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日本の伝統文化とNFTは融合するか ──「御朱印NFT」の実証実験から見えた新たな可能性(後編)
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日本の伝統文化とNFTは融合するか ──「御朱印NFT」の実証実験から見えた新たな可能性(後編)

現在は投機的側面に注目が集まっているNFT(非代替性トークン)ですが、生活者のかけがえのない「思い」を可視化するツールという側面もNFTにはあると、「御朱印NFT」の実証実験に関わったメンバーは口を揃えます。人と人とをつなげ、思いと思いをつなげる技術としてのNFT。その可能性について語ってもらいました。
前編はこちら
<竹神社デジタル御朱印の展示会はこちらからご覧いただけます>

千田良仁氏
明和観光商社 代表理事

秋山実愛氏
明和観光商社

加藤雅人氏
CryptoGames プランナー

中川浩史
博報堂行動デザイン研究所 所長

石毛正義
博報堂行動デザイン研究所

伊藤佑介
博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ

生田大介
博報堂アイ・スタジオ 執行役員
博報堂行動デザイン研究所

御朱印とNFTに共通する「限定性」

──4年間にわたって博報堂ブロックチェーン・イニシアティブとしてブロックチェーンの可能性を追求してきた立場として、今回の実証実験にはどのような手応えを感じていますか。

伊藤(博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ)
これまでにない大きな手応えを感じました。それをもたらしてくれたものは、大きく3つあると思います。1つは、博報堂のクリエイターが、クオリティの高い御朱印NFTのデザインを創作してくれたこと。もう1つは、CryptoGamesに提供していただいたQRコードからNFTを入手する仕組みが、参拝者の皆さんにとって新鮮で関心を惹く体験だったこと。さらにもう1つは、地元の人々に愛されている長い歴史をもった文化財である三重県明和町の竹神社を実験の舞台にできたことです。この3つがあいまって、いわゆる巷でよく見聞きするような、ただ投機的に高値で売買されるだけのNFTとはひと味違った、社会的な価値を体現したNFTの展開が実現したと考えています。

<竹神社の花手水をモチーフとした御朱印 NFT のイメージ>

──QRコードを使ってスマートフォンでNFTを取得する仕組みは、これまではあまり用いられていなかったのですか。

加藤(CryptoGames)
仕組み自体は特別なものではありませんが、ソーシャルログインでNFT用のウォレットを開設できるという機能はほかにはあまりないかもしれません。従来のNFTユーザー層ではない方々にもお使いいただける仕組みをつくることで、「入り口」を広くすることを目指しました。
千田(明和観光商社)
神社側の視点で見ると、御朱印とNFTには実は親和性があることがわかった点に大きな意義があると思います。御朱印はその日にお参りした証であり、それ自体に値段がついているわけではありません。もちろん代金はいただくのですが、頂戴しているのはお金というよりも参拝者のお気持ちです。つまり、一人ひとりの参拝者の特別なお気持ちが御朱印の価値となっているということです。

NFTの価値もまた、限定性、唯一性にあります。そのNFTがその人だけのものであることによって価値が生まれるわけです。その日の参拝の特別な証である御朱印と、その人だけの特別なNFT。そこには共通する価値があるように思います。

──この実証実験は、神社業界にも大きなインパクトをもたらしたのではないでしょうか。

千田
そう思います。神社でNFTを活用するのは初めてのことであり、しかも地方の小さな神社が率先してそれに取り組んだことの意義は大きいと思います。デジタルを活用して参拝者との深い関係性を築くことで、神社のサステナビリティを実現する。そんな試みがこれから広がっていく可能性があると考えています。

最新のデジタル技術と日本文化の融合

──実証実験をやってみてどうだったか、それぞれのお立場からご意見をいただけますか。

中川(博報堂行動デザイン研究所)
やはり、投機性ではなく、その日その場所に参拝したという行動の唯一性・非再現性や、参拝者の「思い」にフォーカスできたこと。それが何よりの成功の要因だったと思います。
石毛(博報堂行動デザイン研究所)
もともと御朱印に価値を感じていた参拝者がNFTにも価値を感じていただいたこと。参拝というリアル体験とNFTを取得するデジタル体験が経験的な価値として結びつけられたこと。その2点が大きなポイントだったと感じています。

