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web3と博報堂の未来#2 「web3で社会・生活者がどう変わるのか?」
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web3と博報堂の未来#2 「web3で社会・生活者がどう変わるのか?」

連載企画「web3と博報堂の未来」のVol.2では、博報堂 執行役員/エグゼクティブ クリエイティブディレクターの木村 健太郎が登場。
国内外のさまざまな広告賞の受賞や、アワードの審査員経験など、広告業界で多くの功績を残してきた木村にとって、web3の現状はどう映っているのか。
博報堂キースリー 代表取締役社長の重松俊範、取締役COOの寺内康人を交え、「web3で社会・生活者がどう変わるのか?」をテーマに対談を行いました。

web3には「思想」と「技術」の両面がある

重松
キムケンさん、本日はよろしくお願いします!お話できるのをとても楽しみにしていました。
木村
こちらこそ。今日はweb3について学びにきました。昨今、すごい注目を集めているけど、僕自身もそこまで把握していないので、いろいろ教えてください。

重松
まず、博報堂キースリーの紹介からさせていただくと、当初はweb3ハッカソンをやる会社としてスタートしました。
この前はトヨタ協賛のweb3グローバルハッカソンを開催し、日本や海外から数百名超の参加があり、大盛況のうちに幕を閉じました。
そして現在は、企業のweb3に対するさまざまなニーズに応えられるように、web3領域の専門家集団をネットワークしている「KEY3 STUDIO」や、企業向けデータウォレット「wappa」などのサービスもリリースし、“企業とともにweb3を社会実装する会社”を目指して日々奮闘しています。
直近ですと、KEY3 STUDIOのユースケースとして、カルビーの「ポテトチップス」とコラボした「NFTチップスキャンペーン」を実施し、新たな生活者体験の創出に取り組んでいます。
木村
へえ、おまけでもらえる「ポテトNFT」というキャラクターを育てるゲームなのか。NFTってよく聞くけど、既存の広告プロモーションやコラボキャンペーンと何が違うの?
重松
ベースは同じですが、NFTはファンの熱量が違うのだと思っています。
KEY3 STUDIOに参画している「VeryLongAnimals(ベリロン)」は、“最も長くあることを目指す動物たち”という面白いコンセプトを持つNFTコレクションで、以前にカルビーの「じゃがりこ」とコラボしたときは、じゃがりこのモチーフキャラクターになっているキリン(じゃがお、りかこ)のNFTが50枚ずつ計100名に配布されるキャンペーンが行われ、web3界隈を中心にSNSで大きな話題になりました。

世の中全体からみたらまだ有名じゃないかもしれませんが、ベリロンのようなIPとコラボすることで「web3で何かやりたい」と考える企業の支援や、ブランドバリューの向上に寄与できると考えています。

木村
なるほどね。あの、今さら聞いて申し訳ないけど、あらためてweb3がどういうものなのかについてわかりやすく教えてほしいです。
重松
従来は企業側がユーザーのデータを管理していたわけですが、web3では個人が自身のデータをウォレットで保有し、個人情報や取引履歴などを自己管理できる時代が来るといわれています。
これこそ、web3がインターネットの民主化をもたらすとされる所以となっています。

寺内
web3を端的に説明すると「思想」と「技術」の両面があると考えています。
企業がユーザーのデータを独占している現況に対し、脱中央集権を掲げ、ユーザー主導による自立分散型社会を目指しているというのが、web3の根本にある概念や考え方です。
それらを支えるテクノロジーとして、ブロックチェーンやスマートコントラクト、NFTなどのようなものが存在していると捉えれば、わかりやすいと思います。
木村
ふむふむ。自立分散型社会という思想を、ブロックチェーンなどの技術で実現するということか。
重松
私がweb3に関心を持ったのは、Crypto(仮想通貨)、NFT(非代替性トークン)、DeFi(分散型金融)、DAO(分散型自律組織)など通貨や金融、働き方までもが全てブロックチェーン技術を活用することで公平性や透明性が担保され、今後訪れるであだろうメタバース世界とも親和性があると感じたからでした。

