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コロナ禍によって変化した「生活DX」意識。 新たな生活者の期待にどう応えていくべきか
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コロナ禍によって変化した「生活DX」意識。 新たな生活者の期待にどう応えていくべきか

コロナ禍による生活環境の急変を受けて、否応なく対応が進んだデジタルトランスフォーメーション。数年分にも相当するイノベーションが、わずか数ヶ月で生じたともいわれています。

博報堂DYメディアパートナーズのシンクタンク、メディア環境研究所(以下、メ環研)では生活を取り巻くイノベーションについて、その実態と意識を明らかにする調査を2017年から日米中泰の世界4か国で行っています。コロナ禍後の初となる21年の調査結果からは、コロナ禍を経て従来とは異なる変化を見せた日本の生活者の様子が浮き彫りとなりました。

DX化の進展で拡大が期待される市場にどのように対応していくべきか。
今回はこの調査結果を受け、メ環研にご関心をお持ちの皆さまとカジュアルに意見交換・議論をするオンラインイベント「メ環研の部屋」で、
山本グループマネージャー(以下、山本GM)と小林舞花上席研究員がご報告した模様をご紹介します。
メディア環境研究所公式サイト

◆メディアイノベーション調査とは?

「生活を変えるイノベーションとは何か?」を各国でリサーチするメディアイノベーション調査。2017年にスタートし、2021年で5回目を迎えます。2020年はコロナ禍で中止となったため、今回が新型コロナウイルス流行後、初めての調査です。

今回の報告では、コロナ前後でどのようなイノベーションが起きたのか、特に3つの視点に着目した変化をお伝えします。

調査対象は、日本(東京)、米国(ロサンゼルス)、中国(上海)、タイ(バンコク)の4カ国4都市の15~59歳の男女。インターネットを通して、2021年3月15~29日に調査を行いました。

その頃の各国の感染拡大状況を振り返ってみると、東京では3月21日に2回目の緊急事態宣言が解除されたばかり。米国のカリフォルニア州では感染のピークがすぎ、一般へのワクチン接種が4月から開始と発表。中国は新規の感染者数1桁台が続き、タイは感染状況がちょうど落ち着いていた時期でした。

◆日本では過半数が「コロナ後の社会は変わる」と期待

まず4カ国の「コロナに対する意識」の違いを見ていきます。この項目ではコロナに対する不安や情報との向き合い方、人生観の変化などの9つの質問を用意しました。

調査結果から日本はコロナへの感染や経済的な不安が強いことが読み取れます。着目したいのは「感染が終息した後、社会が変わる」という回答が4カ国中トップ(54.4%)になったことです。

コロナ前の日本は便利な社会でしたが、DXはなかなか進まない状況にありました。しかし、皆さんご承知の通りテレワークやキャッシュレスなどコロナ禍を経て生活のDX化が大きく進みました。この日本社会のDXの加速がコロナ後の社会の変化の予期につながったと考えられます。

ちなみにコロナ前からDX化が急速に進んでいた上海では、日本とは反対に「感染が終息した後、かつての社会が戻る(43.4%)」が「社会が変わる(35.4%)」を上回りました。

また、各国共通して過半数、ないしはそれに近い人が「メディアの重要性や伝えることの信憑性」に関心を寄せています。なかでも日本は「気になる」が57.9%なのに対し、「全く気にならない」が8.2%とその差が4カ国中で最大となりました。

「日本は、メディアが伝える情報の信憑性にとても敏感な人が多くなっている」と山本GMは話します。

◆4カ国の中で「生活DX」に出遅れが目立つ日本

では次に各国の生活DXの現況を見ていきます。「現在利用しているデジタルサービス」について質問。「リモートワーク」「オンライン会議」「ネットショッピング」「フードデリバリー」などの20項目の利用状況を調査しました。

※①~⑤は各国での順位、濃い黄色は60%以上、薄い黄色は30%以上の回答を得たもの。

日本の上位5項目は、1位「ネットショッピング」、2位「キャッシュレス決済」、3位「セルフレジ」、4位「ゲーム」、5位「フードデリバリー」と、買い物と決済関連が中心です。特に上位3項目の利用状況は他国との差が小さく、政府の後押しがあったことも影響していると考えられます。

しかし、その他の項目におけるデジタルサービスの利用度は、他国に比べて低いのが現状です。平均を見ると、他3カ国では30%以上がデジタルサービスを利用しているのに対し、日本は11.4%にとどまっています。

また、「これらのデジタルサービスを今後も使いたいか」という問いに対しては日本以外の3カ国はリモートワークやビデオ通話、オンライン診療で50%近くが肯定的な反応を示しているのに対し、日本は買い物と決済関連以外の項目には消極的な反応を示しています。

「日本はデジタルサービスに対してまだまだ慎重。生活DXは進みつつありますが、他国と比べるとまだ出遅れていると言える」と話す小林上席研究員。「例えば、3カ国がビデオ通話を今後も使いたいサービス上位に挙げているのに対し、日本では挙がらなかった。空気を読むという文化がある日本は、海外に比べて馴染みにくかったのかもしれない」と背景を分析します。

