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マーケティング領域におけるプライバシーデータ活用のこれから【セミナーレポート】
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マーケティング領域におけるプライバシーデータ活用のこれから【セミナーレポート】

近年、多くの企業でデータ活用が進む中、プライバシー保護への意識が高まっています。
それに伴い、EUを起点としたデータ保護規則(GDPR)や、2022年4月に施行された改正個人情報保護法など、プライバシーの保護を目指した法整備も世界各国で進められています。

そこで注目を集めているのが、「プライバシーテック」です。プライバシーテックとは、個人のプライバシーを保護するためのテクノロジーのこと。企業の適切なデータ活用と個人情報の保護を両立するために欠かせない技術であるため、現在急速に市場が拡大しています。

博報堂DYホールディングスは、次世代の安心・安全なデータ活用の実現を目指して、2022年にプライバシーテックにまつわる専門的なサービスを提供・開発する株式会社Acompanyと業務提携を実施。プライバシーテックを用いたデータマーケティングサービスの提供を共同で進めています。

本稿では、博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センター室長代理の西村が登壇した、Acompany主催セミナー「AutoPrivacyDay」のレポートとして、第一部では「マーケティング領域における今後のデータ活用」をテーマに西村が解説し、第二部では「プライバシーテックが生み出すビジネスチャンス」をテーマにAcompany取締役COOの佐藤氏と西村がディスカッションを行った様子を紹介します。

佐藤 礼司氏
株式会社Acompany
取締役COO

西村 啓太
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長代理
株式会社Data EX Platform 取締役COO

【第一部】マーケティング領域における今後のデータ活用

博報堂DYグループにとっての“データプライバシー”とは

西村
はじめに、私の所属と現在の取り組みについて簡単に紹介させていただきます。私は、博報堂DYホールディングスにおける研究開発組織「Marketing Technology Center(MTC)」の室長代理として研究開発部門を統括するとともに、株式会社Data EX Platformというグループ会社で取締役を務めています。
データ活用、そしてデータプライバシーにどう向き合っていくべきか。日々研究を進める中で出会ったのが、プライバシーテックに関して技術面、法律面で幅広い知識と経験を持つ Acompanyのみなさんです。2022年12月の業務提携以降、一緒に秘密計算技術を用いた PoC(実証実験) を進めています。

ではここからは、「マーケティング領域におけるデータ活用」というテーマでお話しさせていただきます。
まずは、博報堂DYグループにおけるデータプライバシーの考え方についてです。当社グループは「生活者発想」というフィロソフィーを掲げていますが、この「生活者発想」がプライバシーを考える上でも重要な要素となっています。

つまり、私たちが目指しているのは、さまざまな側面を持つ「生活者」への理解を深め、その人の意思や願望に着目しながら、クライアントの商品やサービスを提案すること。「消費」がゴールなのではなく、その背景にある願望の実現こそがゴールであると捉えています。

こうした想いから、データマーケティングの領域においても、単に消費を促すだけでなく、生活者を最優先に考えたデータプライバシーの徹底が必要だと考えています。例えば、法律遵守は当然ですし、たとえ同意を得ていたとしても、データの使い方や広告表現への配慮は欠かせません。こうした「生活者が嫌がることをしない」ということが、当社グループのデータプライバシーにおける大前提なのです。

マーケティング領域におけるデータプライバシーの現状

西村
以前から「データは21世紀の石油である」とも言われているように、近年、データはビジネスの重要な資源として位置付けられています。しかし実際には、各企業がそのデータを最大限に活用できているかというと、きっとそうではないでしょう。

そこでデータ活用を進めていく上で重要になってくるのが、データプライバシーとどのように向き合うかだと考えています。

例えば最近では、スマートフォンに関する広告でプライバシーを全面に打ち出したものもありました。生活者にとってもプライバシーの保護はスマートフォンを選ぶ一つの軸になっており、こうしたプライバシー対応が他社との差異化にもつながっているのです。
一方で、2022年には韓国の個人情報保護委員会がプラットフォーマー企業に、利用者の同意を得ずに個人情報を集めて広告などに利用したとして約100億円を課した事例もありました。

このように、「データプライバシーにいかに対応できているか」が、企業にとっては競争優位性の源泉となり、最終的にはそれが利益を左右する重要なテーマにもなりうるのです。

次に、データプライバシーを取り巻く世界的な動向とデータマーケティング領域への影響についてお話しさせていただきます。
現在、個人情報保護に関する法律は、世界各国で整備が進んでおり、世界中でプライバシー保護と生活者の関係がよりクローズアップされています。

それを受け、各企業ではアプリデータに関するトラッキング規制の導入や、サードパーティCookieの段階的な廃止などの動きが加速。データマーケティング領域には、配信と効果測定の双方に影響があると考えられます。
例えば、データプライバシーによって取得できるデータが減少すれば、データを通じた個人の趣味嗜好の分析もかなわなくなり、ターゲティング広告の配信精度低下につながる恐れがありますし、サイトを跨いだ行動を把握できなくなれば、広告効果の測定も難しくなるのです。

