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「感情検索」から見えてくるZ世代のリアル 自分、他人、社会との関係性 博報堂若者研究所×ヴァリューズ 共同研究レポート前編
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「感情検索」から見えてくるZ世代のリアル 自分、他人、社会との関係性 博報堂若者研究所×ヴァリューズ 共同研究レポート前編

©チチチ

「ありがとうと言われると嬉しい 理由」
「夜になると不安になる なぜ」
「感謝されるのが嫌い」

我々は若者の検索行動を調査する中で、このように自分の内心で漠然と感じている感情を検索するという興味深い行動に遭遇しました。こうした行動を『感情検索』と名付け、若者の新しい情報探索行動として、行動の実態や背景にある価値観について探求しました。

「なぜ、若者は感情検索をするのか?」

本稿では、前回の「Z世代の意思決定行動」のレポート 前編 / 後編に続いて、『感情検索』をテーマに、学生研究員の若者と一緒に未来の暮らしを考える博報堂若者研究所(以下博報堂若者研)とWeb上の行動ログデータから生活者のニーズを読み解く株式会社ヴァリューズ(以下ヴァリューズ)の共同研究の内容をお届けします。

「感情を検索する」若者たち

こちらの図は博報堂若者研の学生研究員を交えたワークショップを通して聞いた若者たちの声です。こうした声に触れる中で、若者たちの間には自分の感情を検索をするという行動=『感情検索』が根付いているのではないかということに気づきました。

おそらく上の世代の人たちからすると「感情って検索するものなのか?」と疑問に思うのではないでしょうか。検索とは、対象が明確に決まっていることや事実について調べるものだと考える人が多いように思えます。

では、なぜ、若者は自分や他人の感情を検索をするのでしょうか?

ヴァリューズの強みであるWEB上のログデータと博報堂若者研の強みである若者たちとの対話を通した探求を掛け合わせて研究に取り組みました。

今回、研究を進める上で、はじめにヴァリューズのログデータから実際に若者が感情検索をしていると思われるキーワードをピックアップしました。すると、予想以上に多くの若者が実際にこうした情報探索行動をとっていることが分かりました。こちらの図は、15歳~25歳の若者が直近の半年間で検索したキーワードです。

全体の傾向として、何か答えを求めて検索しているというより、自分の心のうちに抱えているものをそのまま吐き出しているようなものが多いことが特徴となっています。「自分と結婚したい」「自分がどうしたいか分からない」など、自分の中にぼんやりあるけど、しっかり理解出来ているものではなく、「この気持ちは何なのだろう?」とモヤモヤしていることをそのまま検索窓に打ち込んでいる様子が見えてきました。

このような若者の実行動として感情検索が行われているログデータをスタート地点として、博報堂若者研の学生研究員の皆さんと一緒に『感情検索』の背景にある若者の意識や価値観を紐解いていきました。

感情検索における若者の意識

感情検索をする若者の意識について、博報堂若者研の学生研究員とディスカッションをする中で3つのキーワードが見えてきました。

1:自分を知りたい

一つ目のキーワードは「自分を知りたい」。
「奢られる 嫌だ」「どうしようもなく人と話したい」など自分の中にぼんやりとなんとなく感じていること。あるいは「誕生日を祝われたいけど祝われたくない」など自分の中に相反する感情があって、上手く整理出来ていないこと。「モテるの嫌」など他人に話しづらいこと。また、「感情移入し過ぎる 辛い」など、自分の心の中をより深く理解したい、ぼんやりしているけど気になる自分の感情を検索しているものを「自分を知りたい」というキーワードでまとめました。こうした行動について、学生に意見を聞いたところ、「はっきり分からない、なんとなくある自分の感情を探りたい」という気持ちがあるとのことでした。

実例を見ると、比較的ネガティブな感情が多いのですが、それをいきなり他人に話す前に、自分の中で反芻しているような様子が見られます。検索をすることで、自分以外にも同じようなことを考えている人が見つかるかもしれない。そのような行動を通して、解像度を高めながら、自分の中にある気持ちを探っていきたいということかと考えられます。ある学生からは、「WEBを壁打ち相手として、言語化すること、モヤモヤしている気持ちをはっきりさせることを手伝ってもらっているような感覚」という発言もありました。

2:他人を知りたい

二つ目のキーワードは「他人を知りたい」。

これは「高齢者を大切にする 理由」など、あるテーマについて他人の考えや価値観の背景を深掘りしたい時に検索していると思われるものです。

「子どもを作らない理由」「高級車に乗る人の心理」など、自分とは異なる価値観かもしれないけど、そのような行動をしている人のことを知りたいと思い検索する場合や、「マッチングアプリを使う理由」「ありがとうと言われると嬉しい理由」など自分が感じていることやとっている行動について他人との意見を見てみたいと考えて検索する場合などがあります。

興味深いのは、「高齢者を大切にする理由 分からない」「高級車 なんで乗るのか?」という批判する意図ではなく、分かりたいという気持ちから検索している言葉に思える点です。あくまでフラットに「なぜこういう風に考えて、行動をしているのか知りたい」という動機から検索をしている様子が見られます。

