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大手企業が続々出稿、目的は“将来顧客”の獲得。 ゲーミングメタバース市場における広告展開の最前線
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大手企業が続々出稿、目的は“将来顧客”の獲得。 ゲーミングメタバース市場における広告展開の最前線

自動車メーカー、PCメーカー、また損保会社など、有数の大手企業が次々とメタバースを使ったゲーム空間に広告企画を展開していることをご存じでしょうか。
それは単なるバナー掲出にとどまらず、バーチャル空間ならではのクリエイティブや、インタラクティブ性を盛り込んだ体験で、ユーザーの興味喚起を促しています。
博報堂DYグループのデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(以下DAC)では2021年、バーチャル空間広告サービス「arrova(アローバ)」を立ち上げ、2022年5月、若年層に人気が高いオンラインゲーム「ROBLOX(ロブロックス)」内での広告枠の国内向け販売なども始め、冒頭の出稿事例を支援しています。2023年8月からは、新たに株式会社ARROVA(以下 ARROVA)として会社化、ゲーム・メタバース /XR領域における広告事業とコンサルティング事業の展開を強化しています。

2023年7月、「web3BB(Beyond Borders) Tokyo 2023 Summer」が開催されました。本稿ではその中から、DAC兼ARROVAの久保瑛と、博報堂DYメディアパートナーズの原田裕生によるセッション「国内最先端!ゲーム/メタバース空間の次世代広告とは?」をレポートします。

久保 瑛
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局 オープンイノベーション推進室  兼 株式会社ARROVA

原田裕生
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ ミライの事業室 ビジネスプロデューサー

メタバース3つの定義:ゲーム、SNS型、ブロックチェーン

まずDAC兼ARROVAの久保から、メタバースを使ったゲーム市場の概況が解説されました。久保はDACにて企業のデジタルマーケティングや広告運用支援に約6年携わり、2023年4月から同社の新規事業である「arrova」(現 ARROVA)に参画。arrovaでは、ゲーム/メタバース領域における広告プロダクト展開を日本で初めて手掛け、「ROBLOX」をはじめとする若年層ユーザーを抱えるメタバースゲームへの企業の出稿も支援しています。

久保
現在、世界でメタバースを使ったゲーム市場が急激に拡大しつつあり、2022年時点の22兆円規模が、2030年には実に約500兆円に上ると推計されています。また、メタバース上でのゲームを楽しむユーザー人口は、すでに世界で30億人に上っており、その半数が日本を含むアジア地域に集中しています。

久保
そもそもメタバースという領域の定義が厳密に確立されていないので、ここでは暫定的に「多人数が時間や空間を超えて同時接続し、空間を共有してアバターを介しながら活動や交流ができるような、バーチャル空間上のインフラ並びにプラットフォーム」とします。

従来のインターネット上のコミュニケーションは、基本的にはスクリーンを通して視覚や聴覚を中心に展開されていたので、同じ体験を同時に共有することなどは難しかったと思います。一方、メタバースと呼ばれるインフラ空間では、視覚や聴覚を含めた身体感覚を伴って、まるで現実社会のようにユーザー同士が体験を共有したり、集まって交流したりできる社会が生まれると考えています。

具体的に、DACではメタバースを大きく次の3つに分類しています。
まず、ゲーム体験を軸としたコンテンツであるゲーミングメタバース。
ROBLOXやFortnite、どうぶつの森などが代表例です。
次に、SNS型コミュニティメタバース。ソーシャルネットワークの立体版のようなもので、コミュニケーションを主目的にアバターを伴ってやり取りするものです。
3つ目が、ブロックチェーンメタバースです。DecentralandやThe Sandboxといったプラットフォームで、稼ぐことも可能なので投資的な性質があります。

ゲーミングメタバースは若年層へのリーチ力が高い

ここからは、メタバースの定義として第1に挙げたゲーミングメタバースについて詳しく解説されました。ゲーミングメタバースには、2つのメディアとしての強みがあります。ひとつは、若年層へのリーチ力およびメディアとしてのタッチポイントの深さ。2つ目が、デジタルマーケティングの新潮流との親和性です。
若年層へのリーチについては、特にゲームへの可処分時間の投下が大きくなっている状況が挙げられました。

久保
世代別の可処分時間の構成割合を見ると、ゲームに割く時間はZ世代で17%、その下のα世代では21%となっていました。特にα世代では、SNSなどよりも費やす時間が多くなっています
またゲーミングメタバース空間での体験は、動画配信系メディアやSNSで積極的に拡散されることも特徴的です。そのため、高い波及効果が期待できます。
久保
続いて、デジタルマーケティングの新潮流との親和性についてです。
特に若年層に顕著ですが、皆さんもご存じのとおり、従来型の広告による接触が難しくなりつつあります。
不適切な広告フォーマットでの接触や、過剰なトラッキングによる接触に、ユーザーが不快感や危機感を抱くようになっているのです。
そうしたネガティブな要素を回避し、ユーザーに受け入れられる中長期的なマーケティングを実現するための手法として、コンテキストターゲティングや、コミュニティ型のマーケティングが挙げられます。特定のコンテキストやカルチャーに沿って自然に広告を出稿するようなアプローチが増えています。
この潮流が、まさにゲーミングメタバース上での広告出稿に合致しています。メタバースではコンテンツや世界観が作り込まれており、それに則った特定の趣向を持つユーザーが集まるので、ゲーム空間内での適切な文脈での接触が注目されています。
実際の出稿形態も、ネイティブな没入型の広告や、広告自体がゲーム内で使えるアイテムになっていたり、ブランド商材を広告コンテンツとして体験できたりと、多彩です。広告自体がユーザーにとっての新しい体験となっています。ブランドセーフな空間であることも、出稿企業にとって大きなメリットです。

