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広告会社にとってのweb3は「分散型広告」がキーワード。企業の新たなマーケティングや広告のあり方を考える ──Advertising Week Asia 2023より
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広告会社にとってのweb3は「分散型広告」がキーワード。企業の新たなマーケティングや広告のあり方を考える ──Advertising Week Asia 2023より

2023年6月6日(火)~8日(木)、東京ミッドタウンにて「アドバタイジングウィーク・アジア2023」が開催され、さまざまなコンテンツトラックやインタラクティブなディスカッション、基調講演、セミナーセッション、ネットワーキングが展開されました。

博報堂キースリーは、「web3時代に広告はどう変わるのか」というテーマのもとで、重松 俊範(博報堂キースリー 代表取締役)と佐野 拓海(博報堂 ミライの事業室 チーフプロデューサー)がトークセッションを実施し、web3時代における広告会社の役割やあり方についての考えを示しました。

重松 俊範
博報堂キースリー 代表取締役

佐野 拓海
博報堂 ミライの事業室 チーフプロデューサー

web3の社会実装を進める博報堂キースリーの事業概要

web3は次世代のインターネットとして、これからの時代に大きな変革をもたらすとされています。
「web3は企業と顧客の関係性を、より対等なものに変える」
そう言われるのは、web3の基盤となるブロックチェーン(分散型台帳)技術が、「生活者主導の社会」や「情報の民主化」を促し、新しい社会を切り拓いていく可能性を持っているからです。
web3事業プロデュース会社「博報堂キースリー」は、2022年12月にAstar Networkの渡辺 創太氏と設立して以来、主に企業の広告・宣伝部や新規事業開発の担当者と、web3の社会実装における取り組みの支援を行っています。

重松
博報堂キースリーの手がける事業概要としては、まず2023年2月に開催した「web3グローバルハッカソン」が挙げられます。このハッカソンでは、トヨタ自動車を協賛に迎え、web3における新規事業の創出を目標に取り組んだ事例となります。
新規事業を創るアプローチとして効果的なハッカソンは、既存の広告業界で例えると、直接クライアントに提案する競合プレゼン(コンペ)の位置付けであり、『プログラミングコンペ』のようなものだと捉えていただくとわかりやすいでしょう。web3グローバルハッカソンでは、本質的な企業の課題を解決するために、博報堂が培ってきた企画、構想力やクリエイティブを生かし、web3の視点を加えたハッカソンのテーマを設定しました。
世界中のエンジニアが、そのテーマに沿って短期集中型で開発し、互いに競い合うことでより良いサービスが生まれるような企画設計を心がけました。
また、日本古来のお弁当箱「曲げわっぱ」から着想を得たデータウォレット「wappa」は、個人データやNFTを持ち運べるツールとして提供しています。

直近では、カルビーのトップブランド・ポテトチップスと「NFTチップスキャンペーン」を行い、対象商品を購入すると「ポテトNFT」がおまけでもらえるキャンペーン施策を展開。
NFTの取得や閲覧にはwappaの技術を使用していて、ポテトNFTの成長過程を楽しめるユーザー体験は、SNSでの話題化やブランドのファン化につながりました。

佐野
ブロックチェーンに「誰がいつ、NFTを所有したのか」という履歴が刻まれることで、中長期的にお客様との関係性を構築できるのが大きな特徴になっています。

カルビーのポテトチップスは、これまではお客様が買って、食べ終わってしまうと、そこで接点が途切れることになるわけです。一方、お客様がNFTを保有していれば、保有者(ホルダー)に向けて新たな体験価値を提供したり、コミュニティを醸成したりすることができます。これが、web3時代の次世代型マーケティングとして可能性を見出せる部分になっています。

重松
また、web3領域では「ユースケースの少なさ」と「web3の知見や経験を持つ人材がいない」ことが大きな課題です。博報堂キースリーでは、大手企業の課題やニーズに合わせて最適なチームをアサインし、プロジェクトの設計から実行までワンストップで支援するために、web3スタートアップを中心とした専門家集団「KEY3 STUDIO」を発足しています。
web3系のスタートアップと大手企業がタッグを組めば、社会的インパクトを生み出せる一方、双方を束ねてプロデュースしたり、マネジメントしたりするのが求められています。
web3領域で事業を行うスタートアップは非常に優秀で熱意がありますが、大手企業との繋がりがなく、反対に大手企業は『どのように自社と親和性の高いweb3の企業を選べばいいのか』という情報が不足しています。KEY3 STUDIOは、web3事業者と大手企業の良いマッチングを実現し、双方のシナジーから新たなweb3ビジネスが生まれるようにしていきたいと思っています。

NFT発のIPは企業の新たなマーケティングに生かせる

そして、IP支援ソリューションの「KEY3 IP Lab.」についても説明したいと思います。IPと言えば、昔は漫画から始まって、人気が出たらアニメになって、グッズを販売し、映画やDVD化されるという流れでした。
最近では、縦スクロールで読める漫画「ウェブトゥーン」からIPが生まれたりという潮流があるように、熱狂的なファンを多く抱えるNFT発のIPも登場しています。そんなNFT発のIPを企業とコラボレーションさせるソリューションになります。

佐野
KEY3 IP Lab.のユースケースとしては、2023年3月に国内有数のNFTコレクション「VeryLongAnimals」とカルビー「じゃがりこ」とのコラボキャンペーンを実施しました。

従来の画像や動画といったデジタルデータを配布するキャンペーンでは、やろうと思えばいくらでも複製が可能なため、どれが本物か偽物かわからないというのが課題でした。それが、デジタルデータの発行枚数や所有者を、改ざんできないブロックチェーンに記録することによって、じゃがりこのNFTが世の中に100枚しかないことを証明できるんですね。
このNFTを持っている人は、限定のコミュニティに入れたり、商品開発に携われたりと、NFTの所有者に対して新しい体験を提供することが可能になります。このようにNFTは唯一性や希少性を担保する道具として、企業のマーケティングに生かせる手段になるのではと考えています。

