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クリエイティブ・テクノロジーを用いた広告制作のこれから ~Creative Technology Lab beatの活動紹介~(アドバタイジングウィーク・アジア2022 博報堂DYグループセミナーレポート)
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クリエイティブ・テクノロジーを用いた広告制作のこれから ~Creative Technology Lab beatの活動紹介~(アドバタイジングウィーク・アジア2022 博報堂DYグループセミナーレポート)

リアル・イベントとオンラインを融合したハイブリッド形式で開催されたアドバタイジングウィーク・アジア2022。リアルとバーチャルの融合によりこれまで以上に参加の機会を広げ、「マーケティング、メディア、テクノロジー、クリエイティブなどの業界をひとつにし、変化を推進していくこと」を視座に、さまざまなセッションやネットワーキングが展開されました。

本稿では、博報堂DYホールディングスの木下陽介、青木千隼と株式会社アイレップ取締役CTOの柴山 大が、クリエイティブ×テクノロジーの社会実装を推進するためのグループ横断型の研究開発組織beatについて、活動方針やビジョン、ソリューションの紹介から、今後の可能性までを語ったセッションの様子をご紹介します。

パネリスト
木下 陽介
株式会社博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長代理兼グループマネージャー

青木 千隼
株式会社博報堂DYホールディングス
テクノロジスト

株式会社アイレップ
取締役CTO
柴山 大

■心の鼓動を呼び起こすクリエイティブのためのワークフロー刷新を目指す

木下
今日は我々が立ち上げた博報堂DYグループ横断型の研究開発組織Creative technology lab beatにおける取り組みを紹介しながら、今後クリエイティブとテクノロジーを掛け合わせた広告制作がどのように進化していくのか、その一幕をお見せできればと思います。

広告業界においては、2021年に4マスの広告費をデジタルが上回り、動画広告やSNSにおけるデジタル広告制作業務はまさに活況を迎えています。これまでは1本CMをつくって納品して完了だったような仕組みを、メディアのフォーマットに合わせて個別にリバイスしていったり、メディアやターゲットに応じてメッセージを変えながら短納期で大量に制作し、その結果に応じて高速PDCAを回していくという時代になってきました。そうした変化に対応すべく、クリエイティブ業務のDX・自動化をテクノロジーで推進しながら、質の高いクリエイティブを発揮できるような業務環境やワークスタイルの確立を目指そうと生まれた研究開発組織が、beatの起源となっています。

beatが掲げるビジョンは、クリエイティブ・テクノロジーを社会実装し、世の中を魅了する体験価値を提供すること。効率性を追求しつつ、生活者の心を動かすクリエイティブを可能にするソリューション開発を行い、さらに開発したプロジェクトを通したクリエイティブワークフローの刷新を支援したいと考えています。beat、つまり心の鼓動を呼び起こすようなクリエイティブが可能になるテクノロジー、そしてモチベーションや創造性を加速させるようなテクノロジーの提供を通し、ワークスタイルの改善を提案していきたいと思っています。

■AIの活用で制作現場を変革し、確実な広告効果を実現する

柴山
beatがすでにリリースした3つのプロダクトについてご紹介します。博報堂DYグループのデジタルエージェンシーであるアイレップ社が制作しているのが、H-AI SEARCHH-AI EYE TRACKERというプロダクトです。

アイレップとグループAIカンパニーのnegociaが共同開発したH-AI SEARCHは、リスティング広告における広告文の自動生成と効果の事前予測をAIが行うシステムです。広告文作成に必要な要素をいくつか入れるだけで、数十個もの広告文の候補がわずか数秒で生成され、大量生産した広告文からAIによって効果が高いと予測されるものに絞って配信ができるという仕組みです。このプロセスを高速PDCAすることで、人間より何倍も速い速度で勝ちクリエイティブをどんどん検証していける、運用型のクリエイティブサービスになっています。
クリエイティブはある程度のスパンで入れ替えや見直しが必要になるものですが、タイトル15文字や本文30文字、さらにそれを10パターンを人の手で考えるとなると時間もかかり、エージェンシーにとって負担の多い領域です。H-AI SEARCHなら、広告文生成は自動かつ数秒で終わり、どこを改善するといいかというリコメンドもAIで自動化される。時間と労力をかけて一発で正解を当てに行くというこれまでの世界から、人間の限界を超えた量と速度でPDCAを永続的に回し続けられる世界へと、まさに制作現場を変革することができるのです。

