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“新生”買物研 【第1回】 Commerce Anywhere時代到来。買物ファネルはどう変わる?
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“新生”買物研 【第1回】 Commerce Anywhere時代到来。買物ファネルはどう変わる?

「欲求流去」をテクノロジーが救う時代に

徳久
今日は、博報堂DYグループのメディアとマーケティング領域を統合してDXを進める「HAKUHODO DX_UNITED」の責任者であり、博報堂買物研究所(以下、買物研)の元所長でもあった青木さんと、今年4月から“新生”買物研の所長となった垂水さんの、新旧所長対談ということで、おふたりに話を聞いていきます。

まずは、最近の生活者の買物行動の変化について、どう捉えていますか?

青木
2016年、買物研では、生活者の買物潮流を予測する買物フォーキャストとして「欲求流去」という提言をしました。(博報堂買物研究所、生活者の買物潮流を予測・提言する「買物フォーキャスト2016」を発表)。SNSなどで常時更新される大量の情報から新たなモノへの欲求刺激が増え続ける一方で、いつの間にか買物欲を忘れる生活者がたくさん存在することを捉えたのです。買物欲を失う背景には、買物に関する情報や商品が増えすぎたことによる「買物ストレス」が大きく関わっていました。

その後5~6年の間に私たちが「Commerce Anywhere」と呼んでいる生活空間に存在するあらゆるタッチポイントが購買経路になる環境が進みました。私はこれを、テクノロジーが「欲求流去」を乗り越えたのだと捉えています。あふれる情報とモノの中で、タイムラインのように浮かんでは消えていた欲求を、テクノロジーですくい取ることができるようになった。その状態が、「Commerce Anywhere」なのだと思います。

垂水
最近は、買物カートに入れてあることを忘れていると、あとからプッシュ通知が来ます。これも、テクノロジーが欲求をすくいとる一例ですね。
徳久
欲求を忘れないという点で、Z世代は、Instagramなどで流れてきた情報の中から気に入ったものを「保存」しておき後で参照をする行動が一般的になっていますね。
青木
自分の関心領域に沿った情報だけがタイムラインに流れるようになってきているので、欲求が流去しないためのソーシャルメディアの使い方の進化だと考えられます。

2016年のフォーキャストでは、欲求を流さないための視点として「買物から契約へ」という長期的な関係性への変換を提言しました。当時、世の中にサブスクリプションはまだほとんどなかったですが、それがこの数年で、「気に入ったから、後はサブスクでいいや」という買物行動が一気に広がりました。まさにテクノロジーによる変化です。

Commerce Anywhereは「どこでも買える」だけじゃない

青木
Commerce Anywhereには二つの側面があると思います。一つは、文字通り「どこでも買える」ということ。もう一つは、Z世代の保存行動のように、「生活の中に入り込んで、欲求が流れない仕組みを作る」ことです。

後者の例として、企業のオウンドメディアの役割が変わってきています。単なるコマースの領域を超えて、生活の中に自然に入り込むことで、欲求を流さない役割を備えているアプリもでてきていますよね。

垂水
ある飲料メーカーの健康習慣サポートアプリでは、歩数や運動、食事の行動をアプリ上で記録すると自分にとっての健康行動につながるきっかけが提示され、さらに、そのメーカーの該当飲料(トクホ飲料)の飲用記録をつけることで、ポイントなどさまざまな特典が得られます。健康行動と商品が密接につながっているので、生活の中に入り込んで、自然な形で欲求を逃さない仕組みになっている例だと思います。

徳久
TikTokやYouTubeしか使わない若者もいます。企業のオウンドメディアだけではアプローチできないユーザーに対しては、自社アプリ等に限らずソーシャルメディアやメタバース空間など、ユーザーがいるところに出張っていく「出張型」になってしかけていかないといけませんね。

