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朝日新聞社と組み、地方紙や他メディアを支援。 CMS「ポトフ」の共同展開で開ける可能性
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朝日新聞社と組み、地方紙や他メディアを支援。 CMS「ポトフ」の共同展開で開ける可能性

博報堂DYメディアパートナーズは6月、朝日新聞社とタッグを組み、メディア企業のサイト構築や運用を統合的に支援するサービスの提供を開始しました。朝日新聞社が自社で開発・利用しているCMS「ポトフ」を用いるもので、同社のコンテンツ制作やAI活用の知見も盛り込みながら、少人数でも効率的なメディア運営を可能にします。地方新聞社を中心に、テレビ局など新聞以外のメディアからの問い合わせも複数寄せられているこのサービスについて、どのような可能性が開けているのか、両社のキーマン5名に話を聞きました。
(関連リリース:博報堂DYメディアパートナーズ、 メディア企業のサイト構築や運用を統合的に行うサービスの提供を開始

佐渡 昭彦
朝日新聞社 アライアンス事業部 次長

矢内 裕之
朝日新聞社 アライアンス事業部

永川 佳幸
朝日新聞社 アライアンス事業部

五十嵐 丈鑑
博報堂DYメディアパートナーズ 新聞雑誌局

猪倉 丈史
博報堂DYメディアパートナーズ 新聞雑誌局

Webメディアの立ち上げと運用を統合的に支援

――今回は、博報堂DYメディアパートナーズ(以下、MP)から五十嵐さんと猪倉さん、朝日新聞社(以下、朝日)からは佐渡さん、矢内さん、永川さんにお越しいただきました。まず、6月にリリースしたサービスについてうかがえますか?

五十嵐
今回、提供を開始したのは、MPと朝日が協力してメディア企業の新規メディア立ち上げや運用を支援していくサービスです。ツールとして、朝日のCMS「ポトフ」を活用します。
MPでは以前から、朝日のメディア運用を主にマネタイズの側面から支援させていただいてきました。一方、朝日はネットが普及したころから新聞のデジタル化に取り組まれ、最近では複数のバーティカルメディア(ターゲットが絞られたWebメディア。ひとつの分野を垂直に<バーティカルに>深掘りする意で、特定領域、分野に特化したメディアのこと)も軌道に乗せています。今回のサービスでは、ツール提供にとどまらず、両社の知見を生かしてメディア運用に並走し、読者とのエンゲージメント構築をサポートします。

――前提として、最近のメディア企業を取り巻く状況を教えてください。

五十嵐
大きな流れは、メディア企業が生活者と接触するために、情報の届け方そのものを変えていかなければいけないことです。新聞社が従来の新聞をデジタル化するような形ではなく、今の生活者がどのようにデジタルメディアに接しているのか、どこから接触しているのかを踏まえてメディアのターゲットや枠組みから構築する必要があります。
2022年、生活者のメディア接触時間はスマートデバイスがテレビを上回りました。今や、母体がどのような形のメディアであったとしても、デジタルの接点を持つことは欠かせません。そして、生活者がスマートデバイスでどうやって情報に触れているかというと、デジタルプラットフォーマーによる“レコメンド”の力が大きいです。
それらプラットフォーマーにレコメンドされやすく、生活者に情報が届きやすくするためには、メディアの特徴を際立たせ、ターゲット読者と結びつきやすくすることが大事になります。そこで各社が、従来のコアとなるメディア以外に、複数のメディアを持ち始めています。ただ、ターゲット選定やマネタイズを含めて緻密な戦略策定がカギになりますし、元々潤沢ではないデジタル人材もさらに不足してしまうので、今回のような支援が有効だと考えるようになりました。

デジタルならではのメディアのあり方とは

――朝日新聞社のバーティカルメディアについて教えてください。

矢内
当社では近年、ペット情報サイトの『sippo』や、女性の生き方に焦点を当てた『telling,』など、ターゲットを絞ったバーティカルメディアを数多く運営しています。新聞社の報道という使命は『朝日新聞デジタル』で果たしつつ、多様化する生活者の興味関心にあわせて特定の分野に特化したWebメディア群です。
これらのバーティカルメディアは、CMS「ポトフ」で構築しています。実は「ポトフ」は、私たち自身が「趣味嗜好の異なる読者の方々に、いかに有益な情報を、限られた人数でお届けできるか」を試行錯誤して磨いてきたシステムです。外部への提供も少し前から進めており、例えば神戸新聞社『まいどなニュース』などに活用していただいています。

――CMS「ポトフ」の特徴をうかがえますか?