学生研究員の意見としては、「自分にはない他の人の感情を理解したい」もしくは「自分が考えていることを他の人はどう思っているのか知りたい」などの声がありました。他人の感情を検索することで、自分との違いや共通点を探っていきたいという思いがあるようです。

「SNSの浸透によって社会の分断が進んでいる」「お互いのことを理解しようとしない人が増えている」などの言説が語られがちな昨今ですが、こうした若者の行動からは、お互いに無関心で壁をつくっているのではなく、冷静になって価値観の異なる他人の考えや行動の背景を探ろうとする様子が見えてきました。

3:ギャップを知りたい

三つ目のキーワードは「ギャップを知りたい」。

これは、主に自分の感情が他の人に言ってもいいぐらい普通の感情なのか確かめたいという気持ちからの検索です。こうした検索行動をしている若者たちは、家族や友人に相談することが出来ないというわけではなく、相談する前に他人に話していいことなのか確かめたいという気持ちがあるようです。

学生研究員の意見として、「人に話す前に自分の感情がみんなにもあるのだという安心感が欲しい」「友達だとどこまで踏み込んで良いのか分からない。忖度のない意見を知りたい」という声がありました。友人に相談する場合は、本当のところはみんなはどう思っているのだろうということを事前に探った上で話すようにしているということでした。

これまで若者の間に浸透している感情検索の実態について見てきました。それでは、なぜ、今若者の間でこのような検索行動が広がっているのでしょうか?背景にある理由として考えられる社会の情報環境や価値観の変化について、学生研究員との対話の中から3つのポイントが見えてきました。

感情検索の背景にある情報環境や価値観の変化

1:個人の感情がWEB世界にアップされているという事実

今は、膨大な個人の感情がネット上にアップされていて、簡単に検索することが出来ます。SNSやネット掲示板、noteなどのブログには、様々な境遇の人が自分を取り巻く状況を事細かにまとめているものや、繊細な感情を見事に言語化したものであふれています。人の感情に関する大抵のことはネット上にアップされているからこそ、検索する意味がある。検索したくなるということです。

2:「個性を大事にし、多様性を尊重すること」の骨肉化

一人ひとりの個性を大事にすることや、多様性を尊重すること。こうしたことは昔から言われていることではありますが、特に今の若者たちは、非常に深いところでこうした価値観を理解して、大切にしている人が多いと感じています。こうした価値観が本当に重要なのだということを「骨肉化」という強いキーワードで表現しました。

例えば、「同性婚を認めるべきか?」という質問に関しては、若い世代ほど、「そうするべきだ」と答えるという統計があります。このような結果から、若者たちの間では、自分自身が当事者であるなしに関わらず、色々なバックグランドや価値観を持っている人がその人らしく生きられることが一番良いという考えが前提となっていることが分かります。

本質的な意味で、自分の個性を大事にして多様性を尊重するためには、まずは、自分と他人を知って、そのギャップを知る必要がある。だからこそ感情を検索するということに繋がっていくのではないでしょうか。

3 :人の心や感情に関する学問的な分析が進み、触れる機会が増してきた

3つ目の背景は、心理学など様々な学問分野の情報に専門家以外でも簡単にアクセス出来るようになったということです。若者の間で爆発的に流行している16分類の性格診断は、もはや共通言語となっているくらい彼ら彼女らの生活やコミュニケーション中に浸透しています。こうした知識やツールがオープンになることで、感情というものが、ただ感じるものではなく、分析して理解するものになっているのかもしれません。

それでは、こうした感情検索を通して若者は何を得ようとしているのでしょうか?
若者のニーズについてさらに掘り下げて考えると、そこから2つのキーワードが見えてきました。

通底する若者の気持ち

1:「分からない」をなくしたい

©チチチ

デジタルネイティブ、SNSネイティブ世代の若者たちは物心ついた時から日々膨大な情報に触れながら生活をしています。また、今の時代は分かりやすさが重視されていて、なんでも分かりやすく情報が整理されていることが当たり前になっています。そんな環境になれている若者たちは、分からないということにストレスを感じやすく、「分からない」ことをなくしたいという気持ちが強いのではないかと考えることが出来ます。

2:全てを「言語化」したい

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言語化したいという欲求は今の若者を象徴するキーワードの一つです。
SNSや自分らしく生きるという価値観の浸透などを背景に、若者たちの間では、自分自身のことを発信する機会が増えていて、言語化が上手い人に憧れる。言語化のスキルを伸ばしたい。そうした声を聞く機会が多くあります。

検索以外の行動で興味深かったのは、SNSの鍵アカウントに自分にしか見えないかたちで、その日の出来事やモヤモヤした気持ちを書いているという若者が複数いたことでした。なぜ、日記ではなく、XなどのSNSを使うのかを尋ねると、「字数制限があるから、コンパクトに大事なことが書ける」「未来の自分が読むと思って言語化している」などの答えが返ってきました。実際には外から見えるわけではないけど、他人も見るようなフォーマットで書くことで、自分の感情を客観的に捉えて整理出来たり、後日振り返りやすくしているということです。こうした行動からも「言語化したい」という思いを強く持っていることが感じられます。