続いて動画向けのH-AI EYE TRACKERをご紹介します。これは、アイトラックデータ、つまり人の目線がどこを追うかをAIに学習させ、動画内のどこに人の目線が誘導されるかを予測できるプロダクトです。注視領域をヒートマップ化し、重畳表示することで、広告主の意図した通りの訴求になっているか、制作意図が表現に反映されているかをきちんとチェックしながら動画を完成させることができます。たとえば有名タレントを起用して興味関心を引きたいという意図があっても、タレントさんにばかり目が行くことで、サービスの認知につながらないといったことも考えられます。これまでは広告の出稿後に効果検証したり、事前のサンプリング調査をすることによってチェックするしかなかったわけですが、H-AI EYE TRACKERならクリエイターの制作過程の中でAIが解析することで、ここでロゴを大きく表示するとそこに視線が行くね、とか、ウェブへうまく誘引できるね、といったことを、その場で検証・修正を重ねながら制作できるのです。

具体的な成果として、あるB2B商材で検索数が11倍になったり、あるファッションECにおいてYouTube広告のブランドリフトが+47%になっており、このツールの有用性が立証されています。

■制作工数の激減と、より高い訴求力の動画制作を可能に

青木
続いて、博報堂DYホールディングスの研究開発部門であるマーケティング・テクノロジー・センターが開発した、H-AI MOVIE RESIZERについてご紹介します。これは、動画素材をAIで解析・処理することで、テレビCMなどの既存の動画広告をデジタル媒体に最適なフォーマットに変更、リサイズすることができる制作支援ソリューションです。

まずはベータ版で現在できることとして、テレビCMを想定した16対9の動画を、AIによるサジェストとユーザーによる手修正でデジタル媒体向けの1対1にリサイズすることが可能です。作業フローを説明すると、まずユーザーが白カン動画(完パケ動画から画像要素を除いた動画)、画像要素、メタデータ、そして見本用として完パケ動画の4点を入力。それをもとに、アルゴリズムを適用し自動でカット単位に分割。その後、カット単位の動画を物体検出AIを用いて解析し、動画内の被写体に関する位置やサイズを取得。それらの情報を踏まえリサイズ枠について、「ここを残すべきでは」というサジェストをAIが行います。ただし、必ずしもAIが100%成功するわけではないので、ユーザーが手修正できるUIも提供しています。カット単位でリサイズ枠が設定されたら、ロゴや商材の画像などをユーザーが適切な位置に配置。この時点で各カットごとのリサイズと、個別の画像要素のレイアウティングが完成し、ユーザーはリサイズ済の完成版動画をダウンロードして作業は完了となります。

このツールを活用することで、実ビジネスにおいては、制作工数が激減するというインパクトが期待されます。通常のテレビCMの再編集行程においては、プロのエディターの手で1週間程度は必要ですし、物理メディアからのデータの再調達や、本編集室を利用する時間的・金銭的コストが大きい。一方でH-AI MOVIE RESIZERを活用すると、大幅な工数削減が可能です。基本的に数十分あれば1本の動画のリサイズが完了するので、業務効率化を図りながら、削減できた時間を使ってより高付加価値型の企画業務などにクリエイティブワークを割いていくことが可能になります。

そして現在、動画広告を評価するAIを組み込んだシステムの開発も進めています。たとえば現在は、リサイズのフローにおいて、各画像素材をリサイズ対象の枠のどこに再配置するかなどは作業を行うユーザーの審美眼にゆだねられています。そこにAIを用いることで、「こういうふうにロゴを再配置したほうがブランドリフト効果が高まるのでは」といった内容をAIがサジェスト。それに対しユーザーが総合的に判断して制作することで、より動画の効果を高められるのではないかと考えます。

AIによる動画広告評価の軸になるのは、我々博報堂DYグループオリジナルの、テレビCMの定点観測調査「Best HIT」という調査データです。これは2007年にスタートした調査で、東京キー局で放送されたすべてのTVCMにおける商品・サービス・ブランドなどさまざまなテーマの表現効果を測定、現在までに9万点を超えるCM作品に関するデータが蓄積されています。注目喚起力、共鳴喚起力、理解促進力、また商品特徴理解度や商品購入喚起度などの一般的なブランドリフト効果的なデータから、独自性のある、注目喚起度や話題喚起度まで評価ポイントはさまざま。これらのデータをもとに広告評価に関する目的変数として設計することで、マーケティング上有意なAIを構築して参ります。

現状の動画広告評価AIでは、動画と音声という実素材の入力のほか、メタデータとしての業種カテゴリーやタレントの有無など計4点を入力し、最終的にAIが評価値を予測します。予測される評価値部分には、先ほどのBest HITのデータを用いていて、表現好感度や商品購入喚起度などが予測が可能です。さらに、その予測された評価結果をヒートマップ化し、ビジュアライズされた状態でユーザーにフィードバックするアルゴリズムの開発も進めています。そうした高付加価値型機能を通し、よりユーザーが生活者に対して訴求力を高められる動画制作が可能になる未来をいま展望しています。