永川
直感的に記事を制作できるので、少人数でも効率的に扱えること。そして、Yahoo!ニュースなどの外部プラットフォーマーへ手間なく配信できることの2点がポトフの大きな特徴です。ポトフの管理画面上で、自社サイトへの公開とともに、外部配信先へもまとめて記事を送れます。
既存のCMSには、外部プラットフォーマーへの配信に適したものがあまり多くありません。ポトフはもともと当社のバーティカルメディア群の展開にあたり、高速にPDCAサイクルをまわしつつ、運用時の効率化を考えて自ら内製したCMSです。まずは私たちが使いやすいものを目指して開発してきたシステムなので、地方新聞社など他メディアの方にも違和感なく利用いただけるものになっていると思います。
また、動画コンテンツをYouTubeチャンネルに直接アップロードできる機能もあります。運用の負荷を下げたいという現場からの要望を受けて新たに実装した機能で、常に進化し続けるCMSであることも大きな特徴の一つです。
佐渡
当社にはメディア研究開発センターという部門があり、新聞社ならではの豊富なテキストや写真、音声などの資源を活用し、社内外の課題解決を目指して先端技術の研究・開発を進めています。
そこでの成果も随時ポトフに反映しており、今回のサービスではAI技術を活用した記事の要約・見出しの作成機能も利用いただけるようになっています。編集者の負担をさらに軽くするために、現在はAI技術による校正機能も研究中です。

数多くのメディアを運用したり、外部配信先と連携したりする上では、セキュリティー面も気になると思います。当社ではサイバーセキュリティー対策部を設けて、システムの構築や運用に関して厳しい基準を設定した上で、外部からのWeb改ざんテストなども通して堅牢なセキュリティーを担保しています。その点も、メディア企業にとっては重要ですし、信頼していただける部分だと思います。

――今回のサービスは、どのような企業に向けて展開するのですか?

猪倉
もともと、朝日が自社のために開発し、ブラッシュアップしてきたCMSなので、新聞メディアにとって、非常に使い勝手がよい、かゆいところに手が届くものになっています。
実際、リリース後に行った地方紙・ブロック紙・スポーツ紙・専門紙を刊行する新聞社向けのウェビナーでも、予想以上の反響をいただいています。プレスリリースの発信に伴い、テレビ局をはじめとした新聞以外の他のメディア企業からも問い合わせがあり、ポトフの導入や関連するDX支援に向けた話が進んでいます。
またこのCMSは、事業会社のオウンドメディアにもご活用いただけますので、メディア企業にとじず、幅広い業界業種のクライアント様のコンテンツマーケティング支援にご活用いただけるよう、今後はセールスを展開してまいります。

博報堂DYメディアパートナーズが媒体価値の向上に注力する意義

――なぜ両社で組んで、外部メディアの支援に乗り出すことになったのですか?

五十嵐
MPとしては、先行して2020年、オープンエイトと組んでニュース動画を自動生成するソリューション「NEWS BRAIN」の提供を開始しました。AIを活用し、新聞記事の要約から音声化、動画制作をワンストップで行います(関連リリース:博報堂DYメディアパートナーズ、オープンエイト、 AI技術を活用し、記事の要約から音声化・動画化をワンストップで行う 新聞社向けニュース動画自動作成ソリューション「NEWS BRAIN」を提供開始)。動画での情報取得がますます主流になる今、NEWS BRAINも多くのメディア企業に非常に好評です。
今回の朝日との展開は、広告枠を介してメディア企業と広告主企業をつなぐだけではない、メディア運営支援の第二弾です。
背景には、「メディアの価値向上に寄与したい」という考えがあります。社名に“メディアパートナー”と冠しているとおり、広告枠の売買だけではなく、メディア価値そのものにもっとフォーカスしたい思いが強いんです。メディア価値の向上に貢献できれば、それが我々の売り物になり、メディア企業のマネタイズが上向く。この好循環を生み出すことが、真のメディアパートナーの役目です。
そして、現状でメディア価値を向上させるなら、DXよりほかにありません。朝日は『朝日新聞デジタル』のDXもバーティカルメディア事業も自走されているので、その知見を拝借しながら、各新聞社が読者ごとの興味に沿ったメディアをなるべく工数少なく立ち上げ、生活者との接点を増やしてメディアの価値向上を支援したいというのがMPの意図でした。

