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NFTはデジタルコンテンツを復権する double jump.tokyo x HAKUHODO Fintex Base (連載:フィンテックが変える生活者体験 Vol.11)
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NFTはデジタルコンテンツを復権する double jump.tokyo x HAKUHODO Fintex Base (連載:フィンテックが変える生活者体験 Vol.11)

近年様々なフィンテックサービスが登場し、日常的に利用する人も増えています。フィンテックサービスに関する生活者の意識・行動の調査研究を行うプロジェクト「HAKUHODO Fintex Base(博報堂フィンテックスベース)」のメンバーが、フィンテックを支える多様な分野の専門家とともに、新しい技術によってもたらされる新たな金融体験や価値を考える記事を連載でお届けします。
第11回となる今回は、NFT・ブロックチェーンゲーム専業開発会社のdouble jump.tokyo 代表取締役/CEOの上野広伸さんと、HAKUHODO Fintex Baseの山本・飯沼が、NFTゲーム開発の背景、NFTのメリットや社会に与える価値、今後の展望などについて語り合いました。

double jump.tokyo株式会社 代表取締役/CEO
上野広伸氏

HAKUHODO Fintex Base/博報堂 第三ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 局長代理
山本洋平

HAKUHODO Fintex Base/博報堂 hakuhodo DXD
飯沼美森

ユーザーが主体的に盛り上げるNFTゲーム

山本
上野さんは2018年にdouble jump.tokyoを設立され、NFT・ブロックチェーンゲームの事業を展開されていますが、どんなことがきっかけでNFTゲームに注目されたのですか。
上野
double jump.tokyoを立ち上げる前はソーシャルゲーム会社に勤めていたのですが、その時期に「CryptoKitties」というNFTゲームに出会いました。(仮想の)猫のNFTを購入したり、猫と猫をペアリングしたりして新しい猫を生み出すといったシンプルなゲームなのですが、すごく可能性を感じました。当時のソーシャルゲーム業界はどんどん競争が激化し、高いクオリティのゲームを開発するためには莫大な資金が必要だったのですが、NFTを使ったゲームであれば、当時はまだ小規模に始められ たし、市場も黎明期なのでチャンスがあるのではないかと考え、起業を決意しました。
山本
NFTゲームの大きな特徴はどのような点にあるのでしょうか。
上野
NFTゲームでは、ゲームで使うキャラクターやアイテムがNFTになっています。NFTアイテムは、購入する場合と、ゲームプレーの中で報酬として獲得できる 場合があり、ゲームの人気度が上がるとNFTの価値も上がるため、経済的メリットが生まれます。逆に言うと、ゲームが流行らないと経済的なメリットが生まれないので、ゲームのプレイヤーには「みんなでこのゲームを盛り上げよう」という一体感が生まれます。運営側だけでなく、ユーザーもゲームを盛り上げるための活動を積極的 に行う ようになる点が、NFTゲームの大きな特徴です。

山本
ゲームを盛り上げるための活動、とは具体的にはどのようなことをするのですか。
上野
周りの人をプレーに誘う、初めてプレーするユーザーにゲーム用のSNSを使ってやり方を丁寧に説明する、ゲームプレイヤーのコミュニティを作る、といったことですね。
山本
ゲーム自体の価値向上のために、ユーザーも自発的に行動するのですね。ファンがファンを創り出す仕組みや生態系を生み出すには、共助意識の醸成がキーになりそうですね。

