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DIGITAL “SPOGLISH”(デジタル・スポグリッシュ)」でつくる 楽しく学びを続けるコミュニケーションのカタチ(前編)
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DIGITAL “SPOGLISH”(デジタル・スポグリッシュ)」でつくる 楽しく学びを続けるコミュニケーションのカタチ(前編)

2019年から、リトプラ (旧社名:株式会社プレースホルダ)、セカンドプレイス、博報堂(現在は博報堂DYホールディングスに移管)の3社は、リアルとバーチャルを組み合わせた体験型の英語学習アトラクション「DIGITAL “SPOGLISH”(デジタル・スポグリッシュ)」を開発してきました。
今回、DIGITAL “SPOGLISH”が実装されている「リトルプラネット ダイバーシティ東京 プラザ」にて、本プロジェクトの概要や大幅アップデートの内容について、株式会社リトプラの森山哲也氏、株式会社セカンドプレイスの藤野素宏氏、博報堂DYホールディングスの木下陽介、名雲王治郎、黒羽健人の5人が語り合いました。

■運動しながら英語を学ぶメソッドをデジタライゼーションする

木下
DIGITAL “SPOGLISH”(デジタル・スポグリッシュ)誕生のきっかけは、実は2017年にさかのぼります。当時、次世代型テーマパーク「リトルプラネット」を運営するリトプラと博報堂で、XRや先端クリエイティブを使ったアトラクションの体験と、その結果をユーザーにフィードバックするエデュテイメント(*1)の共同研究を始めていました。その後、英語で教える運動塾「spoglish GYM」を主宰する藤野さんと出会い、そのメソッドをデジタルサービスにしたら面白いのでは、という話に発展しました。今流行のDX(デジタルトランスフォーメーション)のプロセスで言うと、spoglishGYMのリアルの場で行われている「英語で運動を教える教育メソッド」をデジタライゼーション(*2)するという試みです。
そうして、リトプラがコンテンツの制作と開発実装を、藤野さんは教育コンテンツのプログラム構想と企画開発を、我々博報堂はプロジェクト全体をプロデュースしながらプログラム開発を行い、収集したデータを科学的に解明するメソドロジーを開発する研究を推進するという役回りで、3社のジョイントチームが誕生。共同研究のプロジェクトを進めてきました。
*1エデュテイメント:教育(Education)と娯楽(Entertainment)を組み合わせた造語。遊びながら学習をすることで自主的に知識などを身につけるような体験を指す。
*2デジタライゼーション:DX(デジタルトランスフォーメーション)していく上での一つのプロセス。自社および外部の環境やビジネス戦略面も含めて長期的な視野でプロセス全体をデジタル化していく取り組みのこと。

藤野
僕は幼少期を海外で過ごし、長年スポーツに打ち込んできました。博報堂に入社しますが、2013年に退社し、株式会社セカンドプレイスを起業。1歳児から小学校6年生までを対象とした、運動しながら英語も学べるspoglish GYMを開校しました。身体を動かしながらだと座学よりも楽しく取り組めるし、コミュニケーションツールとして英語に触れることになるので、苦手意識も少なくなる。自分自身の経験からも、幼い頃から運動と英語を同時に学ぶことは大きな相乗効果が得られると考えたのです。それ以来、段階的に運動と英語のレベルアップを図りながらできることを増やしていくという、まさにそのメソッドを考案し実証しているところでしたが、子どもたちの成長をどう可視化し、具体的な数値として保護者の方に伝えるかという点でアナログの限界を感じていました。そんな折に共同研究のプロジェクトのお話をいただいたので、ぜひ参画させていただきたいと返事をしたんです。