買物とは、本来の楽しい行為である

徳久
買物から契約へ、の話がありましたが、Netflixのような動画配信コンテンツのサブスクでは、見たいときだけ契約するという使い方も広がっているようです。
青木
もともと買物は、自分で欲しいものを欲しい時に選ぶほうが楽しいですよね。欲求流去していた人が、契約的な買物であるサブスクを使うようになったのでしょうが、Anywhereに買物ができるようになれば、もう一度、欲しい時に欲しいものを選ぶという、本来の買物の楽しさを伴う行動に戻ってくるのではないか、という仮説が立てられます。契約よりも、都度買物するほうが、延べ買物数が増えて消費も活性化するのではないでしょうか。
垂水
契約という言葉には縛られている感があります。買物が本来持つワクワク感に回帰するのではないか?というのは、実感としてもよくわかります。買物行動をフォーキャストするうえでの大きなテーマになりますね。  

お気に入り情報をプールして、高速でファネルを通過する

徳久
従来の買物行動モデルは、「認知⇒興味⇒理解⇒好意⇒購入」という一方向の直線で捉えられ、我々は認知を入り口としたファネルの中で、カスケード上の歩留まりを最適化するマーケティングを行ってきました。それが、ここ数年で購買接点は多様化し、あらゆる接点が購買チャンスとなるCommerce Anywhereになりました。かつては「買う」ことがゴールであったのが、「とりあえず買ってみる」からスタートすることも多々あります。これからのファネルはどのようになっていくのでしょうか。

【図1従来の買物行動モデル】

垂水
とりあえず買う、という行動に関しては、フリマやオークションサイトなどでリセールができるようになり、買うことに対する心理的なハードルが下がったことが大きく影響していると思います。

また、博報堂生活総研の調査で、“モノやサービスの選び方”について時系列の変化をみると、以前は多数派であった「好み消費派(ものを買う時、好き嫌いという自分の好みで判断して決める)」が減少傾向にある一方で、「感覚消費派(ものを買う時、ピンとくる・こないという感覚で判断して決める)」が2022年、過去最高値となりました。(博報堂生活総合研究所「生活定点」調査より)。つまり、理性や判断よりも「感覚で決める」人が増えているわけです。今の生活者は、いきなり買っているように見えても、実は日常的に気になったものをSNSやサイトでチェックするなど、すでに能動的なアクションを起こしており、それがその場その場の直感的な判断を後押しするという側面もあると考えられます。  

青木
そうやって考えると、従来の直線状のファネルにあった、認知⇒興味⇒……という行程がなくなったわけではなくて、単純に、ファネルが短くなっているという見方ができますね。
Instagramで自分のフィルターを通った情報をプールしておけば、買物に必要な興味のあるカテゴリーのことぐらいはだいたいわかってくる。つまり、認知・興味ぐらいはプールしている情報の中で自ずと通過しているわけです。いきなりライブコマースで買っているように見えるけれど、実は認知・興味はすでにある上で、高速でファネルを通っている、ファネルが短くなった買物行動なのかもしれません。

【図2ライブコマース/ソーシャルコマースのファネル】

垂水
「認知」に関しては、言葉ではなく画像的になっているのも特徴的だと思います。新入社員の女性に、文字だらけのコンセプトを見せた時、「こんな長い文章、誰が読むのですか?」と聞かれました。もはや、ブランド名を認知しなくても、「○○って書いてある素敵な化粧品」程度の認知で買物をしています。
徳久
情報プール型のファネルでは、認知しているという意識は希薄で、認知と興味が一緒になっているということはありそうですね。

垂水
もはや、さかのぼって探れば見つけられる、程度のものが認知なのかもしれません。

そもそも、商品ブランドで選ぶのか?企業ブランドで選ぶのか?

