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as a Service のいま~ 蓄積したデータは活用されているのか? 【アドテック東京2023レポート】
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as a Service のいま~ 蓄積したデータは活用されているのか? 【アドテック東京2023レポート】

XaaS、IoT、D2C、サブスク、オウンドサービス、マーケティング/営業DXなどのビジネストレンドによって、IT企業だけでなくフィジカルな事業を営む企業でもデータが蓄積されるようになってきました。そうしたマーケティングビッグデータの価値ある使い方について、事業会社、データ活用支援会社、ソリューションベンダーそれぞれの目線からディスカッションしました。

本稿では10月19日、20日に開催されたアドテック東京2023のセッション「as a Service のいま~ 蓄積したデータは活用されているのか?」の模様をお届けします。

渡邉 桂子氏
株式会社ビーアイシーピー・データ
代表取締役

中島 一明氏
ベルフェイス株式会社
代表取締役 CEO

會澤 佑介氏
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部 データ本部 局長

吉田 裕明氏
積水ハウス株式会社
執行役員 プラットフォームハウス推進部長

モデレーター
髙栁 太志
株式会社博報堂
DataScienceBoutique共同リーダー

■ユーザーから“預かった”データを使って、ユーザーの便益や社会的価値につなげる

高栁
始めに“データ”を2つに大別すると、いわゆる会員ID、ID-POS、アプリのアクセスログなどのパーソナルデータがあり、一方で企業の会計や決算データ、事業データ、人事・労務データなど企業が有する非パーソナルデータがあります。
本日議論するのは、マーケティングでより重要なパーソナルデータについてです。

“ビッグデータ”といわれて久しいですが、実際に多くの企業でパーソナルデータがたまり始めたのは実はここ最近のこと。
というのも、スマホやPCだけではなくIoT住宅やコネクテッドカー、ウエアラブルデバイスなどさまざまなものがインターネットにつながり始め、そこで新しいパーソナルデータが生まれているからです。XaaS、D2C、自社EC、オウンドサービスなど、オンライン上での顧客接点を新たにつくろうとする企業の取り組みも増えており、オンライン上で顧客の行動が生まれるたびに新たなパーソナルデータが生まれ、データがたまり始めています。一方で、その価値ある活用法を見出すことが多くの企業にとって課題になりつつあります。では、価値あるデータ活用とはどういうことか、お一人ずつお答えいただけますか。

吉田
“価値あるデータ活用”を一言で言うと、「住まい手からお預かりした情報から新しい価値を創造してお返しする」ことだと思います。
当社のグローバルビジョンは「『わが家』を世界一幸せな場所にする」で、人が家に住み始めてから一緒に寄り添うことで、健康、つながり、学びといった要素が充実することが、幸せにつながるのではないかという仮説を立てており、IoTをしっかり使いながらこれを実現したいと考えているからです。

そういうわけで、我々は生活ログから住まい手のさまざまなデータなどを預かり、どのように住んでいるのかを理解、把握して、新しい価値にして住まい手に返すということを実践しています。具体的にお話すると、1つは「PLATFORM HOUSE touch」というサービスをリリースしました。

住宅メーカーがつくるスマートホームは、住まい手の行動の動線である生活動線を理解しているため、それをふまえて絶対に必要な機能を入れていきました。例えば、実際の図面をリモコンに落とし込み、子ども部屋ならここにあるといった、住んでいる人が一番よくわかっている情報をもとに、感覚的に使いやすい操作機能を実現しました。また、スマートフォンで住宅設備をコントロールできるほか、家の内部と外部のセンサーを使った住環境モニタリングによって、熱中症になりそうになるとアラートを出したりする機能も、ペットを飼っていたり、小さいお子様がいるご家庭で非常に役立っています。
この生活ログは常時弊社に貯まっていき、利用ログや間取り・家族形態という情報を掛け合わせることで、その家がどのような家なのかを想像しやすくなります。