spoglish GYMイメージ

木下
非常に個人的な話で恐縮ですが 、私の子どもたちがspoglish GYMに通っていたんです。親の目線で「ジグザグで走るためにはこういうステップを踏んだほうがいい」「ボールを投げるときはこう投げたほうがいい」とアドバイスしてもなかなか言うことを聞いてくれなかった子どもたちが、spoglish GYMでは非常に楽しそうに学習に取り組み、継続できている。そんな姿を見て、1人の親として「これはすごい」と思っていました。その秘密をぜひ知りたいと思っていたのもあり、3社のタッグが実現できて非常に嬉しかったです。
森山
僕らリトプラが運営するリトルプラネットというデジタルテーマパークにおいても近年、より「教育」の要素を盛り込んだ、楽しく学べる新しいアトラクションをつくれないかと模索していました。さらに、DIGITAL “SPOGLISH”を開発に携わっているエンジニアの西尾や僕自身も、子どもたちの実際の体験データを活用したアトラクションへのアップデートの必要性を感じていたところでした。藤野さんの考案されたspoglish GYMのメソッドは、まさに我々が掲げる“遊びが学びに変わる”というコンセプトにも合致するものですし、博報堂のデータ分析力、プロデュース力でさらなる魅力的な体験づくりも可能になる。これはやるしかない、という強い思いで僕らも今回のプロジェクトを進めてきました。

木下
3社による共同研究が始まったのが2019年。第一段階として、2021年3月からリトルプラネットのららぽーと新三郷のパークで実証実験を開始しました。その結果を受けて大幅なアップデートを行い、2021年12月からはリトルプラネットの全国6カ所のパークでパワーアップしたDIGITAL “SPOGLISH”を楽しんでいただけるようになっています。
森山
具体的な体験の流れを説明すると、まずスタートポジションに立ち、ネイティブスピーカーの発声で出題される英単語を聴き取ります。目の前のスクリーンに映し出された選択肢のなかから正解を見つけ、素早く手のひらでタッチしたら、回答後はまたスタートポジションに戻る。これを繰り返すことで、リスニングと同時に手足を大きく動かしながら反復運動が続けられる設計になっています。体験の最後には、ターゲットの中心をしっかりタッチできているかという操作性のスコア、運動速度を測る反応力のスコア、また英語の正答数によって英語力のスコアが出るというものです(アトラクションの遊び方詳細:https://litpla.com/attraction/spoglish/)。
ちなみにネイティブスピーカーとして声を吹き込まれているのは、藤野さんなんですよね。

DIGITAL “SPOGLISH”アトラクション体験イメージ

藤野
はい、実は声の出演もしています(笑)。それとは別に、コンテンツ監修にあたって僕がこだわったのは、我々がリアルのspoglish GYMで大切にしている「楽しさ」をそのままデジタルで再現すること。一般的に日本の教育は、子どもたちが本心から興味を持つ以前に、どうしても「良い点数を取るため」の要素が前面に出てしまい、結果的に子どもたちにとって学習が“嫌々やらされるもの”になってしまう傾向があります。また親御さんも、子どもの力を伸ばそうとつい厳しく接してしまうことが多いため、そうすると子どもはそれが煩わしくて意欲をなくしてしまう。第三者の指導者として思うのは、子どもたちの目線が一番大切だということです。成果を出すには続けなければならないし、続けるにはそもそも子どもたちが楽しめなければなりません。ですから僕がもっとも重視したのは「楽しさ」で、そこにゲーミフィケーション(*3)の要素を取り入れ、クリアすると次のステージへ行ける快感や、難度の高いステージに挑戦したり、ほかの子と競い合ったりする面白さを感じてもらえるような仕掛けにしました。
*3 ゲーミフィケーション:ゲーム以外のサービスにゲームで用いられる要素を組み込み、ユーザーの意欲やロイヤリティの向上を目指す手法

子どもたちに、英語の学習をしているという感覚を持たせないこともポイントかもしれません。ただアトラクションを楽しみに来ただけで、いつの間にか運動能力が向上していたり語彙数が増えていたり、といった状況が理想。運動させよう、単語を覚えさせよう、という大人の意図を先に立たせないことが重要だと思います。