メタバース利用層の平均課金額は年12万円、若年男性中心

続いて、セッションは久保と博報堂DYメディアパートナーズの原田とのディスカッションへ。原田はテレビ局を経て博報堂DYメディアパートナーズの新規事業開発組織・ミライの事業室に参画しています。はじめに、「ゲーム内での広告は違和感が出てしまうと逆効果になるが、ゲーム体験を阻害せず、広告としての効果を上げることはできるのか」とのお題が挙げられました。

原田
自分自身もゲームユーザーですが、例えばゲーム内の新宿の街に違和感がある形で広告が差し込まれると、途端に覚めてしまうだろうと思います。そのあたりはどうなのか、うまくいっている事例はあるのでしょうか?
久保
まずゲーム内の街などへの広告は、リアルに再現すればむしろ質の高い体験になると考えています。実際の調査によると、ゲーム内の広告表現に約7割の人が好感を持っていました。よくある、ライフポイントを回復するために強制的に視聴させられる広告などではなく、ゲーム内で自然に接触できる、コンテンツになり得る広告が増え、それが受け入れられているのだと思います。
久保
では、生活者にとってメタバースは、今どのくらい認知・利用されているようなイメージを持たれているのでしょうか?
原田
博報堂DYホールディングスによる「メタバース生活者意識調査」(2022年11月発表、全国15~69歳男女、n=3545 https://www.hakuhodo.co.jp/news/info/100622/)によると、認知しているのは36.2%、実際にサービスを利用しているのは8.3%となりました。利用層の平均年齢は33.4歳で世帯年収が691万円と全体平均より高く、特に多いのは20代男性でした。また、利用層のメタバースへの年間課金額は約12万円で、買い物や旅行などにも支出が多いことがわかりました。

メタバース空間における3つの広告サービス形態

そして久保から、arrova(現 ARROVA)で支援しているゲーミングメタバース空間における広告サービスの形態が紹介されました。サービス形態は主に3種類。ひとつは、ゲーミングメタバース空間内のアドネットワークあるいはDSPによるサイネージ広告。2つ目は、大型ゲームタイトルやメタバースコンテンツとのタイアップ広告。そして3つ目は、有力ゲーミングメタバース上における企業の独自ブランド空間の開発です。

久保
まずゲーミングメタバース空間内の広告については、注視性の高いサイネージ型の広告を、アドネットワークやDSPの仕組みで配信できるようになっています。いわゆるディスプレイ広告と同様、入札型になります。
300タイトル以上のゲームやメタバース空間に配信できるDSP「ARROVA Ads」や、世界で2億ユーザーを擁するROBLOX内への出稿、またPokémon GOやMinecraftでのネットワークも扱っています。

次に、大型タイトルとのタイアップとは、国内外でいずれも100万MAU規模の大型ゲーミングメタバースのコンテンツ上でのコラボレーションやイベントなどがあります。柔軟な設計で配信でき、大量なリーチ獲得や話題化などPRにも最適です。

3つ目に挙げた空間開発とは、有力なメタバースプラットフォーム上に企業独自の空間を制作・構築するものです。自社のホームページを立体化するイメージで、インタラクティブな体験を提供できます。

この3つの形態はそれぞれ、既存の広告に置き換えることができると思います。
ゲーミングメタバース空間内の広告(アドネットワーク/DSP)は、認知や理解を得るディスプレイ広告や、YouTubeなどの動画広告。
大型タイトルとのタイアップは、大量リーチや話題化が見込めるテレビCMや雑誌タイアップ。そして有力ゲーミングメタバース上でのオリジナル空間開発は、CRMやブランディングが見込めるオウンドサイトやメディアの代替になります。

原田
今回はarrova(現 ARROVA)の広告支援事例を中心に紹介しましたが、博報堂DYメディアパートナーズでは数年にわたり先行してNFTをはじめとするWeb3ブロックチェーン技術の活用を研究、推進しています。
さまざまなコンテンツ・IPホルダー、またパートナー各社と協業し、例えばJリーグ公認のNFT動画トレーディングカードのプラットフォーム「PLAY THE PLAY」や、エンタメ系NFTのマーケットプレイス「animap」などを展開中です。ゲーミングメタバース以外にも、NFT活用にご興味がありましたらぜひお声がけください。

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  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局 オープンイノベーション推進室 兼 株式会社ARROVA

  • 株式会社博報堂DYメディアパートナーズ ミライの事業室 ビジネスプロデューサー