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安藤元博×森永真弓×嶋浩一郎|未来の広告ビジネスとマーケターのあるべき姿とは? 【後編】
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安藤元博×森永真弓×嶋浩一郎|未来の広告ビジネスとマーケターのあるべき姿とは? 【後編】

今年3月に、『広告ビジネスは、変われるか? テクノロジー・マーケティング・メディアのこれから』を上梓した安藤元博と、4月に『欲望で捉えるデジタルマーケティング史』を上梓した森永真弓。これまでの広告産業を振り返りながら、マスマーケティングとデジタルマーケティングが融合するこれからの広告ビジネスの展望を示したふたりに、嶋浩一郎がインタビュー。森永真弓の視点を中心に、カルチャーと広告の関係について語った前編に続き、後編では、安藤元博の著書を紐解きながら、今後のマーケターのあるべき姿について語ります。

前編はこちら

広告主がしたいのは「広告」じゃない?

後半は安藤さんを中心にお話伺いたいと思いますが、なぜこの本を書こうと思われたんですか?

安藤
2020年に博報堂DYグループでAdvertising as a Serviceというビジネスモデルを発表したのがきっかけなんですが、これまで30年くらい広告業界で働いてきたなかで、今後広告ビジネスがどうなっていくべきか、あらためて書いてみようと。
『広告ビジネスは、変われるか?』ってすごいタイトルですよね。いま広告業界の課題はなんでしょう?
安藤
先ほども少し話しましたが、広告ビジネスというのは、これまで広告枠の売り買いが収益の多くを占めるビジネスでした。いまでも多くの広告会社がそういう成り立ちになっている。このままで本当にいいのだろうかと考えたとき、経済社会の変化、産業全体の変化と照らし合わせてみたら、やはりいいわけがないんですよ。自動車産業も、車をつくって提供して対価を得るというビジネスから脱却すると言っていますよね。ほとんどのユーザーは車そのものがほしいのではなくて、車を使って移動して何かをしたい。ならばそれそのものを提供しようとするところに価値がうまれる、それがMobility as a Serviceです。広告も同じ。広告主は広告枠がほしいわけじゃない。もっと言えば必ずしも広告したいわけでもないんです。ターゲットの気持ちに働きかけ、ブランドの良さを見出してもらったり好きになったり、買ってくれる動機を見出してほしい。そして広告主自身も自分たちの提供サービスの価値とは何なのかを問い続ける。それが広告にまつわる行為の本質だとすると、そのためにどうするかを考えビジネスしなきゃいけない。
自動車メーカーが、モビリティが人を幸せにするためのプラットフォームになるというのはわかるんです。じゃあ、先ほどの投げ銭の話のように、プロダクトを購入する体験よりも、そのプロセスを楽しむ体験に人がお金を払うようになったのはなぜなんでしょうか?

消費者は“できあがったモノ”を買うか、その“過程”を買うかの過渡期にいる

安藤
それは情報技術の進化ということに尽きるのではないでしょうか。“できあがったモノ”だけでなくて、それが届けられる過程とか使われる過程、そういうことそのものを取り扱う技術や基盤の飛躍的進化とコストダウンによって、価値の本質がより見えやすくなったということだと思います。ただぼくがそう言うと、でもほとんどの人はマスプロダクト使ってるじゃないか、カスタマイズなんて誰もしないよ、とかいう議論になるんですが、それは違うと思うんですよね。例えばものすごく売れているマス商品があるとして、でもそれがいつでも誰からも本当に一元的、固定的な価値のものとして買われているかというと、実はそれは違うと思うんです。一見、同じ商品を同じ値段で大量の人が買っているように見えても、その裏側では誰がどんなときに欲しいか、使うかによって価値は揺れ動いているんです。ただ、流通とか製造とか、つくり手や送り手側の都合に消費者が合わせているだけ、合わせざるをえないだけ。全員が全員「これで満足」と思っているわけがないんです。ただ技術的にそれがうまく扱えないからそうなっているだけです。デジタル経済や、近い将来メジャーになるであろうサイバーフィジカルやメタバースでの経済社会ではそのことがはっきりしてきます。
できあがったモノを買ってもらっていると考えるか、価値が生じるプロセスを提供しその一連のその過程を買ってもらっていると考えるか、みんな今ひとつ気づいてないかもしれないけど、いまはその過渡期にいるんだと思います。
森永
その話をきいて思い出したのですが、テレビ局と大学生とでワークショップをやったときに、7人中6人が普段あまりテレビを観ない学生だったんです。でもワークショップが終わった後でみんな「これからこの局の番組観ます!」って言いはじめて。よくよくきくと、彼らは「実はテレビ番組のほうが、自分たちが普段見ている動画より面白い可能性がある事は知っている」んですよ。でもテレビはどんな人がつくっているかわからないから、そんな番組に時間をかけるほど冒険できないって言うんですね。普段自分たちが見ているYoutubeなどの動画コンテンツは、作りての顔が見えていて、期待値も把握できているから「だいたいこんな感じの15分間が提供される」と想像できるから安心だって言うんです。でも今回話をしてみて、どういう人がつくっているかわかったから観ます!という。
まさに過程を楽しんでいるというか、消費しているんだなと感じました。