また、今、短歌が若者の間で流行っていて、テレビで特集が組まれるほどのブームとなっています。博報堂若者研の外部研究員としてサポートをしてもらったこともある、歌人の伊藤紺さんの短歌も若者を中心に高い人気を誇っています。彼女の代表作に「振られた日 よく分からなくて 無印で 箱とか買って 帰って泣いた」という素敵な短歌があるのですが、短歌は、「明確に説明することは出来ないかもしれないけど、なんか分かる」という感情を言葉で伝えることが出来ます。若者たちの中には、こうした言葉にならない感情を大事にしたいという気持ちと、それを言葉にしたいという気持ちが同時に存在しているように見えます。

・変わることのない特性を受け入れて「自分を生きたい」

さらに若者の意識を掘り下げていくと、自分を知って、自分を生きたい。あるいは自分を乗りこなしたい。そのような感覚を若者は持っているのではないかということが見えてきました。

性格診断、骨格診断、親ガチャなど今流行しているキーワードには、自分ではどうしようもないこと、持って生まれたもの、特性などに関わるものがたくさんあります。そうした、変わることのない自分についてちゃんと理解したい。それを知った上でうまく生きていかないといけない。変えられないものは引き受けるしかない。そうした感覚で自分自身のことを捉えているのではないでしょうか。

・多様で動的で変化し続けるものでもある「自分を生きたい」

また、若者にとって自分は変えられないものである一方で、変えられないところばかりではなく、変えていきたいものでもあると言えそうです。旧来の自分観では、根っこに本当の自分があって、色々な人の前で変化する自分は仮面をつけた人格であると考えられていました。一方で、今の若者の多くは、嘘の自分、本当の自分という線引きではなく、様々な人格の自分があることが当たり前という「分人主義」の視点に立って自分を捉えていると言えるのではないでしょうか。

様々な場面や人との間に生まれる様々な自分の人格をポートフォリオのように捉えて、この人と一緒にいると気持ちがいい。そんな時間が好きだから、そんな自分をもっと増やしたい。というように、動的で多様な自分をどのように上手く変化させながら乗りこなしていくかを考えている。そんな若者の姿が見えてきます。我々は今回の研究を通して、若者の感情検索の背景には、こうした前の世代にはない新しい自分観があるのではないかと考えました。

後編ではこれらの調査結果を踏まえ、「これからの若者の情報行動はどこに向かうのか?」「企業はそんな若者たちとどのように向き合うべきか?」「若者たちが求める”多様性を認め合う社会”とは」を考えます。

※本記事は共同研究の結果を踏まえて実施したヴァリューズ社主催セミナーの内容をもとに再構成しました

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  • 小幡 のぞみ
    小幡 のぞみ
    株式会社ヴァリューズ
    アシスタントマネジャー/マーケティングコンサルタント
    新卒でヴァリューズに入社しマーケティングコンサルタントとして製薬・食品・不動産など、様々な企業に対してマーケティング支援を行っている。
    学生時代には、弊社オウンドメディアにてマーケターへのインタビュー記事・学生視点での業界分析記事を執筆。
  • 砂原 路万
    砂原 路万
    株式会社ヴァリューズ ソリューション局
    データアナリスト
    新卒でヴァリューズに入社。データアナリストとして、メディア・家電・美容など、様々な業界のマーケティングリサーチを行う。
    現役Z世代による”Z世代の行動データ”分析ラボ「Gen-Z調査隊」の一員として、Z世代や若者に関する自主調査も実施。
  • 株式会社博報堂 ブランド・イノベーションデザイン
    イノベーションプラニングディレクター/若者研究所 リーダー
    法政大学社会学部社会学科卒。2007年(株)博報堂に入社。マーケティング局にて多様な業種の企画立案業務に従事した後、2010年より博報堂ブランド・イノベーションデザインに加入。ビジネスエスノグラフィや深層意識調査、未来洞察など様々な手法を用いて、ブランドコンサルティングや商品・事業開発の支援を行っている。
    2012年より東京大学教養学部「ブランドデザインスタジオ」の講師、大学生のためのブランドデザインコンテスト「BranCo!」の運営など、若者との共創プロジェクトを多く実施し、2019年より若者研究所リーダーを兼任。
  • 株式会社博報堂 ブランド・イノベーションデザイン
    イノベーションプラニングディレクター/若者研究所 研究員
    デザイン・リサーチ、ブランディング、グローバルプロジェクトマネジメント等の経験を活かし、機会発見から実装までを探索的な視点で支援している。学生向けブランドデザインコンテストBranCo!の主催や、若者研究所としての研究活動も行う。
    現職以前は一般社団法人i.clubにて、高校生向けイノベーション教育プログラムの開発・運営、地域資産をてことした食品の開発・販売に従事。