もしかしたら「同意を得ればいいじゃないか」という意見もあるかもしれませんが、全てのユーザーからの同意を得るのは簡単なことではありません。EU圏内では、全体平均で64%がCookie利用拒否しているといったレポートもありました。(※)

※出典: Flashtalking『Cookie Rejection Report』(2017年Q4)

一方、例えばアメリカにおいては、クライアントの同意取得がしやすい環境であることや、データを収集・分析して販売する「データブローカー」を通じたデータの流通が一般的ですが、日本においてはそれらのハードルが高く、グローバルの中では少し取り残されてしまっているというのも現状です。

生活者の意識だけでなく、世界各国で進められている法整備や企業対応など、日々変化しているデータプライバシーの問題。データの利活用とプライバシーの保護という二つを「いかに両立していくか」こそが、データマーケティングにおける重要な成功要因となるはずです。

攻めとしてのプライバシーテックがデータマーケティングの鍵となる

西村
データの利活用とプライバシーの保護を両立していく上で鍵を握るのが「プライバシーテック」です。

Acompanyと博報堂DYグループは、業務提携前にある実証実験を行いました。
簡単に申し上げると、二つのデータを秘密計算の技術を使って秘匿化した状態で紐づけ、そうしてできた両方のデータの情報が重なっているIDの傾向に基づいて機械学習モデルを構築し、お互いのデータに欠損しているデータを新たに生成して出力するというもの。つまり、機密情報を含むデータであっても、「秘匿化・計算・出力」というプロセスを経ることで、プライバシーへの配慮も徹底しつつマーケティングに自由に活用できるようになるのです。

例えばターゲティング広告においてこの技術を使えば、複数の会員情報を秘匿化したまま機械学習モデルを構築し、そのモデルから生成した新たなユーザー属性でマーケティングを行えるため、より自由度の高い広告配信が行えるようになります。
他にも、会員情報に加え、決済データやPOSデータなどの異なるデータソースを連携すれば、購買傾向から会員化の可能性が高いユーザーを推定し、広告を配信することもできるでしょう。

なお、弁護士の先生方の意見書も踏まえ、データ処理プロセスと法的対応の全体で法的にも問題がないことが確認できている状況です。ハードルが高いデータ連携・活用のプロセスに関しても100%の精度を実現しており、同意が全数取得できていない状態でも機械学習モデルを適用することでボリュームを担保した広告配信ができる仕組みになっています。

こうしたAcompanyとの実証実験の中で実感したのは、「プライバシーテックは、プライバシーを守るためだけのものではない」ということ。今回ご紹介した事例は一部にすぎませんが、プライバシーテックの活用がきっと次世代のデータマーケティングを推進していく鍵になると考えています。

【第二部】パネルディスカッション
プライバシーテックが生み出すビジネスチャンス

プライバシーテックがマーケティング領域のブレイクスルーに

佐藤
改めまして、当社について簡単に紹介させていただきます。Acompanyは2018年設立の名古屋大学発スタートアップ企業です。 すべてのデータを安全に使うことができるデータクリーンルーム『AutoPrivacy』や、企業・組織間でデータを暗号化したまま計算できる次世代暗号技術「秘密計算」を用いた独自開発エンジン『QuickMPC』を提供しています。

今回セミナーに登壇いただくにあたって、西村さんと初めてお会いした頃のことを思い出していたのですが、そもそも西村さんが「プライバシーテック」や我々が注力している「秘密計算」について興味を持たれたのはいつ頃だったんですか?

西村
2019年頃のことでしょうか。当社グループとしても、マーケティング領域において匿名性を担保した形でデータの分析や広告配信ができる技術がないか探していたところで。今後、秘密計算という技術はもっと重要になると思って研究開発を始めたんです。
佐藤
そうだったんですね。西村さんと初めてお会いした際、「プライバシーテックについて深く理解いただいているな」と嬉しく思ったのですが、私たちと同じタイミングからすでに検討されていたとは驚きです。
特にこの2、3年で、プライバシーテックの技術も進歩し、ビジネスへの利活用事例も少しずつ増えている印象ですが、西村さんはこの変化をどのように見られていますか? また、今後のビジネス利用への期待と課題についてもぜひ意見を聞かせてください。
西村
私も、研究に着手した頃に比べると大きな進化を実感していますね。
当初は、技術に可能性は感じていたものの「重い・遅い・高い」の三拍子で…(笑)。正直、計算リソース的に実務利用はまだ早いのかもしれないと思っていました。
ただ、佐藤さんにお会いしていろいろとお話を伺う中で認識が変わりましたね。ビジネスユースに適する速度で幅広い計算ができ、計算コストも安価になっていて。ビジネス利用が検討できる状況になってきていると、技術の進歩を肌で感じました。

また、ビジネス利用への期待については、Acompanyの特許技術によって「こんな使い方もできるかもしれない」「こんなフィールドに当てはめられそう」といった新たな可能性もたくさん見えてきています。機密データの連携はもともとマーケティング業界が苦慮していた部分でもあるので、それが技術によって可能になればきっと大きなブレイクスルーとなるはずです。