WEB2.0とweb3は二項対立ではなく補完し合うもの

木村
現代社会は「信用」というものを基盤に経済が成り立っているよね。政府が発行する通貨とか、企業が保証する品質とか、取引のルールとか、個人情報の管理とかも。でもweb3はどんな信用の上で成り立つ社会なの?テクノロジーは信用基盤になりうるの?仮に量子コンピューターが進化していけば、ブロックチェーンのセキュリティについても問題視されかねないと思っていて。
その辺りについて、どんな見解を持っているか聞いてみたいです。
寺内
web3ではハッキングやスキャムなどの詐欺被害が取り沙汰されていますが、それは現在のWEB2.0のインターネット社会でも、フィッシングサイトやマルウェア被害が横行する流れと同様で、セキュリティにおける攻防の“いたちごっこ”は避けられない状況だとは思います。
そんななか、web3テクノロジーの基盤となるプロトコルを信じられるかが重要になると認識しています。
イーサリアム(Ethereum)やAstar Network(アスターネットワーク)といったブロックチェーンには、良質な開発者コミュニティがあり、そこで日々議論を重ねながら技術を高め合い、エコシステムの実装やセキュリティの強化などを行いながら、日進月歩でブラッシュアップしているのが現状です。
そのため、少なからずリスクもあるなかで、web3はビジネスの成果を考えるよりも面白いこと、新しいことにチャレンジする気概の方が今は大事だなと。そう思っているのです。
重松
今はNFTを買うのにウォレットが必要だとか言われていますが、ゆくゆくは気づかないうちにブロックチェーンの恩恵を受けられる世界になる。そうなれば、マスアダプション(大衆への浸透)にもっと近づく。
このような未来の発展性を信じて、今は足元でできることに注力しています。

木村
でもさ、歴史を振り返ってみても国の政治はディクテーターシップ(独裁政治)とデモクラシー(民主主義)のどちらがいいのか。あるいは会社組織は中央集権的なトップダウン型と草の根的なボトムアップ型ではどちらが望ましいか。こういうのは永遠のテーマとして語られているよね。web3を推進している人たちはなんで後者がいいと言い切れるの?

博報堂は、40年前から「生活者発想」を唱え続けてきた会社だから、権力者がリードする社会と生活者がリードする社会の二項対立でいえばずっと後者を信じてきたし、ボトムアップで民主主義的な考え方をする人が多い会社だと思うけど、中央集権型の「WEB2.0」と民主分散型の「web3」の良し悪しを論じるとどうなりそう?

寺内
個人的な意見としては、web3の思想として掲げる理想の世界だけが存在する未来はすぐには来ないと思っていて、WEB2.0とweb3の中間に落ち着くのではと予測しています。
これまでのように、既存の生活者が使うサービスやプロダクト以外に、新たな選択肢が増えるような感覚に近いかもしれません。
重松
ひとつ日常に即したweb3の事例を紹介すると、神楽坂の古民家を活用した「神楽坂DAO」が非常に面白いと思っていて。
従来のシェアハウスだと、物件のオーナーや管理会社といった「管理者」がいて、入居者はあくまで住むだけのものだったわけですが、神楽坂DAOでは中央管理者が不在の“DAO型シェアハウス”を目指しているのが大きな特徴です。

住環境の改善や提案があれば、入居者専用のDiscordでやりとりし、コミュニティに貢献した入居メンバーにはトークンが発行されるなど、自律的な意思決定のもとで物件の企画・運営を行っていく取り組みになっています。
専用のNFTをかざしてシェアハウスに入れる仕組みにもなっていて、これを実際に見学させてもらったときには「未来の入り口に立った」ような感覚でした。

web3は「生活者主導社会」を実現するツールになり得る

木村
なるほど、それは面白そうですね。web3ってサイバー空間のものだと思ってたけど、フィジカル空間のものでもあるんだ。
みんなの行動が可視化され、透明性が保たれることで、自律的なコミュニティが実現されるかもしれない。
寺内
今の世の中は、ルールづくりが大変かつ面倒になっていますが、web3の世界ではスマートコントラクトで契約や取引の仕組みを決めてしまえば、運用を自動化することができるようになります。いろんなジャンルにこの仕組みを入れたら、より良い社会の実現に近づけるのではという期待を抱いていますね。
木村
おふたりの話を聞いていて感じたのは、博報堂が10年以上前から提唱してきた「生活者主導社会」を実現するようなツールというかソリューションになり得るということ。
社会やコミュニティへの貢献度合いが見える化されれば、真面目にやった人が報われる社会になるかもしれない。

重松
まだまだ課題が山積みのweb3ですが、人口減少社会が叫ばれる未来の日本に必要な仕組みだと思っているんです。
木村
僕の知人が、「DXの本質は、今まで外注していたことが、ソフトウェアを使って簡単に実現できるようになることだ」と言っていたんだけど、要するにDXは、個が力を持つパーソナルエンパワメントのツールなわけで。web3によって、分散型社会の発展が進めば、今よりも個の力は増大するんだろうなと。
web3であらゆるものが可視化されると、広告会社としては何をやればいいと思います?
寺内
私が思うに、広告やマーケティングの戦略設計や企画立案を手がけるストラテジックプラナー(ストプラ)職やクリエイティブ職とweb3領域は相性がよく、大きなチャンスがあると考えています。
現状、web3の事業者には構想と実装どちらもできるプレイヤーがほとんどいなくて、そこを博報堂や博報堂キースリーが担っていくというか。
博報堂が今までやってきた生活者発想の起点に立った企画力とクリエイティビティで、web3の可能性を拡張でき、それこそが強みになると思うんですよ。
木村
人々の生活環境がweb3の力で変わったら、企業のあり方も変わっていくかもしれませんね。

