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—問いを立てる技術—

データ時代に生きるみなさん、こんにちは!
VoiceVisionの田中です。

前回は大高より、「ファシリテーション・クリエイティブ」に必要なスキルとして「ひきだし力」と「うみだし力」のお話をさせていただきました。
今回は、私、田中より、「ひきだし力」の中でもスタートダッシュの土台を整える上で大切な「なげかけ」つまり、問いを立てる技術についてお話いたします。

「問い」は誰でも立てられるものでしょうか?
はい。誰でもできます。でも「良い問い」は自動販売機から缶がガランと出てくるようにはいきません。データ、すなわち不特定多数の人の思いから、自分の中にはない新しい解答をひきだすための問いを立てるには自分の視野を広げ、未来への想いを深めることが必要です。
私が関わってきたママを元気にする共創ネットワーク「リーママプロジェクト」での観察と、メディアアートの聖地とも言われる「アルス・エレクトロニカ」での取り組みを例に問いを立てるということについて見て行きましょう。

聞きたい事だけを聞いていないか?

例えば、共働き家族の台所事情に必要なサービスについて問うたとしましょう。
もしそのままズバリ
「お宅のご家庭で必要とされている台所まわりのサービスはなんですか?」
という問いをたてたら、過去の経験上、返ってくる答えの多くは「時短」ですね。
ちなみに、我が家(構成員=教員の夫、13歳中1男子、10歳小5女子、6歳小1男子)はどこを更に「時短」したらいいか分からないほど、あらゆる角度から「時短」しています。今なにが欲しいかと言われたら「時短」ですし、仕事も削って、家庭も削って頑張ってきた身としては「時短」が正攻法であると認めてもらいたいと強く願います。
でも果たして私は「時短」を目指して生活しているのかと聞かれたら決してそうではないでしょう。大きく言うと、時短の先にある家族との豊かな生活時間を目指していますし、もう少し具体的な時間への価値基準を言い当てるとしたら「親と子どもそれぞれの地に足のついた成長」を目指した家庭づくりのために、必要な範囲で“時短”を取り入れているでしょう。リーママプロジェクトでのインサイト言葉に「最後は自分が豊かになるため」という言葉があります。両立の苦労も、狭き門である管理職への登用も、子どもを自立に導く途中の軋轢も、こころ豊かな生活や時間、空間のためなのです。
なので、時短はあくまでひとつの過程であり、一旦ひとつの時短課題が解決されたらば、私は「親と子の成長」のために次のステップを求めるでしょう。

<1>リーママプロジェクト ランチケーション

<1>リーママプロジェクト ランチケーション

したがって、問いの投げかけでそうした心の奥にある“真意”までをひっぱりだすためには、今日の課題の先にある次の物語を聞き当てることが重要になります。

先ほどの投げかけを、たとえば
3年後も家族みんなが笑顔でいるために、台所はもっとどのような役割を果たせると思いますか?
という問いに発展させることで、回答者は想像を膨らませてココロの奥を旅するため、より幅のある回答を得ることができるようになります。

ここでポイントを3つ:

<2>3つのポイント

<2>3つのポイント

  1. 「幸福論」にはならないこと!=生活への希望を問い詰めると、幸福のためとなります。これは必ずなります。人は誰しも最後は幸福になりたいですから。でも、それはどのような、誰のための、どんな状態の幸福なのか。そのために何をしたいのか。それを引き出す問いが必要です。
  2. 「時間」を設定すること=今日に近すぎると「時短がしたいです!」になってしまいます。問いを置く際、少し遠くを見通すとよいです。「時短」はもちろん、今日の解答としては100%正解です。これを「良い問い」とするには、「時短」を入り口として、その先、明後日に解答者たちが求めることを聞き出せるような時間設定をしてみてください。意外な解答が出てくるかもしれません。
  3. 「今まで」を疑うこと=3つのうち、実はこれが最も大切だと思います。自己否定にもなりかねないですが、「今まで」の消費生活、家庭生活、仕事生活の諸々とは異なる道があるかもしれない、という可能性を信じた上で、「今まで」のことを疑ってみる勇気を持つこと。このためには自分自身の生活を変えていく勇気とチャレンジ精神を常にもっていることも大切ですね。新たな生活への好奇心とも呼べるかもしれません。

課題と解決は1対1ではない

家庭生活を中心に話してきましたが、ここでグ〜ンと視点をグローバルに、未来に向けてみましょう。

<3>アルスエレクトロニカ•センターのプログラム可能なLEDファサード

<3>アルスエレクトロニカ•センターのプログラム可能なLEDファサード

© Ars Electronica photo: Nicolas Ferrando, Lois Lammerhuber

冒頭触れた「アルス・エレクトロニカ」はオーストリアのリンツ市にあるメディアアートで、昨今はプロジェクションマッピングなどの展示作品や、最先端デジタル技術の披露が目立っていますが、その裏では技術とアート(問い)がどう社会に寄与できるかを研究してきました。日本にはまだアートが社会の役に立つという考えは馴染み薄いですが、2度ほど「プリ・アルス・エレクトロニカ」の審査員を務めた中で強く感じたのは、アーティスト達が作品を通して投げかけている未来への可能性への問いの強さと広さです。
この投げかけ力を私たちは「アート・シンキング (art thinking)」と呼んでいます。

<4>Art Thinking & Design Thinking

<4>Art Thinking & Design Thinking

© Ars Electronica Futurelab, Hakuhodo Inc.

