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対談!EC+【第14回】「短尺動画コマース」ってなに? Z世代の心を捉えるコンテンツを売り上げに結びつける方法
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対談!EC+【第14回】「短尺動画コマース」ってなに? Z世代の心を捉えるコンテンツを売り上げに結びつける方法

博報堂DYグループのEC領域におけるナレッジとスキルを結集し、企業のEC事業を戦略構築から実装・運用までフルファネル、ワンストップでサポートするユニット「HAKUHODO EC+」。そのメンバーがECのプロフェッショナルの皆さんと語り合う好評連載「対談!EC+」の第14回をお届けします。今回は、スマートフォンの短尺動画のマーケティング活用を支援しているするNateeの朝戸大將さんをお招きし、「短尺動画コマース」の可能性を探っていきます。様々なクライアント支援で短尺動画の活用を進めている桑嶋剛史や、Z世代向けブランド/事業のマーケティング支援の専門家である永見拓哉らEC+のメンバーが参加し、熱い議論が交わされました。

朝戸 大將氏
株式会社Natee 取締役COO

奥山 貴弘
HAKUHODO EC+リーダー
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
コマースDX推進グループマネージャー

桑嶋 剛史
HAKUHODO EC+ ビジネスコンサルタント/
地域DXソリューション リーダー
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
コマースDX推進グループ
イノベーションプラニングディレクター

永見 拓哉
HAKUHODO EC+ コンサルタント
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
コマースDX推進グループ
マーケティングプラナー

短い時間で深い情報が得られるコンテンツ

奥山
EC+の「+」は、ECの付加価値を意味しています。従来の利便性や省力性に加えて、ワクワク感、感動、発見などをECで提供することによって新しい顧客体験を実現し、ECの価値をさらに高めていくこと。それによってEC事業者のビジネスの成長を支援していくこと。それが僕たちHAKUHODO EC+のミッションです。今回は、ショートムービーを活用したマーケティング支援を行っているNateeの朝戸さんと一緒に、「短尺動画コマース」という新しいECのスタイルを掘り下げていきたいと思います。まず朝戸さんから、短尺動画の概要についてご説明いただけますか。

朝戸
これまでの映像の変遷をたどると、テレビで番組やCMを見る時代から、PCでYouTubeなどの動画を見る時代に変わり、さらにスマートフォンと5G通信の普及によって、モバイル環境で動画を見るスタイルが定着しました。「スマホで動画を見る」というスタイルに最適化されたコンテンツが短尺動画である。そう僕たちは理解しています。生活者、とくにZ世代などの若い人たちは、SNSなどで毎日膨大な情報に接しています。そういった人たちが必要としているのは、「短い時間で深い情報を得る」ことです。短尺動画はそのニーズを満たすコンテンツであると言えます。

奥山
短尺動画の尺は一般にどのくらいなのですか。
朝戸
60秒に収まるものがほとんどで、中には15秒、20秒といったかなり短いものもあります。
桑嶋
従来のテレビCMも、ある意味では15秒の短尺動画ですよね。テレビCMとスマホで見る短尺動画の違いはどこにあるのでしょうか。
朝戸
動画自体の差というより、接触の仕方に大きな違いがあります。テレビCMの場合、視聴者は基本的に見るものを選ぶことができません。また、テレビCMのほとんどはテレビ番組というコンテンツの間に差し込まれるものです。それに対してスマホの短尺動画は、アルゴリズムによって個々のユーザーに適したものが自動的に流れてくる仕組みになっています。また、短尺動画の1つ1つが独立したコンテンツなので、ユーザーは広告かどうかをあまり意識せず、すべてにフラットに接することになります。

短尺動画コマースにフィットする商品とは

奥山
短尺動画をコマースに活用する動きが出てきたのはいつ頃からなのでしょうか。
朝戸
2020年後半から2021年にかけてだったと思います。短尺動画のフォーマット自体が登場したのは2017年ですが、それからしばらくの間は、若者が歌ったり踊ったりする映像を投稿するエンタメツールとして活用されていました。しかし2020年くらいからユーザー層が拡大し、コロナ禍の過程で投稿者が増えたことによって、コマースツールとしての可能性が広がってきました。アメリカや中国の短尺動画の歴史は日本より5年くらい早いのですが、ほぼ同じ流れで進化しています。エンタメ用途から始まって、ユーザーが増え、コンテンツが多様化し、ビジネスに使える可能性が高まる。そんな流れです。

奥山
短尺動画を使ってものを売ろうとするとき、よりフィットするカテゴリーにはどのようなものがありますか。
朝戸
価格帯から見ると、高くても3万円ぐらいまでの商品ですね。カテゴリーとしては、動画を見ることで商品の利用イメージがわきやすいものがフィットすると言えます。美容・コスメ、アパレル、食品といったカテゴリーです。一方、短尺動画のコアユーザーがZ世代であることを考えれば、金融や人材サービスなど、Z世代の顧客獲得に課題がある業種が短尺動画でアプローチをするのは1つの方法だと思います。
永見
金融商品のような細かな説明が必要なカテゴリーの場合、映像でわかりやすく商品解説ができる短尺動画はとても有効ですよね。

