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新商品の売れ行きは検索データで予測できるのか?
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新商品の売れ行きは検索データで予測できるのか?

新商品の売り上げを予測したい――メーカー担当者ならだれしもが思うことだろう。今回取り上げるHandy Marketingと博報堂DYグループが共同で行った検証は、まさに「商品の売れ行きをデータで予測できないか」というものだ。実用レベルでそれが可能になれば、多くの企業にとって朗報である。データの扱いに長けた同社の取り組みについて話を聞いた。

※本記事は『Insight for D』(インサイト フォー ディー)に2017年6月21日に掲載された記事を、許可を得て転載しています。

クライアントの課題から生まれた商品売り上げ予測

2016年4月、博報堂DYメディアパートナーズ、ヤフー、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)の三社が、株式会社Handy Marketing(以下、Handy Marketing)を共同で設立した。同社では、三社が積み重ねてきたノウハウを生かして、新たなデジタルマーケティングにおける研究や開発が行われている。

そして2017年1月に、Handy Marketingが博報堂DYグループと共に取り組みのひとつとして行ったのが「新商品の売れ行きをデータで予測できるか」という検証だ。新商品の売れ行きを前もって高い精度で見積もることができれば、販促のプラニングやサプライチェーンの側面においても大いに役立つことはいうまでもない。

なぜ、同社はこの検証をするに至ったのか。そのきっかけを、博報堂DYメディアパートナーズのアナリストであり、今回の検証に参加した山中氏はこう語った。

「私はアナリストとして日々、クライアントが行ったマーケティング施策の効果検証に取り組んでいます。そのなかで、さまざまな業界のクライアントとのディスカッションを通じて、『新商品の販売トレンドを発売前に予測できないか』という課題にたどり着きました。その解決策を講じるために、Handy Marketingに声をかけたのです」(山中氏)

博報堂DYメディアパートナーズ データドリブンプラニングセンター データアナリティクス部 アナリスト 山中大蔵氏

言うまでもなく、新商品の売れ行きを予測するのは簡単なことではない。しかも生活者へのインタビューやアンケートを行えば、それなりにコストや工数がかかる。そこで山中氏は、生活者の動向を示す指標として「検索データ」に着目した。検索という行為には生活者インサイトが見え隠れするからだ。

Handy Marketingは「博報堂DYグループとヤフーそれぞれが持っているデータや知見を生かして、より高度なマーケティング支援を行う」という目的のもとに設立されたジョイントベンチャーだ。ここではヤフーの独自データを活用できる環境が整っており、もちろんヤフーの検索データを使った分析もできる。そのことを知った山中氏は、Handy Marketingに相談を持ちかけたという。

実は、ヤフーに籍を置く傍らHandy Marketingでシニアアナリストを務める野尻氏も同じような考えを持っていた。

「検索データをいかにマーケティングで活用するか、常に模索していました。検索データと生活者の購買動向の相関関係なども独自に調べていたのですが、ちょうどそのとき社内のメンバーを通じて山中さんを紹介されたのです。話を聞いてみれば、まさに私がやりたかったことと同じだと感じました」(野尻氏)

また山中氏とともに研究に加わった博報堂DYホールディングスの主任研究員 諸橋氏も「検索データには、生活者の意識や行動が表れます。従来、アンケートなどでしか得られなかった生活者意識というものをデータから把握できれば、マーケティングの新たな可能性を見いだせるのではと思いました」と、ヤフーの検索データに期待を寄せていた。

こうして3人の思惑が一致し、「新商品の売り上げを予想する」というプロジェクトが始まった。

新商品は発売前に検索されるのか

検証にあたって素材として選んだのは、流通・小売にもよく並んでいる商材であるブランドA。選んだきっかけは、ブランドAのとある新商品がSNSで話題になり、コンビニなどで品切れになった出来事が、今回の検証の根底にあるクライアントの課題解決のイメージに直結したからだという。さらにブランドAは、季節性のある新商品を定期的に発売することから検証母数が豊富であるという点、マス広告の出稿量がそれほど多くないことから売り上げに影響する要因が少ないという点において、検証の素材としてはうってつけだった。