青木
ファネルの変容にはいろいろなパターンがあると考えられます。業種を変えてみてみる必要はあるでしょうね。

例えば、清涼飲料カテゴリーを考えてみると、自販機で買うときにブランド間でわざわざ比較をしない人がたくさんいるわけです。そのような中で、飲料メーカーの中にはアプリを開発して、当該企業ブランドの自販機の中で選ぶという買物を促進しているところもあります。消費財に関しては、こうした企業による囲い込みがどんどん進んでいくでしょう。その結果、オープンチャネルで目に留まったものを買うという従来型の買物行動を変えていきます。このようなケースも、ファネルの変容の一つです。

徳久
消費財と耐久消費財では違いがありそうですね。
青木
それを突き詰めると、ブランディング論に発展していきますね。
80年代90年代は、商品ブランドがどんどん強くなっていた時代でした。ただし、今は、消費財の入れ替わりがすごく激しくて、モノの小さな差別化だけではブランドが成立しにくくなっています。果たして大事なのは商品ブランドなのか?企業ブランドなのか?という議論は、ここ20~30年続いています。

実は、これはファネルとも大いに関係しています。企業がCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)を重視し、ブランドで囲い込んでいく動きが広がる中では、商品ブランドは企業ブランドの傘下で、鮮度を保つことで瞬間的な欲求を生み出すことが役割になっていくでしょう。

企業ブランドと商品ブランドが存在する中では、従来型の商品に求められる瞬間的な欲求だけでない欲求もファネルに取り込まれる必要があります。いったいファネルは何をどう描くべきなのか?ということを考えなければいけません。

企業姿勢を応援したい買物行動も、ファネルを崩しはじめている

徳久
これは大きいテーマですね。私も審査員として参加した今年のカンヌラインオンズで、ユニリーバ社のSmart Fill※が受賞(Creative Commerce Lions Gold)したのは象徴的でした。
※ユニリーバ社のプラスチック削減を体現する取り組み。空容器を店頭のリフィルステーションへ持参して、必要な洗剤等を選んで充填する。

これは、ブランドロゴやパッケージを犠牲にして“パッケージレス”な売り方に切り替えた事例です。従来の消費財メーカーの、パッケージをブランドの顔として、そこにブランド価値を溜めていった方法論からは外れています。ですが、ユニリーバ社は、サステナビリティを実現するために、リフィル型ビジネスへ勇気を持って取り組んだ。その点が評価されました。そして、実は、これが買い方自体のトランスフォーメーションを起こしているわけです。

SDGs機運も高まる中で、一つの商品やブランドというより、企業の姿勢やビジョンなどを支援したい生活者が生まれているのは事実ですし、それを応援する買物プラットフォームも生まれています。

青木
Smart Fillも、一種のサブスク的な買い方だと考えられますよね。同時に、企業側としては企業ブランドを優先する決断だと捉えられます。企業ブランドに価値を溜めることによるファネルの変容は、見逃せませんね。

ブランドとテクノロジーの掛け合わせで、買い方の変容を捉える

青木
今の生活者のモノやサービスの選び方、買物の仕方が変わってきていることをベースにファネル論をいくつかのパターンで整理してみることは重要ですね。
いくつかのパターンで整理したファネルに、企業が実際に持っているインターフェースを掛け合わせることで、今の時代に適した戦略を提案していくことが考えられます。企業ブランドと商品ブランドの両方のマーケティングを実践する企業にとって、とても価値があるでしょうね。

大きな流れとしては企業パーパスへの注目が高まっています。企業ブランドと、商品ブランド、テクノロジーによる買い方の変化との掛け算で、どのように買物行動を作っているのかを解明する。これは “新生”買物研の研究として非常に面白いし、一大テーマですね。

垂水
壮大なテーマですが、がんばります!