――朝日新聞社としては、いかがでしょうか。

矢内
CMS「ポトフ」を他の新聞社にも使ってもらえたら、という思いは、以前からありました。この1、2年でさらにDXの波が広がり、受け入れる側の環境が整ってきたこともあって、2021年の秋ごろから外部メディアへの提供の協業についてMPと話すようになりました。
MPと一緒に取り組む理由は、大きく2つあります。ひとつは私たちのパートナーであると同時に、日本全国にネットワークがあり、各メディアをマネタイズの観点で支援されていることです。そこに私たちのコンテンツ制作の知見とCMS「ポトフ」が加わることで、全国の新聞社のDXに私たちも寄与できることが魅力でした。
もうひとつは、MPともっと上流から組ませていただけるのでは、と思ったことです。MPの深い生活者理解に根差して、ローカルエリアでの新規Webメディアの立ち上げをコンセプト検討の段階からご一緒できることに可能性を感じました。

――たしかに、全国のメディアネットワークや、生活者の理解を生かすという点にはMPの強みがありますね。

五十嵐
安定した編集部をつくり、質の高い記事を出し続けてメディアを育てていく知見は、やはりメディア企業が圧倒的に多くお持ちだと思います。ただ、全国への情報共有や生活者発想は我々が自負する部分ですし、マネタイズやメディアの持続可能性を早い段階で見いだすこともできると思います。
加えて、クリエイターの発想力ももっと生かしたいですね。既存のメディアの枠組みにとらわれず、そもそもこんなことをしたら生活者に楽しんでもらえる、役立ててもらえるのでは?というアイデアやコンセプト開発に長けたクリエイターがたくさんいるので、彼らも巻き込んでいければと考えています。
永川
このサービスの特徴として、メディアを立ち上げて終わり、ではないということが挙げられます。メディアを作った後、どうグロースさせるかの方がより重要にもなってきます。クライアント様に伴走しながら、そうした相談や壁打ちの相手を私たちが務めるのも、このサービスで強化したい部分です。日々記事を公開しながら、いかにユーザーを呼び込むか試行錯誤は尽きません。MPと組むことで、集客やグロース面での相乗効果が生まれることも期待しています。

各新聞社は競合、だが手段は共有していい

――これまでの導入事例を教えてください。

永川
地方紙・テレビ局など4社に導入いただき、現在5メディアが稼働中です。新規ニュースメディアでの導入がメインですが、コーポレートサイトの全面リニューアルを機に、ポトフに置き換えていただいた事例もあります。
外部プラットフォーマーへの配信の自動化は好評をいただいている機能の一つで、新聞社向けのウェビナーでもかなり反響が大きかったようです。

――ウェビナーでは、ほかにどういった声や手応えがありましたか?

猪倉
ブロック紙・地方紙・スポーツ紙・専門紙を中心にご案内し、約50社、140名ほど参加いただきましたが、それ自体が予想以上の数でした。矢内さんから紹介があった神戸新聞社『まいどなニュース』、そして朝日新聞社の『withnews』の事例もお話しいただき、リアルな成長戦略とマネタイズの実践プロセスが参考になったという感想が多かったです。
また参加者についても、単に「新しいシステムに興味がある」というより、「今後の新聞社の変革に向けた新規事業開発が課題となっており、そのヒントが欲しい」といった方が多かったです。役職の高い方も多く参加されており、相当の危機感とともに、メディアDXにチャンスを見いだそうとされているのが印象的でした。
五十嵐
新規事業開発に携わる方が予想外に多かったことは、私もうれしかったです。NEWS BRAINもそうですが、MPが発信するソリューションは“広告ビジネスの延長”から、新規事業や、コア事業の強化・改革にもかかわりつつあるという手ごたえがありました。お声掛けしたメディア企業の内部で情報共有がなされ、システム部門から新規事業の部門、経営クラスまで幅広い方が聞いてくださり、真のメディアパートナーに少し近づけているのかな、とも感じましたね。
新聞社の素晴らしいアセットを他社に展開するのは、多様なメディアにずっと並走してきた総合広告会社だからできることだと思います。我々がさまざまなプレーヤー間のハブになり、サイト運営の基盤はポトフ、動画はNEWS BRAIN、といった形でDXソリューションのエコシステムをつくりつつあると実感しました。