佐藤
嬉しいですね。どうしても私たちは技術スタートのスタートアップなので、ビジネスとしてどう活用できるかといった点では想像が及ばない部分も多くて。だからこそ、西村さんとお話しさせていただくと「こんな可能性もあるんだ」と新しい気づきがたくさんありますね。

プライバシーテックをビジネス活用する上で考慮すべきこと

佐藤
一方で、プライバシーテックを扱う上で難しいのは、「正解がないこと」でしょうか。法令遵守は当然ですが、どこまでやれば安全なのかというのが明確にあるわけではないので、さまざまなリスクを考慮する必要があります。西村さんはどのように考えていますか?
西村
そうですね。適法性を担保し、なおかつコンプライアンスに則って同意を得ていたとしても、生活者からすると「気づいていなかった」「そういう広告がくるのは嫌だ」「そういうデータの使われ方はされたくない」ということは多々あると思うんですよね。
そこで重要になるのが、私たちの言葉で言うと「生活者発想」です。プライバシーテックを安全に活用するには、適法性だけでなく、生活者に「嫌がられないか」「不快な気持ちにさせないか」といった観点を持つことが非常に重要です。

また、データの使い方や広告表現については、個社ごとの内容や状況によってさまざまであることから、「何をもってOKとするのか」という線引きが明確ではないのが難しいところですね。そんな中できるだけ適法性を担保できるように、弁護士見解や社内での判断を積み上げながら、個社ごとにレギュレーションを持って内部で精査していくことが欠かせないと思っています。

佐藤
また、世界各国でプライバシー規制が強化されていますが、このトレンドは続いていくと思いますか? 西村さんが見据えているプライバシーテックの今後や同領域での御社の展望についても教えてください。
西村
トレンドに関しては、プライバシー規制は厳しくなっていく一方だと思っています。Cookieに関しても欧米では個人情報として扱われるようになっていますし、個人情報を含むデータ連携においてもより規制されるようになっていくでしょう。
しかし、そんな状況だからこそプライバシーテックの重要度はさらに上がっていくと考えています。例えば、プラットフォーマーが提供する「データクリーンルーム」。最近特に活況となっていますが、データクリーンルームを用いることで、自社データとプラットフォーマーが持つデータの連携をより安全に行えるようになるのです。
規制が進む中でデータマーケティングを継続していくには、こうしたプライバシーテックが欠かせないものとなるでしょう。
佐藤
同感です。プライバシーテックによって、プライバシーにも配慮した新たなデータ流通のかたちのようなものが普及していくように思いますね。
西村
博報堂DYグループとしては、プライバシーテックを重要な技術領域と考えており、今後も注力していく想定です。博報堂DYグループが持つデータとクライアントやデータパートナーのデータの連携、クライアントとプラットフォーマーのデータ連携、クライアント同士のデータ連携など、データ利活用・連携の重要性が高まることが見込まれており、我々はプライバシーテックを活用することで安心・安全な対応ができるようにしていきたいと考えています。

Acompanyには、プライバシーテックのビジネスを一緒に進めていく上で、技術面でのリードだけでなく法律面でもリードいただいており、データプライバシーに関して意識が高く一緒に課題に向き合えているので、今後もさまざまな形でご一緒していけたらと思っています。汎用性があるビジネスにしていくために、力を合わせていきたいですね。

佐藤
ありがとうございます。技術だけでなく、大前提として適法性や企業のコンプライアンスも十分に考慮する必要があると考えているので、そこも含めてディスカッションさせていただけるのは私たちのスタンスにも通じる部分があると感じています。
これまで取り組んできたプライバシーテックをさらに汎用化することで、より多くの方に活用いただけるようになるはずと思っているので、引き続き技術革新に挑戦しながらともに進化させていければと思っています。
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  • 佐藤 礼司氏
    佐藤 礼司氏
    株式会社Acompany
    取締役COO
    2006年3月、名古屋工業大学大学院土木工学専攻卒。アクセンチュアに新卒入社し、情報システムの開発・運用やマネジメントを経験。その後、ICT戦略の立案やシステム導入計画の作成など上流コンサルティングをメインに行う。企業経営に関わる専門領域を広げるため、中小企業向けの財務コンサルティング会社を経て、2019年3月エクサウィザーズに入社。様々な企業で、AI技術を起点にした業務変革や新規事業創出の企画立案からプロジェクトマネジメントを多数実施した。
  • 博報堂DYホールディングス
    マーケティング・テクノロジー・センター 室長代理
    株式会社Data EX Platform 取締役COO
    The University of York, M.Sc. in Environmental Economics and Environmental Management修了、およびCentral Saint Martins College of Art & Design, M.A. in Design Studies修了。
    株式会社博報堂コンサルティングにてブランド戦略および事業戦略に関するコンサルティングに従事。株式会社博報堂ネットプリズムの設立、エグゼクティブ・マネージャーを経て、2018年より博報堂DYホールディングスにて研究開発および事業開発に従事。
    2019年より株式会社Data EX Platform 取締役COOを務める。2020年より一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)にて、データポリシー委員会、Consent Management Platform W.G.リーダーを務める。

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