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顧客の買い物行動を自社の資産に換える「5つの型」──コマース領域の「DX Map」【後編】
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顧客の買い物行動を自社の資産に換える「5つの型」──コマース領域の「DX Map」【後編】

コマース領域のDXを5つの型に整理した「DX Map Commerce」。そのキーワードは「顧客接点」「データ」「収益化」です。自社接点で培われた顧客との関係や、そこで得られたデータをどう確かな収益に結びつけていくか──。前編に引き続き、「DX Map Commerce」の概要と、リテールやメーカー企業がDXによって目指すべき方向性について、作成メンバーの長谷川恭平と中川愛理、魯敬国に語ってもらいました。

接点における顧客との関係をアクティブにする方法

──前回「DX Map Commerce」で体系化した5つの「型」の2つめまで解説していただきました。3つめは、「活性化=顧客関係の刺激」です。これについて解説をお願いします。

自社の接点でつながった顧客との関係を活性化させるために、さまざまな仕掛けによって接点を通じた体験を魅力的にすることがここでの取り組みになります。

例えば、ECサイトでの購入経験がある顧客がリアル店舗を訪れた際は、ECで得た情報をもとに最適な接客や商品のリコメンドをする、といった事例がアパレル企業などではよく見られます。「自分のことをわかってもらえている」と顧客に感じてもらうことによって、次の来店につながったり、購買単価が上がったりすることが期待できます。

また、大手カフェチェーンなどでは、オペレーションの機械化を進めることによって、店員が接客に注力できる体制を構築しています。ほかに、販売員やKOL(Key Opinion Leader)と呼ばれるインフルエンサーを加えたSNSコミュニティをつくり、顧客とのコミュニケーションを活性化させているコスメメーカーもあります。企業と顧客、顧客と顧客の活発な交流を購買につなげる手法と言っていいと思います。さらにそれに近い取り組みとして、オンラインで買い物をするときに友人などと情報をシェアしながら、ショッピングを楽しめるツールを提供している企業もあります。

長谷川
ファンコミュニティを上手に活用して顧客との関係を活性化させている企業が、米国や中国では増えていますね。ASEAN地域でもファンコミュニティは非常に注目されており、先日博報堂生活総合研究所アセアンが発表したように、アイドル・料理・ゲームなどのテーマでソーシャルメディア等を通じた活動が活発に起こっています。
中川
海外ではオフラインのコミュニケーションを重視するケースが比較的多いのですが、日本ではリアルな接点での関係が大切にされる傾向があります。海外のやり方を「接客」という視点でチューニングするのも1つの考え方かもしれません。

優良顧客の生涯顧客価値(LTV)をデータドリブンで最大化していく

4つめの型が「抽出=優良顧客の選別」です。顧客を購入金額によってセグメントしていくのは一般的な方法ですが、データを分析することで今まで見えなかったセグメンテーションやニーズの探索を行うというのが、この型における考え方です。

データを分析することで、その顧客が求める体験がone to oneの接客なのか、限定商品の提供なのか、限定イベントへの招待なのかがある程度わかります。それをもとに、それぞれの顧客に対するアプローチの方法の仮説を立て、それを実施します。そうすると、有効なアプローチの方法がさらにはっきりと見えてきます。顧客理解を深めながら、セグメントを細かく設定していく。そんな取り組みです。

長谷川
一般に、マーケティングに顧客データを用いる場合は量を重視しデータを網羅的に見ていくケースが多いのですが、この型ではLTVの高い優良顧客だけにフォーカスし、質の高いデータを集めてその解像度を上げていくことを目指します。優良顧客のLTVをデータドリブンで最大化していく取り組みと言ってもいいかもしれません。

──2割の顧客の購買金額が売上全体の8割を占めるという法則があります。その2割の顧客との関係に注力するということですね。

長谷川
その通りです。データ分析によって、その2割をさらに深く理解していくわけです。
中国の雑貨ブランドの中には、アプリの中での自社ユーザーの行動データをもとに60以上のタグを付与しながら、顧客をセグメントしているところもあります。その分類の中で、例えば情報発信に積極的で多くの人と繋がることができるユーザーを見つけてブランド大使として任命し、UGC(User Generated Contents=ユーザーがつくるコンテンツ)によってブランドの魅力を伝えてもらうという取り組みを行っています。

中川
優良顧客に良質な口コミを広めてもらうという手法ですね。
長谷川
優良顧客とひと口に言っても、定義はさまざまです。より多くの買い物をしてくれる顧客が優良顧客であるという定義もあるし、ブランドの評判を広めてくれる顧客を優良顧客と捉えている企業もあります。この型に取り組む際は、自社にとっての優良顧客とはどのような人たちかをしっかり考える必要があると思います。

