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日本の伝統文化とNFTは融合するか ──「御朱印NFT」の実証実験から見えた新たな可能性(前編)
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日本の伝統文化とNFTは融合するか ──「御朱印NFT」の実証実験から見えた新たな可能性(前編)

今、若い世代の間でも「御朱印」が人気を集めています。神社の参拝証明である御朱印と、ブロックチェーンの技術を用いてコンテンツの複製を防ぐNFT(非代替性トークン)を組み合わせた画期的な実証実験が行われました。このプロジェクトを担った博報堂DYグループのメンバーが、実験の舞台となった竹神社のある三重県明和町の観光復興を進める明和観光商社の千田氏・秋山氏と、NFTサービスの開発を行うCryptoGamesの加藤氏をお招きして、取り組みの成果や意義を振り返りました。

千田良仁氏
明和観光商社 代表理事

秋山実愛氏
明和観光商社

加藤雅人氏
CryptoGames プランナー

中川浩史
博報堂行動デザイン研究所 所長

石毛正義
博報堂行動デザイン研究所

伊藤佑介
博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ

生田大介
博報堂アイ・スタジオ 執行役員
博報堂行動デザイン研究所

地域の観光資源を活性化させるために

──御朱印とNFTの組み合わせはかなり意外ですね。この実証実験の企画の発端は何だったのですか。

中川(博報堂行動デザイン研究所)
博報堂行動デザイン研究所はこれまで、新しいテクノロジーが生活者の行動に及ぼす影響をさまざまな形で検証してきました。その取り組みの一環として、最近話題を集めているNFTを使った実証実験をしてみようと考えたのが最初のきっかけでした。
石毛(博報堂行動デザイン研究所)
社会実装の実証実験を行うなら、コンセプトを考え実装するだけでなく、長く続けられる座組みをつくらなければなりません。そこで技術実装のノウハウをもつ博報堂アイ・スタジオにもプロジェクトに加わってもらうことにしました。
生田(博報堂アイ・スタジオ)
御朱印とNFTを組み合わせるというアイデアは、博報堂アイ・スタジオに神社とのネットワークがあるスタッフがいたことから生まれたものです。そこから、三重県・明和町のDMO(観光地域づくり法人)の皆さんとのご縁を得て、明和町にある竹神社で御朱印NFTを配布する実証実験を行うことになりました。
千田(明和観光商社)
私は明和町のDMOの代表理事を務める一方で、神職養成学科がある伊勢市の皇學館大学で教鞭をとっています。そのため、以前から竹神社とのつながりがありました。明和町は伊勢市と松阪市の間にあるのどかな町で、豊かな歴史文化はあるのですが、観光コンテンツという課題がありました。

そこで、地元の氏神である竹神社を文化資産として活性化させていこうという動きが2年ほど前から始まりました。以前は年末年始などに限定していた一般参拝を、週末や満月の日などにも行うようにして、オリジナルの御朱印を配布するようにしました。今回の実証実験もそのような取り組みの一環として行われたものです。

生田
参拝をして御朱印を購入してくださった方に無料で御朱印NFTを配布するというのが、この実証実験の主旨でした。配布に当たっては、竹神社の名物の一つとなっている花を浮かべた手水鉢である「花手水」をモチーフにしたイラストを博報堂のアートディレクターの監修のもと描いてもらい、それをランダムに組み合わせてデジタル御朱印を生成する仕組みを博報堂アイ・スタジオで実装しました。配布のプラットフォームは、以前からおつき合いのあったCryptoGamesにご協力いただくことにしました。

<竹神社の花手水をモチーフとした御朱印 NFT のイメージ>

加藤(CryptoGames)
CryptoGamesは、ブロックチェーンゲームやNFTの販売プラットフォームを提供しています。これまでイベントでのNFT配布や、地方活性化にNFTを活用する試みを行ってきたこともあり、ぜひその経験や知見をご提供したいと考えました。

参拝者との関係を結び直す

──神社の関係者の皆さんにNFTについて理解していただくのは難しかったのではないでしょうか。

千田
ハードルはありましたが、皇學館大学の卒業生である秋山が尽力してくれました。
秋山(明和観光商社)
2年前から明和観光商社のスタッフとして竹神社を担当するようになり、氏子さんたちと一緒に神社の活性化を進めてきました。その過程で築いてきた信頼関係があったので、話自体はしやすかったですね。とはいえ、デジタルコンテンツやNFTは、神社関係の皆さんにとって決して馴染みのあるものではないので、すぐに理解していただけたわけではありません。「よくわからないけれど、とりあえずやってみようか」ということで、一緒に取り組んでもらうことになりました。

──神社側のメリットを具体的にどう説明されたのですか。

秋山
コロナ禍以降、参拝に行きたいけれど行けないという人がたくさんいました。そのような人に再び参拝していただくきっかけになるということが一つです。もう一つは、これまで参拝したことのない方々が、御朱印やNFTに興味をもって参拝してくださるかもしれないとお伝えしました。
中川
この実証実験は利益を目的としたものではありませんでしたが、神社には維持や改装などの費用が必要であり、その多くは寄付や賽銭などによって賄われるという現実があります。この実験によって多くの参拝者との関係が生まれ、それが神社の継続的活動につながるという点も、竹神社のメリットであると僕たちは捉えていました。

