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デジタルマーケティングの最前線 【博報堂デジタルイニシアティブの挑戦 Vol.2】 「Cookieレス時代」におけるデジタルプラニングと広告配信のあり方とは
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デジタルマーケティングの最前線 【博報堂デジタルイニシアティブの挑戦 Vol.2】 「Cookieレス時代」におけるデジタルプラニングと広告配信のあり方とは

プラットフォーマーなどから提供されるサードパーティCookieと呼ばれるデータの活用が、プライバシー保護の観点から制限されるようになっています。企業は、今後段階的に進行していく「Cookieレス」に対応して、新しいデータ活用のあり方を考えなければならなくなっています。連載記事「デジタルマーケティングの最前線」の第2回は、サードパーティデータ活用に替わるコミュニケーションプラニングと広告配信のあり方を掘り下げていきます。

野津原 竜太
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)/博報堂デジタルイニシアティブ
ビジネスデザイン本部 ダイレクト営業局長

高田 悠
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)/博報堂デジタルイニシアティブ
ビジネスデザイン本部 チームリーダー

ファーストパーティデータをいかに活用するか

野津原
以前は、テレビCMで大量にリーチを取って売り上げを上げるのがマーケティングの常道でした。現在でもそのようなマスコミュニケーションが有効であるケースも多数ありますが、商材、ユーザー層によっては、別の効果的な手法も台頭してきています。その背景にあるのが、生活者のライフスタイルや趣味嗜好の多様化です。
高田
マスマーケティングの場合、一般に基準となるのはデモグラフィック、つまり性年齢によるセグメンテーションですが、例えば「35歳から49歳の男性」というセグメントを設定しても、その中には「買ってくれる可能性が高い人」と「買わない可能性が高い人」が混在しています。例えば、料理をしない人に調理器具のメッセージをどれだけ届けても、買ってくれる可能性は非常に低いということになります。そこで10年くらい前から、データを活用して「買ってくれる可能性が高い人」に優先的にアプローチしていこうという考え方が出てきたわけです。

この10年ほどの間にそのようなデータマーケティングの手法は長足の進歩を遂げてきましたが、ここにきて大きな壁にぶつかっています。その壁が、プライバシー保護の観点からのCookie利用規制です。プラットフォーマーは段階的にCookie利用を制限するようになっており、数年後にはプラットフォーマーから得られるいわゆるサードパーティデータをマーケティングに活用するのが難しくなると言われています。

その問題の有効な解決法は大きく2つ考えられます。
1つは、自社が保有している顧客の会員情報などのファーストパーティデータ活用です。ファーストパーティデータには購買情報が紐づいている場合が多いので、非常に精度の高いターゲティングが可能になります。つまり「買ってくれる可能性が高い人」へのアプローチがよりやりやすくなるわけです。

しかし、「精度の高さ」と「スケール」は一般にトレードオフの関係にあります。精度が高いデータほど母数は少なくなるので、アプローチした人にかなりの確度で買ってもらえたとしても、売り上げの大きな拡大は見込めないというジレンマに直面するということです。そのため、ファーストパーティデータを活用する場合には、「類似拡張」という手法を使うケースが増えています。「この商品を買ってくれた人に近い人をデータから推測し、その人にアプローチする」という方法です。類似拡張にはいろいろな方法があって、目下研究が進んでいるところです。

野津原
ファーストパーティデータは、収集するのが大変という課題もありますよね。
高田
ファーストパーティデータを取得するには、ある程度の投資が必要です。しかし、そのデータに対する個々の顧客の許諾が取れていれば、比較的企業側が自由に使うことが可能です。つまり、「収集にコストがかかっても活用にはコストがかからない」のがファーストパーティデータの特徴の一つと言えます。
野津原
ファーストパーティデータの収集にはどのような方法があるのですか。
高田
大きくは、オウンドサイト、自社ECサイト、アプリの3つですね。また3年ほど前から、ファーストパーティデータに含まれるデータの一類型である「ゼロパーティデータ」という言葉もしばしば耳にするようになっています。一般的なファーストパーティデータは、会員登録などによって結果的に企業側に提供される情報ですが、ゼロパーティデータは、顧客側が積極的に提供してくれる情報を意味します。情報を提供することによって自分に合った情報やお得な情報を提供してほしいと考える顧客のデータがゼロパーティデータで、これをベースにすることで、より深いコミュニケーションが可能になります。

セカンドパーティデータのメリットとデメリット

野津原
もう1つの解決法は何ですか。
高田
セカンドパーティデータの活用です。これは、自社が保有しているデータではなく、ポイントカード、POS、電子決済サービスなどの独自のID取得の仕組みをもつ企業から得ることができるデータのことです。セカンドパーティデータにも購買情報が紐づいている場合が多いので、ファーストパーティデータ同様の精度の高いアプローチが可能になります。
野津原
米国ではセカンドパーティデータを売買する市場がかなり整備されているようですね。もちろん、ユーザーの許諾を取った上での売買ということですが、日本で市場が成立するのはこれからだと思います。セカンドパーティデータには、ほかにどのような特徴があるのでしょうか。
高田
ファーストパーティデータは自社の顧客の情報だけですが、セカンドパーティデータには、広く商品購買検討度が高い層のデータが含まれます。セカンドパーティデータを使って類似拡張を行えば、新規顧客にもアプローチしてシェアを拡大することが可能になります。
野津原
セカンドパーティデータの活用にはデメリットもあるのでしょうか。
高田
1つは、データをベンダーから買うことになるので、お金がかかることですね。もっとも先ほど指摘があったように、日本ではセカンドパーティデータの売買市場は整備・調整段階にあります。現在のところ、セカンドパーティデータのベンダーは、データ販売ではなく、自社のデータを活用した広告運用をビジネスにしています。その問題点は、ファーストパーティデータを活用した広告運用とターゲティングが重複してしまう可能性があることです。
野津原
特定の生活者に対する二重のリーチが発生する場合がありうるということですね。
高田
そうです。それを防ぐには、ターゲティングの重なりを省く必要があります。例えば、まずファーストパーティデータを活用した類似拡張配信をし、次に、すでにアプローチしている/これからアプローチするターゲットを除いてセカンドパーティデータで類似拡張配信をするという方法が考えられます。理論的にはこれによってリーチの重複を防ぐことができますが、このやり方が実現しているケースはおそらくまだないと思います。現在、セカンドパーティデータベンダーと話し合いをしながら、この方法の実用化に向けた道筋を模索しているところです。
野津原
冒頭で、生活者のライフスタイルや趣味嗜好が多様化しているという話をしました。今後はターゲットごとにメッセージングやクリエイティブを変えていく必要もありそうですね。

