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博報堂×Laboro.AIの協業で取り組む オーダーメイドAIによるマーケティングの高度化とDXとは
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博報堂×Laboro.AIの協業で取り組む オーダーメイドAIによるマーケティングの高度化とDXとは

2022年8月、HAKUHODO DX_UNITED内にマーケティング×AI・データサイエンスの専門チームとして発足した「Data Science Boutique™(データサイエンスブティック)」。先日博報堂は、AI領域で高い専門性をもつスタートアップの株式会社Laboro.AI(ラボロエーアイ)との資本業務提携も発表しており、データサイエンスブティックは両社協業の一翼を担います。両社のシナジーに期待される効果や、これから生み出そうとしている施策、サービスの展望などについて、Laboro.AIの代表取締役CEO椎橋徹夫氏、博報堂の高木康晃、髙栁太志が語り合いました。

■マーケティング×データサイエンスに強い博報堂とAIアルゴリズム×ビジネスに強いLaboro.AIが目指すもの

髙栁
HAKUHODO DX_UNITED/博報堂DXソリューションデザイン局の髙栁です。22年8月に発足した「Data Science Boutique™」チームのリーダーを務めております。
今夏、博報堂とAI開発スタートアップのLaboro.AIとで資本業務提携を締結したのですが、まずは博報堂におけるAI・データサイエンスの取り組みの現状についてお話ししたいと思います。
高木
HAKUHODO DX_UNITED/博報堂DXプロデュース局の高木です。DXプロデュース局は、得意先や媒体社に向けたDX関連ビジネスのプロジェクトマネジメント業務やHAKUHODO DX_UNITED 発で開発するソリューションやサービスの営業推進が部門の主たるミッションとなっており、『Data Science Boutique™』にも、その2つの役割として事務局として参与させてもらっています。
僕らが所属する「HAKUHODO DX_UNITED」は、2021年4月に発足した博報堂、博報堂DYメディアパートナーズ、DACによるグループ横断型の戦略組織で、マーケティングDXとメディアDX両方をサービス領域に、700名体制でクライアント企業のDXを推進しています。
髙栁
そのHAKUHODO DX_UNITEDで、今年の8月に専門チームとして立ち上がったのが、「Data Science Boutique™」です。もともと博報堂DYグループでは、MMM(マーケティングミックスモデリング)のような統計的なアプローチやデジタル広告領域などにおいて、AIやデータサイエンスをマーケティングに活かす取り組みを進めてきましたが、近年はメディアデータやマクロの統計データ以外の生活者データも集まる環境になってきた為、さらに体制強化の段階に入ったという経緯があります。Data Science Boutique™にはHAKUHODO DX_UNITEDのデータサイエンティストやデータストラテジストが集結し、AIやデータサイエンスを使ってクライアント企業のマーケティング課題を解決していこうとしています。そして時を同じくしてLaboro.AIとの資本業務提携も実現。Data Science Boutique™はLaboro.AIと共に、サービス提供体制の構築やソリューション開発を共同で推進しています。

椎橋
Laboro.AIのCEO、椎橋です。社名の通り弊社は機械学習・AIの領域にフォーカスし、クライアント企業の個々のテーマに最適化されたAIソリューションの開発やコンサルティング業務を行っています。「カスタムAI」の名でサービス展開しており、画一的なソリューションではなく、それぞれの企業のビジネス戦略ときちんと紐づいたAIソリューションを提供することで、クライアント企業のビジネスの核の部分に確実に効果をもたらし、長期的な企業の競争力強化、イノベーション創出にもつなげることを目指しています。昨今、AIを活用する領域としてはディープテックと呼ばれる最先端の研究開発領域や製造業、B2B領域のテーマが多いわけですが、一方で「テクノロジーとビジネスをつなぐ」そして「すべての産業の新しい姿をつくる」という我々のミッションにおいては、生活者とつながるマーケティング領域へのAI導入によるインパクトも非常に重要です。そんなタイミングで提携の話が生まれ、HAKUHODO DX_UNITEDの取り組みや構想は弊社にも非常にフィットすると考えたため、ご一緒することとなりました。