能動的に情報をデザインするZ世代

奥山
短尺動画のコアユーザーはZ世代であるというお話がありました。この世代の行動特性を説明していただけますか。
永見
HAKUHODO EC+は、博報堂買物研究所と共同で「Z世代×ニューコマース調査」を実施しました。そこから見えてきた大きな傾向として、Z世代は情報発信者の信頼性や情報の透明性を非常に重視していて、自分に必要な情報源を取捨選択している、といった点がみられています。例えば、SNSのタイムラインに自分に合った情報を表示させるために、「いいね」のつけ方や、フォローの仕方、コンテンツ閲覧などに気を配って、アルゴリズムが自分に最適化されるように工夫するなど、受け身で情報を取得するのではなく、能動的に情報を捉えて、自ら情報をデザインしているわけです。また、情報の発信者に自分からDMを送るなど、積極的な行動をとる傾向があるのもこの世代の特徴です。

奥山
購買行動の特徴はどうですか。
永見
2通りのパターンが見られます。1つは、「すぐに欲しいと思った商品の信頼性などをチェックして、即決購買する」パターン、もう一つは、「一旦スクリーンショットをとり、あとで検討に回す」パターンです。後者の場合、保存したことを忘れてしまい、結局買わずに終わるケースも少なくありません。ものを売る立場から見ると、「その場ですぐに購買を決定させる購買モーメントの設計」・「購買の決め手となる情報の共有」が大切になると思います。もし、その場で購入を決定させることが難しい商品の場合は、生活者が「検討を後に回す」ことも大前提として、顧客に継続的にアプローチできる仕組みがあるといいですよね。

短尺動画マーケティングの「縦軸と横軸」

奥山
デジタルマーケティングの最近の傾向についても解説してください。
桑嶋
以前のデジタルマーケティングでとくに重視されていたのはいかに運用したアドから直接的に購買に結びつけるかということでした。しかし最近は、よりアッパーな領域である認知や検討のフェーズで、デジタルを活用した有効なコミュニケーションを行っていこうという動きが強まっているように思います。また、インフルエンサーに依存するだけではいけないという意識も高まっていると感じます。フォロワーの多いインフルエンサーを起用してリーチを増やしていく方法も依然有効ではあるものの、一方で、企業が自ら正しい情報を正しく伝えていくことが大切であるという考え方も広まってきています。

奥山
SNSを活用したマーケィングでは、インフルエンサーの信頼感をブランドの信頼感の醸成に繋げるといった方法がとられてきました。それが変化してきているわけですね。
朝戸
インフルエンサーマーケティングは、インフルエンサーのファンコミュニティの中で醸成される信頼感やファン同士の連帯感を購買につなげる方法です。それに対して短尺動画の場合、AIアルゴリズムによって、コミュニティの枠を超えて生活者に動画がリコメンドされます。そうなると、インフルエンサーの影響力よりも、コンテンツの質、面白さ、情報自体の信頼性によってAIに評価されることがより重要になってきます。
桑嶋
ブランドのターゲット層に支持されているインフルエンサーを起用して購買に繋げていく。それがこれまでの発想でした。しかし、AIはこちらが想定していない生活者にも動画を届けてくれるので、リーチが広がるし、潜在層の掘り起こしも可能になります。その点に短尺動画の大きな可能性があると思います。しかしそれを実現するには、朝戸さんがおっしゃるように、コンテンツそのものの質が高く、面白いものでなければなりません。短尺動画コマースの戦略は「インフルエンサーファースト」よりも「コンテンツファースト」であるべきであると言っていいと思います。
朝戸
僕は、短尺動画を使ったマーケティングの特徴を「横軸と縦軸の両方に効く」とよく説明しています。横軸はターゲットを広げる方向です。これが、桑嶋さんがおっしゃっているリーチの拡大や潜在層の掘り起こしに該当します。一方の縦軸はファネルの方向を意味します。ブランドを知ってもらい、興味をもってもらい、買ってもらう。その流れをつくる力も短尺動画にはあります。その両方を視野に入れて戦略を立てていくことが重要だと僕たちは考えています。

「動画広告をつくる」のではなく「動画に広告を乗せる」

桑嶋
短尺動画を広告として活用する場合のコンテンツづくりのポイントを教えていただけますか。
朝戸
僕たちがクライアントとお仕事をさせていただく中で特に大事にしている考え方は、「動画広告をつくる」のではなく「動画に広告を乗せる」ということです。AIに動画を評価してもらい、最適なリコメンドをしてもらうには、動画を配信するプラットフォームの特徴、生活者に好まれるコンテンツ構成、流行の傾向といった文脈をしっかり把握することが必要です。そういった動画をつくることを重視し、そこに広告メッセージを上手に入れ込んでいく。そんな考え方が求められると思っています。