このデータで特徴的なのは、住まい手の無意識の行動がとれる点です。アプリを使って電気をオン・オフすることもできますが、実はほとんどの人は、帰宅すれば目をつぶっていても電気の場所が分かり、つけたり消したりしている。無意識に生まれてくるそうした行動をログとして貯めることで、家の中で何が起こり、どんな気持ちで暮らしているのかといったことから逆引きしていき、その人の価値観そのものが分かるのではないかと考えています。これは1つの仮説ではありますが、いま高栁さんともご一緒しているプロジェクトにおいて、そうして得られたデータから、価値の異なる住まい手に合わせたサービス、使い方を実現するという、究極のパーソナライズが可能になるはずだと考えています。

髙栁
“生活ログ”をもう少し具体的にいうとどんなものになりますか。
吉田
電気をオン・オフするとか、エアコンや給湯のデータですね。給湯のログは非常に面白くて、小さなお子さんがいるお宅は、子どもを早い時間に入れて大人は後で入るため、給湯のピークが2回来たりする。また、この家は朝型だとか夜型だとか、防犯に非常に気を付けているといったことが分かります。データが示してくれる生活モーメントから、その人の暮らし方が分かってくるのです。
髙栁
なるほど。では「価値を創造してお返しする」というのはどういうことでしょうか。
吉田
1つは、たとえば朝型の人と夜型の人では、デリバリーサービスで頼みたいものや頼み方も違ってきます。あるいは、眠れないから夜型になったという見方ができると、寝具メーカーと一緒に、その人が眠りやすくなるようなものをお届けするなど、新しい提案ができるのではないかと考えています。

髙栁
データ分析で終わるのではなく、さらにサービス提供へとつなげていくということですね。中島さんはいかがでしょうか。
中島
今日、この瞬間に誰かの行動を変えるというものじゃないと、単なる机上の空論に陥ると思うんです。なので、具体的な行動改善につながるデータ活用こそが、いいデータ活用だと考えています。いまはAIを活用した画期的な営業ツールを開発しているところですが、そこで重要視しているのは、いかに現場の社員に価値があるかです。
現場の社員にメリットがあり、ツールの活用が進んでさらにデータが貯まり、経営にも活用できるようになる。この3つのポイントによるサイクルが大切なのです。なぜかというと、今日この瞬間、現場のユーザーの方がメリットを感じて使ってくれるものじゃない限り、そもそもデータが貯まっていかないからです。貯まった結果始めて、会社の資産になり、経営層、マネジャーが役立てることができる。「5年後、10年後にはこれを実現したい」など未来を語ることは誰にでもできますが、肝心なのはいかに具体的な誰かの行動を具体的に今日変えるものに仕上げ、AIを始めとする最先端技術を活用していま提供できる最大限の性能から、意味があるものに落とし込んでいけるか。これこそが我々ツールベンダーの腕の見せどころであり、いいデータ活用かなと思っています。

髙栁
重要なのは最初の起点だということですね。目の前の方にメリットがあって、使われてこそ初めてデータが貯まると。ありがとうございます。では會澤さんお願いします。
會澤
私は「事業者とその顧客双方の便益を橋渡し」することこそが、いいデータの活用法だと考えます。
価格を例にすると、事業者、その顧客にとって最適な価格はいくらなのか、その商品に価値を感じている人に無駄に値引きを提供し、買う価値を低下させていないかといった点について、きちんと考える必要があると思いますし、我々としては双方の意向がしっかりと掛け合うように調整し、そこの橋渡しをきちんとやっていくことが重要だと考えています。以前行ったとある実証実験では、データを使って数学的に最適なところにクーポンを出し分けることで、売り上げもかなり変わってくるということがわかりました。企業にとっては買ってくれそうな人に確実に買ってもらい、ユーザーにとっては興味のある商品がお得に買える。データ活用によって便益の橋渡しが実現できるということです。
髙栁
ありがとうございます。渡邉さん、いかがでしょうか。
渡邉
一言で言うと、「生活者からお預かりしたデータを個人だけでなく社会的な価値として還元できること」かと思います。というのも、企業・ブランドの存在意義は、お客様に対して何らかの価値を創造して提案するということにあると思っていて、データが介在することでそれをどれだけ実現できるかが大事だと考えているからです。データを因数分解すると、テクノロジーによる自動化・効率化と、お客様からの信頼があると思いますが、この両方のバランスをとるのがすごく大事。特にいまは、効率化・自動化の方向の話が多くなっていると思うので、あえてトラストのところを強調させていただければと思います。