ブランドAの新商品の売れ行き予測の検証ステップは3つだ。はじめに仮説を設定し、それをもとにしたモデルの構築を経て、最後にモデルを用いて仮説の検証をする。

仮説作りにあたり、メンバーはまず商品の売り上げ動向と、検索数の推移などがどのように関係しているかに目を向けた。先行研究では、新商品の発売直後は、売り上げの推移と関連する検索量が相関することが多いとされている。しかし、商品の発売後に「売り上げが増えたから、関連する検索量も増えた」と確認したところで何にもならない。そこで発想を変えて、「新商品は、発売前の時期にどれだけ検索され、その数はどう推移するのか」という点に着目した。

そして、この視点によって検索データを解析していくにつれ、若干ではあるが、「新商品の発売前に、一瞬だけ検索量が増える瞬間」があることが明らかになってきた。

「なぜ一瞬でも検索量が増えるのか調べてみたところ、商品発売前にメーカーが発信する情報に反応している人たちが、ネット上に一定数いることがわかったのです。もともと『発売前の情報発信に反応(検索)する人たちのうちの一部は、実際に商品が発売されたら購入するはず』という考えから、『発売前から反応する人たち』が、売り上げ予想にも使えるはずだと感じました」(山中氏)

新商品が市場に出回る前に、すでに生活者は動いている――こうして「新商品発売前の検索量(生活者の反応)は、その後の売り上げと相関がある」というひとつの仮説が生まれた。

約70%の精度で売り上げ予測に成功

この仮説をもとに、基本となるモデルの構築が始められた。モデルの構築とは、データをうまく説明するような数式を用意し、その当てはまりを検証することであり、例えば「歩いた距離」は「歩幅×歩数」という数式で説明できる。

モデルの精度は、実際得られたデータがモデルの数式でどれだけ再現できるかで決まる。上記例では「歩幅×歩数」がわかれば、「歩いた距離」はほぼ完璧に再現できるだろう。精度の高いモデルが構築できれば、そのモデル式から予測やシミュレーションが可能になる。

商品発売前の検索量を含めたデータを「商品期待度」と名づけ、2015年に発売されたブランドAの数種類の商品における販売データをもとに、試行錯誤がつづいた。そして、商品ごとの特徴に左右されにくい均一化されたモデルの構築に苦労しながらも、ようやく高い精度が期待できるひとつのモデル(指数関数の図)が完成した。

モデルのイメージ図   ※注釈:実際の式は非公開のため、図はイメージ

このモデルに、商品発売前のある一定期間内の検索量(商品期待度)を代入し、発売2週以内の販売数量が図中の曲線に近ければ近いほど予測精度が高いといえる。たとえば商品期待度が4であれば、実際の販売数量は2.2となるべき、ということだ。

検証には、2016年に発売された数種類の商品が用いられた。各商品の販売期待度をそれぞれモデルに当てはめた結果、実際の売り上げと予測値の相関係数も高く、実に約70%の的中率で予測することに成功した。

この結果に対して野尻氏は、「まずまずの結果が得られたと思います。一方で、検証した商品の中で予測値から外れた商品もありました。その理由としては、PRに起用された有名人が別の話題でバズったなど、外的要因があります。今後は、そういった要因を含めたうえでモデルを改修していきます」とさらなる精度向上を目指している。

今回の検証で得たもうひとつの大きな成果は、生活者の期待度が検索データなどから見えたことだ。

「従来、検索データというのは事後検証で使われることがほとんどでした。しかし、今回の検証結果から、販売予測にも活用できることがわかったのです。つまり、検索データのマーケティング活用の可能性が広がったといえます。売り上げの予測が立てられれば、広告出稿や商品生産の計画立案にも役立つと思います」(野尻氏)

株式会社Handy Marketing シニアアナリスト 野尻正行氏

 重要なのは目的に応じたデータの使い分け

今回は、商品発売直後の売り上げ予測を行ったが、今後はブランドA以外の商材も含めて発売後1年先までの長期的な売り上げ推移まで予測できるようにしていく構えだ。そのために重要となるのは、目的に応じたあらゆるデータの使い分けだと博報堂DYホールディングスの諸橋氏は語る。

「商品が発売される前は、その商品が気になるから検索して調べるわけです。しかし、発売後は検索のあり方が変わってきます。広告を見た影響で検索するかもしれませんし、CMに出ているタレントが知りたくて調べるかもしれません。検索という行為は変わらなくても、検索の目的が変わるのです。そうなればデータの見方も当然変わってきます。さらに、新商品を食べた感想などがSNSで多くつぶやかれることも踏まえると、非構造なテキストデータもまた、使いようがでてくるわけです」(諸橋氏)

