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対談!EC+【第11回】──「コンテンツコマース」ってなに? 顧客とつながる「入口」としてのコンテンツ
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対談!EC+【第11回】──「コンテンツコマース」ってなに? 顧客とつながる「入口」としてのコンテンツ

博報堂DYグループ内のEC領域のナレッジやスキルを集約し、クライアント企業のEC事業を戦略構築から実装・運用までフルファネル、ワンストップでサポートする「HAKUHODO EC+」がお送りする、EC事情の最前線をさまざまなプロフェッショナルの方とご紹介する連載「対談!EC+」。第11回は、オリジナルの短編ドラマなどを制作して顧客とのつながりをつくっているECサイト「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムの高山達哉さんをお招きし、「コンテンツコマース」の可能性を探りました。

高山 達哉氏
クラシコム 取締役 事業開発部部長

奥山 貴弘
HAKUHODO EC+リーダー
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
メーカーDX推進グループマネージャー

福井 健史
HAKUHODO EC+
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
統合ディレクター

「フィットする暮らしづくり」を支援する

奥山
EC関連のプロフェッショナルをお招きして、ECの進化や拡張の可能性を探る連載企画「対談!EC+」も、今回で11回目となります。今回は、ECにコンテンツを組み合わせた「コンテンツコマース」に取り組んでいらっしゃるクラシコムの高山達哉さんをお招きしました。まずは、クラシコムの事業内容と、高山さんのお仕事についてお聞きしていきたいと思います。
高山
クラシコムは2006年9月に創業した会社で、北欧をはじめとするさまざまな国の雑貨やアパレルなどを販売する「北欧、暮らしの道具店」をECで展開しています。現在のクラシコムの事業は、D2C事業とブランドソリューション事業の二本柱になっています。前者がいわゆる物販で、後者は企業のマーケティング活動を支援するビジネスです。

ブランドソリューション事業では、商品開発力、コンテンツ制作力、ディストリビューション力といったクラシコムがもっているケイパビリティを組み合わせて企業にご提供しています。僕は2015年にこの事業が立ち上がったタイミングで、クラシコムに入社しました。現在はブランドソリューション事業の管掌役員として、様々なクライアントの支援を行っております。

奥山
クラシコムの企業理念についてもお聞かせください。
高山
「フィットする暮らし、つくろう。」という理念を僕たちは掲げています。それを事業を通じて多くのお客さまと共有していくことがクラシコムのミッションです。では、「フィットする暮らし」とは何か。「丁寧な暮らし」「スタイリッシュな暮らし」「おしゃれな暮らし」など、暮らし方をあらわす表現はいろいろありますが、そのいずれとも異なると僕たちは考えています。「誰かの生活と比べて、自分の今の生活はどうだろうか」と考える必要はない。大切なのは自分の暮らしを、自分らしく居心地のいいものにしていくこと ──。それが僕たちのスタンスです。自分にとっての居心地のよさを感じられる生活がすなわち「フィットする暮らし」で、そのあり方は人それぞれでいいはずです。その暮らしづくりは決して簡単なことではないからこそ、私たちもお客さまと一緒に追い求めていきたいなと思っています。

「温泉街」としてのプラットフォーム

奥山
今回のテーマは、「コンテンツコマース」です。ECにおけるコンテンツとは何か。高山さんのお考えをお聞かせください。

高山
コンテンツとは、お客さまとの関係をつくるものであると僕たちは捉えています。こういうアイテムがほしい。こういう気持ちを大切にしたい。こういう生活を楽しみたい──。そのような価値観を共有するために必要なのがコンテンツであり、商品もまたコンテンツの一つであるというのがクラシコムの考え方です。これまで読み物や動画などさまざまなコンテンツを展開してきましたが、例えば、商品をお届けするときに同梱するメッセージカード。これも重要なコンテンツの1つです。
福井
「北欧、暮らしの道具店」では、オリジナルの短編ドラマをいくつか制作されていますよね。登場人物は女性が中心ですが、男性も楽しめるドラマで僕もよく拝見しています。