ヒットの裏に、“新しさ”を重視するイノベーターの存在

山本
double jump.tokyoが開発された最初のNFTゲームが「My Crypto Heroes」ですね。
上野
はい、2018年11月にリリースしました。当初はゲームの運営も我々が行っていたのですが、現在はMCH社に運営を譲渡しています。
開発した当時 は、大手の仮想通貨取引所で仮想通貨が不正流出した影響で、仮想通貨市場全体が冷え込んでいました。ですので、難しいタイミングでのリリースではあったのですが、あとから振り返るとこの時期で良かったと感じています。競合サービスもほとんどリリースされませんでしたし、仮想通貨の相場は底だったので、そこからは上り調子が続き、当時投資に動いた人はメリットを感じやすかったはずです。結果的に、イーサリアムベースのブロックチェーンゲームとして、取引高・取引量などで1年半に渡って世界1位を記録することができました。日本のユーザーに「イノベーター」層が多かったことも、ゲームが早い時期にヒットした要因だったと考えています。
その後「My Crypto Heroes」の基盤システムを使ってサービスを横展開していき、「BRAVE FRONTIER HEROES」など複数のゲーム をリリースしました。
山本
日本のユーザーは、特にイノベーターが多いのですか。
上野
イノベーティブな商品やサービスを世に出す時、作る側のイノベーターとそれを使う側のイノベーターの両方がいないと成立しませんが、日本には特に使う側のイノベーターが多いと思います。イノベーターは情報感度がとても高く、商品やサービスの新しさに価値を感じます。一方で、イノベーターほど急進的ではないものの、新しいモノをいち早く使い、その魅力やメリットを他の人に伝える「アーリーアダプター」と言われる層が商品やサービスの浸透に影響を与えるのですが、日本ではあまり多くありません。例えばアメリカはアーリーアダプターが多いので、「キャズム」と呼ばれる商品やサービスの成長期に発生する障害を越え、市場全体に浸透していくのが比較的早いのだと思います。
飯沼
早くからNFTゲームをやっていたイノベーターは、「何かしら新しいものが出たら、まず試したい」という人が多いのでしょうか。
上野
そうですね、資産形成のことを全く考えない ということはないと思いますが、新しいことをやること自体に価値を見出していた方がほとんどだったと思います。一般論として、何かが「新しい」と言える時期はそれほど長くありませんし、その時期にそれを体験したという事実は、あとからお金を出しても買うことはできません。そういった「新しいことをやる」ことに価値を見出すイノベーターが日本に多くいたことが、「My Crypto Heroes」が早期に盛り上がった理由の一つだと考えてます。
山本
なるほど、NFTゲームのような先進的なサービスでは、新規性に価値を置くイノベーターの存在が大事なのですね。一方で、ここからさらに普及させていくためにはアーリーアダプターの存在がカギになってくると思うのですが、なぜ日本にはアーリーアダプターが多くないのでしょう。

上野
アーリーアダプターとは、おもしろいものをいち早く拡散する人で、「インフルエンサー」とも言い換えられますが、日本ではバズると 叩かれることも多いことが増えにくい理由だと思っています。作る側のイノベーターが育たないことや、イノベーションが起きにくいことに関しても同様のことが言えます。日本は変なことをまじめにやる人がすごく多いんです。ユーザーが数人しかいないようなサービスでも、クオリティが高くきちんと作り込まれているようなことがよくあり、イノベーションの種はたくさんあります。ですが、アーリーアダプターが少ないことで、それらが育ちにくいのだと感じますね。
山本
日本特有の風土が関係していて、それがイノベーションの創発にも影響しているのですね。
国もイノベーション政策に積極的に取り組んでいますが、なぜあまりうまくいかないのだと思われますか。
上野
進め方に課題があるように感じます。 例えば最初に整地して花壇を作るように、「整地したのでここでイノベーションを起こしてください」といった考え方なのですが、実際にはイノベーションはどこで芽を出すかわかりません。「自分の庭の都合のいいところで育って欲しい」ではなく、芽が出たところに赴いて育てていくという形をとらないと、結果的に芽をつぶすことになってしまいます。とはいえ、新しい産業を後押しする政策を常に推し進めているのでうまくいって欲しいです。
山本
イノベーションは辺境の地で起こると言われますが、その地に国の方から寄り添っていくことが大事なのですね。イノベーションが生まれ育つ環境をあえて固定してしまうと、伸びる芽も伸びなくなってしまうのは僕も肌で感じています。

ユーザー体験における、リアルとNFTの違いと共通点

山本
あらためて、NFTの一番のメリットや価値はどんなところにあると思われますか。
上野
近年アートやファングッズなどにNFTが使われるようになり、NFTと紐づいたデジタルコンテンツを購入する人が増えています。これは「デジタルコンテンツの復権」と言える状況を生んでいると感じています。
ネットの世界では、画像や動画、音楽、映画などをサブスクリプションで楽しむのが一般的になってきて、月額の料金をテーマパークの入場料のような感覚で払ってはいるものの、一つ一つの乗り物に当たるコンテンツに関しては無料だと思っている人が増えているように思います。一方で、「レコードやCDを買ったり、ビデオやDVDをレンタルしたりした時代は楽しかったよね」という人もたくさんいます。
現在のサービスの方が利便性は圧倒的に高いため、サービスが過去の形に戻ることはあり得ません。しかしNFTによって、コンテンツを購入するという当時の楽しさを再現できるようになったことは大きな価値の一つだと思います。
飯沼
確かに今の若い世代はサブスクが当たり前で、「コンテンツを買って所有する」という経験があまりなく、買い切りを新しい体験だと感じる人も多いかもしれませんね。

