対談!EC+【第8回】──「Shopifyアプリ」ってなに? ECの機能を柔軟に拡張できる画期的ツール
博報堂DYグループ内のEC領域のナレッジやスキルを集約し、クライアント企業のEC事業を戦略構築から実装・運用までフルファネル、ワンストップでサポートする「HAKUHODO EC+」がお送りする、EC事情の最前線をさまざまなプロフェッショナルの方とご紹介する連載「対談!EC+」。
「対談!EC+」連載の第8回は、日本でShopifyアプリの開発と運用を手掛けるハックルベリーの代表取締役、安藤祐輔さんをお招きしました。安藤さんとHAKUHODO EC+のメンバーが、Shopifyアプリの可能性とECビジネスの今後について語り合いました。
「とりあえずやってみる」を可能にするツール
- 奥山
- 連載「対談!EC+」では、毎回EC領域の専門家をお招きして、ECビジネスの最新事情を解き明かしながら、ECで今後どのような価値を生み出せるかを掘り下げています。
自社でECビジネスを展開する際に必要となるのが、ワンストップでECの仕組みを実現する「ECカート」であり、その代表的なサービスがカナダで生まれたShopifyです。今回は、Shopifyの導入支援や、Shopifyアプリの開発・運用を手掛けるハックルベリーの安藤祐輔さんをお招きし、ShopifyとShopifyアプリの可能性についてお聞きしていきます。まずは、安藤さんからハックルベリーの事業についてご紹介いただけますか。
- 安藤
- ハックルベリーの事業には3つの柱があります。「Shopifyを活用したECサイト構築支援」「Shopifyアプリの開発と運営」、そして「ECの集客および顧客のファン化の支援」です。Shopifyアプリは、Shopifyのプラットフォームにいろいろな機能を追加できるツールで、僕たちが手掛けているのは、自社で企画するアプリ、他社と共同開発するアプリ、受託開発するアプリの3種類に大きく分けられます。
最近のECの動向を見ていると、買い手、売り手双方の変容がかなりのスピードで進んでいると感じます。買い手のニーズが非常に多様化する一方で、売り手側もさまざまな接点で買い手へのアプローチを行うようになっています。変化し続ける買い手と売り手を気持ちよくつなげることが僕たちの役割であると考えています。両者をつなげるよりよい仕組みがShopify以外の方法で実現するなら、もちろんその選択もありえる。それがハックルベリーのスタンスです。
- 桑嶋
- これまで、数多くのクライアントの皆さんとECビジネスについてお話をしてきましたが、Shopifyが話題に上がる機会が昨今非常に増えています。我々HAKUHODO EC+は、得意先企業様の事業パートナーとして、カートシステムの選定についてもビジネス目標にきちんとマッチしたものは何か?という目線で行わせていただいています。スクラッチ型のECカートシステムは細かな自社向けカスタマイズが可能な反面、あとから機能を追加しようとするとコストやスケジュールの面での課題が発生する事もあり、結果的になかなか機能拡張を実現できない。そんな悩みを多くのクライアントは抱えています。そのような悩みを解決するのがShopifyととりまく様々なアプリ群です。比較的簡単に機能の追加や削除ができる点で、ECにおける革命的なサービスであると言っていいと思います。
- 安藤
- おっしゃるとおりですね。日本のECは、流通、システム、デジタルマーケティングの3つの領域のはざまで成長してきたビジネスであると僕は捉えています。それぞれにロジックが異なる3つの領域に対処しようとして、結局身動きが取れなくなる。そんなケースもこれまでは少なくありませんでした。
例えば、デジタルマーケティングは「とりあえずやってみる」が通用する領域ですが、システムは失敗したときのリスクが高いので、「やってみる」という発想で動くことはなかなか難しかったと思います。つまり、トライアンドエラーができなかったということです。
Shopifyアプリの大きな特徴は、システム領域でのトライアンドエラーを可能にする点にあります。ECに限らず、あらゆるマーケティングは「絶対に失敗できない」という発想ではうまくいかないと僕は考えています。まずやってみて、だめだったらやり直せばいい。システム領域でもそういうマインドへのシフトを可能にしたことが、Shopifyアプリがもたらした最大のゲームチェンジだと思います。
売り手がECに求める多様な機能を実現する
- 桑嶋
- Shopifyアプリの概要をシステム面とコンセプト面の両方の視点から説明していただけますか。
- 安藤
- システムの面から言うと、スマートフォンのアプリのように、Shopifyのプラットフォーム上にインストールしたり、アンインストールしたりできるサービスということになります。一方、コンセプトの面から言えば、売り手がECに求める千差万別な機能を実現するサービスがShopifyアプリです。ECは、商材、ターゲット、販売方法などによって展開の仕方が変わります。また、ビジネスをとりまく状況によっても必要とされるやり方は異なります。そういった要件に合わせて、機能を加えたり外したりできるのがShopifyアプリの大きなメリットです。
- 奥山
- 利用形態にはどのようなバリエーションがあるでしょうか。どのくらいの種類があるかも教えてください。