ちなみに弊社ではコンサルタント的なソリューションデザイナのチームと機械学習・AIのエンジニアチームの両輪で動いています。マーケティングスキルとAI・データサイエンススキルといった複数のスキルをあわせ持つチームであるData Science Boutique™とミラーリングの様相になっているのも、連携がうまくいきそうだと考えた理由です。

また、一般的にAIを活用した事業というと、B2B産業、研究開発の深いところに入っていくものと、生活者に対してAIやデジタルを絡めて新サービスを開発するという2つに大別されますが、今般の連携は後者。たとえば食にまつわる課題解決をパーパスに据えている食品メーカーと一緒に、生活者に対してデジタルやAIを使って適切な献立や生活習慣を提案するなど、健康や食に関する価値を売るといったサービス事業にチャレンジしています。

髙栁
食品メーカーにしても自動車メーカーにしても、根幹となる製造業周辺にサービス領域を広げas a Service化したいというニーズは、多くのクライアント企業にあると感じます。それは、博報堂が「生活者インターフェース」と呼んでいる、さまざまな生活者との接点へのニーズが高まっていることであると言えます。たとえば、今椎橋さんからお話いただいた食品メーカーの事例のように、献立や生活習慣の提案を、ユーザー向けアプリでパーソナライズされたリコメンドとして実装していくことなど、我々が協業で満たしていけるニーズがあると考えています。
椎橋
はい。また、生活者インターフェースの後ろにあるビジネスを高度化、効率化することによって、需要予測をベースにしたサプライチェーンの改善も可能になります。まずはおっしゃったように生活者インターフェースにおけるマーケティングをAIやデータを使い高度化しつつ、そこを基点に、需要に応じたサプライチェーンや製品開発など、これからスコープを広げて価値を出していけるのではないかと思います。
高木
それができれば真のDXの実現になりますね。現状では、デジタイゼーション、デジタライゼーションの案件がまだまだ多い状況で、新しい顧客接点としてのアプリを含めたサービス開発案件はごくわずか。既存のECストアやポイントのデータを活用し、施策の高度化や体験をリッチにするためのインプットとして、機械学習やデータサイエンスをどう活用していくかを追求するのが向こう1年くらいの動きになるとは思います。一方で長期的には、ビジネス範囲の拡大という意味で、椎橋さんのおっしゃるバリューチェーン全体をとらえる視点も非常に重要だと思います。
椎橋
最終的にその企業のビジネスモデル自体が変革するようなところまでを目指すのであれば、飛び道具的な新規事業だけではなくて、既存事業についても短期的な価値を出しながらも変革を進めるやり方が必要だと思っています。スタートアップ単体ではなかなか難しいですが、幅広い業界にクライアント企業とネットワークをもつ博報堂と取り組んでいけることに大きく期待しています。

髙栁
高木さんの話に補足すると、分散する1st Party Dataなどのデータ環境を整えなければならないのがこれまで多くのクライアントのステータスでしたが、この5年ほどでデータ統合が進み、ようやくさまざまなデータ同士がつながり始め、貯まらなかったデータが貯まり始めたクライアントも増えています。そのデータをどう活用していくかということも喫緊の課題です。クライアントのCRMのプログラムをつくるとか、データ分析から戦略をつくるなど、足元のマーケティングにおけるデータサイエンスやAI活用のニーズは大いに高まっているのが現状です。

