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対談!EC+【第7回】──「商品理解のDX」ってなに? 商品の理解を促し、マッチングの精度を高める新しいECのカタチ
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対談!EC+【第7回】──「商品理解のDX」ってなに? 商品の理解を促し、マッチングの精度を高める新しいECのカタチ

博報堂DYグループ内のEC領域のナレッジやスキルを集約し、クライアント企業のEC事業を戦略構築から実装・運用までフルファネル、ワンストップでサポートする「HAKUHODO EC+」がお送りする、EC事情の最前線をさまざまなプロフェッショナルの方とご紹介する連載「対談!EC+」。
「対談!EC+」連載の第7回は、台湾発のマーケティング企業awooのCEOであり、台湾デジタル担当政務委員のオードリー・タン氏とも交流のある林 思吾(Mike Lin) 氏をお招きして、AIを活用した、商品と生活者のマッチングの方法についてうかがいました。その鍵となるキーワードが「商品理解」です。AIを使った商品理解の促進、すなわち「商品理解のDX」とはどのようなものなのか。これからのECマーケティングのヒントとなる対話をお届けします。

ユーザーと商品の出会いをAIによってサポートする

奥山
ECの可能性についてさまざまな事業者や専門家の皆さんと語り合う「対談EC+」も7回目となります。今回は、台湾におけるSEOとメールマーケティングのトップ企業であり、AIマーケティングソリューション「awoo AI」を展開しているawooのSEOである林 思吾(Mike Lin) さんを招いてお話を進めていきたいと思います。台湾でのawooの創業は2015年、日本法人であるawoo Japanを設立したのは2018年だそうですね。
Mike Lin
そうです。現在は、awoo Japanを本社として、日本と台湾でビジネスを行っています。メンバーは両国合わせて150人くらいで、日本では60社ほどのクライアントとお取引をしています。
奥山
awoo AIとはどのようなソリューションなのですか。
Mike Lin
awoo AIは、2種類のアーキテクチャーによって構成されています。1つは、商品データ集積基盤である「awoo PDP」(awoo Product Discovery Platform)を通じて、ECサイト内で販売しているすべての商品特徴をAIに理解させ、商品ごとに最適なキーワードをハッシュタグにする機能です。もう1つは、そのハッシュタグをユーザーごとにリアルタイムで最適化する機能です。これには、「awoo AMP」(awoo AI Marketing Platform)を活用しています。
奥山
AIに商品の特徴 を理解させ、ユーザーが何を求めているかに応じて、それを適切に伝えていくことでマッチングの精度を高める──。そう考えればよろしいですか。
Mike Lin
そのとおりです。例えば、アパレルを販売するECサイトの場合、ユーザーの動線を分析することで、その人が服のデザインに着目しているのか、それとも防水などの機能に着目しているのかがわかります。それに対して、リアルタイムで最適な商品をレコメンドしていくことによって、コンバージョンレートを大きく向上させることができます。

奥山
通常、生活者はECでどうやって商品を探して、どうやって購買を決めているのか。武田さんはどう考えていますか。
武田
商品カテゴリーによって異なると思いますが、例えばファッションやコスメなどのカテゴリーで見ると、大きく2つのパターンに分けられると思います。1つは、SNSなどでその商品の情報を知ってECサイトに探しに行くパターン、もう1つは、とくに買おうと決めている商品はないけれど、ECサイトを訪問して、商品との新しい出会いを求めているパターンです。明確な目的があるパターンとそうではないパターンと言ってもいいと思います。ECを運営する側は、そのどちらにも対応できなければなりません。awoo AIは、その両方に対応できるソリューションと言えると思います。

商品を求める理由や背景まで理解することが重要

奥山
これまで生活者は、ECサイトの中で自分が本当にほしいものに出会えていたのでしょうか。
武田
同じECサイトでも、ほしい商品に出会える人とそうではない人がいると思います。それを左右しているのが、商品を探す生活者側のリテラシーです。商品にたどり着くリテラシーを誰もがもっているわけではありません。サイト内検索をする場合でも、自分のニーズを明確に言語化できるとは限らないし、そもそも自分の本当のニーズが何なのかがわからない場合もあります。そういうときに、その人の行動からニーズを言い当てるAIは非常に役立つと思います。

奥山
商品を提供する側の立場に立った場合、生活者が本当に求める商品を見極めるにはどうすればいいのでしょうか。
Mike Lin
必要なのは、ユーザーを理解することです。ユーザー分析はどの企業もしていますが、ユーザーが商品を求める理由や背景についてまで理解している企業は必ずしも多くはないと思います。理由や背景を把握することができれば、最適な商品をいろいろな方法でレコメンドすることが可能になります。

1つのECサイト内にはいろいろなページがあります。ユーザーがどのページで、どのような情報に接触し、そこでどのくらいの時間を過ごしたかによって、ユーザーが求める商品やその特徴を把握することが可能になります。それに購買履歴などのデータを組み合わせることで、より正確なレコメンドが実現するわけです。

武田
ユーザーの行動を基準にするということですよね。「自分たちが売りたい商品を売る」というスタンスでは、顧客が本当に求めていることは理解できないのだと思います。商品は、売り手側がまったく想定しない理由でヒットすることがあります。例えば、釣りに使うフィッシングベストが、釣りをしない原宿の若い女性に支持されたりするケースです。作り手側、売り手側からは見えないニーズがそこにはあったということです。そのような潜在的なニーズをいかにつかむか。それが今後のECマーケティングでは非常に重要になるのではないでしょうか。

