意識しています。これまでも「コンテンツを発信すること」は僕らがずっとやってきたこと。それを「池に石を投げること」だとすると、石を投げたあとに水面に広がる「波紋」をつくっていきたい。どう広がるかはメンバーの皆さんに委ねることなので、いかに波紋が広がりやすい企画を投げるかが僕らの腕の見せどころだと思っています。

福井
その企画の投げ方に、これまでの編集の仕事はどう生かされていますか?
高橋
紙面づくりをしてビジュアルでコミュニケーションするのと、こちらからの投げかけで行動してもらうことをゴールにすることでは視点がちがいますが、やはり言葉ひとつで人間の行動って変わりますよね。どういう風に伝えたら分かりやすく動いてくれるかという設計に、編集者ならではのスキルが生かされると思います。
昨年末に誌面で「背面トレ」という背中のトレーニングを特集し、そのなかで「パーフェクト懸垂ブック」というブックインブック企画をやったんです。懸垂ってやる人少ないですよね?でも「TEAM Tarzan」でお一人、懸垂にハマっているという女性がいらしたんです。男性ならまだしも、レベルの高い懸垂に夢中になる女性は珍しいなと。それなら、この機会にチームで懸垂にチャレンジしてもらおうと思って、みんなで1週間で100回懸垂しませんかという企画にして投げかけた。 ひとりで100回はできないけれど、できない人は5回、慣れている人は20回といったように、メンバーで力を合わせて100回を目指しましょう、という企画です。結果トータル125回達成してもらえて大成功という。誌面をアイデアの原点として、それをどう楽しんでもらうかをコミュニティで投げかけるという事例ですね。

福井
懸垂に目をつけるというのが編集者ならではの視点でもありますよね。
高橋
紙面のなかでも実践に向いているものとそうでないものがある。なにを投げかけるかはいつも吟味しています。いっしょに行動してもらうのがベストで、もうひとつ目指しているのが、メンバー同士知見を共有してもらうこと。たとえば、こんなギアを愛用しているよ、といった情報が共有されて、みんなのモチベーションにつながるようなことがあるといいなと思います。

ものを売るだけでなく、コミュニティ同士のマッチングもコミュニティコマースの可能性

福井
テーマの投げかけひとつでコミュニティが盛り上がるという話がありましたが、投げかけが上手であれば、そのテーマを「商品」に変えても成立するんですよね。単なるタイアップではなく、コミュニティが盛り上がるための手段として商品が使われる。その流れがうまくつくれれば「コミュニティコマース」のひとつの可能性になりそうです。
たとえば、最近あるアイドルコミュニティでブルーベリーサプリが話題になっていました。その理由がすごくおもしろくて、ライブで推しを「高解像度で見るため」なんです。もちろん効果効能あってこそですが、サプリの使い方自体をみんなで楽しんで、盛り上がりが波及していった。これは自然発生的に生まれている事例ですが、コミュニティに投げかける商品やブランドの選定も「企画」に違いありません。この選定によってコミュニティ内での話題や売上がつくれることがあるわけで、ここは広告クリエイティブや編集スキルが活かされるフィールドですし、腕の見せどころだと思っています。
あと、コミュニティコマースという意味ではもう1つ、コミュニティ間の相互送客にも可能性を感じています。たとえば、自動車メーカーとゲームコンテンツがコラボレーションすることで、互いにユーザーを増やしていくようなこと。もしかしたらTEAM Tarzanも、コラボレーションによって相手のブランドやコンテンツのユーザーに興味を持ってもらえるかもしれませんよね。コミュニティを軸に、ユーザーは楽しさを、企業は売上を大きくしていく、そんな可能性がコミュニティコマースにはあると思います。
高橋
この1.2年ぐらいで各社メーカーさんも独自のコミュニティをやりはじめていらっしゃるので、そういったコミュニティ同士のコラボレーションは今後あり得るんだろうなと思いますね。「TEAM Tarzan」でも、サプリメント商材で食品メーカーとタイアップしたことがあるのですが、その食品メーカーさんのコミュニティと合同でセミナーを開催したんです。そうすると相互で会員登録される方がいたり、非常にいい交流ができた。相性がいいコミュニティ同士の交流には、すごく可能性を感じましたね。