◆日本はキャッシュレス関連サービスへの関心が高まる

デジタルサービスの実際の利用に続いて、興味度も見ていきます。生活を変える83の新しいサービスへの興味度を聞き、より関心が高いものから順番に並べました。

この調査では、実際に知っているかどうか、使っているかどうかにかかわらず、純粋に「興味があるかどうか」について尋ねています。まず、各国の興味度のランキングを見てみましょう。

※濃い黄色は各国共通で10位以内、薄い黄色は各国共通で15位以内。色付き文字はその国のみで15位以内にランクインしたもの。各国とも上位はスマホを活用したサービスが並ぶ

 
4カ国共通で言えるのは、スマホを活用したサービスへの興味が高いことです。なかでも「スマホアプリ・QRコードで決済」、「外出先からスマホで家電操作」、「スマホアプリで買物・宅配・物運搬」は2019年の調査でも各国共通してトップ10に入り、前回の調査から引き続き、高い関心を得ています。

日本でも、興味度1位は「スマホアプリ・QRコードで決済(58.6%)」、2位「カゴで決済完了する無人店舗(52.8%)」、3位「外出先からスマホで家電操作(48.0%)」です。

前項の「現在利用しているデジタルサービス」と同じく、買い物やキャッシュレスへの興味度が高く、広く受容されていることがわかります。

さらにトップ15まで広げて見ると、各国共通で「外出先からスマホで来訪者確認」「ドローンで24時間配達」、「VR ×専門教育」がランクイン。これらは他人と極力接触しないことが求められるコロナ禍の生活の中で興味が強まったのだと見られます。

4か国で共通点がある一方で、少し異なる動きを見せたのが中国です。トップ15の下位の方には他国にはない独自の項目が数多く上がっています。

これは一概には言えませんが、中国では用意された項目のうち「ある程度知っている」「当たり前になっている」ものが増加したことから、興味度の入れ替わりが起こったと考えられます。

◆物流、食、VR……各国をとりまく状況が鮮明に

次に83のサービスを13の領域/キーワードに分類した領域別の興味度を、コロナ前(2019年)と比較。各国の傾向を調べました。

やはりここでも、日本は「支払い・認証」「スマホ活用」への興味が高めに。興味度が高く伸びた項目の共通点は、コロナの影響で外出しなくても、すぐ手元で受けることができるサービスと言えます。

広大な土地をもつ米国は、「物流・移動」へ高い興味が集まっています。「見守り・教育」への興味度の増加は長期のロックダウンや休校という経験によるものだと考えられます。2019年の調査結果と比較すると、米国はロックダウンの不便な生活を経て、これまで当たり前のように享受してきた豊かな暮らしを再認識し生活のありがたみを実感していることが伝わってきました。

タイはどの項目も高止まりしていますが、中でも「食」への興味度が大幅にアップ。タイは元々、外食文化だったところステイホームにより家の中での食にシフトし、「食」への興味が高まりました。

中国も「食」への興味は高いのですが、それ以上に目を引くのが他国ではそこまで興味が上昇していない「VRの活用」への興味が大きく上昇している点です。中国ではコロナ前からDXが進んでおり、一歩先を行っているという印象があります。

山本GMは、中国ではコネクテッドTVがかなり普及していることにも触れ、中国の「VRの活用」への興味上昇は「新しいエンターテイメントへの興味が湧き始めているのではないか」と分析しています。

さて、最後に注目したいのは増減度です。日本はDXが遅れていることから、先端サービスへの興味度自体は他国と比べて低いものの、前回調査からの伸び率は4カ国で最大の4.5ptとなりました。「停滞していた先端サービスへの興味がいよいよ動き出す兆し」と小林上席研究員。山本GMも「日本は伸びしろしかないと前向きに捉えることもできる」と今後に期待を寄せます。

◆日本は「女性のチャレンジ志向の伸び」が顕著に

先端サービスそれぞれへの平均興味度の伸び率を男女別で見てみると、また別の景色が見えてきました。

※他3か国では女性の興味度は、微増もしくは減少するなか、日本は大幅にアップし男性を超えた

日本は女性の興味度が大幅に伸び、男性を上回ることがわかりました。これは他国にない動きです。

各サービスの個別領域/キーワードで見ても、ほとんどの項目で女性の興味度が男性を上回り、その伸び幅も男性より大きくなりました。

生活意識の変化で、日本では「時代の変化に乗り遅れると損をする(+7.4pt)」や「失敗してもいいから新しいことに挑戦したい(+7.1pt)」という回答が増え、日本人のチャレンジ志向の上昇が見られます。

特に男女別で見ると、女性が「時代の変化に乗り遅れると損をする」で+14.5pt、「失敗してもいいから新しいことに挑戦したい」で+9.8ptと大きく増加しています。特に女性のチャレンジ志向が高まっていることが見えてきました。