たとえば先ほどの積水ハウスの例のように、データから住まい手の方のこんなことがわかり、こんな提案もできるとなったときに、その提案を求める人と求めない人がいるはずですから、後者に対してきちんとケアすることも重要かと思います。また、データを使って各企業が売上げ向上を図るのはもちろんですが、それもいつかは限界が来るもので、売り上げではない要素にも注目すべきかと考えます。
いろいろなデータをたくさん集めて1つの大きなパワーにする。1人の行動で二酸化炭素の排出量を減らすのは大変ですが、みなでやることで何とか脱炭素を実現する、そういったイメージです。そうした大きな取り組みも、データの力で促進できるのではないかと思うのです。
また企業のありたい姿というのは、マーケティング活動を通じてお客様に透けて見えているものですから、マーケティングのためのデータ活用に、プライバシー保護やAIの倫理というのも含まれていかなければ、理想とはちょっと違う方向に行きかねないのではないか、とも思います。

髙栁
ありがとうございます。いろいろなお話をいただきましたが、かなり共通している部分もありました。ユーザーがサービスを利用して初めてそこでデータが発生するわけですが、パーソナルデータは企業の持ち物というよりもむしろユーザーからお預かりしているというスタンスが、非常に求められるのかなと思いました。企業がデータを利活用する際も、自社の利益のためだけでなく、ユーザーの便益としても還元していくことが第2の重要なポイントなのかなと思いました。さらにいうと、それが個人の便益だけじゃなくて、大きな社会的価値になっていくこともさらに重要なのかなと思います。ユーザーにとっては便益が返ってきて、サービスも便利になってもっと使いたくなる。そしてデータが貯まる。そうしたサイクルがぐるぐる回っていく形が、このメンバーで考える「いいデータ活用」なのかなと思いました。

■「価値あるデータ利活用」を実現するために必要なこと

髙栁
理想像が見えてきたところで、では実際にどうすればうまくいくかという点について、経験豊富な皆さんに伺っていけたらと思います。
渡邉
生活者目線を意思決定に組み込めるような仕組みにすることですね。
たとえば多くの企業がID統合を進めていると思いますが、統合すると、その方のデータをどこでどのように使っているのかが全部つながり、お客様からの「削除してほしい」といった問合わせにも対応しやすくなる。ユーザーが、自分のデータがどう使われているのかが分かる状態にするということが必要かなと思っています。ある企業の話では、全サービスのIDがつながったといって売上げが上がるわけではないが、管理コストが下がるという話を伺いました。売上げを上げようというよりも、コストを減らすためにいかにデータを使うかというのも一つのヒントだと思います。
會澤
そうですね。実際にみなの認識が統一され、意思決定の速さが変わるというところにも大きくつながる側面がある。増えるもの、減らせるもの、両軸あるなと思いながら聞いていました。
また、これは広告会社の立場で言うのも何ですが、よくDX部など中央集権的に組織をつくってワークさせているケースもあると思いますが、実際にデータをお預かりする、守る立場のシステム部と、使う、攻めるという事業部などの目標と役割は全然違うわけですよね。なので意思決定に至る合意形成をうまくやっていくような仕組みづくりも含めて、セットでやっていく必要があるのではないかなと思います。実際、全体の合意形成がなされないまま何かが意思決定されていくことは多くて、たとえば最先端のツールを導入したとして、それで何をしたいのかを伺うと曖昧だったりする。実装までの解像度を上げたときに、どこで何をするべきか、そのために必要なことは何かといったことをきちんと選別できていないケースをたびたび目にするので、目的と手段がちゃんと合意形成された状態で行われることというのは非常に重要だと実感しています。