買物行動の大きな潮流とAlways Onの欲求の見える化の両輪で

徳久
買物研は、来年2023年に創立20周年を迎えます。“新生”買物研が、今後も大切に守っていくこと、そして、新たにチャレンジしたいことをおふたりに聞いてクロージングしたいと思います。
青木
HAKUHODO DX_UNITED傘下の買物研ですから、データ・テクノロジーを駆使した研究はベースとして取り組んでいくわけですが、それだけでは見えてこないことがたくさんあります。

今日話してきた内容は、無意識にではあるけれども、着実に変わっているな、と感じている生活者の買物行動の潮流だったと思います。“研究所”というからには、この大きな流れをつかんで提言をしていくことは大事です。変化の激しい今だからこそ、フォーキャストが大切だと思います。歴史の積み重ねや長い時間軸の中で、社会の中で起きている課題や変化も含めて、“見立てる力”を持ち続けてください。

一方で、この1~2年でCommerce Anywhereが一気に加速しました。ウィークリー、デイリーに買物行動が変わる時代に入り、企業の打ち手もどんどん変わってきています。その中で、やはりAlways Onで買物行動を見たり、ブランドの状況を可視化したりするデータ基盤は不可欠です。これは、HAKUHODO DX_UNITEDのみならず博報堂全体の課題でもありますが、その中で買物研ができる動的なしくみづくりを新たに考えていってほしいと思います。

徳久
買物欲モニタリング、ぜひやってください!
垂水
私も、買物研オリジナルデータベースを作りたいと考えています。例えば、買物行動の直後に、「商品はどうでしたか」「サービスはどうでしたか」というようなシンプルな質問で評価をとるようなイメージです。一つ一つの買物に対して、2~3問のキークエスチョンに答えてもらって、それを日々溜めていく。データを取得して、独自のデータベースを使って、生活者の今の買物行動を見える化することに取り組みたいと思っています。

青木
海外には配車からオンラインフード注文・配達まで幅広いサービス面で生活に溶け込んでいるようなスーパーアプリがあります。このようなアプリと組んでAlways Onの簡単なリサーチのしくみが作れると、生活者のあらゆる側面での体験評価が貯まっていく。これはすごく価値がありますね。

今日お話しした2016年時点での予想は、方向性は当たっていたと思います。一方テクノロジーの進化で我々の予想を覆す動きも既に出てきています。これからの5年間は、さらに変化が激しい時代の買物研になるでしょうね。

徳久
そんな変化の激しい時代に所長となった垂水さん、最後に抱負をお願いします。
垂水
今日の話の中でもいくつかのテーマが見えてきて、相当プレッシャーは大きいのですが…。新所長として、まずは青木さんが所長をされていたときの買物研と同じくらいの存在感を出したいです。
徳久
買物研は、鳥の目と虫の目、時間軸上の過去と現在、未来、不便益の解消と新体験の創出…と、いろいろな視点が必要だということがよくわかりました。その分、発信できる情報がいろいろありそうで期待ができます“新生”買物研所長がんばってください。そして、もちろん、HAKUHODO DX_UNITED一丸となって、一緒に盛り上げていきましょう!
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  • 株式会社博報堂DYホールディングス 執行役員
    株式会社博報堂 執行役員
    株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員
    1989年株式会社博報堂入社。博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター室長、博報堂研究開発局長を経て、2021年4月より現職。 マーケティングDXとメディアDXを統合した価値創造型のDXを推進する戦略組織HAKUHODO DX_UNITEDを担当。
  • 博報堂 ショッパーマーケティング事業局 局長
    博報堂DYグループ9社横断戦略組織「ショッパーマーケティング・イニシアティブ®」リーダー
    2005年に博報堂入社。流通・消費財メーカーを中心に、マーケティング戦略立案、クリエイティブ開発、データドリブンマーケティング等に従事。2014年よりデータ・テクノロジーを活用した新規事業/サービス開発を推進。自社事業、得意先とのJV立上げ、複数のソリューション企画・開発・グロース実績あり。2021年より現職。
  • HAKUHODO EC+
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    博報堂買物研究所 所長
    2016年博報堂中途入社。化粧品、日用品、飲料、健康食品など消費財のマーケティング戦略、商品開発、サービス開発に従事。
    2022年より現職。「買物インサイト」を起点に、新しい買物を生み出すソリューションを提案・実行する実践的研究所を運営