木下
僕も子どもに「なんでやらないんだ」と強く言ってしまいがちですが、逆効果ということがわかりました(苦笑)。
藤野
子どもはやれと言われるとやりたくなくなるものですから。とにかく誉めて、寄り添っていくのが一番だと思います。

■アップデートで実現した、リアルな体験とウェブのデータ連携

木下
ここからは、DIGITAL “SPOGLISH”初期バージョンで行った実証実験の結果、どのようなことが発見だったのか詳しく教えてください。
黒羽
はい。初期バージョンの実証実験を行なったのは2021年3月です。
具体的には、元々あったDIGITAL “SPOGLISH”に、「①間違えた英単語を表示する機能」「②子どもを称賛するメッセージ機能」「③一連の体験を家族で振り返る紙のアンケートシート」の3要素を加えアトラクションを試験的に改良してみました。
藤野さんの知見やリトルプラネットで遊ぶ子どもたちの観察を通して、子どもが英語と運動に夢中になるためには自分たちが体験したことの振り返りや、家族をはじめとした周囲からの称賛が重要という話になったからです。

<2021年3月の実証実験における一連の体験>

試験的な改良を実装して取得したデータを分析したところ、DIGITAL “SPOGLISH”を複数回プレイした割合が69%と、改良前に比べて12ポイント高くなり、この改良がお子さんの継続意向を上昇させたことが明らかになりました。

名雲
また、実証実験ではお子さんと親御さん向けのアンケートを聴取しました。「子どもがDIGITAL"SPOGLISH”を継続的にプレイしていた」と回答した親御さんに対して、継続意向につながった要素はどれだと思うか聞いたところ、最もスコアが高かったのは「プレイ後にスコアが表示される機能」」(95%)と「間違えた単語やスコアを振り返り感想を記入することができる紙のシート」(95%)でした。
我々はこの結果から、子どもが英語と運動に夢中になるためには、体験の振り返りや周囲からの称賛が重要だと考えました。

木下
続いて、この3月の実証実験の結果を踏まえて12月に行った大幅なアップデートについて詳しく説明させていただければと思います。
黒羽
はい。2021年12月に行った大幅アップデートの大きなポイントは2つ。
まず1つ目が、アトラクション自体のアップデート。
3月の時点では3つのみだったステージを合計50ステージまで、そこで出題される英単語を合計201個と拡張しました。

もう1つはデジタル面のアップデート。リトルプラネットでのリアルなアトラクション体験を受けて、家に帰ってもその体験を振り返ったり、楽しく学習を継続できたりするようにしました。
具体的には、リトルプラネットの会員ページ内にリアルな体験と連動させたページをつくり、家に帰っても家族で自分のプレイを振り返ることができるようにしています。
例えば、次に出題される英単語の発音などを確認できる「英単語予習機能」、間違えた英単語を振り返ることができる「英単語復習機能」、挑戦回数や来場回数に応じて獲得できるデジタルバッジを見ることができる「デジタルバッジコレクションページ」など。デジタルバッジなどはよくゲーミフィケーションの文脈で語られることが多い要素ですが、このアップデートでも、「楽しんでいたらいつの間にか英語を覚えていた」というエデュテイメント要素は継続して大切にしています。

アップデート部分イメージ

 

木下
実地で子供たちに向き合ってきたspoglish GYMのみなさんが蓄積してきた知見や感覚と、今回の実証実験によって、より理想の「楽しんでいたらいつの間にか英語を覚えていた」の形に近づけたんじゃないかと思いますね。
(後編に続く)