高山
ありがとうございます、これまで4つのタイトルを制作してきました。
福井
EC事業者でありながら、あのようなクオリティの高いコンテンツをつくって発信しようと考えたのはなぜなのでしょうか。
高山
ECプラットフォームの多くは、いかに便利で簡単に買い物ができる仕組みを提供するかというところでしのぎを削っていると思います。そのような利便性や省力性を軸とした競争に僕たちが勝負を挑んでも絶対に勝てないし、仮にそのような価値を実現してお客さまに商品を買っていただいても、継続的にものを買っていただくのは難しいことです。そう考えたときに、自分たちのやり方はむしろ「買う気のないお客さま」にアプローチすることなのではないかという発想が生まれました。商品を買いたいとは思っていないお客さまにコンテンツを楽しんでいただいて、その結果として商品を買っていただく──。そういうアプローチは、当時はどのEC事業者も取り組んだことがないんじゃないかって。
福井
まずはコンテンツを通じて生活者とコミュニケーションをして、楽しみながら価値観を共有してもらう。生活者は、その中でたまたま魅力的な商品に出会い、気に入れば購入する。そんな新しい体験づくりを目指したわけですね。
高山
そのとおりです。そこから信頼感が生まれたり、ライフスタイルを共有したりすることで、長期的な関係が築けるのではないかと考えました。クラシコムがご提供しているのは、一貫した世界観とつながる「場」であって、それを僕たちは「ライフカルチャープラットフォーム」と表現しています。社内ではそれを「温泉街」と言ったりもしています。お客さまが温泉を目的にその街を訪れ、湯につかって癒されていい気持ちになったあとで商店街を歩いていたら、面白いお土産に出会う──。だからこそ、本質的には温泉として湧き出る源泉を決して枯れさせないように努めることが大切です。そんなイメージです。
福井
「温泉」がすなわちコンテンツであり、そこで提供される体験が世界観だったりブランドであったりするわけですね。そして、紐づいているマーチャンダイジングがECである、と。なるほど、すごくわかりやすい例えですね。
高山
とりあえず今は「お土産屋さん」としてECを展開していますが、温泉街ですから、ほかにもいろいろなサービスがありうると思います。「宿」、つまりリアルな宿泊施設を運営するのもありかもしれないし、マッサージが受けられるエステティックサロンがあってもいいかもしれません。そうやって事業を多角的に展開していくことが、これからのクラシコムの方向性の一つだと僕は考えています。

指標は「エンゲージメントアカウント数」

福井
売るためだけの方向を向いてつくるECは、買いにいくだけのECになります。そうなると便利なのか、お得なのか、そういう基準でしか評価されない。一方で、優れたコンテンツがあれば、ふとしたときに行きたくなるお店になる。通ってもらえるし、長居してもらえる。展開性も生まれてくる。

CMなどの広告づくりにおいても、「優れたコンテンツを届ける」という意識と「売り上げる」という意識が、絶妙に拮抗しているときに力のあるものが生まれます。 どちらかに偏ったつくりにしてしまうと、大抵サムいものが出来上がる。長い目でみれば、コンテンツコマースは、選ばれ続けるための近道なのでしょうね。

奥山
なるほど。コンテンツコマースには「遠回り」のイメージがありますが、実はコミュニケーションの正攻法ということなのかもしれませんね。
高山
僕たちも「遠回り」だとは考えていません。ECではLTV(生涯顧客価値)を上げていくことが重要だと言われますよね。LTVを上げるために、コンテンツを活用してお客さまと長期的な関係をつくっていくことが自分たちの考えでもあります。
奥山
一方で、ビジネスには定量的な指標も必要です。クラシコムはどのような指標を重視されているのでしょうか。
高山
重視しているのは「エンゲージメントアカウント数」です。つまり、商品を買った人の数ではなく、つながっている人の数ということです。これには、SNSのフォロワー数、アプリのダウンロード数、メールマガジンの購読者数などが含まれます。

エンゲージメントアカウント数を上げるには、タッチポイントを増やしていくことが必要です。LINE、Instagram、YouTube、アプリといった多様なタッチポイントを展開し、そこからコンテンツを頻繁にデリバリーしていけば、「北欧、暮らしの道具店」やクラシコムを想起していただける機会が多くなり、ブランド力が高まり、ロイヤリティの高いお客さまが増える。そんな考え方です。

奥山
それもまさしく、コンテンツコマースならではの考え方ですね。顧客の数を増やすことと、特定の顧客に繰り返し購買してもらうこと。そのどちらを重視していますか。
高山
現段階では顧客の数を増やしていくことに注力していますが、その中でも僕たちが目指すべきは、誰でもいいからたくさんのお客さまにたまに買っていただくよりも、「北欧、暮らしの道具店」の世界観に共感してくださる方に、いろいろなコンテンツを楽しんでもらったり、商品を購入してくださるということだと考えています。それを実現するには、商品のカテゴリーを増やしていく必要があります。今は商品売り上げの6割がアパレルで、3割が雑貨といった構成ですが、今後はさらにラインナップを広げて、お客さまの暮らしを多面的にご支援してきたいと思っています。
福井
コンテンツをベースに顧客とつながっていれば、「何屋さん」という看板で固定化されない。 顧客と共有した価値観や世界観に沿った商品を、どんどん開発していくことができます。物も情報も溢れていて、さばき切れない今の時代、ブランドまるごと信頼してもらって、カテゴリーを超えた商品展開をおこなっていくことは、有効な戦略です。商品だけで顧客と関係をつくるやり方には生まれないメリットですね。
高山
僕もそう思います。もう1つのメリットは、新しい商品をつくった時点で、すでにお客さまがいるということです。ものをつくってからお客さまを探しに行くのではなく、コンテンツによってすでにつながっているお客さまに「こんな商品ができましたが、いかがですか」とご提案することができて、それが売り上げにつながる。そこにコンテンツコマースの大きな可能性を感じています。
奥山
コンテンツを軸にすれば、エンゲージメントを高めることもできるし、商売を横に広げていくこともできるということですね。非常に優れたECのモデルと言えそうです。