- 安藤
- 利用形態は3種類ですね。完全無料、月払いの定額、販売額に連動したパーセンテージでの課金です。種類は世界で8000くらいです。そのうち、日本語に対応しているのは200くらいだと思います。
- 桑嶋
- アプリが利用されるのは、主にどのようなケースなのですか。
- 安藤
- 1つは、マーケティング施策の幅を広げたいときです。インターネットメディアに広告を出したい、CRMをやりたいといったケースです。もう1つは、物流への対応です。システムを介して注文情報をスムーズかつ迅速に倉庫側に送りたい。そんなケースですね。もう1つは、販売方法を変えたいときです。サブスクリプションの仕組みをつくりたい。抽選販売を行いたい。ポイントシステムを導入したい。そのようなニーズをアプリによって実現することができます。
- 桑嶋
- EC事業者やそれを支援する僕たちのようなマーケターは、どのような手順でアプリ活用を始めればいいと思われますか。
- 安藤
- たくさんのアプリがあるので、まずはどんなアプリがあるか楽しみながら見ていただきたいですね。実際にアプリを活用する段階になったら、自社のECサイトで顧客にどんな価値を提供したいかを考え、新たに追加すべき機能を洗い出し、それに優先順位をつけて、それに対応するアプリを検討する──。そんな順番になると思います。
何がやりたいか、何をやるべきかが明確でないと、アプリの選定を誤る場合があります。また、複数のアプリを同時に導入すると、アプリ間の機能がコンフリクトを起こすケースもなくはありません。必要なアプリを見極め、動作検証をしながら、機能を段階的に拡張していくことをお勧めします。
グローバルプラットフォームをアプリによってローカライズする
- 奥山
- 博報堂プロダクツは、これまで数多くのShopifyアプリの実装を支援していますよね。その立場から見える課題などがありましたらお聞かせください。
- 中井
- 安藤さんのお話といくぶん重複しますが、やはり「ECにどういう機能をもたせたいか」という視点が重要で、それはすなわち「顧客にどういう価値を提供したいか」ということだと思います。アプリ導入を支援するに当たっては、その点をしっかりクライアントからヒアリングすることを心がけています。
私たちに求められるのは、クライアントが必要とする機能を実現できるのはどのアプリかを把握しておくことです。その知識がないと、アプリの選定やプランニングができないからです。たんにカタログ的な情報を押さえるだけでなく、私たち自身がアプリを実際に使って検証をするようにしています。その上で、「100点満点まではいかないにしても、80点のレベルでクライアントのご要望を実現できる」という確証を得た上でクライアントにご提案する。そんなプロセスを重視しています。
- 安藤
- Shopifyアプリは、ほかのソリューションに比べると格段に低コストで導入できるので、ニーズを実現できるレベルが80点でも、コストパフォーマンスは非常に高いと言えます。必要な機能を見極めたうえで一度使ってみて、それでも満足できない場合は、お金をかけてカスタマイズする。そんな順番がいいと思いますね。
逆に言えば、事業者の要望に100%マッチするアプリがあるとは限らないということです。だから、試してみることが大事なわけです。また、最初はよかったけれど、徐々に機能がニーズに見合わなくなってきたということも当然ありえます。その場合は、そのアプリを削除して、別のアプリを試してみればいいと思います。そういった柔軟な運用ができるのが、Shopifyアプリの強みです。
- 桑嶋
- ハックルベリーは、そういった運用も含めて支援しているわけですよね。
- 安藤
- そうです。先ほども話に出たように、Shopifyアプリは8000種類もありますが、そのうちのすべてが日本のECビジネスに適合するわけではありません。あるいは、適合させるには工夫が必要な場合があります。僕たちの役割は、Shopifyというグローバルプラットフォームを、アプリによってローカライズすることであると考えています。EC事業者と生活者の中間に立って、日本のEC市場に最適な形をつくるお手伝いをする。そこに大きなやりがいを感じています。
海外と日本のECビジネスの違いとは
- 桑嶋
- Shopifyはカナダで生まれたサービスです。北米と日本のECビジネスの違いをどのように捉えていますか。
- 安藤
- 日本におけるEC関連のサービスやソリューションは受託から生まれるケースが多いのに対し、北米では多様なプレーヤーが新しいサービスづくりに自発的にチャレンジしているという印象があります。実現したいこと、実現すべきことがあって、そこに向かっていろいろなことを試してみるという感じです。当然失敗も多いと思います。Shopifyはその中で大きく成功したケースです。
- 中井
- ECサイトのつくり方で見ると、日本のECは、おもてなしの要素を最初からふんだんに盛り込んで、サービスを充実させる傾向があると思います。一方北米の場合は、ベースはシンプルにしておいて、そこに機能を追加していくという考え方が主流ですよね。Shopifyアプリは、まさにその考え方に基づいてつくられています。
- 奥山
- 日本には独自の商慣習が多いと言われます。その点で、売り手側の対応が難しいところがありますよね。
