博報堂キースリー主催「web3グローバルハッカソン」 最終ピッチレポート【前編】
web3事業をプロデュースする博報堂キースリーは、スポンサー企業とのタイアップ型ハッカソン「web3 Global Hackathon」(web3グローバルハッカソン)を手がけています。
第1弾ではトヨタ自動車株式会社を協賛に迎え、「企業内プロジェクト向けDAO支援ツールの開発」をテーマにしたハッカソンを2023年春に実施。国内外から多数の参加者が集い、質の高い作品が生み出され、大盛況のうちに幕を閉じました。
第2弾として、2023年9月30日からマツダ株式会社(以下、マツダ)と三菱地所株式会社(以下、三菱地所)を協賛に迎えた「web3グローバルハッカソン2023」を開催。
「web3に、世界初のサービスを生み出せ。」を掲げた本ハッカソンは、マツダと三菱地所の複数企業が参画し、独自の開発テーマを設定しています。
マツダは“ Drive to Earn, Use for Fun”(ドライブがもっと楽しくなる、世界初のweb3サービスを。)というキャッチフレーズをもとに、web3のテクノロジーを活用したドライバーや同乗者のためのエンタメサービスがテーマとなっています。
一方で三菱地所は“DAO City in Tokyo”(東京駅周辺を最先端のweb3シティへ。)を掲げ、web3のテクノロジーを活用してTOKYO TORCHを舞台に人と人が、有機的に繋がれるサービスの開発がテーマです。
国内外から総勢377名ものエンジニアやクリエイターからのエントリーがあり、プロトタイプの提出数は65チームありました。技術力や創造力などが非常にレベルが高く、1次審査は混戦を極めました。
2023年12月9日には、数ある作品の中から最終審査に選出された15組のチームが、TOKYO TORCH 常盤橋タワーに一堂に集結したピッチイベントが行われました。
本稿では前後編に分けて、web3グローバルハッカソンの最終ピッチの模様をレポートしていきます。
前半は、マツダのハッカソンテーマで1次審査を通過した10組のメンバーによる最終ピッチが実施されました。
【審査員】
・大須賀 学(マツダ株式会社 グローバル販売&マーケティング本部グローバルマーケティング戦略部部長)
・厚井 省吾(マツダ株式会社 MDI&IT本部主査)
・星野 雄一(マツダ株式会社 MDI&IT本部 首席エンジニア)
・高橋 翔太(Bunzz Co-founder/CTO)
・Yuhong Chen(Astar Foundation Head of Japan Business Development)
冒頭では審査員を代表して、大須賀氏がコメントを寄せました。
「9月30日のキックオフイベントでも皆さまにお伝えしましたが、マツダでは『前向きに今日を生きる人の輪を広げる』というパーパスを掲げています。
今回、弊社に対しての提案は10組に厳選させていただきましたが、どの作品も前向きでワクワクするものばかりで、かなり選考には悩みました。我々は“熱量”に感化されやすい会社ですので、ぜひ最終ピッチも楽しみにしています」
ここから10組のエントリーチームによる5分間のピッチが行われました。
1.Beavers’Hive(ビーバーズハイブ)
旅行先やお出かけ先で小遣い稼ぎができるDApp(分散型アプリケーション)の「MAIZO」。
埋蔵金(MAIZOコイン)が眠っている場所にユーザーが到達すると、コインをランダムに獲得できる仕組みとなっています。また、ユーザー側も任意にコインを埋めることができるため、店舗の集客や広告、町おこしへの応用も想定しているとのこと。
今後は、法的規約やグレーゾーンの解消を試み、持続可能性を捉えたビジネスモデルやトークノミクスの設計を行い、社会実装に向けて取り組んでいくロードマップを示しました。
審査員からは宝探しというコンセプトが面白いとの評価が上がりました。そのほか、ユーザーを呼び込むためのアイデアや、「小遣い稼ぎ」でユーザー参入の動機付けを行いつつ、そこからどうビジネスを広げていくのかといった事業の再現性に関する質問が交わされました。
2.Sion(シオン)
自動車にまつわる課題として「車を所有することへの痛み」を提示しました。
中古車売買の「低品質の過剰流通」や、自動車保険の「保険料率の不平等」という課題。
売り手から買い手への情報の不透明性が「ドライバー全体に不利益を与える」と仮定するシオンチームは、情報の透明性とプライバシー性を両立させたプラットフォーム「Sion」を開発しました。
ブロックチェーンによる匿名資格証明のマーケット創出を目指し、データに裏打ちされた中古車売買や個々の運転特性、走行データに基づく保険料率の設定ができる世界を実現したいと述べました。
審査員からは、高度な実装スキルを伴ったサービスであり、さまざまな可能性の広がりを感じるというコメントが寄せられました。その一方で、経済的価値の入り口をどう生み出していくのかという点で、熱い議論が繰り広げられました。
3.Carbon Drive App(カーボンドライブ)
「Carbon Drive App」は、ユーザーが新車購入や日常のドライブによって、カーボントークン(CBT)を獲得し、それをクルマの充電や植林活動に利用できる仕組みになっています。
ユーザーのEVシフトによる経済合理性の確保と環境保護の両立、走行距離に応じたインセンティブ設計を通じ、新たなサービス体験を提供していくといいます。
Drive to Earnによるインセンティブを原動力に、独自トークンを用いた経済権を設計することで、新車EVの販売促進やドライブを促し、クルマを所有する喜びやドライブすることの楽しさを伝えていくサービスにしたいとのことです。
実社会における既存の経済圏やトークンエコノミーのなかで、CBTの価値を高めていく具体的なプランについて、審査員と発表者の間で意見が交わされました。