■AaaSとも連動させたクリエイティブクラウドを構想

木下
これらプロダクトについては、ローンチ後もさまざまなブラッシュアップを続けております。さらにクライアントに応じたメッセージの切り分けなど、カスタマイズを想定したプロジェクトも動いていますので、ぜひお声掛けください。

最終的には、我々が広告効果のデータをため基盤を構築しているAaaSという広告メディアビジネスの次世代型モデルとも連動させ、クリエイティブの業務プロセスをクラウドで管理し、刷新していく構想を掲げています。実際、過去に使った素材の管理場所がプロダクションだったり営業チームだったりとばらばらなケースも多いのですが、そうした過去のクリエイティブの素材を、成果とともに一元管理監督できるDBと、AaaSに貯めているようなクリエイティブのノーム値を蓄積した広告レスポンスDBを掛け合わせる形で、クライアントに応じてH-AI MOVIE RESIZERをカスタマイズしたり、クライアントが重視するKGIに最適化したクリエイティブ自動生成や評価AIを新たにつくることも構想しています。また広告素材の評価についても、メディアの効果とともにダッシュボード化し、日々閲覧できるようなサービスを提供することで、今後のクリエイティブ業務を刷新していけるような、クリエイティブクラウドをつくることも目指しています。

おそらくこうしたアイデアを通じて、現状のクリエイティブ業務のワークフローにどんな課題があるか――ここは同じチームでやるべきだったとか、ここは二度手間になったとか――が見えてくるでしょう。自動化できるものはAIに任せ、クリエイティブのいわゆるアイディエーションに時間を割けるようなワークフローへ刷新するためにも、メディアとクリエイティブを一体で運用できるワンチームで、デジタルクリエイティブ業務を監理監督していく形を目指したい。

そしてクリエイティブ業務工程の効率化、人と機械の協調的ワークスタイルの提供、さらにテクノロジーが目指す新しいエクスペリエンスを生み出しながら、プロダクトのみならず、インフラも提供していくことで、クライアントさんやクリエイティブ制作を行っているチームメンバーから一緒にクリエイティブワークをできてよかったと言ってもらえるようなクリエイティブワークフローの先進事例を作っていけたらと思っております。

■グループ各社の強みを活かしながら強固に連携をとっていく

木下
今回ご紹介のbeatのプロダクトにおいては、博報堂DYホールディングスとアイレップが役割分担しているわけですが、博報堂DYホールディングスの研究開発部門であるマーケティング・テクノロジー・センターはAIに関連する学術論文のリサーチを行うR&Dのリサーチャー、AIアルゴリズムを自ら手を動かして実装するデータサイエンティスト、データサイエンティストのAIアルゴリズムを世の中のニーズに合わせてみんなが使いやすいプロダクトを構想し、開発プロデュース機能を担うテクノロジスト、そして本番実装していくプロダクトサービスエンジニアなどによるスクラム体制をとっています。
柴山
アイレップはデジタル広告中心ということもあり、特にパフォーマンス系の広告に対するプロダクトを担当しています。アイレップグループに所属するAIテクノロジーの会社、negociaを中心に、東京工業大学などとの産学連携などを通じてAIを研究、学術論文の発表なども行いながら、商用開発まで一気にスクラムでデリバリーするという体制ができています。パフォーマンス系のクリエイティブに対し、より早くプロダクト化をして内製できることがグループの強みですので、今年から来年にかけてもより多くのプロダクトを出せる量産体制が整っています。
青木
この1年半、グループ内でも異なるワークスタイルのメンバー同士がチームとなってやってきましたが、negocia筆頭にアイレップグループ側の、研究開発のスピード感の速さには驚かされました。これまでお話してきたような複雑な技術を活用し、ソリューションとして提供する際には、技術研究から開発までスムーズに連携して進めていくことが重要になります。その点negocia中心の研究開発体制というのは、アカデミー領域の技術研究から、アイレップ社員が利用可能なツールとしての本番開発、そして運用までを一気通貫で実現している。その推進方法、意思決定フロー、情報共有の方法等、見習うべき点が多いと感じていました。今後も博報堂DYホールディングスにおける開発スピードや品質向上に努めていきたいと感じています。
木下
我々博報堂DYホールディングスとアイレップグループが一丸となり、クリエイティブ・テクノロジーを用いた広告制作の新しい形を実現させ、この業界の変革をリードしていきたいと思います。ぜひご期待ください。
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