いまTikTokで本を紹介しているけんごさんという人がいて、すごく影響力があるんですけど、彼は本の中身を紹介しているようで実はしていない。この本に対してこういう知識を持って臨むとよりおもしろく読めるみたいな、本の楽しみ方を指南しているんです。まさにプロセスという部分にコミュニケーションの重点が変化しているように感じました。

安藤
それってもう、本というスタティックな商品のレコメンデーションでもないんだよね。この人が推薦しているから売れるとか、すでにある商品をどのように上手にプロモートするかとかじゃなくて、その紹介のありようも含めて全部が商品、プロダクトなんですよ。本そのものが、その紹介とセットであらたなコンテンツに生まれ変わっているんですよ。今後どんな業種でも、つくられたものそのものが価値、というふうにはならないから、いかに価値が生じる過程を提起できるか、がクリエイティビティ。そういうふうに捉えられるか否かが鍵だと思うな。

ブランドマーケティングの知見とデジタルの知見を統合して進化する

いまプロダクトからプロセスへという時代の流れの話がありましたが、森永さんの本でも語られていた、トラディショナルな広告とデジタルの広告という違う価値観をマージするという意味で、今後こうなっていくといいなというヒントはありますか?
安藤
みんな、デジタル広告は効果がはっきりしている、マス広告ははっきりしないと言うじゃないですか。でも本当にそういえるかはわからない。わかる部分もあるけど、デジタルだってわからない部分もいっぱいありますよね。とはいえ、データを軽視するマス側の制作者がいるとしたらそれは間違ってる。データを気にするのってそんなのクリエイティブじゃないだろう、デジタル広告じゃブランディングできないだろうと否定するのではなくて、わかるところをできる限り可視化しようという態度はものすごく重要です。一方で、デジタルだけじゃなく、ブランドマーケティングの世界においても効果ということについても、業界ははるか昔から研究を積み重ねているわけです。その知見を統合して進化することがこの業界のテーマであり、それを伝えたくてこの本を書いたとも言えます。
それは、いい話ですね。お互いそれぞれのいいところをリスペクトしあったほうがいいですよね。デジタルの効率性も大事だけど、ずっと積み上げてきたブランディングのノウハウも大事。同じように最近気になるのが、マーケッターの万能感。生活者の方が確実にその商品のことをよく知っている。そう思った方がいいですよね。
安藤
広告において、まったく誰もやったことない新しいテーマって実はそんなにはないんじゃないかと思うんです。広告の歴史は繰り返してる。デジタルマーケティングのサイドもマスマーケテイングの歴史を勉強して取り入れた方がいいに決まってる。マーケティング全体としては、やはり時代の変化のスピードをしっかり取り入れないといけないですよね。
さいごに今後のマーケターがどうあるべきかきかせてください。
安藤
いまの若い世代のマーケターに、今後どういう働き方があるかを考えたとき、スタートアップ的に経営に近いところで仕事をするというのがひとつの選択肢になると思うんです。それはとても魅力的なこと。総合広告会社は、大きくて立派なのかもしれないけどいわば「OS」が重すぎて自分じゃ何も変えられないからつまらない、と思われがちなのかもしれません。でも、広告会社そのものも、スタートアップと同じような課題や取り組むべきテーマを持っています。広告会社のビジネスをどう革新していくかを考えながら、自分で会社を動かしていくことを望まれているし、それができる環境にいる。組織が大きすぎて、会社の歯車のひとつにすぎないと感じているなら、まずはその意識を変えたいですね。自分が関わっている仕事をひとつの事業だと捉えてどんどん取り組めるはずだし、広告産業全体からそれを望まれていると思います。

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  • 博報堂DYホールディングス 取締役常務執行役員
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  • 博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員