■大きな課題解決に不可欠な“社会科学系のスコープ”を活かしていく

髙栁
今回の資本業務提携は、博報堂がLaboro.AIに出資し、両社で協業していくという内容です。まずは協業でクライアント企業に対してデータサイエンス、AI、マーケティングを絡めたオーダーメイドのサービスを提供していくということ、そして博報堂が得意とするマーケティング知見を活かしつつ、AI技術を使った新しいソリューションを開発していくこと、という2つの狙いがあります。
椎橋
弊社としては、生活者と密接にかかわる幅広い領域の業界において、AIによるイノベーションを効率的に起こしていくには、プレゼンスがあり確たるポジションに立つパートナー企業である博報堂と組むことは必然と考えました。また、得てして長期的イノベーションは、例えばバイオやケミカル、医療、ロボット、宇宙といった川上の産業における先端研究の領域においてその種を発見しようという試みが多いわけですが、これはつまりイノベーションの起点が自然科学×ビジネスの視点に寄った取り組みが多くなりがちだとも言えます。ですが、生活者の行動・心理の探求、そして価値あるマーケティング活動の実現といった社会課題解決において必要なのは、自然科学よりもむしろ社会科学・人文科学×ビジネスの視点。博報堂が掲げる生活者インターフェースのとらえ方は、ある意味、非常にマクロな視点で社会科学・人文科学をビジネスに活かそうとされている。そこにAIの力を掛け合わせることで、大きな社会課題の解決もできるのではないかと思うのです。
高木
僕がこれまでご一緒してきて感じているのは、両社のカルチャーフィット。ともすればAIなどの先端技術系は、ビジネスを組み立てようとすると工学系に、中長期的な視点になると自然科学の話に閉じてしまいがちですが、我々博報堂はどちらかというとヒューマニティとか社会科学系のスコープで物事をとらえる人が多いのです。Laboro.AIの志向するところは我々のカルチャーとリンクしているなという肌感がありましたが、いまの話で非常に納得しました。

■オーダーメイドAIで効果検証から効果的な施策の実施まで包括したソリューションを提供

髙栁
すでにLaboro.AIと博報堂が共同で行ったのが、「顧客の離脱予測モデル構築」の実証実験です。クライアントである通販型消費財メーカーの定期購買を解約する人をとどまらせたいという事業課題に対し、離脱しそうな人を予測し、その人たちにダイレクトに離脱を抑止する施策を打つというプランを提案しました。まずはクライアント企業の会員顧客の購買データや会員情報としてとれているデータを学習データに使い、過去に離脱した顧客データを正解データとしてモデルをつくり、現在の顧客にそのスコアを付与することで、離脱予測値を作成。離脱予備軍を可視化し、その人たちを対象に効率的に離脱抑止の施策を実施するという取り組みです。
椎橋
離脱だけでなく購買の予測も可能ですから、たとえばそこから発注の最適化につなげることもできるでしょう。最近はいくつか予測系のツールも出てきていますが、肝心なのは、いつの時点で何を予測するのか、各企業やビジネスに合った形で設計すること。さらにその結果どういうアクションをとるべきかがわからなければ、ビジネスインパクトにつながりません。我々ならそれをすべて包括したソリューションを提供できるわけです。
髙栁
そうですね。購買予測しかり、広告キャンペーンに参加してくれそうかなどちょっと先の未来予測から、今後長期的に顧客になってくれそうかというLTV予測も展開できる。実際の効果検証から、データ分析に基づいたクリエイティブの出し分けなど、効果的な施策を実際にやり切るところまで併走できるという博報堂の強みを、十分に発揮できると思います。
高木
この1年さまざまなセールスに併走してきて、いつ何を制御するために何のモデルをつくるのかという実際的な話から、本当に欲しいのはLTV予測なのかどうかという目的設計の話までを冷静にできるという意味で、この協業には大きな意義があると実感しています。それこそがクライアントの意思決定の大きな後押しになるわけですから。
髙栁
それ以外にも、マーケティングでのAI活用は、多岐に渡ると考えています。例えば、製造業や小売業、外食のクライアント企業では、需要予測によって廃棄ロスの削減やプロモーションの最適化をするようなニーズがあるというお声を頂いています。また、ソーシャルマーケティングに積極的なクライアント企業では、SNS上の新語や流行語、口語などを含むSNS上のさまざまなユーザーの発話内容を、自然言語処理を使って辞書化・分類し、SNS施策における効果検証やプランニングに活用するニーズがあり、Laboro.AIと博報堂でソリューション開発に着手しています。