- 安藤
- そう思います。一番わかりやすいのはギフトです。お中元やお歳暮など、海外にはないシーズナリーギフトを贈る慣習があるだけでなく、それに熨斗(のし)や挨拶状などをつけるのも日本の独特な文化です。ほかにも、単品通販や、毎月異なるものが送られてくる頒布会なども日本独自のモデルですよね。これにECで対応するには、ロジスティックス側のオペレーションを工夫したり、海外にはないサブスクリプションの機能をECサイトに付加したりする必要があります。その点でも、アプリでのローカライズは重要だと思います。
リアルとECをどう連携させていくか
- 桑嶋
- 今後は、生活者ニーズに合わせたECの仕組みをスピーディに構築していくことがますます必要になると思います。生活者が求めるものを把握し、どのような価値を生活者に提供していくか──。それをクライアントとともに考え、迅速な実装を支援する取り組みを今後も続けていきたいと思います。最後に、今後の展望をそれぞれお聞かせいただけますか。
- 中井
- Shopifyには独自のエコシステムがあって、それがものすごい勢いで進化しています。その進化を踏まえながら、日本ならではのShopifyの使い方を模索し、クライアントのECビジネスの成長に寄与していきたいと考えています。今後Web3が進んでいく中で、メタバースとECの組み合わせが当たり前になっていく可能性もあると思います。視野を広くもって、ECの新しい形を積極的にご提案していきたいと思います。
- 安藤
- 日本からアジアのECを支援できるようなチームになっていきたいと思っています。 Shopifyのプラットフォーム とShopifyアプリのエコシステムを利用すればそれが可能だと考えています。
例えば、ハックルベリーのアプリでいうと上述の「定期購買」アプリや、広告出稿やアフィリエイトの総合アプリである「まるっと集客」はその可能性が高いと思います。
もう少し広い視点で見ると、今後はリアルとECをどう連携させていくかがECビジネス全体の課題になっていくと考えています。その課題を、ぜひShopifyや博報堂の皆さんと一緒に解決していきたいですね。
- 奥山
- ECとは、売り手と買い手がつながる場です。その場をつくるためのShopifyというプラットフォームがあり、さらにその場でできることを拡張していくShopifyアプリというツールがあること。そして、その開発と運用に取り組んでいる人がいて、日々チャレンジを続けていること。そんなことがよく理解できました。今日はありがとうございました。
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安藤 祐輔氏ハックルベリー 代表取締役東京消防庁出身という異色の経歴も持つ、シリアルアントレプレナー。
web接客サービス「Flipdesk」など、複数の事業会社の創業・経営・M&Aを経験。 ※Flipdeskの運営会社Socketは、2015年にKDDIグループにM&A。
2017年にKDDIグループ会社の社長を退任後、株式会社ハックルベリーを創業。
現在は、Shopifyのアプリ開発事業者としてShopify Partner of the Year 2021を受賞するなど、EC事業者をシステムと運用面からサポートしている。
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HAKUHODO EC+リーダー
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
メーカーDX推進グループマネージャー2004年博報堂中途入社。大手通信会社を中心に長らく営業職を担当し、2019年より現職。ショッパーマーケティング・イニシアティブのメンバーとして、EC領域に特化した組織横断型プロジェクトチームである「HAKUHODO EC+」を推進する。
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HAKUHODO EC+ ビジネスコンサルタント
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
メーカーDX推進グループ イノベーションプラニングディレクター2015年博報堂入社。通販事業の運営チームを経て、現所属。食品・消費財・化粧品を中心に企業のEC支援を担当。米国Kepler社への短期出向後、2020年にチームに復帰。ECを軸とした、事業全体やデジタルトランスフォーメーションの戦略作成・コンサルティング業務に従事している。
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HAKUHODO EC+
博報堂プロダクツ カスタマーリレーション事業本部
ECソリューション部 部長2001年に博報堂グループに入社以来、ダイレクトマーケティング業務に従事。
化粧品、食品、情報機器、金融、不動産など幅広い業種を担当し、オンラインのみならずオフラインも含めた各種施策のプランニングおよび実施を推進。現在は、クライアント様のご要望を踏まえたECサイトの構築や、継続的に売上拡大を実現するUI/UX改善およびサイト運用の支援に注力。