本質的に深くつながる「意外な組み合わせ」が、新たなビジネスのチャンスになる

福井
明らかに親和性の高いブランド同士はもちろんなんですが、ベン図のほんの一部分しか重なっていないけど、本質的に深く重なっているという発見ができれば、意外なコラボレーションでも成果が生まれるんじゃないかと思っていて。たとえばTarzanさんとファストフード店とか、すごく遠いところにあるようで実は繋がっていたみたいな発見ができるといいですよね。そのマッチングは、紙面ではできないけれど、コミュニティならできるかもしれない。
高橋
それはおもしろいですね。紙一重な重なりを最大限に生かすというのは、広告コミュニケーションをやってきたからこそなせる技かもしれません。
福井
そこがまさに「翻訳」だと思うんですよね。
ブランドが言いたいことを、生活者の聞きたいことにしていくという翻訳。そのスキルはコミュニティという新しいかたちでも活用できるという実感があります。
高橋
Tarzanというとイコール「マッチョ」というイメージで止まってしまっているところがあるのも正直なところ。それをもう一歩前進させたい気持ちはあるんですよね。博報堂さんのようなクリエイティブ力を借りながら、マガジンハウスならではの企画力も生かしてブランドさんとコミュニケーションすれば、よりおもしろいことができそうな予感があります。
福井
ふつうに考えたら交わらないようなブランドとブランドをマッチングさせたり、コミュニティ同士の交流のきっかけを生むことが、我々の新しい仕事になる可能性を、非常に感じています!
さいごに「TEAM Tarzan」の今後の展望をきかせてください。
高橋
もともとコミュニティサービスではあったのですが、2023年の年始にリニューアルしまして、「イベント」「雑誌」「コミュニティ」を3本柱としたTarzanのサブスクサービスという建て付けに再編しました。
サービスの目的は「フィットネスの習慣化」。
雑誌で正しい知識を得て、イベントで実践し、コミュニティで共有して高めていくという流れです。紙の雑誌は今後も徐々に売り上げが厳しくなるかもしれませんが、それを下支えする収益源としてもコミュニティを活性化したいというのが僕個人の想いでもあります。雑誌が好きでマガジンハウスに入ったので、雑誌という文化をできるだけ長く残したい。そのためにも、「フィットネスを習慣に」の実現に向けて邁進することが、コミュニティの成功につながると信じています。メンバーの熱量やメンバー同士の関係性を深める意味で、同じ空間を共有することはすごく重要。リアルイベントの必要性は強く感じているので、これからはそういった企画を充実させて、ますます「TEAM Tarzan」を盛り上げていきたいです。

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  • 髙橋 優人
    髙橋 優人
    株式会社マガジンハウス
    Tarzan編集部 デジタルビジネスディレクター
    2015年マガジンハウス入社。Tarzan編集部、Hanako編集部で編集業務に従事。宣伝部を経て、2019年よりTarzan編集部に復帰。編集業務の知見を活かし、Tarzan専属のデジタル広告営業業務と並行して、「TEAM Tarzan」「CLUB Tarzan」といった読者会員組織の運営・マネタイズ化を推進中。
  • 博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 統合ディレクター
    2008年博報堂入社。メディアや手法にとらわれないブランドコミュニケーション・クリエイティブ開発に従事。近年は、コマース領域を起点にした企画開発を提唱、「コマース・クリエイティブ」プロジェクトを推進している。受賞歴に、ACC金賞、ADFEST金賞、SPIKES ASIA金賞、新聞広告賞大賞、グッドデザイン賞など。

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