重要なのは「らしさ」を見極めること

福井
コンテンツが果たす役割の大きさは、今まで話してきたとおりですが、では、どんなコンテンツをつくっていくべきか。 考えるにあたって僕がとても重要だと思うのは「らしさ」に回帰することです。企業らしさ、ブランドらしさ、商品らしさを見極めること。世界観への共感をベースに「この人、このブランドがセレクトしたなら買う」というところに購買がシフトしている今、「らしさ」はスタンスを表明する肝になりますし、同質化しているECのなかで選ばれる理由になるからです。また、「らしさ」を軸にコンテンツをつくれば、展開があっても首尾一貫したものになっていきますしね。「北欧、暮らしの道具店」は本当にそこがはっきりしています。
高山
おっしゃるとおりですね。おそらく、「らしさ」を見極める基準の1つは、顧客なのだと思います。お客さまは何を求めているのか。お客さまは何を大切にしているのか。それを理解することによって、おのずと「らしさ」が浮かび上がってくるのではないでしょうか。
奥山
今日の対話を通じて、コンテンツコマースとは、コンテンツによって顧客とつながり、顧客を理解し、そこから自分たちの「らしさ」を見極め、さらに新しいコンテンツを展開していくことができる方法論であるということがよくわかりました。HAKUHODO EC+は、ECとは単なる買い場ではなく、人とのつながりの場であるという考え方を大切にしています。その点で、クラシコムの皆さんが取り組まれているコンテンツコマースは、僕たちの考え方とも非常にマッチしていると感じました。最後に、これからの高山さんのビジョンをお聞かせいただけますか。

高山
コンテンツコマースは、僕たちが子どもの頃に読んでいた漫画雑誌に近いところがあると僕は思っています。雑誌で漫画を読んで、単行本が出たら買って、イベントに参加したりもする。この場合の雑誌がプラットフォームで、漫画がコンテンツです。そのプラットフォームにはいろいろな漫画があっていいし、どの漫画の人気が高くて、どの漫画が読まれていないかを見ることがマーケティングリサーチにもなります。その結果を受けて、次にどういう漫画を届けていくのがいいかを考えることで、プラットフォーム全体がもっと楽しく、質の高いものなっていくと思います。「北欧、暮らしの道具店」をそんなプラットフォームに成長させていきたいですね。
福井
ECの高付加価値化が求められている中で、クラシコムの皆さんが取り組まれていることには本当に参考になることがたくさんあると思います。ぜひ、これからのECシーンを一緒に盛り上げていきましょう。

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  • 高山 達哉氏
    高山 達哉氏
    クラシコム 取締役 事業開発部部長
    1985年生まれ。WEBサイト制作会社にて、コンテンツマーケティングのプランナーを経て、2015年9月にクラシコム入社。広告事業の立ち上げを行い、「北欧、暮らしの道具店」に新たなビジネスラインを確立。現在も様々な企業とのコラボレーション施策を統括、「北欧、暮らしの道具店」の世界観やブランド価値を広告主にソリューションとして活用いただく取り組みに従事している。
  • HAKUHODO EC+リーダー
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    メーカーDX推進グループマネージャー
    2004年博報堂中途入社。大手通信会社を中心に長らく営業職を担当し、2019年より現職。ショッパーマーケティング・イニシアティブのメンバーとして、EC領域に特化した組織横断型プロジェクトチームである「HAKUHODO EC+」を推進する。
  • 博報堂
    生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 統合ディレクター
    2008年博報堂入社。メディアや手法にとらわれないブランドコミュニケーション・クリエイティブ開発に従事。近年は、コマース領域を起点にした企画開発を提唱、「コマース・クリエイティブ」プロジェクトを推進している。受賞歴に、ACC金賞、ADFEST金賞、SPIKES ASIA金賞、新聞広告賞大賞、グッドデザイン賞など。