CRMツールとしてのNFT

──実験の概要についてお聞かせください。

石毛
竹神社の一般参拝の日である「満月参り」に神社に参拝して紙の御朱印を授けられた方にQRコードを無料で配布して、御朱印NFTをダウンロードしていただくというのが大まかな流れでした。御朱印NFTは10種類あって、どれがダウンロードされるかわからないという仕組みにしました。神社に実際に行かなければ入手できないというのが大きなポイントでしたね。
生田
御朱印は若者の間で人気を集めていることもあって、当初はオンラインのNFTマーケットで御朱印の画像を配布するという方法を考えました。しかし、秋山さんとお話をする中で、御朱印とは参拝をした証なので、神社に足を運んでいただかなければ意味がないというご指摘をいただきました。

現在のNFTコンテンツの中には、価値があるのかどうかわからないものも多いのが現状だと思います。その中にあって、参拝という行為や御朱印という参拝の証とNFTが組み合わさるとどうなるか。それが、この実証実験で僕たちが明らかにしたいことでした。リアルな御朱印とデジタルの御朱印の両方を手にできるというのは、御朱印ファンにとってはとても魅力的なことだし、一種のデジタルツイン的な取り組みでもあるので、興味を持ってくださる方々は決して少なくないのではないかと考えました。

伊藤(博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ)
2018年からブロックチェーン技術を基点としてサービス開発を行う博報堂ブロックチェーン・イニシアティブというチームで活動してきたのですが、この4年間の取り組みの中で強く感じてきたのは、NFTは人と人、地域と地域を結びつける可能性を秘めたツールであるということです。

NFTとはそのコンテンツのオーナーシップを証明する技術です。自分が保有しているコンテンツをコミュニティで互いに見せ合ったり、交換し合ったりすることで、NFTを軸とした関係の広がりが生まれます。そのようなコミュニケーションツールとしてのNFTの特徴を社会貢献や地域活性化にいかせないかとこれまでずっと考えてきました。そして、今回の実証実験は、その可能性を拓くものだったと思います。

──なぜ通常のデジタルコンテンツではなくNFTである必要があるのでしょうか。

伊藤
NFTは数量が限定されたコンテンツを誰が保有しているかを高い透明性と信頼性をもって示せる技術なので、NFTの作り手と受け手との間でオープンでフェアな関係づくりができるという特徴があります。受け手にとっては「希少性の高いコンテンツを確かに保有できる」というメリットがあり、コンテンツの作り手にとっては保有してくれている受け手と直接つながりを持ち続けられるというメリットがあるわけです。マーケティング用語で言えば、NFTは一種のCRMツールにもなりうるということです。
中川
NFTは転売によって価値が上がっていくという側面もありますが、そのような二次流通がなくても、NFTを通じて「思い」のようなものを共有できるのではないかというのが僕たちの仮説でした。御朱印ファン同士の思い、神社に参拝した思い出、参拝したときの気持ち──。そういったものを可視化できるのが御朱印NFTではないかと。
加藤
現在のNFTは、投機的側面に注目が集まっています。しかし、社会実装の事例が広がっていくことによって、それ以外のさまざまな価値が生まれていくと考えられます。今回の実証実験も、NFTの新しい価値を見つけるための取り組みの一つでした。

東京や大阪からの参拝者も

──実証実験の結果についてお聞かせください。

中川
満月の日の3月18日の10時から19時まで実施したのですが、残念なことにその日は1日大雨で、参拝に適した天気ではありませんでした。それでも200人以上に参拝していただき、そのうちの3分の1くらいの方々に御朱印NFTをダウンロードしていただけました。

秋山
東京や大阪から来てくださった方々もいましたね。
石毛
実施2日前でのニュースリリースに加え、竹神社のSNSでも情報発信をしていただきました。そこから情報が共有されて、東京や大阪の御朱印ファンの目にとまったと考えられます。
千田
NFTを目当てに足を運ばれた方も多かったようですね。その様子を見て、氏子さんたちもこの実証実験の意義を実感されたと思います。
秋山
私が気になっていたのは、いつも参拝している方々がNFTを受け入れてくださるかどうかという点でした。しかし現場でお話を伺った感じでは、ほぼ抵抗なく受け入れていただけたようです。
中川
年齢層で見ると、通常の満月参りのときと比べて若い参拝客が多かったという結果が出ています。ご年配の方々にはNFTには興味を示してもらえないかなという不安もありましたが、実際は60代以上の方々もスマートフォンを使ってダウンロードしていました。
加藤
現場でウォレットのダウンロード方法の説明をさせていただいたのですが、NFTコンテンツに触れるのは初めてという方でも、丁寧にご説明すれば理解していただけました。とくに年配者には新しいデジタル技術は受け入れられないというイメージもありますが、コミュニケーションをしっかり行えば問題なく進められるということがよくわかりましたね。
後編に続く)

竹神社デジタル御朱印展示会はこちら

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