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対談!EC+【特別編①】 地方企業や自治体のEC課題を解決する「地域DXソリューション」── HAKUHODO EC+が地域DXに取り組む意味とは?──
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対談!EC+【特別編①】 地方企業や自治体のEC課題を解決する「地域DXソリューション」── HAKUHODO EC+が地域DXに取り組む意味とは?──

博報堂DYグループ内のEC領域のナレッジやスキルを集約し、クライアント企業のEC事業を戦略構築から実装・運用までフルファネル、ワンストップでサポートする「HAKUHODO EC+」がお送りする、EC事情の最前線をさまざまなプロフェッショナルの方とご紹介する連載「対談!EC+」。
今回は「対談!EC+」特別編の第1回として、「HAKUHODO EC+」の地方企業支援の経験から新たに生まれた「地域DXソリューション」についてソリューションの開発リーダーである桑嶋剛史と、地域PRに長年携わってきた高橋啓一に、ソリューションの概要と、博報堂DYグループが地方/地域ビジネスに関わる意義を語ってもらいました。

桑嶋 剛史
HAKUHODO EC+ ビジネスコンサルタント/地域DXソリューション リーダー
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
メーカーDX推進グループ イノベーションプラニングディレクター

高橋 啓一
HAKUHODO EC+
博報堂  PR局PRプラニング1部長

地方企業支援の経験の中から生まれたソリューション

──「地域DXソリューション」がこの2月にリリースされました。ソリューション開発の経緯をお聞かせください。

桑嶋
2020年以降パンデミックの影響で、EC需要が大幅に伸びたのはご存知のとおりです。地方にも新たにECにチャレンジしようと考える企業が増え、僕たちHAKUHODO EC+のメンバーはこの3年ほどの間、その取り組みをご支援してきました。

その中で気づいたことが2つあります。1つは、ECビジネスを始めたくても、それを担うデジタル人材やECに関する知見が不足しているケースが地方には非常に多いということ、もう1つは、それを解決するにはそれぞれの地域に適したやり方があるということです。

HAKUHODO EC+は、これまで数多くのナショナルクライアントのECを支援させていただき、経験値やノウハウを蓄積してきました。しかし、それをそのまま地方企業のEC支援に適用しようとしてもフィットしません。各地域の文化や特性を理解することなしに地方企業のECを支援することはできない──。この3年間、さまざまな試行錯誤を繰り返しながら、そんなことを学ばせていただきました。そういった経験の中から生まれたのが地域DXソリューションです。3年間の取り組みの中で見えてきたECを成功に導く方法論をパッケージ化して、地方企業や自治体に役立てていただけるようにしたのがこのソリューションです。

──「ECソリューション」ではなく「DXソリューション」としているのはなぜですか。

桑嶋
僕たちの支援の軸はもちろんECにあるのですが、ECに関する相談をうかがっていると、経営、事業、コミュニケーションなど、EC以外のさまざまな課題が見えてくることがあります。その多くは、デジタルを事業で正しく活用することで解決するものです。つまり、真の課題はDX(デジタルトランスフォーメーション)であるケースが多いということです。そのようなケースも含めて支援させていただくという意味合いを込めて、「地域DXソリューション」としました。ECに関するご相談を入り口としてDXの課題解決を目指す方向性もあるし、DXに関するご相談をいただいて、その一環としてEC実現に取り組む方向性もあると思います。その両方に対応できるのがこのソリューションです。

必要なのは「スキル」と「人材」と「熱量」

──博報堂のような総合広告会社が地域ビジネスに取り組む意味をお聞かせください。

高橋
ビジネスを「中央」と「地方/地域」という二項対立で捉えるべきではないと僕は考えています。「地域」という言葉を辞書で引くと、「地理的あるいは文化的に均質性があって、ほかの場所とは異なる特徴をもつ集合体やエリア」といった説明が出てきます。つまり、「地域」はいろいろな場所にあるということで、東京の中にも「地域」を見出すことは可能です。それぞれの地域にはそれぞれの特徴があって、それぞれの課題があるはずです。その課題を地域の生活者の視点で発見し、解決していくことができるのが博報堂DYグループの力です。

地域の課題を解決するにあたって重要なのは、「当事者力」と「第三者力」のバランスです。外部からその地域に入り込んで、一方的にサービスやソリューションを押しつけるのではなく、その地域の一員となる努力をして、地域課題を当事者のように理解しながら、一方で、本当の当事者がもてないような視点で課題を発見したり、解決法を提案したりする。それが地域ビジネスに求められるスタンスだと考えています。

桑嶋
特定の地域に長年住んでいると、その地域の本当の魅力が見えなくなることがあります。そういった魅力を発見し、外部に発信することが僕たちの役割です。ECの商圏は全国、あるいは全世界です。その地域が生み出す商品に魅力があれば、日本中、世界中の人がそれを買い求めてくれます。そのためには、商品を上手にアピールし、フェアに評価してもらうことが必要です。僕たちはそのお手伝いができます。