商品理解の解像度を上げるために

奥山
最近EC事業者が直面しているのが、いわゆるCookieレスの問題です。今後Cookieによってユーザーを把握することが難しくなる中で、どう情報を提供し、関係をつくっていけばいいのか。Mike さんはどうお考えですか。
Mike Lin
私は、Cookieレスをそれほど大きな問題とは捉えていません。ユーザーに最適なレコメンドをするに当たって、それほど幅広い情報は必要ないからです。必要なのは、その個人の属性や趣味嗜好を特定する情報ではありません。例えばその人が昨日の夜何を食べたかは、ECマーケティングにおいてはそれほど重要ではありません 。重要なのは、ユーザーがそのサイト内で商品にたどり着くまでの動線や背景です。それさえあれば、適切なレコメンドが可能であり、コンバージョンレートを上げることもできます。
武田
Cookieを使ったリターゲティング広告などには、「追いかけ回されている感じがする」という意見がこれまでありました。Cookieレスの時代には、顧客を追いかけるのではなく、顧客に適切な提案をすることが重要になるのだと思います。加えて、顧客側が「自分でほしいものを見つけた」と感じられるような体験設計も求められます。提案はするが、それが押しつけにならず、顧客側が主体的に選択できる──。そんな仕組みづくりが重要であり、awoo AIはかなりの部分、それを実現していると思います。
奥山
顧客の個人情報をベースにしたマーケティングではなく、その人がどのような商品にどのような理由で興味をもっているかという理解をベースにしたコミュニケーションが必要になるということなのでしょうね。

そこで重要になるのが「商品理解」というキーワードです。売り手側が商品の特性や魅力を理解し、同時に顧客理解を実現した上で、商品情報を適切に提供することによって、顧客にも商品の特性や魅力を理解してもらう。それによって確実に購買につなげることができる。そう考えられるからです。最近盛ん行われているライブコマースなども、商品理解を促す方法の一つと言えるかもしれません。

武田
中国や米国などのライブコマースは大規模なイベントとして行われることが多いと思いますが、日本のライブコマースは接客の意味合いが強いと言えます。少ない数の顧客に対して店員が丁寧に商品を説明する。そんなケースが日本では多いですよね。このスタイルのメリットは、顧客との相互のコミュニケーションができることです。それによって、商品理解をより深めてもらうことが可能になります。一方のデメリットは、マスに対応することができないことです。数多くの顧客に商品理解を促すには、やはりAIなどの仕組みを導入することが有効なのだと思います。
奥山
いわば「商品理解のDX」が必要ということなのでしょうね。
Mike Lin
そういうことですね。商品を理解したAIが、その商品を本当に求めている人を見つけ、その人に商品を理解してもらう。それが「商品理解のDX」です。これを実現するためにCookieは必要ありません。Cookieレスの時代にも実現可能なDXです。

AIと人の融合で商品理解を促進する

奥山
今後のECの方向性について、ご意見をお聞かせください。
Mike Lin
利便性をいかに高めていくか。それが大切ですが、加えて、買い物をするときのワクワク感や楽しさをユーザーに感じてもらう仕組みをつくることも極めて重要だと考えています。
奥山
それは、まさしく私たちHAKUHODO EC+と共通するビジョンです。私たちは、ECがこれから目指すべきは、「究極の利便性」と「高付加価値」であると考えています。究極の利便性とは、本当にほしいものがスピーディに見つかることであり、高付加価値とは買い物の「ワクワク化」「エンタメ化」です。awooとHAKUHODO EC+は同じ方向を向いていると言えそうです。
武田
僕は、AIと人の融合を進めていくことで、商品理解を促進できるのではないかと考えています。最近は、ECの領域でもリアル店舗の販売員が活躍しています。AIを活用して顧客理解を深め、その知見を販売員にフィードバックし、顧客への提案の内容をよりブラッシュアップしていく。そんな方向性です。AIは、人が気づかないこと、想像もしていなかったことを明らかにしてくれるツールです。その発見を人間がどう活用していくか。そこに大きな可能性があると思います。
奥山
顧客に商品を理解してもらうには、まず売り手側が顧客を理解しなければなりません。その点で、博報堂が掲げる生活者発想と、顧客理解、商品理解はすべて一本の線でつながるように思います。今日の対話によって「ECマーケティングにおける顧客理解や商品理解の重要性」について改めて考えることができました。今後、EC市場を一緒に活性化していくことができればいいですね。
Mike Lin
ええ。ぜひ、ともにECを進化させていきましょう。

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  • 林 思吾(Mike Lin)氏
    林 思吾(Mike Lin)氏
    awoo Japan CEO
    これまで数百社の有名企業にサービス提供し、米国シリコンバレーから1億5千万台湾ドル以上の投資を受けた実績がある台湾で著名なシリアルアントレプレナー。コンテンツマネジメントやコミュニティ運営を皮切りに、20年にわたりこの業界で活躍しています。 長年の経験から蓄積された商品理解のテクノロジーをコアに、ユーザーへ優れたカスタマーエクスペリエンスを提供することに力を注いでいます。
  • HAKUHODO EC+リーダー
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    メーカーDX推進グループマネージャー
    2004年博報堂中途入社。大手通信会社を中心に長らく営業職を担当し、2019年より現職。ショッパーマーケティング・イニシアティブのメンバーとして、EC領域に特化した組織横断型プロジェクトチームである「HAKUHODO EC+」を推進する。
  • HAKUHODO EC+
    生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
    チームリーダー / チーフインタラクティブディレクター
    2013年中途入社。
    情報体験・購買体験・商品体験、全てのブランド体験をネット文脈から発想するクリエイティブでアップデートし、選ばれ続けるためのブランド価値の創造に尽力。
    受賞歴、Cannes Lions、ADFEST、ACC、PRアワードグランプリ 他。