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100冊のテクノロジー本を読んで未来を想像してみた──博報堂のマーケターが考案する「近未来テクノロジーマップ」
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100冊のテクノロジー本を読んで未来を想像してみた──博報堂のマーケターが考案する「近未来テクノロジーマップ」

新しいテクノロジーが次々に登場し、社会環境も激変している現在、未来を洞察することは簡単ではありません。「100冊の本を読む」というシンプルにして困難な方法によって、それにチャレンジした人たちがいます。「テクノロジーに興味があるマーケター」という共通項をもつ彼らがこのプロジェクトに取り組んだ意義と、そこから見えてきたこととは──。100冊読破の経験と成果を3人が語りました。

新倉 健人
博報堂 第三BXマーケティング局
プラニング三部 ストラテジックプラナー/テクノロジスト

原田 侑夫
博報堂 データドリブンプラニング局
第二プラニング部 マーケティングプラニングディレクター

平沼 英翔
博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター
研究開発1グループ テクノロジスト

100冊読破を目指した理由とは

──テクノロジーや未来予測に関する本を100冊読んでみようと考えたきっかけをお聞かせください。

新倉
もともと3人とも戦略プラニングの部署にいたのですが、そこで1年半ほど前に、部署内のメンバーそれぞれが自分の強みにフォーカスして個性を磨いていこうという動きがあり、このプロジェクトがスタートしました。僕たちの強みは、テクノロジーに関心があって、ある程度知識もあることでした。その共通項がある3人が集まって、何か一緒にやろうと話したのが始まりでした。
平沼
僕は以前から、マーケティングとテクノロジーの両方の領域に詳しい人たちと何かに取り組んでみたいという思いがありました。まさに絶好の機会だと思って、チームに参加させてもらいました。
原田
テクノロジーに関心があることに加えて、危機感のようなものがあったことも3人に共通していたと思います。現在ではマーケティングとテクノロジーは切り離せない関係にあります。テクノロジーにしっかり向かい合わなければ、マーケティングに未来はない──。そんな思いが3人にはありました。
新倉
3人が集まって、では何をやろうと考えて、最初に出てきたのが、「100冊の本を読んで未来を予測してみよう」ということでした。よく「未来は予測できない」と言います。環境の変化が激しく、変数が多すぎるので、予測が当たることはほとんどないからです。でも、正確な予測が不可能だとしても、今、どのような要素技術があって、それが10年後、20年後にどうなっていくかという大きな流れをつかむことはできるはずです。そのような流れを把握しておけば、これからやってくる変化に適切に対応することも可能になります。そのためには、現在世の中に流通している情報を俯瞰的に捉える必要がある。そう僕たちは考えました。そこから出てきたのが「100冊の本を読む」というアイデアです。

100冊読まなければ、わからないことがある

──どのような基準で100冊を選んだのですか。

新倉
「未来」「テクノロジー」「2030年」「2040年」といったキーワードを掲げている本、それから要素技術をまとめた専門書などから選びました。
平沼
大きな世界観を示している本と、機械工学、生体工学、金融工学など各論にあたる本。大きくはその2種類ですね。
原田
リストをつくって、そこから読みたい本を早い者勝ちで選んで、手分けして読んでいきました。ほかのメンバーが読んだ本については、サマリーを共有することにしました。

──100冊読んで見えてきたことをお聞かせください。

平沼
一般に、未来は極端に語られる傾向があります。しかし、たくさんの本を読んでいくと、実現可能性の高い未来とそうでもない未来があることがある程度見えてきます。未来を見通す目が磨かれたことが、自分の中の大きな変化でした。

もう一つ、テクノロジーや未来予測の本には、博報堂が大事にしている生活者視点、あるいは法律やルールに関する視点が盛り込まれているものは少ないと感じました。テクノロジードリブンで世の中が進んでいくにしても、生活者の感情はそれについていけるのだろうか。法制度はしっかり整備されるのだろうか──。そんな感想を僕はもちました。だからこそ、博報堂の社員である自分たちが、本から吸収した知識を生活者やマーケティングの視点で再構成しなければならないと思いました。

新倉
たくさんの本を読むことの意味は、「いい本に巡り合うこと」だと僕は感じました。100冊もあると、正直に言って当たりはずれがあります。2、3冊程度を読んだだけでは、その本がいい本なのか、そうでもない本なのかを判断するのは難しいと思います。しかし、「量」にあたることによって、「質」を見極めることができるようになります。それも100冊読んだことの大きな成果でした。
原田
1冊1冊の本は、言ってみれば「点」ですよね。100冊読むことで、それが「線」になり「面」になっていく。そんな感覚がありましたね。結果的に、非常に広い視野でテクノロジーや未来の方向性を掴めるようになったと思います。