購買データをもとに広告ビジネスを展開

──最後が「新収益化=新事業の開発」ですね。

これまでお話しした4つの型によって得られたデータ、あるいは自社が保有している資産をもとに、まったく新しいビジネスをつくっていくのが5つめの「新収益化」です。

代表的な事例として、米国の大手リテールチェーンが広告メディア事業に乗り出したケースが挙げられます。ECやリアル店舗における購買データは、ライフスタイルや趣味嗜好がかなりの精度でわかる質の高いデータです。そのデータを活用して、自社のアプリやECサイト等の広告枠だけでなく広告プラットフォームとの接続で外部のメディアにも広告配信をする仕組みをそのリテールチェーンはつくりました。購買行動をベースにしたデータなので、購買にダイレクトにつながる広告配信が可能になっています。

長谷川
最近では、広告配信だけでなく、メッセージやコンテンツ開発などマーケティングエージェンシーの機能をもったリテール企業も出てきていますね。
ほかに、自社のロジスティックの仕組みを外販しているリテール企業の動向や、さまざまなサービスをスーパーアプリで提供しているプラットフォーム企業がフィンテック事業に乗り出しているケースなどにも僕たちは注目しています。

もう一点、今後活発になっていくと見られるのが、NFT(非代替性トークン)関連の新規事業です。現在のところ、メーカーがデジタルグッズをNFTで提供するといった取り組みにとどまっていますが、アイデア次第でいろいろな可能性があると思います。

収益に直結するマーケティングモデルが求められる

──このMapは、すでにクライアントにお使いいただいているのですか。

長谷川
社内各部署の担当者と話をして、すでにいろいろなクライアントに提案をしてもらっています。これをベースにディスカッションをさせていただき、それぞれのクライアントのDXの課題を解決する道筋をつくっていきたいと考えています。

──これからの展望をお聞かせください。

長谷川
現在、世界中で人件費の高騰やインフレが進行し、景気後退の見通しもささやかれています。米国では過去数年リテールの業績は右肩上がりで伸びていましたが、今後厳しい局面に入っていくことが予想されます。おそらく今後は、確実に収益に直結するマーケティングモデルを求めるクライアントが増えていくのではないでしょうか。その中で、どの課題にまずは注力すべきなのか、何をアクションとして進めるといいのかを着想する上で、DX Map Commerceをお役立てただける場面は増えていくに違いないと考えています。
中川
購買行動において重要なのは「利便性」と「ワクワク感」の2つだと思います。とくに博報堂DYグループのクリエイティビティを発揮できるのは、ワクワク感の創出です。オンラインだけではなく、オフラインでも生活者にワクワクしてもらえる体験を生み出し、クライアントの収益向上に寄与していくことがこれからの目標です。

これまで、コマース領域では「いかにデータを取得するか」という点に主眼がありました。しかし、データの取得は手段であって目的ではありません。自社の接点において取得したデータからどのような価値を生み出していくか。それを考えるベースとして、ぜひDX Map Commerceを多くのクライアントにお使いいただきたいと思います。
長谷川
「自社接点のトラフィックをマネジメントしていく」という視点は、今後日本でもますます重要になっていくと思います。その手法を確立するお手伝いをしながら、次に来るものを見据えて、僕たち自身もどんどん新しいことに挑戦していきたいですね。

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  • グローバルマーケティングDX推進局
    2012年博報堂入社。TBWA\HAKUHODOにてブランド・コミュニケーション戦略の立案に従事した後、博報堂買物研究所を経て、現在は主にインドネシアなどASEAN地域を中心に、生活者価値を起点とするデータマーケティングの推進やデジタルを活用した顧客接点開発・統合化、コマース/リテールDXソリューションの開発などを通じて、企業のDX推進を支援。
  • グローバルマーケティングDX推進局
    2020年博報堂入社。ストラテジックプラナーとして、グローバル領域における消費財・小売・食品業界等の企業のデジタルマーケティングを推進。顧客の購買/行動データを活用して、EC・オウンドメディア・OMO領域を中心としたマーケティングの高度化を支援する。
  • グローバルマーケティングDX推進局
    2019年博報堂中途入社。
    その前までは、デジタル広告のメディア戦略・運用コンサルティングを担当。
    博報堂に入社後、飲料、消費財、小売り、自動車、航空など幅広い業種のデジタルマーケティング全般に携わる。1st Party Dataを活用したデータマーケティング戦略・ECマーケティング・データ基盤構築のコンサルティングなど、ASEAN地域におけるマーケティングDXの推進を支援している。