桑嶋
クリエイティブディレクションはかなり細かくなりそうですね。
朝戸
そのとおりですね。プラットフォームと生活者の文脈を理解し、その文脈の中のどこにどのようなメッセージを入れていくかということを緻密に考えていく必要があります。その点において、文脈理解の最先端を行っているのは各プラットフォームで活躍するクリエイターになります。クリエイティブの作り手となるクリエイターの考えも聞きながら共創していくことが、成果を出す上では非常に大事になると考えています。

それからもう1つ、先ほどお話しした横軸と縦軸のどちらをより重視するかを明確にすることも大切です。例えば、横軸で顧客層をZ世代に拡大していきたいのなら、Z世代の文脈に精通したコンテンツのつくり手との協業が有効です。一方、縦軸で購買にまでつなげていきたいのなら、ECモールで売るのか、自社ECサイトで売るのか、実店舗で売るのかといったことを明確にし、そこにつなげる導線設計をしなければなりません。また、特定エリアでの売上を拡大しようとするなら、そのエリアの文脈をよく理解したご当地クリエイターとタッグを組む方法もあり得ます。横軸と縦軸のどちらもありの「全部乗せコンテンツ」をつくると、メッセージが曖昧になって、結局成果に結びつかないということになってしまいます。

奥山
今後、短尺動画コマースはどう進化していくと思われますか。
朝戸
コンテンツの質が求められる中で、企業がコンテンツの制作と発信の主体になる傾向がより強まっていくのではないでしょうか。自社の社員をインフルエンサーにした情報発信なども増えていくと思います。つまり、短尺動画を企業やブランドのオフィシャルコンテンツにするということです。一方、短尺動画をコマースと一体化していくには、動画を配信するプラットフォームとECモール、自社ECサイト、決済システムなどがシームレスにつながる仕組みが必要です。そこにはもう少し時間がかかるかもしれませんね。

永見
企業の皆さんが短尺動画づくりに本格的に取り組むことで、コンテンツの質が上がり、短尺動画と生活者との距離がより近づいていきそうです。これまで短尺動画はたくさんある情報の中の1つでしたが、これからは朝戸さんがおっしゃる縦の軸、つまり商品に出会い、理解を深め、買いたいと思うという一連の流れが短尺動画の中で完結していく可能性もあると思います。今後プラットフォームとECがつながっていけば、直接的な「短尺動画 to 購買」という形も成立するかもしれません。
桑嶋
「動画広告をつくる」のではなく「動画に広告を乗せる」という話がありました。今後はその傾向がより強まっていくのではないかと思っています。別の言葉で言うと、「売るための動画」をつくるのではなく、面白く、質の高い動画に「売り」を乗せていくということです。その場合、コンテンツの質と売り上げの関係を計測する仕組みも求められるようになると思います。短尺動画の効果を見える化できれば、もっと多くのプレーヤーがこの領域に参加するようになるのではないでしょうか。
奥山
今回の対話を通じて、短尺動画コマースの可能性や課題がよく見えました。ECの付加価値を高めるための短尺動画活用の方向性を今後も模索していきたいと思います。
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  • 朝戸 大將氏
    朝戸 大將氏
    株式会社Natee 取締役COO
    東京大学を卒業後、リクルートキャリアを経てNateeに創業メンバーとしてジョイン。創業期よりTikTok事業の統括を務め、広告主の認知や購買促進など多様なニーズに対してTikTokを軸としたソリューションを提供し続けてきた。2020年末には「TikTok For Business Award」でブロンズ賞を受賞するなど、Nateeの成長をけん引している。2023年2月に初の著書「TikTok活用大全」を幻冬舎より出版。
  • HAKUHODO EC+リーダー
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局 局長代理 兼
    コマースDX推進グループマネージャー
    2004年博報堂中途入社。大手通信会社を中心に長らく営業職を担当し、2019年より現職。ショッパーマーケティング・イニシアティブのメンバーとして、EC領域に特化した組織横断型プロジェクトチームである「HAKUHODO EC+」を推進する。
  • HAKUHODO EC+ ビジネスコンサルタント/
    地域DXソリューション リーダー
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    コマースDX推進グループ
    イノベーションプラニングディレクター
    通販事業の運営チームを経て、博報堂のEC支援チームの旗揚げに参画。米国Kepler社への短期出向を経て、現職。ECを軸に、新規ビジネスの立ち上げや変革、事業設計を得意とする。各種講師や記事/書籍執筆なども担当。
  • HAKUHODO EC+ コンサルタント
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    コマースDX推進グループ
    マーケティングプラナー
    2021年博報堂入社のZ世代。
    EC領域を中心とした事業戦略立案を起点としつつ、新商品開発、市場調査、企業理念の策定、ライブコマースの戦略設計~実装など、幅広い領域のプラニングを担当。
    また、HAKUHODO EC+における「Z世代向けコマース攻略プロジェクト」のリーダーを務めており、Z世代の行動を捕捉するコマース体験の設計も推進している。