地域DXソリューションを提供するのは博報堂DYグループの6社(※)ですが、それ以外にもグループの地域会社と連携しながら地域のクライアントを支援していきます。総合力やネットワーク力を駆使して、地域企業のECやDXを成功に導くことができる。それも僕たちの強みだと思います。

※博報堂、博報堂プロダクツ、日本トータルテレマーケティング、セレブリックス、ソウルドアウト、SO Technologies

──地域企業がECを成功させるために必要とされるポイントをいくつか挙げていただけますか。

桑嶋
スキル、人材、熱量。大きくはその3つだと思います。スキルには、ECでのものの売り方、プロモーションの仕方、PDCAの回し方などが含まれます。そのスキルを実際に発揮するのが人材です。熱量とは、その商品のつくり手や売り手の「想い」のようなものです。ECは実力勝負の世界であり、実力さえあればマスプロダクトと勝負することもできます。そのときに重要になるのが、価格やスペックだけでなく熱量です。熱量はそのままでは伝わりません。多くの生活者に熱い思いを伝え、商品の魅力を理解してもらうには、コミュニケーションを上手に組み立てる必要があります。そこに博報堂DYグループのコンサルティング力やクリエイティブ力を役立てていただけると考えています。

地域DXソリューションを構成する6つのメニュー

──あらためて、地域DXソリューションのコンセプトと概要をお聞かせください。

桑嶋
僕たちが目指したのは、「役に立つソリューション」「わくわくするソリューション」、そして「自走可能なソリューション」です。地域DXソリューションは、実際に地域企業をご支援した経験の中から生まれたものなので、ECやDXの実現に役に立つものになっています。また、頭でっかちにならずに、ソリューションを活用することがクライアントにとって楽しく、心躍るような体験になることも重要だと考えました。「自走可能」というのは、HAKUHODO EC+のメンバーが初期の支援をしたのちに、地域のグループ会社とクライアントの二人三脚で運用できるソリューションという意味です。

──地域DXソリューションは、「産地直送ECモール立上げ」「EC事業診断」「ECモール運用代行」「新商品開発」「地域ライブコマース」「地域DX教育」の6つの個別ソリューションから構成されています。それぞれについてご説明ください。

桑嶋
6つの中で、地域DXソリューションの思想を最も体現しているのが「産地直送ECモール立ち上げ」です。これは、その地域専用のECモールをつくり、地域で産する農水産物、食品、工芸品などを販売する仕組みづくりを支援するソリューションです。支援には、戦略立案、モール構築、加盟店募集、発送の仕組みづくり、PR、広告宣伝、人材派遣などが含まれます。とくに重要であると僕たちが考えているのが物流です。従来の地域モール構想では、各事業者ごとに物流の準備が必要であり、それが出品の大きな障壁になっていました。また、商品発送の仕方が事業者ごとにまちまちだと、モールとしての統一性がなくなってしまいます。そこで配送のピックアップを我々が一元管理し、届くまでの時間や梱包の方法などを統一することで、事業者の負荷を減らしつつ、「地域ECモール」としてのブランドを確立することが可能になります。

もう1つ、「地域DX教育」もこのソリューションの特徴的なメニューです。これは人材育成研修を提供するもので、経営者向け研修、デジタルスキルを習得する研修、ECの実運用スキルを習得する研修の3種類があります。企業や自治体のニーズに応じて研修内容を選択していただけます。

──「新商品開発」は、ECで販売する商品の企画・開発を支援するソリューションということですか。

桑嶋
そのとおりです。地域の特産品であれば何でもECで売れるというわけではありません。EC向きの商品とそうではない商品があるからです。ECでの売り上げが見込める商品がない場合は、一から企画・開発をする必要があります。それを支援するソリューションが「新商品開発」です。

大切なのは、「売りたい商品」ではなく「生活者が買いたくなる商品」をつくることです。商品企画、ネーミング、パッケージデザイン、価格設定、販売戦略立案──。そのすべてを生活者視点に立ってご支援します。

高橋
ECの商品は、プロダクトアウトではなかなか売れないということですよね。生活者に「これは欲しい」と思ってもらえる商品をつくること、そしてその魅力をしっかり伝えていくことが必要だと思います。

ソリューションの価値をPRによって高めていく

──「EC事業診断」と「ECモール運用代行」についてもご説明ください。

桑嶋
「EC事業診断」は、そもそもECに取り組むことが最適な選択なのかどうか、やるとしたら自社ECにすべきか、既存のECモールを使うべきか、ほかの地域企業や自治体とともにモールを立ち上げるべきか。そういったことを見極めるためのソリューションです。診断の結果、ECが最適解ではないというケースもありえます。ECをやるべきであるという結論になった場合は、もちろんその後のEC展開を支援させていただきます。診断からほかのDX課題が見えてきた場合にも、その解決をお手伝いすることが可能です。