髙栁
吉田さんは最初の目的と手段をどう設定されたのでしょうか。
吉田
分析することが目的化してしまう、というのは実際にあると思います。なので、必ず立ち返れる場所をつくるという意味で、「『わが家』を世界一幸せな場所にする」という弊社の言葉を言霊のように唱えながら、そこからブレークダウンしていって、ラップごとに目的をちゃんと決めておくことで、手段先行に落ち込まないようにしています。
會澤
意思を発信するのと意思を酌み取って実行する人がいると思うんですけれども、ここでいろいろなものが摺り合わせられておらずスタックしているケースも多い。上から下まできちんと合意形成された状態で進めるうえで、何か工夫をされていたりしますか。
吉田
一定のベクトル内であれば許容範囲として現場裁量で好きにやってもらおうと思っています。ただ、それこそ目的が手段化してしまうと、完全にそこから外れてしまうので、そのときだけは「ここまでいくとOBだよ」と教えてあげます。
髙栁
中島さんはいかがですか。
中島
AIを活用するにしても、ポイントとなるのは、最後に判断するのは人であるという点かと思います。AIはあくまでも膨大な情報をまとめあげることに活用し、後は人が効率的にその情報を吸い上げることで、次の手を迅速に決めることにつなげる。結果的にこれまで費やしていた労働時間が削減でき、その分社内での対話の時間が増えるといったメリットがあります。いつか何かいいツールやアイデアが出てくると思って何年もかけてやるのではなく、やはり、「今日の業務をすごく快適にする」という明確なゴールを据えてデータ活用することがポイントかと思います。
髙栁
ありがとうございます。最後に吉田さん、お願いしてもよろしいでしょうか。
吉田
生活者がデータを預けたくなる価値をどこまで創造できるか、に尽きるかと思います。
あえて「抜け駆けのない」と表現を加えたいのですが、社内でも社外でも、やはり全員で一緒につくっていかなくてはならないと考えるからです。誰かがちょっと得したいな、ちょっと儲けたいなと考えると、目的から外れていき失敗するリスクにつながると思う。互いに目的をきちんと立て合って、そこに向かって預かったデータをいい価値にして返すことで、生活者もまたデータを預けようと思ってくれるのだろうと思います。そこの信頼関係が最も重要かと思います。
髙栁
短期利益を企業が追いかけ過ぎるという話もそうですし、やはりパートナーも含めて、目的意識を統一すべきということですかね。中島さんはいかがですか。
中島
家に関しても、生活データが貯まることで日々の生活が本当に快適になっていけば、生活者も喜んでデータを出そうと思える。そうしたウィン・ウィンの関係性がつくれるのではないかと思います。
渡邉
もう一つ大事だと思うのは、やはり企業に対する期待値、信頼の部分だと思います。積水ハウスさんがハウスメーカーとして生活者が期待するところを超えていき、いかにパートナーとして認めてもらうかという、企業の在り方のよりどころとなるグラウンドをどうつくるかも肝になってくるように思います。
吉田
家を建てるという決断を通じて、弊社の営業はお客様と強固な信頼関係をつくってくれます。それを絶対に裏切れないという、相当のプレッシャーを持ちながら仕事をしていますし、それをうまく次につなげていくことで、ブランド価値にもつながっていくのだろうと思います。だからこそ、そこに住まう生活者の幸せをつくることをパーパスに掲げているわけですし、実際に幸せという無形資産をどれだけ積み上げられるかが、今後求められていくだろうと思います。
髙栁
ありがとうございます。最後に少しだけまとめると、データを利活用して何を分析するか?の前に、いろいろと考えなくてはならないことがあるということですね。

適切な意思決定ができる仕組みを組織にきちんとつくるべきだし、目的と手段の設計を最初にしなくてはならない。経営層と現場とか、あるいは複数組織間や外部のパートナー企業も一緒に、そもそもどういう目的のためにどんなデータ活用をしていきたいのかといったことを考えていく必要があると思いました。さらに、企業の取り組みでどういうユーザー価値や社会価値を実現したいのかを、しっかり検討していく必要もありそうです。そうしてようやく、データ利活用のフェーズに入る。そこはやはりユーザーフレンドリーで、簡単に使えて便利なものでなくてはいけないし、そこで貯まったデータを使ってさらに新しい価値を実現していかなくてはならないということかと思います。

以上となります。本日はありがとうございました!

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  • 渡邉 桂子氏
    渡邉 桂子氏
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    吉田 裕明氏
    積水ハウス株式会社
    執行役員 プラットフォームハウス推進部長

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