「デザイン・シンキング (design thinking)」が今見えている課題への最良の解決策を掘り下げ、形作る過程だとしたら、「アート・シンキング」はそこにある技術や社会制度の先にどんな未来の可能性があるかの問いかけを拡げる過程と言えるでしょう。
今求められているのは、既存の価値観の中で解決される最良の策ではなく、猛スピードで進む技術革新や人口動態変化の先にある、見えない課題への可能性を開き、大いに妄想力を働かせ、それに呼応したプロトタイプを試していくことだとしたら、立てるべき問いは、規定観念を揺るがす根本的な問いであり、その中に個社個社・個人個人が呼応できる解決策を掘り起こすことではないでしょうか?この問いを立てる力を「クリエイティブ・クエッション」と呼び、ここ5年間に渡り様々なアーティスト達と未来への問いを導いてきました。

問いを立てる環境づくり

少し話が小難しくなってしまいましたね。一文でまとめますと、自分一人の半生だけでは思いの至らない新たな価値観とどれだけ触れ合い(=ダイバーシティ)、新しい技術や市民の動きに敏感に呼応し(=先端テクノロジー)、「今まで」の生活者行動の先に、彼らが目指す未来の真意をどれだけ聞き出し、想像させることができるか(=アート)、ということです。
そのために「アルス・エレクトロニカ」で実施しているFuture Innovators Summitでは、いかに多様な人種、性別、宗教、キャリア、専門性をもったアーティストや社会活動家などを組み合わせたワークショップ形式のダイアローグの場をつくるかに注力しています。そして「良い問い」をこちらからも投げ入れることで、更に彼らから未来を見据えた「クリエイティブ・クエスチョン」を引き出します。

<5>Ars Electronica Center Future Innovators Summit 2017

<5>Ars Electronica Center Future Innovators Summit 2017

© Ars Electronica
Photo:  Tom Mesic

そして何よりも大切なのは、ファシリテーター自身が多様性に寛容であること。それは「問いを立てる技術」の次の技術でもありますが、リアルの場での多様性を享受できるアティチュード(態度)を常日頃持つことが自分の中の問いの拡がりを生み出し、一半生に留まらない価値観の吸収になっていくはずです。
空間が多様性を受け入れる雰囲気であることも大切です。Future Innovators Summitは設置場所もオープン、一般見物客の飛び入りもOK、すべてをオープンにするほどに自由に発想する姿勢を打ち出していますが、クローズドなワークショップでもオープンな意見出しをしても良いという姿勢をきちんと打ち出すこと、そして空間もなるべくオープンに、多彩につくるのは大切です。
だから、ダイバーシティは必要なんですね。クリエイティブに進みたい組織や、イノベーション人財の創出などを求める方にはぜひダイバーシティとアート・シンキングを。特効薬としておすすめです

データの読み込みに求めたい多様性

最後に、これから求めたいデータドリブンなマーケティングについて。テレビの誕生から数十年はマス・コミュニケーションが牽引した時代でした。それは多数決であり、より多くの人に同じ情報を流していく作業でした。これからのデータが主導するマーケティングでは今日の大多数が求める活動と、明日のために大切にしたい少数意見の発見の両方を見極めていく必要があるでしょう。そのためにこそ、「問いを立てる技術」にも多様性の感覚が必要ですし、データに物語を与えていく過程にも多様性の目をもってデータを読み取っていく力が必要です。もっとも小さい声が、未来をつくっていく声になるかもしれないからです。

データに関わるみなさんは、自分と人生とは異なる人と一人でも多く毎日対話してもらいたいですし、ご自身の生活を濃密に観察し、自分自身を基軸にこれからの生活のために成し得たいことを、「問い」として立ててみることを、明日からぜひ実践してみてください。きっと、いつもの街が違った風景で見えてきますよ。

次回は「もりあげ技術」について。お楽しみに!

★VoiceVisionのInstagramでファシリテーションの“ちょっとしたコツ”を配信中

プロフィール

田中和子
(株) VoiceVisionエグゼクティブ コミュニティ プロデューサー
博報堂リーママプロジェクト リーダー

慶応義塾大学法学部法律学科卒。1998年博報堂入社。2012年に「博報堂リーママ プロジェクト」を立ち上げる。企業で働くママたちと今までに50社500人との「ランチケーション®」を慣行。2014年、生活者共創を専業とする(株)VoiceVision の設立に参画。約30,000人が参加する「はたらくママの声を届けよう!プロジェクト」Facebookでの声から、働き育て生活することの新しい文化を提唱。2016年には、世界的クリエイティブ機関「Ars Electronica(在オーストリア)」のデジタル・コミュニティ部門審査員。2018年再び同部門審査員及びEC共催STARTS部門審査員。共著「リーママたちへ 働くママを元気にする30のコトバ」(角川書店)2男1女の母。

 

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