生田(博報堂アイ・スタジオ)
最新のデジタル技術と日本ならではの文化の融合を実現できたことが大きかったのではないでしょうか。
加藤
僕も同感です。NFTという一種の媒体を軸として、デジタルと文化財を上手に組み合わせることができた企画だったと思います。CryptoGamesはこれまで地域創生を一つのテーマに掲げてきたこともあって、この実験は何としても成功させたいと考えていました。参拝者の皆さんに受け入れていただけて本当によかったです。
伊藤
これまでにない座組みがつくれたことが一番の要因だったと捉えています。博報堂側にはプランニング、クリエイティブ、テクノロジー等の各領域のプロフェッショナルがいて、さらにパートナー側には、参拝者とのインターフェースを提供してくださったCryptoGames、明和町に根差した活動を続けてこられたDMOや観光商社の方々がいてくださったことで、今回のNFTの価値の源泉である文化財をお持ちの神社の関係者の皆さんに安心していただくことができました──。ブロックチェーンに取り組み始めた4年前の段階で、このような座組みをつくることは不可能でした。NFTの認知度が高まってきたことに加えて、マネタイズが前提ではない実証実験の意義をいろいろなプレーヤーと共有できたことがよいパートナーシップにつながったのだと思います。
千田
御朱印NFTのデザインが素晴らしかったことと、その場でランダムに生成する仕組みが多くの参拝者の心を捉えたことも成功の要因だったと感じています。通常の御朱印は、日付や参拝者の名前を書き込むことで唯一のものとなります。その特徴を踏まえた取り組みだったと思います。
秋山(明和観光商社)
神社側の皆さんに新しいことにチャレンジしようというマインドがあったことも大きいですよね。私のような若いスタッフの意見を受け止めて、一緒に実験に取り組んでくださいました。日頃の参拝者や地域の方々も、「竹神社は新しいことをやる神社」というイメージを持ってくださっています。御朱印NFTという新しい試みをこれまでの活動の延長線上に位置づけたことで、神社、参拝者のどちらにも受け入れられたのだと思います。

投機的NFTから「愛のあるNFT」へ

──今後の可能性についてもご意見をお聞かせください。

千田
神社には伝統的に「奉納文化」があります。物理的な奉納物は保管や管理が必要ですが、デジタルのアートであれば、その必要はありません。地域の人々にNFTアートを神社に奉納してもらい、それをきっかけに継続的なつながりをつくっていく。そんな取り組みの可能性を感じました。

もう一点、地域創生いう観点から見ると、NFTはコミュニティづくりのツールにもなりうると思います。地域の高齢化が進む中で、NFTをきっかけに若い方々がその地域を訪れ、住民と交流することで、地域が活性化する。そんな道筋をつくっていくことも今後はできるような気がします。

秋山
外部の人たちと地域との間の交流だけでなく、地域の中の世代間交流のツールとしてもNFTは活用できる可能性があると思います。若い世代が年配の方々に、スマホの使い方やデジタルコンテンツをダウンロードする方法を教えてあげたりすることで、これまでになかったコミュニケーションが生まれるといいですよね。
加藤
NFTはCRMツールになるというお話がありましたが、最近ではNFT所有者の行動や嗜好性などを把握する「トークングラフ」を用いて継続的な関係づくりを行うことができるようになっています。マーケティングや生活者とのコミュニケーションにNFTをどう使っていくか。その可能性を今後も追求していきたいと考えています。

生田
今回の実験で、NFTを社会や地域と結びつけることができることがわかりました。博報堂アイ・スタジオがもっている技術実装のノウハウを社会課題の解決や地域づくりにいかしていきたいですね。
石毛
NFTという新しいツールを活用することでこれまでにない体験を生み出し、生活者がハッピーな気持ちになれる基盤づくりを広告会社が陰ながらお手伝いをする。そんな活動を続けていればと思います。
伊藤
ここまでの話にも出てきましたが、現在のNFTは極端に投機的な金融資産の側面が強調されすぎている傾向にあります。それに対して今回の実験は、「社会的な文化財としてのNFT」にチャレンジした国内におけるパイロットケースであり、広告会社のクリエイターやプランナーが本格的に関わったという点でも初めての試みだったと思います。今後、NFTはSNSやアプリなどと同様の汎用的なツールになっていくべきだと考えています。そして、そういった活用を進めることでNFTの可能性がどんどん広がっていくと信じています。
中川
地域の文化を守りさらには活性化させていく、大事なのに頭の中だけで終わりがちなことでも、新しい技術をうまく取り入れることでちゃんと行動にまで昇華させられる──その気づきを改めて感じることができた実証実験だったと思います。今回の取り組みの中心にあったのは「愛」だったと僕は感じています。地域文化や御朱印への愛がもともとあって、それをNFTという新しい技術と結びつけることができたところに、この取り組みの大きな意義がありました。

マーケティングでは「ブランド」という言葉をよく使いますが、ブランドとは商品や企業に対する愛を可視化したものとも言えると思います。そう考えれば、NFTによって生活者の愛を具体的な形にし、それをブランディングに活用していくという方向性は大いにありうると思います。投機的NFTではなく「愛のあるNFT」によって、人と人、人と地域、人と商品、人と企業をつなぎ、社会に愛を還流させていく。そんな取り組みにこれからチャレンジしていきたいですね。

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    明和観光商社 代表理事

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    秋山 実愛氏
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    加藤 雅人氏
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