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食とweb3、大企業から見たweb3における食産業へのアプローチ
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食とweb3、大企業から見たweb3における食産業へのアプローチ

2023年7月、ビジネスイベント「「web3BB(Beyond Borders) Tokyo 2023 Summer」が六本木の国立新美術館で開催されました。
日本発のグローバルWeb3ビジネスコミュニティ「WEB3BB Tokyo」が年3回行うイベントのひとつで、大企業がどのようにweb3をビジネスに活用するかを学び、ディスカッションする場になっています。
大企業の新規事業担当者やweb3事業者らが集結し、トークセッションを通じてビジネスのヒントや知見を共有し合う会となりました。博報堂キースリーからは代表取締役CEOの重松 俊範が2日目の「食とweb3、大企業から見たweb3における食産業へのアプローチ」と題したセッションに登壇。

食産業におけるweb3の可能性や課題、具体的な活用方法について、房安 陽平さん(株式会社Ginco 取締役 副社長)、とモデレーターの藤澤 勇哉さん(ArtiLamps 代表取締役)らとともに議論を交わしました。

web3事業に取り組む3社の自己紹介

まずは各登壇者の自己紹介が行われました。
モデレーターの藤澤 勇哉さんが代表を務めるArtiLampsは、飲食店向けに「NFT来店証明」を提供するサービスなど、食文化の発展やシェフのクリエイターエコノミー形成を目指し、「食×web3」の事業を展開している企業です。
web3の特性を活かし、食文化の新たな経済圏を創造するため、鋭意事業づくりに邁進しています。

博報堂キースリーは、2022年12月に博報堂とAstar Networkの渡辺 創太氏が共同で設立した合弁会社です。「web3に特化した広告会社」として、既存の広告会社がCMやWebサイトを作るように、「web3で何かやりたい」と思う企業から案件をいただくのが主な商流となっています。ですが、ある意味広告会社というのは「何でもできる立場でありながら、何もできない」と言えます。要するに、アイデアは持っているものの、クライアントの要望に対してアウトプットや成果を出せるパートナー会社と一緒にやっていく必要があるのです。
Astar Networkと組んで博報堂キースリーを立ち上げたのは、彼らがグローバルのエンジニアと繋がりを持っていた、Astar Networkとともに成長していくという思いを持っていたからでした。主な事業としては、クライアント企業のweb3プロジェクト推進やweb3領域の進出支援などを手がけています。また、企業の抱える課題をweb3の視点からアプローチして解決するための「web3ハッカソン」も行っています。
今年2月には、トヨタ自動車協賛の「web3グローバルハッカソン」を開催し、Astar Networkが有するグローバルコミュニティの呼びかけにより、世界中のエンジニアがハッカソンに参加。
「企業内プロジェクト向けDAO支援ツールの開発」をテーマに、ハッカソン参加者らが質の高いプロトタイプを発表し合うイベントになりました。

「web3グローバルハッカソンは、AstarNetworkのブラウザ型メタバース『COSMIZE』で実施しましたが、予選通過者にはNFTを付与し、その証明を持って決勝のピッチイベントに参加できる設計にしました」(重松)

Gincoは2017年からブロックチェーン事業を行う会社で、BtoC向けのウォレット事業からスタートしましたが、現在はBtoBの事業が大きく成長を遂げています。
エンタープライズ向けに提供している「Ginco Enterprise Wallet」は、日本の暗号資産取引所で使われており、そのシェアは5割を占めています。
そのほか、web3関連のコンサルティングやミドルウェア開発など、これまで多くのweb3事業者のインフラサービスを提供し、ビジネスを成長させてきました。
インダストリーに限らずさまざまなレイヤーの事業者と共創していく「Web3 Development Company」として、ユースケース創出に向けた取り組みを行っています。

「NFTチップス」に見るweb3時代の新しいマーケティング

自己紹介に続いて、セッションの本題に入っていきます。
まず最初のトピックは「食産業の大企業がweb3領域へ参入する理由」についてです。
アサヒビールやカルビーといった大手メーカーがNFTを発行し、既存商品のブランド価値向上やロイヤリティの醸成につなげる取り組みがなされています。
博報堂キースリーは、カルビーのNFT付きポテトチップスのキャンペーンを実施し、web3時代の新しいマーケティングの可能性を追求しています。

重松
カルビーでは、これまでもプロ野球チップスなどの「おまけ付きチップス」を販売してきましたが、消費者が商品を買って、食べて、捨てると、そこで企業と消費者との関係が途切れてしまっていました。たとえ、多くのチップスを購入し、たくさんカードを集めていた熱狂的なファンがいても、その状況を可視化することができない状況でした。

一方、NFTはブロックチェーン上に刻まれ、「誰がどのくらいNFTを持っているか(=チップスを買ったか)」を見える化できます。
NFTを持っている消費者に対して、飲料ドリンクの無料クーポンを配布したり、有益な情報配信をしたりすることで、企業と消費者の関係性を築くきっかけになるわけです。そこで、カルビーでは「NFTチップスキャンペーン」を行い、対象商品を購入するとおまけとして「ポテトNFT」を配布する施策を実施しました。