例えば、博報堂のグローバルネットワークは海外に100を超えるオフィスがあるんですけれども、本社の持つケイパビリティを軸にして各地域に拠点を構えるという従来型の考え方を超えて、各拠点が何かのヘッドクオーター機能を持つような分散型の新しいネットワーク体制を目指しているんです。

各拠点ごとにテックが強い、クリエイティブ力が高い、実装力が高いなど、独自の強みがそれぞれあるわけなので、そういうケイパビリティをお互いに補完しあって面のネットワークにしていく。だって全ての国のオフィスが全ての機能を揃えるのも、逆に本社が全てをやるのもどっちも効率悪いでしょ。
そういう意味で分散型にグローバルでネットワークを張り巡らせようとしている動きは、web3と似ているなと思いました。
他方で、博報堂の「粒ぞろいより粒ちがい」という考え方も、グローバルではインクルージョンな世界が当たり前であり、多様で異なる個性の集合こそ、大きな価値を創造できる源泉になっている。
こうした観点からも、博報堂のカルチャーや目指す未来とweb3が非常に近しいのではと感じたね。

寺内
web3の事業構想の策定やユーザー体験の設計など、この部分で博報堂のクリエイターが活躍できる余地が多くあるなと現場を見ていても感じていて。
技術や実装に関しては、どんどん前に進んでいるような感覚なので、その仕組みの上に何をのせ、どのような価値を提供できるかが肝になってくると考えています。

イノベーションは辺境から。黎明期のweb3はその可能性が十分にある

木村
上からの指示では、良いクリエイティブは生まれないわけで、博報堂には昔から雑談文化があり、そこから思いもしない企画が出てくる。
みんなが集まって意見やアイデアを出し合い、貢献していくのはweb3のカルチャーと通じるところがあるのかもしれないね。
博報堂ケトルでは「イノベーションは辺境で起こる」とよく言っているんだけど、web3はまだ発展途上で黎明期だからこそ、そこに関わる人の知見や熱量から、誰も想像しないようなイノベーションが起こっても不思議じゃないと思った。
あとは、個人のデータ所有の概念が変わるのも面白かった。いろんなものが自律的かつサスティナブルになっていく世の中が来るんじゃないかと。そう感じましたね。

重松
キムケンさんに、web3についての将来性を感じていただいて何よりです。
今回、貴重な機会をいただけて本当に良かったと思っています。
まさにweb3は新しいカタチの「生活者発想」が鍵になってくるわけで、博報堂や博報堂キースリーにとってもそこにビジネスチャンスがあると再認識できた対談でした。
木村
そうですね。僕は博報堂という会社は、生活者の欲求や思い、夢などを、発掘したり、かなえたり、時には創り出す役割をしてきたのだと思っています。

「人の欲望が社会を作る」

私自身、このように捉えています。
食べたい、遊びたい、所有したい、知りたい、つながりたい、人の役に立ちたい。
こうした一人一人の心の中に潜むポジティブな欲望を顕在化させるのが、我々の得意技であり、我々が果たしてきた使命なわけで。

そう考えると、これからのAI時代に我々が戦うべき敵は、アルゴリズムにただ従って生きる人生なのかもしれないなと最近思っています。
レコメンドされたものに流されると、自分が本当にしたいことがわからなくなってしまって、アルゴリズムの奴隷になってしまうからです。

今日お二人のお話を聞いて、web3とは、人々が何かに支配されるのではなく、自らの欲求や思いに従って新しい生活や社会を作っていくものなのだと理解できました。

ただ、web3だけでなく新しいテクノロジーは、たいてい人間的な心地良さには優れていないわけで、無機質で機械的な部分をいかにヒューマナイズして人間的なものへと昇華させるのが、我々のクリエイティビティが果たすべき役割なんじゃないかとも思いました。

私自身も「web3と博報堂の未来」に関心を寄せながら、これからもおふたりと関わっていければと思いました。今日はありがとうございました。

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  • 株式会社博報堂 執行役員/インターナショナルクリエイティブオフィサー
    株式会社博報堂ケトル 取締役/エグゼクティブクリエイティブディレクター
    1992年博報堂入社。2006年より博報堂ケトル共同CEO兼エグゼクティブクリエイティブディレクター。 2017年よりグローバルMD推進局長、グローバル統合ソリューション局長、クリエイティブコンサルティング局長を経て2021年より現職。クリエイティブ領域とグローバル領域を担当し世界中を飛び回っている。
  • 博報堂キースリー
    CEO / 代表取締役
    博報堂キースリー代表取締役社長。読売広告社の上海支社と台湾支社を立ち上げ支社長に就任。その後webベンチャー企業やXR企業に取締役として参画、VR空間でのバーチャルイベントPFを立ち上げ、2023年1月より現職。
  • 博報堂キースリー
    COO / 取締役
    デジタル専業代理店、外資系広告会社を経て、14年博報堂入社。
    多くの企業のDX関連業務のプロジェクトマネジメントを経験し、KEY3の立ち上げに参画。