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  • 森山 哲也
    森山 哲也
    株式会社リトプラ(旧社名:株式会社プレースホルダ) リトルプラネット法人事業統括
    設計事務所勤務を経て2010年に一級建築士事務所として独立。
    期間限定パークである「リトルプラネット ららぽーと立川立飛」の設計を手がけたことをきっかけに2018年株式会社プレースホルダ(現:リトプラ)に入社。空間デザイン責任者として全パークの設計を担当。
    2019年から法人向けの空間演出プロジェクトなどを手掛け、2020年に空間演出事業を立ち上げ。
    キッズスペースやファミリー空間のプロデュースをはじめプロジェクトマネージャーとして多数のプロジェクトを担当。2022年より法人部門を統合し現職に。
  • 藤野 素宏
    藤野 素宏
    株式会社セカンドプレイス 代表取締役
    幼少期の7年間を米国で過ごし、様々なスポーツに熱中しながら自然と英語を身に付け、帰国後は一貫してバスケットボールに取り組む。早稲田大学卒業後、NBAでプレーすることを目指し単身渡米し、米国独立プロリーグABAにてプレー。怪我を機に現役引退し、2007年、株式会社博報堂に入社。グローバル企業の各種広告制作・イベントプロデュース業務等に従事する。2013年、同社退職後、株式会社second placeを設立、代表取締役社長に就任。“世界で戦える人を、日本から”を理念に、”運動型”英語学習プログラム「spoglish(スポグリッシュ)」を独自開発。2014 年より東京都杉並区にて英語で教える運動塾「spoglish GYM」を運営。その他イベント事業、教材開発、海外スポーツ留学支援事業などを手がける。
  • 博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 室長代理/研究開発1グループ グループマネージャー/チーフテクノロジスト
    2002年博報堂入社。以来、マーケティング職・コンサルタント職として、自動車、金融、医薬、スポーツ、ゲームなど業種のコミュニケーション戦略、ブランド戦略、保険、通信でのダイレクトビジネス戦略の立案や新規事業開発に携わる。
    2010年より現職で、現在データ・デジタルマーケティングに関わるソリューション開発に携わり、生活者データをベースにしたマーケティングソリューション開発、得意先導入PDCA業務を担当。2016年よりAI領域、XR領域の技術を活用したサービスプロダクト開発、ユースケースプロトタイププロジェクトを複数推進、テクノロジーベンチャープレイヤーとのアライアンスを担当。また、コンテンツ起点のビジネス設計支援チーム「コンテンツビジネスラボ」のリーダーとして、特にスポーツ・音楽を中心としたコンテンツビジネスの専門家として活動中。
    2022年1月にAI技術などのテクノロジー活用により「審美」の量的・質的効果を追求する基礎研究や応用研究を産学連携で推進。加えて研究成果に基づくプロトタイプの開発や、それを活用したクリエイティブ制作における新しいワークスタイルの研究・開発を進めていく研究開発組織 「Creative technology lab beat」のリーダー、グループ横断のプロジェクトhakuhodo-XRのサブリーダーを務める。
  • 博報堂DYホールディングス
    マーケティング・テクノロジー・センター 研究開発3グループ
    テクノロジスト
    2015年博報堂入社。営業職およびストラテジックプランニング職として、データサイエンスを活用した統合メディアプラニングの推進やマス・デジタルメディアのプラニング・運用、およびブランド戦略立案やクリエイティブ制作推進などに幅広く従事。
    2018年より博報堂DYホールディングスに出向し、現職。マーケティングプラニングフレームワーク研究やAI活用領域のプロダクト開発業務の経験を経て、メディアプラニング領域のロジック開発やそれを活用したソリューション開発およびプロダクトマネジメント、コミュニケーション効果測定領域研究やメディア評価研究などを担当。
  • 博報堂DYホールディングス
    マーケティング・テクノロジー・センター 研究開発1グループ
    テクノロジスト
    2018年博報堂DYメディアパートナーズ入社。博報堂DYメディアパートナーズおよび博報堂にてマーケティング職として自動車、Jリーグ、教育、toC向けアプリなどのデータマーケティング戦略・施策立案を担当。並行してメディア、教育、コミュニティ分野の新規事業開発にも携わる。
    2021年より博報堂DYホールディングスに出向し、現職。
    テクノロジストとして、web3.0、edtech、コミュニティテック領域のサービスプロダクト開発、スタートアップとの共同プロトタイプ開発やリサーチを行っている。

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