「ECモール運用代行」は、いわゆるアウトソーシングサービスです。ECを始めることになったけれど社内に人材がいないという場合に、専門人材をアサインして、ページ制作、受発注管理、広告運用などを支援します。

──6つめの「地域ライブコマース」とはどのようなものですか。

桑嶋
これは、先ほどお話しした「わくわく」を実現するソリューションです。ライブコマースの手法を活用することで、地域の特産品を楽しく、面白く紹介することができると僕たちは考えています。HAKUHODO EC+の中には「HAKUHODO Live Commerce+」という専門チームがあります。そのメンバーが、ライブ映像の出演者のキャスティングや、地域の放送局とのコラボレーションなどを支援します。

──試行錯誤の経験から生まれたソリューションというだけあって、まさに「役に立つ」構成になっていると感じます。

高橋
地域企業の皆さんにとって「これがほしかった」というソリューションが実現したと思いますね。これらのソリューションの価値をPRによって高めていくことが、PRの専門家としてHAKUHODO EC+に参加している僕たちの役目です。PRには「物語」をつくる力があります。EC展開の初期の段階で商品に物語をインストールし、その物語によって商品の魅力を多くの人に伝えていくこと。それがPRの役割だと僕は考えています。

海外での日本の農水産物の売り上げは年々伸びていますし、日本食の愛好家も増えています。それらを支えているのが地域です。地域にはまだまだポテンシャルがあるし、ECによってそのポテンシャルはさらに広がっていくはずです。PRがつくる物語の力によって、地域の可能性を広げていくことに寄与したいと思っています。

多様な価値観を尊重するビジネスを

──今後の取り組みの見通しをお聞かせください。

桑嶋
まずは、多くの地域企業の皆さんにこのソリューションを活用いただき、ご意見を伺いたいですね。フィードバックをたくさんいただくことで、ソリューションに磨きをかけて、さらに有用なものにバージョンアップしていきたいと考えています。

2月にソリューションをリリースしてから、さまざまな領域のプレーヤーの皆さんから「ぜひ協業したい」というお話を頂戴しています。協業によってソリューションの価値を広げていくこと。それも今後の重要な取り組みになると思います。

高橋
日本の中にさまざまな地域があるということは、多様な価値観があるということです。そのダイバーシティを尊重して、それぞれの地域の価値を高めていくお手伝いをすることが、地域DXソリューションの本質的な機能だと僕は考えています。このソリューションによっていろいろな地域をより豊かにしていくことが、僕たち自身のビジネスの成功にもつながるはずです。

もう1つ、「リジェネラティブ」というキーワードで地域ビジネスを捉えたいという思いがあります。地域の特産品の多くは農水産物や食品ですが、それを生み出すのは地域の環境です。リジェネラティブとは「再生」や「改善」を意味する言葉で、魅力的な農水産物や食品を生み出し続けるために環境をより良いものにしていこうというのがリジェネラティブの考え方です。サステナビリティ推進に繋がる事業でもあり、欧米では大手流通やアグリテック企業が力を入れており、これからの食の大きなテーマの1つになると思われます。ビジネスを通じてそれを実践し、その取り組みを広く発信していくことで、地域の商品の価値はさらに高まっていく。そんなふうに思っています。

桑嶋
地域にはダイナミズムがあるし、そこから僕たちが学ばせてもらえることもたくさんあります。地域に関わらせていただくことで、わくわくしながらともに成長できること。それが地域ビジネスを支援する醍醐味だと感じます。
高橋
先ほど「熱量が大切」という話がありましたが、僕たち自身の熱量もさらに上げていかなければならないと思います。
桑嶋
地域企業の皆さんの熱量と、それを支援する僕たちの熱量。それを掛け合わせて、地域の発展を目指していきたいですね。

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  • HAKUHODO EC+ ビジネスコンサルタント/
    地域DXソリューション リーダー
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    コマースDX推進グループ
    イノベーションプラニングディレクター
    通販事業の運営チームを経て、博報堂のEC支援チームの旗揚げに参画。米国Kepler社への短期出向を経て、現職。ECを軸に、新規ビジネスの立ち上げや変革、事業設計を得意とする。各種講師や記事/書籍執筆なども担当。
  • HAKUHODO EC+
    博報堂  PR局PRプラニング1部長
    1991年博報堂入社。自動車、流通、製薬企業、飲料業界のブランディング、リスクコミュニケーションなどを担当。環境省の地球温暖化防止国民運動「チーム・マイナス6%」のPR責任者。内閣府へ出向し男女共同参画、ダイバーシティ政策広報を担当。東日本大震災発生直後、内閣官房内閣広報室にて勤務。12年3月、博報堂に戻り現職。

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