博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 開発3グループ 主任研究員 諸橋直也氏

 また、定量データと定性データを互いに照らし合わせながら活用することも必要だ。過去のInsight for Dの記事『購買フェーズでこんなに違う! 検索キーワードが示すニーズの変化』でも紹介したが、たとえば車の購入を検討している人に対して「いつから検討開始したのか」とアンケートを採ると、アンケートで答える検討開始時期と、実際に検討を開始した(検索して車の情報を調べ始めた)時期にはズレがある。つまり人は、自分の意識と実際の行動が必ずしも一致するとは限らないといえる。中長期的な売り上げ予測においては、この意識と行動のズレを考慮する必要があり、定量データと定性データをともに活用することが重要となるのだ。

「データ」だけでなく「人」にも感じたシナジー

検証プロジェクトのメンバーは、今回の実証を通してHandy Marketingはジョイントベンチャーとして博報堂DYグループとヤフーの相互の強みが掛け算で生かされていると強く感じたそうだ。互いのデータの特徴を活用して新しい分析にチャレンジできるのはもちろんのこと、特に「人」のシナジーも肌で感じたと諸橋氏はいう。

「ふだん、私と山中は『データが生活者のどういう行動から発生したのか』という視点でデータに触れることが多いのですが、野尻さんは『ヤフーというメディアから取得できる膨大なデータをどうハンドリングするのか』という視点でデータに触れることが多いと気づきました。同じデータを見ていても、データへのアプローチが違うことが新鮮でした」(諸橋氏)

博報堂DYグループには「生活者発想」というフィロソフィーが根付いていることから、データに触れる際にも生活者のデータ基点でモノを考えることが多い。一方、ヤフーは多様なサービスを持ち、自社で膨大な広告掲載面を持っていることから、メディアのデータ基点で課題解決に臨むことが多い。立場が違えば保有するデータも違い、考え方や発想も違ってくるのだ。この両社の視点の違いを組み合わせてクライアントの課題に挑むことで、新たな解決策を導くことができるのだという。

「見方が変われば新しい発見があります。今回の実証がうまくいったのも、異なる視点からさまざまな意見を交わせたことが大きいです。ヤフーには知恵袋やショッピング、ニュースなど多種多様なサービスがあるので、今後それらのデータと博報堂DYグループが持っている生活者データを横断的に活用できれば、また面白い発見があると確信しています」(諸橋氏)

3人ともに今回の実証をさらに発展させることを考えている。いずれは、単に売り上げ予測の結果を提示するだけでなく、あらゆるプロモーション施策の影響の可視化や、売れる商品の特徴抽出まで行い、新商品開発領域から宣伝戦略立案まで、すべてのマーケティング領域に関わりたいと考えているそうだ。データ分析のプロフェッショナル集団は、ひとつのマーケティングソリューションの提供にとどまらない新しいデータ活用の未来を提示しようとしている。

※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。

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  • 博報堂DYメディアパートナーズ データドリブンプラニングセンター データアナリティクス部 アナリスト
    2007年博報堂入社。初任配属は経理財務局。初任配属以降、7年半に渡り本社マネジメントスタッフとして、業績管理・予算策定・中期計画策定・全社会議体運営に携わった後、博報堂DYメディアパートナーズにて、マーケティングミックスモデリング等を活用したマーケティングROIの可視化業務に取り組む。
  • 博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 開発3グループ 主任研究員
    2009年博報堂入社。初任配属は経理財務局。本社マネジメントスタッフを経て、2012年よりマーケティングプラナーとして、通信、自動車、日用消費財など諸分野での戦略立案、コミュニケーションプラニング、ブランディング、商品開発を担当。2015年より現職。データ分析やマーケティングテクノロジーソリューションの開発に従事。
  • 株式会社Handy Marketing シニアアナリスト
    2012年ヤフー株式会社入社。広告主のCRMや広告プロダクトのパフォーマンスの分析業務に従事。2016年4月より株式会社Handy Marketingに出向。ヤフー×博報堂DYグループのデータを活用したマーケティングリサーチの研究に取り組む。