4.02 Club(ゼロツー クラブ)
次世代web3型モビリティサービス「Map Game 3.0」は、運転中にコインとカードの2種類のトークンを獲得できるものになっています。位置情報を取得することにより、その土地ならではの絵柄が反映されたNFTがもらえるユーザー体験が特徴です。
今後はコネクテッドサービスとの連携を視野に入れつつ、「Unity web3 SDK」を独自開発してAPIを解放していくことで、他のアプリとの接続が可能となり、多様なユーザー体験を創造していきたいと展望を語りました。
質疑応答では、コネクテッドサービスとの連携で見出せる可能性や今後の発展性についてのディスカッションが行われました。
5.YAKIONIGIRIs(ヤキオニギリズ)
web3 Map Platform「Mapda3」は、これまで分散していたドライブルートとその画像を一体化し、「個人の意思」で共有することで、新たな価値創造を図っていくサービスです。
サービスには「経路と画像のNFT化」、「ユーザー同士でストリートビューが作成可能」、「NFT化されたマップをユーザー同士で共有可能」という3つの特徴があります。
また、改ざん不可能なNFTマップを活用した事故検証への応用や、交通量をレポート化し
たデータ販売などの可能性を示しました。
ドライブルートに価値を持たせ、新たなビジネス可能性を示した点は、審査員からも高い評価を受けていました。
6.Enn-Drive(エン・ドライブ)
運転者同士が支援し合い、道路上のドライブ体験を心地良いものに変えていく「Enn-Drive」。
走行中に道を譲ってくれたら「いいね」を送信して、運転者同士の優しい関係性を構築していくサービスになっています。
web3に必要なウォレットの作成や秘密鍵の管理、ガス代などを割愛し、ユーザーの三友障壁を下げたほか、運転者の安全運転や親切な行動を可視化することで「従来の優良ドライバーの証しであるゴールド免許と並ぶ、新たな安全運転の価値基準を作っていく」という構想を発表しました。
サービスの実装は「ブロックチェーンを使って初めて開発したとは思えないほど、高度な技術に取り組んでいた」と、審査員から好評を得ていました。
そんななか、ビジネス視点でユーザーの裾野の広げ方について質問を投げかける場面もありました。
7.TWINACTIV(ツインアクティブ)
デジタルツインを活用した、リアルバーチャルワールドのシームレスなカーライフ統合プラットフォームの「TWINACTIV」。リアル世界のカーライフをバーチャルにも拡張し、「リアル」と「バーチャル」で対になる2台のクルマを媒介に、新たな経済圏を生み出すのを目指しています。
Z世代やα世代などへの新しいデジタル体験の提供や、リアル・バーチャルにおけるカーライフの相互拡張、そしてクルマを起点としたトークノミクスの形成を目標に開発を進めていくとのことです。
「リアルのクルマ」と「バーチャルのクルマ」の間でどう繋がりを持たせ、意味付けしていくのかについて議論が交わされ、ユーザーの取り込み方や新しいカーライフの可能性についても意見が上がりました。
8. 車社会に平和をもたらす「Pigeon」(ピジョン)
ピジョンチームは免許証やマイナンバー、SNSなど、さまざまな「ID」からweb3ウォレットを作成できるサービスと、近くのクルマへ「感謝」を伝えるコミュニケーションツールを開発しました。
後者は音声認識とGPSを使い、「急な割り込みに対応してくれたお礼」としてトークンを付与する設計になっています。
運転マナーとしての“譲り合いの精神”にインセンティブを付与することで、「クルマ社会の不平等性」をなくしていく世界を目指したいとのことです。
ユーザーがトークンをもらいたくなる動機や、割り込みしてくる運転者をなくすための工夫についてのやり取りが質疑応答で交わされました。
9.MAZDA Driver Identity(マツダドライバーアイデンティティ)
MAZDA Driver Identityは、マップ上の宝箱を探しながら「ドライバーアイデンティティ」を構築するアプリです。
訪れた場所や時期に応じて、限定アイテムや特典を得られるほか、クルマのすべてのパーツをDynamic NFT(動的に変化するNFT)として反映できる仕組みを構築しています。
アプリでの体験をブロックチェーン上に構築することで、他サービスでもアイデンティティの連携が可能になることから、サービスの拡張性や発展性を見据えた上でのプレゼンとなりました。
日本企業にweb3を提案していく際の課題を先回りし、解消している点は審査員から高い評価をもらっていました。
そのほか、ユーザーがアプリを継続利用するモチベーションの担保や技術選定のポイント、クルマのアイデンティティをNFTで表現する異議など、白熱した意見交換がなされていました。
10.てりたま
運転者と同乗者が窓の外の景色でビンゴを楽しみながら思い出を記録するアプリ「Sotomiru」。
旅行の目的地や時間、季節などの情報をもとに毎回違うビンゴカードの「ミッション」をChatGPTが作成し、そのミッションに沿った風景を探してビンゴを埋めていきます。
すべてビンゴを達成すると、撮影した画像とコメントから完全オリジナル動画の「思い出NFT」が作られます。
また、プライベートモードとパブリックモードの2つから選択でき、前者は家族旅行やカップルといったクローズドなシーン向け、後者は世界中の誰かが作成したビンゴカードに参加できるように設計したそうです。
このサービスに「web3を使う理由」についての質問が審査員から出たのに加え、具体的なビジネスの想定事例についてのディスカッションが繰り広げられました。
後編では三菱地所のテーマのプレゼン内容と表彰の様子をお届けします。
▶後編はこちら
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