“新聞社×広告会社”のタッグで生まれる可能性

――朝日新聞社にとっては、ウェビナーは同業者が集まる機会になったわけですが、今後につながる気づきなどをうかがえますか?

矢内
お二人の言うように、まず予想以上に多くの方、また多様な方に参加いただけたのは私たちも驚きました。DXを単なる構想にせず、早急に実践しなければというニーズの高まりを感じました。
各新聞社とは、いってみればライバル関係にあります。読者に対して「何を届けるか」の部分は、ライバルとして切磋琢磨するべきところだろうと思っています。一方で、「どう届けるか」の手段に関しては共有や協業することが業界全体の発展に重要だと思うんですね。提供側が効率化すれば、それだけ受け手である読者への価値の還元が可能になります。そうした意味で、今回の取り組みがメディア業界全体のDXの一助になればと思っています。

――最後に、今後の展望や期待を教えてください。

矢内
私たちも、現在進行形でCMS「ポトフ」を改善していて、完成したとは思っていないんです。成長し続けていくことは、デジタルそのものみたいなものだとも感じています。また、不確定性の高いデジタルの世界を歩む中で、私たちが正解を持っているわけではないのですが、常に正解を模索して動き続けることは大切だと思います。
神戸新聞社との取り組みでも、サイト立ち上げのプロセスは私たちとは全然違っていました。他のメディア企業の方々とのやり取りを通じて、お互いに刺激し合い、業界全体でPDCAを回しながら、より多様でたくさんの価値を生活者の皆さんにお届けしていきたいです。デジタル時代のメディアを、一緒に盛り上げていきたい思いがあります。
佐渡
当社はよりよい明日のために「ともに考え、ともにつくる」という企業理念を掲げております。バーティカルメディアではそれぞれの読者に寄り添い、対等な立場でエンゲージメントを深めてきました。価値観がますます多様化するいま、社会のニーズに応え必要な人に必要な情報をさらに多く届けていく必要があります。CMSはあくまでインフラです。システムを1社1社がつくるよりインフラを共有して効率化し、その分をコンテンツに注力するほうが、読者の楽しみや豊かさは広がります。これからは、MPとともにメディアのDXを推進し、価値ある情報を読者に届けていけたらと思っています。
猪倉
我々は、媒体社が持っているアセットを、どのように広告主企業や他のメディア企業に展開していくかを常に考えています。この度、広告枠の販売代行にとどまらずに、朝日が自社メディアのために開発したCMSを特別に外販できることは、メディアパートナーとしての新たなあり方として非常にチャレンジングな取り組みであると思っています。
この取り組みを通じて、広告会社とメディア企業との間に、メディアレップとは異なる新しい組み方/パートナーシップを生み出したいです。メディア企業各社のメディアDX課題をくみ取り、朝日が培ってきたメディア運営の知見も含めて、解決策を丁寧にご提案し、メディア業界全体をデジタルから盛り上げたいですね。相談でも雑談でも、どこへでも駆けつけますので、メディア企業各社様は、ぜひ思いの丈をお話しいただければと思います。我々はメディアパートナーですので。

当プロジェクトでは、幅広いメディア運営企業様とメディアDXを推進したいと考えております。まずは、まいどなニュース 佐藤編集長や、withnews 奥山編集長もご登壇のウェビナー録画をご覧になりたい、あるいは、もっとポトフについて詳しく知りたいメディア運営企業様は、お気軽に事務局アドレスまでお問い合わせください。

※当サービスの対象はメディア運営企業様とさせていただいております。
※役職肩書は収録当時です。

 

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