カルビーの自社アプリ「ルビープログラム」を活用し、ポテトチップスのパッケージを小さく折ってたたんで、QRコードを読み込むとNFTがもらえる仕組みになっています。
NFTの所有・管理については、博報堂キースリーとDataGateway社が共同で開発した「wappa」というウォレットを導入し、ユーザーがいつものようにルビーポイントを貯める感覚でNFTがもらえるよう工夫したのです。
さらに、5回スキャンするとポテトNFTが成長し、じゃがいものキャラクターを得ることができるのですが、これは「じゃがいもを育て、収穫する」という世界観を意識した体験設計を行いました。
こうしたNFTの取り組みをカルビーがいち早く取り組んだことで、プロモーション効果も生み出すことができた事例となっています。

事業のスピード感が遅く、オンチェーンにする価値を感じづらいのが課題に

次の話題は「食産業がweb3を進める上で生じる課題とは何か」というもの。
モデレーターの藤澤さんより、さまざまな企業とweb3事業の推進を手がけてきた両社は、どのような課題を感じているのかという問いが投げかけられました。

房安
web3の課題についてですが、これは食に限った話ではなく、あらゆる産業にも当てはまることだと思います。
大きなところで言うと、既存の事業と比べた際にweb3の事業は大きく始めづらいこと。
小さく進めていては、なかなか事業の発展には結びつかない。その辺りのスピード感が課題のひとつだと思っています。
加えて、先ほどの重松さんが話したカルビーのNFTを用いた次世代CRMの話に着目すると、マーケットサイズやユーザー数から見ても「オンチェーンにする価値を感じづらい」という課題もある。つまり、「わざわざブロックチェーンを使う必要なんてない」という反対意見が自然と大きくなりやすいんです。

こうしたなか、既存事業のシナジー効果が見出せないとか、ブロックチェーン活用に異を唱える声もあるなか、逆転の発想でオンチェーンでやるという選択肢もある。
特に食はフィジカルゆえ、web3を活用するという選択をしづらい部分もありますが、「なぜweb3をやるのか」を明確化し、「施策をやる意義を見出す」ことが肝になるのではと感じています。

重松
食産業といっても、いろんな領域があると思いますが、小さな課題という意味では「NFT施策をやる際に安く見積もりがされてしまう」ということです。
まだ世の中に浸透していないから、そんなにお金がかからないと思う企業の方もいますが、従来の企画費や制作費に加えて、スマートコントラクトの実装や暗号資産のガス代など、費用が多くかかっているのが、まだそこまで伝わっていない現状があると思っています。

web3ネイティブ層へアプローチすることで初動を作りやすい

続いてのトークテーマは「食産業がweb3に取り組むことによるマネタイズ」について。
飲食店の来店記念にNFTを発行し、次回来店につなげる。限定商品にNFTを付与して購買につなげるなど、さまざまなマネタイズが考えられますが、房安さんは「web3は購買層を選んでマーケティングできるのが特徴」だと説明します。

房安
収益化に関しては、所有の流動化を促すという観点で、ウィスキーや日本酒のNFTをやっているweb3スタートアップがいくつかありますが、これはすごく面白いなと思っています。
ECやリアル店舗での販売といったチャネル以外に、ウォレットを持っているweb3ネイティブ層にアプローチするチャネルを作り、購買層ごとにマーケティングできるほか、クリプトをたくさん所有するユーザーに訴求できるという意味では初動を作りやすいと考えています。
重松
飲食店を開業する際は、敷金や礼金、内装や外装の工事費、厨房設備費など、ひとりのオーナーが背負う金銭的な負担は大きくなります。これをDAOのような形で地域を巻き込み、開業前からファンがついた状態を作ることができれば、オーナーの負担を減らすことができるわけです。さらに、コミュニティに入っている人みんなで、新商品開発やメニュー開発をしていけば、まさに“web3時代の飲食店”としてビジネスを展開していけるかもしれない。
web3の捉え方次第で、十分に食産業のアップデートができると考えています。

大企業がオンチェーンの取り組みを始めれば、さらにweb3の浸透が進んでいく

セッションの最後はそれぞれの展望とweb3の可能性を語り合い、会を締めくくりました。

房安
今後もWeb3 Development Companyとして、企業のweb3進出をゼロベースから、オンチェーン化するところまで伴走支援していければと思っています。
「ブロックチェーンを活用しなくてもいいのでは」という声を気にしていてはだめで、世界ではスターバックスがすでに顧客向けのデジタルリワードプログラムがあるにもかかわらず、ポリゴンと共同して「NFTロイヤルティプログラム」を始めています。

あえてオンチェーンの取り組みを始め、そのデータを取得することで、新しいユーザー体験やブランド価値の創造に着手しているわけですが、こういったユースケースが増えておけば、web3に参入する事業者やユーザーがもっと多くなると思います。

重松
Web1は電話・郵便、Web2は広告・出版、そしてweb3は金融のデジタル化だと言われていますが、あらゆるレイヤーや産業で大きな変革が起こりうるのがweb3だと思っています。
将来的なweb3のプロモーションのあり方を視野に見据えながら、引き続き事業成長できるように取り組んでいきたいですね。

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  • 藤澤 勇哉
    藤澤 勇哉
    ArtiLamps代表取締役

  • 房安 陽平
    房安 陽平
    株式会社Ginco 取締役 副社長

  • 博報堂キースリー 代表取締役CEO