■協業したからこそ可能な価値提供を積み重ね、DXによるクライアント事業の変革を目指す

椎橋
マーケティング×データサイエンスの領域では博報堂が、AIアルゴリズム×ビジネスの領域では我々Laboro.AIに強みがあります。ただ、各自のケイパビリティの持ち寄りはありつつも、実際にチームを組む際は、互いがカバーし合うワンチームの形をとっている。専門外の分野は切り出して外に出すといった形が多いなか、ユニークでいい体制だと思います。博報堂側に営業メンバーがいるのも特徴的。一番クライアントを理解していて、クライアントの意向を踏まえた上で提案内容をリードしてくれる方がいるのがいいですね。
高木
博報堂にはマーケティングシステムコンサルティングのチームもあれば、UX/UI専門の設計、デザインチームもいるので、プロジェクトのニーズに応じてそうしたメンバーをアサインするといったチームの組み方も可能です。 今後ビジネスを拡張していく際、デジタルマーケティング以外にも、コアのマーケティング部門の長と話をする必要もあるでしょうし、一方で、エンジニア視点が求められるシーンも多々あると思います。業務のさまざまな局面において、協業のメリットを大いに活かせるのではないでしょうか。
髙栁
大きな展望としては、やはりマーケティング業界にもっとAIを普及させ、データ活用を加速させていけたらと思います。クライアントのDXや、そこを起点とした事業変革をサポートしていきたいです。
椎橋
そうですね。長期的にはそうした構想を実現できればいいですし、短期的には、協業したからこそ可能な価値提供、ビジネスを、着実に一社一社のクライアントに対してつくっていくことかと思います。

高木
顧客接点のアプリケーションなどのサービス開発を基礎工程から進めていき、数年後には十分な実績を積んだ状態にしておきたいですね。
髙栁
そうですよね。裏側に技術があるからこそ可能な、新しい生活者の体験、エクスペリエンスが生み出せたら。生活者の生活様式がここまで変わったとか、あるいは特定のテーマ、悩みが解決できて便利になった、などと評価されるようなものを生み出していきたいです。
椎橋
いまは広告配信の最適化が進んでいますが、一方でその人の過去の行動などの情報に基づいた広告だけに接することなり、狭い世界に閉じてしまうという話もあります。新しい気づきを与えるとか視野を広げるといった広告ならではの良さを保ちつつも、欲しい情報がきちんとムラなく得られるようなバランスをつくっていくことが大事だと考えます。そうした生活者インターフェースのあり方を一緒に探っていきたいですね。
髙栁
また、クライアントのお悩みやニーズは、実はマーケティング領域に限らないこともある。これまで難しかった領域の課題解決にも、Laboro.AIと一緒にトライしていけたら。たとえば商品開発にAIデータサイエンスを活かすことで、もっと潜在ニーズを拾っていくとか、失敗しない商品開発を実現するといったこともできそうです。博報堂が提供できるサービスの幅を広げることができたらいいなと思います。
椎橋
メーカーも生活者のニーズをきちんととらまえたうえで研究テーマを選定すべきとか、研究開発している要素技術の価値をもっと生活者にも認識してもらうことが重要だとか、昨今は研究開発のマーケティングの重要性も出てきています。そうした領域にも価値を広げていける余地はありますよね。これからが楽しみです。
髙栁
本当ですね。Laboro.AIと組むからこそ見えてくる世界がありそうです。
高木
今後ともよろしくお願いいたします!

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  • 椎橋 徹夫
    椎橋 徹夫
    Laboro.AI代表取締役CEO
    2008年、ボストンコンサルティンググループに入社。東京オフィス、ワシントンDCオフィスにてデジタル・アナリティクス領域を専門に国内外の多数のプロジェクトに携わる。2014年、東京大学 工学系研究科 松尾豊研究室にて産学連携の取組み・データサイエンス領域の教育・企業連携の仕組みづくりに従事。同時に東大発AIスタートアップの創業に参画。2016年、株式会社Laboro.AIを創業、代表取締役CEOに就任。
  • HAKUHODO DX_UNITED/博報堂DXプロデュース局 局長代理
    2002 年入社以来、IT / ダイレクト / B2B / ゲームスタートアップ系企業に対して、On & Offline 統合キャンペーン / メディアアクティベーション / mROI マネジメント管理業務などに従事。2021 年より現職にて、全社のデジタル領域ビジネスの営業企画やパートナーアライアンスを推進。
  • HAKUHODO DX_UNITED/博報堂DXソリューションデザイン局
    HAKUHODO DX_UNITED/博報堂DXソリューションデザイン局
    データストラテジスト。マーケティングでのAI・データサイエンス活用におけるプロジェクトマネジメント及び戦略プラニング・コンサルティングを担当。データサイエンティストと二人三脚で、クライアント企業のDX推進・データサイエンス活用をサポートする。