高田
おっしゃるとおりです。重要になるのは、「メディアバック」の発想だと思います。従来の広告は、「誰に」「何を」「どうやって」伝えるかという順番でメッセージの内容やクリエイティブを考えていました。しかし、生活者との接点の数が格段に増えている現在は、どのメディアで、つまり「どうやって」からメッセージングを組み立てる必要があります。クリエイターにも、「どうやって」「何を」「誰に」という流れでコミュニケーションを考える視点が求められるようになるのではないでしょうか。

生活者の行動の「文脈」に合わせて広告を配信する

野津原
ファーストパーティデータとセカンドパーティデータの活用以外の方法もあるのでしょうか。
高田
「コンテクスチュアルターゲティング」という方法があります。コンテクスト、つまり生活者の行動の「文脈」に合わせて広告を配信する手法です。例えば、ランニングシューズの購入を検討している生活者は、「ランニングシューズ」というワード以外に「健康」「ダイエット」「ジム」などといったワードにも興味をもつ可能性があります。そこで、それらのワードが出てくるウェブコンテンツに生活者が接触した時点で広告を出していくわけです。ファーストパーティデータなどを活用した広告配信は、「過去」の生活者の行動をもとにしているわけですが、コンテクスチュアルターゲティングは「現在」の行動に対してジャストタイムでメッセージを届けていく手法と言えます。
野津原
ファーストパーティデータやセカンドパーティデータを活用した場合と比べて、コンテクスチュアルターゲティングにはどのくらいの精度が期待できるのですか。
高田
「買ってくれる可能性が高い人」へのアプローチという点では、しいて言えばファーストパーティデータやセカンドパーティデータを活用する手法のほうが現在では、精度が高く規模も大きいと思います。コンテクスチュアルターゲティングには言語解析の技術が必要なのですが、日本語ではまだ十分な技術水準に達していないからです。しかし、Cookieに替わるターゲティング手法が模索されている中で、今後は技術レベルがどんどん上がっていくと考えられます。
野津原
いくつかのターゲティングの手法を組み合わせる方法もあるのですか。
高田
あります。規模に限りのある精度が高いものをカスケード式に組み合わせる方法です。例えば、総リーチ数のうち、ファーストパーティデータとセカンドパーティデータの類似拡張配信で3割、コンテクスチュアルターゲティングで2割、残りの5割を従来のデモグラフィックでリーチするという組み合わせ方です。もちろん、商材のカテゴリーや、どのようなターゲットに優先的にリーチしたいかによって割合や優先度は変わってきますが、複数の手法を組み合わせるのが有効だと思います。

広告会社が果たすべき3つの役割

野津原
ターゲティングの精度検証にはどのような方法が用いられるのでしょうか。コンバージョンレートなどを独自に計測する方法があるのですか。
高田
ビジネスの成果指標に依ります。オンライン上で完結するのであればコンバージョンレートになりますが、オフライン上あるいは双方であれば、全量を扱うのではなく対照実験で比較します。考えられるのは3つの方法です。

1つは、セカンドパーティデータのベンダーが契約している小売店舗のPOSデータからオフラインのコンバージョンを見ていく方法です。これによって、どの配信手法でメッセージに接した人がどのくらい実購買に至っているかがわかります。2つめに、プラットフォーマーが提供するデータクリーンルームの仕組みを使い、広告会社主体で精度を検証する方法があります。3つめとして、オフラインの売り上げの伸びを地域ごとに計測する統計学的な手法が挙げられます。これは3つの中で一番費用と期間を要する方法です。

最も現実的なのは1番目の方法ですが、忘れてはならないのは、「配信」と「売り上げ」の相関関係を100%正確に測定するのは不可能であるということです。全売り上げの中には、補足できていないオンラインやオフラインチャネルでの購買も含まれるからです。全体を捉えようとするのではなく、条件を限定して、その中で最も有効なリーチ法を見極めていく。それが正しい検証の方法だと思います。

野津原
データを活用したコミュニケーションにおいて、広告会社が果たすべき役割とはどのようなものでしょうか。
高田
3つあると思います。
データ活用と配信のさまざまな手法の組み合わせを提案すること。
データを活用する上での法律的なアドバイスやプライバシーポリシー策定のコンサルテーションを行うこと。
そして、ファーストパーティデータの集め方を提案することです。
とくに3点目に関しては、すべての企業が会員組織や自社ECをもっているわけではないので、新しいデータ取得の仕組みをつくっていく必要があるケースが今後は増えていくと思います。そこでいかに最適なご提案ができるか。それが、私たちの腕の見せどころであると考えています。

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  • DAC/博報堂デジタルイニシアティブ
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