イノベーション受容度では、男性では慎重な考えも見え隠れする一方で、女性には受容の伸びが見られました。特に「生活の中の面倒なことは機械や家電に任せたい」「声をかけるだけで家電操作」などのイエナカへの便利への志向も上昇。実際、コロナ禍では調理家電やロボット家電が売れるという現象が起きました。

「今まで女性には新しいサービスを敬遠する傾向があった。しかし、コロナ禍でそのサービスが身近な生活の中に現れ、女性の意識が大きく変わった。意識の変化はコロナが後押ししたのでは」と小林上席研究員。

また、山本GMも「おうち時間が増え、女性の家事負担が増えていると複数の調査で言われている。そこでもっと機械に頼ってみようという意識も動き出したのかもしれない」と話します。今後、女性のイノベーション受容の加速はさらに期待されます。

ここで、山本GMが1つの実例を紹介しました。ある精肉店のECサイトではコロナ流行後、遠方からの50~60代の女性の購入が増加。購買プロセスもユニークで、購入者は店に直接電話をして商品を確認してから、ECで購入するパターンが増えているそう。

山本GMは、「今の50~60代の女性は、ECでの買い物自体はリテラシー的に問題ありません。ただ、ユーザーインターフェイスが使いにくいようです。これからは今までのユーザー体験とは違うインターフェイスが必要になってくるのではないか」と付け加えました。

◆個人情報保護意識の変化 日本だけが過剰に不安を感じている?

先端サービスの利用につきものなのが、住所や位置情報などの情報の提供です。世界各国で個人情報保護の規制強化が続いていますが、実際の生活者の意識はどうなのでしょうか?

日本はもともと情報提供に対する不安と抵抗感が強い傾向にありましたが、2021年の調査でもその不安は高止まりしています。個人情報と行動データの提供への不安は、女性でより高まり、男女の不安意識の差が拡大しました。

一方、他の3カ国を見てみると、米国はコロナ禍を経て抵抗感が大きく減少、中国では抵抗感の減少が加速、タイは引き続き減少傾向。日本以外では、情報提供への不安が下がる結果となりました。

ここで参加者から「世界規模の個人情報保護の声の高まりと反した結果になっている。米国では中国に情報渡してもメリットがあれば良いと考えられるのか、それとも法整備が進んでいるのか」という質問が出ました。

議論に参加していた森永上席研究員から、「米国でも個人情報保護を重視する風潮がある一方で、規制するとビジネスが止まり中国に負けるという思いがある」という現地情報を紹介。「今回の情報提供への抵抗感のダウンは個人情報保護と世界No.1経済大国の地位の維持の間で揺れ動く米国市民の心理が影響しているのではないか」と考察します。

森永上席研究員の考察を受け、参加者からも「もし米国でこの傾向が続けば、米国からまた新しいサービスが出て、日本はそれにつぶされ続けるのではないか」という懸念の声が挙がります。

「日本では、情報提供に対し過剰に不安を感じている部分もあるのではないか」と山本GM。個人情報を含む情報提供をどう考えるか、メリットとデメリットの伝え方が先端サービスの広がりの鍵となるかもしれません。

◆まとめ

今回の調査からは、日本の生活DXは他国と比べて遅れをとっているものの、コロナ禍を経験したことで変化の兆しがあり、なかでも女性のイノベーションへの受容度が高まっていることが見えてきました。

今後は、女性が安心して市場を牽引できるサービスの誕生と、個人情報を含む情報提供への意識の変革が課題であると言えそうです。

山本GMは「今のような市場の広がりが切り替わるタイミングでは、サービス提供者やメディアには過去のデータだけにとらわれない想像力が求められているのかもしれない。女性を中心に、DXには遅く来ると言われてきた人たちが、関心を持ち、実際にサービスの利用を始めている。その人達を裏切らないでファンになってもらうことが、重要なのではないか」というメッセージでイベントを締めくくりました。

メディア環境研究所公式サイト

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  • 博報堂DYメディアパートナーズ 
    メディア環境研究所 グループマネージャー兼上席研究員
    2003年博報堂入社。マーケティングプランナーとしてコミュニケーションプランニングを担当。11年から生活総合研究所で生活者の未来洞察に従事。15年より買物研究所、20年に所長。複雑化する情報・購買環境下における買物インサイトを洞察。21年よりメディア環境研究所へ異動。メディア・コミュニティ・コマースの際がなくなる時代のメディア環境について問題意識を持ちながら洞察と発信を行っている。著書に「なぜそれが買われるか?~情報爆発時代に選ばれる商品の法則(朝日新書)」等
  • 博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
    2004年博報堂入社。トイレタリー、飲料、電子マネー、新聞社、嗜好品などの担当営業を経て2010年より博報堂生活総合研究所に3年半所属。 2013年、再び営業としてIR/MICE推進を担当し、2014年より1年間内閣府政策調査員として消費者庁に出向。2018年10月より現職。