上野
大昔は川に流れていた水を瓶に詰めて売っていたのが、水道の普及によって家庭でいつでも水が使えるようになりました。NFTの販売は、川の水をあらためて瓶に詰めて売るようなことだと思っています。かつてCDやDVDを購入した時に得られた所有感やうれしさ、楽しさを再び感じられるようになったことがNFTの意義の一つです。
山本
リアルの体験とNFTを利用した体験は同じものになっていくのでしょうか。
上野
私は違うと思っています。リアルの本と電子書籍の違いのようなものですね。個人的にはリアルの本で読む方が頭に入りやすく、電子書籍は携帯性や検索性などが優れていると思っているのですが、ある研究によると、デジタルで読むと内容を過去の知識や体験に当てはめてしまい新しい学びは得にくい一方で、誤字を見つけるといったパターン認知 には向くそうです。これと同じように、リアルとNFTも、それぞれの特徴を活かして使い分けるようになっていくのではないでしょうか。
山本
リアルとデジタルとの違和感は、まさに提供価値が異なることが起因していると僕も思います。デジタルは過去の経験と照らし合わせた情報のストックに、リアルは情報を通じた未知なる体験の提供に向いていると日々感じています。
最後に、double jump.tokyoとして今後目指していかれたいことを教えてください。
上野
NFTゲームをマスで使っていただけるようにしていきたいですね。我々だけでは難しいので、大手ゲームメーカーと提携してゲームを作りたいと考えています。そして、その取り組みをメタバースにもつなげていければと思います。
山本
Web3という言葉が盛んに使われるようになっていますが、Web3は世の中をどう変えていくと思われますか。
上野
Web3は、黎明期のWebのような自由な形に戻す動きなのかなと捉えています。黎明期のWebはとても自由につながることができました。その後、スマホが登場してネイティブアプリが主流になると、便利にはなりましたが、それぞれがアプリで分断されるようになりました。例えば、アプリ内には他のアプリへのリンクは貼れないなどの制限がありますよね。その影響で、のちに登場した動画配信サイトやSNSも、そのサービス内のコンテンツを回遊することを前提としたデザインになりました。Web3はこうした制限をなくして、より自由につながっていくのかなと思います。
飯沼
これまで「デジタルコンテンツなら検索すれば見られるし、なぜわざわざNFTのサービスや商品を購入するのかわからない。NFTって必要なの?」という声を聞くことがよくありました。ですが今日お話をうかがって、NFTのメリットや企業がNFTに取り組む理由などがとてもよくわかりました。
上野
NFTを怪しく思う方がまだ多くいらっしゃるのはよくわかります。「何でデジタルのモノに値段が付くのか」「なぜ価値に差が出るのか」といった疑問は多くの方が持たれると思います。でもリアルのモノと同じように考えていただくと、NFTについても理解しやすくなるのではないでしょうか。NFTには「過去に誰が所有していたか」「誰が評価しているか」といったメタ情報が付帯し、それが価格を変動させます。NFTの商品・サービスの価値を決めているのは、リアルの商品・サービスと同じ要素なんです。そういったことを前提にNFTを考えるようにすれば、理解も進みやすいと思います。
飯沼
Web上のモノやサービスは非常に移り変わりが激しいもので、アップデートされる、または終了してしまうと、形として残らないことが当たり前な世の中かと思います。その中でNFTという技術の存在によって、プレミア感や希少性ももちろんですが、生み出されたIPや資産が資産として残り続ける。こうした一時的なものと永続的なものが入り混じるデジタルの空間は、今後ますます巨大な市場になり得るだろうという期待を感じました。
山本
お話をうかがって、あらためてWeb3によって新しい自由の形を手に入れることのできる時代が到来したのだと思いました。double jump.tokyoはNFTゲームという日本が世界で勝負できるコンテンツで、その時代を切り拓こうとしているという熱意がひしひしと伝わってきました。キャッシュレス化では世界から遅れをとっている日本ですが、NFTゲームやWeb3の浸透によって、”世界をリードする日本”になれる稀有な機会かもしれません。我々もdouble jump.tokyoと同じ視座を持ちながら、Web3時代に貢献していきたいと思います。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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  • 上野 広伸氏
    上野 広伸氏
    double jump.tokyo株式会社 代表取締役/CEO
    システム開発会社にて数々の金融システムの基盤構築に参画。前職のソーシャルゲームにて執行役員、技術フェローを歴任し、プラットフォーム及びゲームサーバーの設計・開発、スマートフォンゲームの開発基盤の構築を指揮。2018年4月にdouble jump.tokyoを創業。
  • HAKUHODO Fintex Base/博報堂 第三ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 局長代理
    新卒で外資系大手SIer入社。その後、大手メディアサービス企業にてネット業界ブランディングに従事、総合広告会社を経て現職。システムからクリエイティブ・事業と振り幅の広いスキルを最大限に活かすフィールドを求め、博報堂に転身。現在は、通信・自動車・HR・Fintechとあらゆる業種を担当し、事業視点からのマーケティング戦略を策定するチーフイノベーションディレクターとして活動。JAAA懸賞論文戦略プランニング部門3度受賞
  • HAKUHODO Fintex Base/博報堂 hakuhodo DXD
    2018年博報堂入社。入社後はマーケティング職として飲料、教育、コンテンツ、アプリサービスなどのコミュニケーション戦略やブランド開発、CRM戦略を担当。信託銀行、損害保険会社などの金融領域業務も幅広く従事している。