広告会社にとってのweb3は「分散型広告」がキーワードに

ここからは「広告会社にとってweb3とは?」というトピックを主題に、議論を深めていきました。

重松
web3とは、ブロックチェーンに基づく「分散型オンラインエコシステム」だと認識しています。
ブロックチェーンは“分散型台帳”とも呼ばれますが、要はみんなが分散して台帳を見ているイメージを持ってもらうと、とてもわかりやすいと思います。

例えば、私から佐野へ1ビットコインを送りました。その後、佐野が妻に0.2ビットコインを送りました。そうした場合、全て台帳に取引の履歴が記録されていくんですね。「ブロック」と「チェーン」で厳格に秘密を保ったまま管理されるものだと、よく誤解されてしまうのですが、台帳がみんなで見られるよう、オープンに管理されている仕組みになっていて、それが取引の透明性や安全性の担保につながるということなんです。
博報堂DYグループがweb3領域に進出して事業を行っているのは、個人データ保護に関する法整備やCookie規制が世界的に広まっていることで、企業が個人情報を扱えなくなる流れが加速しているからです。
こうした動きは、データを利活用した広告配信や分析、デジタルマーケティングを行う広告会社にとっても重大な課題となっています。

佐野
web3時代における「広告のあり方」はどのようなものであり、現状の課題を解決するために、web3がもたらす変化について考える場合、結論としてまだ最適解はありません。

ただ、web3の世界でひとつのキーワードになっているのが「分散(Decentralized)」です。
現金は暗号資産(Crypto Assets)、銀行はDeFi(Decentralized Finance、分散型金融)、証明書はNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)、そして会社はDAO(Decentralized Autonomous Organization、分散型自律組織)といったように、web3時代ではあらゆるものが分散化されていきます。
従来の広告においてもDAD(分散型広告)というものが登場し、web3の広告モデルが確立されていくのではと予測しています。
従来の広告配信における課題の一つは、限られた顧客情報をもとにターゲティングするため、興味がない人にまで配信され、ミスマッチが生じてしまう可能性があることです。
さらに、「なぜ、この広告を配信したのか」という理由や説明が不足していることもあって、広告自体が嫌われたり避けられたりしている現状があります。
このような状況を理解しつつも、成果を出すためにさらに課金して広告を回すという「負のループ」に陥ってしまうケースは少なくないといえるでしょう。

広告配信の「負のループ」を断ち切るDADの可能性

他方、web3時代の広告では負のループを断ち切り、新たな広告ループが構築できるようになると考えています。
DADは企業とユーザー(個人)がフラットな関係性なのが特徴です。ユーザーが欲しい広告を選択し、企業はそれに合わせて広告のオファーを出すわけですが、双方向で情報開示の承認が得られた段階で、初めて必要なデータを提供していくような流れになります。

加えて、企業側はどのようなデータをもとに広告を配信したのかという根拠を示す「エビデンス主義」が基本になっています。今までは、ユーザーは受け身の立場だったわけですが、web3時代の広告ループとして「ユーザー自ら広告をもらいにいく」というのが理想形になってくると感じています。
具体的な事例としては、web3時代のブラウザと言われる「Brave」を取り上げたいと思います。
Braveではユーザーのデータやプライバシーを保護しつつ、趣味嗜好に合った広告を配信し、ユーザーが広告表示を承認すると、それに応じたトークン(BAT)がリワードとして還元される仕組みになっています。
さらにはパブリッシャー(広告主)やコンテンツクリエイターも、ユーザー側からチップやリワードを受け取れるというエコシステムを構築しており、まさにweb3時代の広告ループを体現している最たる例になっています。
サービスやアプリは、広告あってこその継続的な運営につながっていると思うので、広告主と顧客がお互い感謝される関係性をweb3で作ることが、我々としても取り組むべきことだと認識しています。
それには、ブロックチェーン技術を活用するのが必須であり、ユーザーに利益を還元するためのトークンを発行し、エコシステムが回るような設計が必要になってきます。

web3時代は広告業界が新たな存在価値を示す好機になる

重松
web3時代の到来は広告業界の転換期であり、インターネット黎明期の雰囲気と似ているなと実感しています。web3時代はもう一度広告業界のあり方や、新たな存在価値を示す好機だと思っています。
佐野
本当に届けたい人に広告を届けることが、web3で可能になると思っています。

博報堂は生活者視点を大事にしながら、雑誌広告やテレビ広告などを手がけてきました。デジタル広告が広まっていくに連れ、ユーザーが見たくない広告までも配信されてしまうのを何とかできないかとずっと思っていました。
この課題を打破しようにも、データのサイロ化や個人情報保護の観点などでなかなか難しいのが現状になっています。
そうしたなかで、ブロックチェーンというデータベースを用いれば、企業が個人情報を取得しなくても、ユーザーにアプローチでき、企業横断のマーケティングやプロモーションが可能になる。今後もweb3時代の新しいマーケティングの可能性を模索しながら、web3の社会実装が実現できるように尽力していきたいと思います。

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  • 博報堂キースリー 代表取締役
    読売広告社の上海支社と台湾支社を立ち上げ支社長に就任。その後webベンチャー企業やXR企業に取締役として参画、VR空間でのバーチャルイベントPFを立ち上げ、2023年1月より現職。
  • 博報堂 ミライの事業室 チーフプロデューサー
    生活者リサーチ、新規事業開発、新商品開発、サービスデザインの業務に従事。著書『DNVB生活者の義憤から生まれるブランド』。

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