100冊の読書から生まれた独自のテクノロジーマップ

──100冊読んだあとに、どのようなことに取り組んだのでしょうか。

新倉
それぞれの読書体験を踏まえて、「未来はこうなるのではないか」というアイデアの断片を持ち寄りました。それを検討する中で、10年単位の未来予測年表ができるのではないかということが見えてきました
平沼
要素を時系列に並べるのが最初の作業でしたが、たんに時系列で並べただけでは僕たちの解釈が入らないし、マーケティングに応用できるツールにもなりません。そこで、いくつかのプロセスからなるバリューチェーンを設定し、それぞれのプロセスがどう変化していくかという独自の視点を加えました。そうして出来上がったのが「近未来テクノロジーマップ」です。

原田
100冊の本の中に、マーケティング軸で未来を語ったものはほぼありませんでした。マーケターである僕たちが、それぞれの本の要素を先ほど平沼が言った生活者視点とマーケティングの視点でマッシュアップしてつくった点に、このマップの新しさがあると考えています。

──近未来テクノロジーマップを拝見しますと、時間とバリューチェーンの2軸で構成されていますね。

平沼
そうです。僕たちが主に仕事をしている領域である「コミュニケーション」「広告制作」「広告出稿」を中心に、その上流に「ものづくり」と「流通」、下流に「データ取得」のプロセスを加え、6つのブロックでバリューチェーンを考えてみました。

一方の時間軸は、2020年、30年、40年までを10年単位で切っていって、最後は2045年としました。最後が5年になっているのは、20年以降の未来になると長いスパンでの予測が難しくなるからです。また、予測を2045年までとしたのは、この頃にAIが人間の能力を超えるいわゆるシンギュラリティが起こると言われているからです。その先の予測はあまり意味がないと考えました。

──まず、時間軸についてご説明ください。

新倉
はじめの2020年代を「技術誕生期」としました。これはまさに現在ですが、2020年の少し前から電子決済、5G、3Dプリンター、AI、メタバース、自動運転、ブロックチェーン、ウェアラブルデバイスといった要素技術が一気に広まってきました。それによって効率化が加速しているのが2020年代という時代であると捉えました。

続く2030年代は、「技術のカンブリア爆発期」です。さまざまなビッグテクノロジーが融合し、新たな価値を生み出すのがこの時代です。2020年代に登場した要素技術が融合しながらも、いろいろな方向に拡散して、掛け算の理論で爆発的に拡大していくと予想しました。「カンブリア爆発期」と名づけたのは、地球上で生物の多様性が一気に拡大した古生代のカンブリア紀にちなんだものです。

──次が2040年代ですね。

新倉
2040年代は、「すべての人がテクノロジーに守られる時代」としています。技術が日常の空間や街に溶け込み、その技術を使っているという感覚がないまま人々に安心を与える時代ということです。技術を技術と感じないままに、その恩恵を享受できる時代と言ってもいいと思います。要素技術としては、6G通信、ロボティクス、バーチャル空間、幹細胞技術、量子コンピューターなどがこの時代を支えると考えています。

最後の2045年代は「人がテクノロジーの一つになる時代」です。ウェアラブルからさらに先に進んで、人体の中にテクノロジーが入り込み、人と技術が融合する時代になると僕たちは考えました。脳とテクノロジーが一体化するブレインテックの研究は現在も進んでいます。それが現実のものとなる世界が2045年にやってくるということです。

テクノロジーが可能にする「SFのような未来」

──バリューチェーン軸での変化はどのようになると考えられますか。

原田
まず「ものづくり」から見ていくと、2020年代は現在の延長線上で効率化が進むフェーズと考えられます。30年代になると、ロボティクスやエッジコンピューティングの技術によって無人化が進み、40年代にはバーチャル空間の進化によって、「もの」よりも「データ」が価値をもつようになる。そんなイメージです。

「流通」においても、20年代には効率化がどんどん進んでいくと考えられます。30年代になると、オンライン販売はごく普通のこととなり、ドローンによる物流なども定着していると予想しました。それにともなって、オフライン店舗の形も変わっていくと思います。40年代には、これも「ものづくり」と同じように、データが大きな意味をもつようになります。リアルな世界でのものの流通がバーチャル空間へのデータ伝送に置き換わっていくのではないかという見立てです。

次の「コミュニケーション」と「広告制作」では、現在も進行している広告のパーソナライズが、2020年代を通じてより精緻化していくと考えられます。30年代になると、音声合成の技術や、AIによるデジタルヒューマン生成の技術が進化し、広告クリエイティブにバーチャルタレントが広く使われるようになると予想しています。また、コピーライティングなどの自動化も進んでいくと考えました。

平沼
最近のデジタルヒューマンは、リアルな人と見分けがつかないくらいの精度になっています。もう少しすれば、人が実際には行けない場所のシーンをデジタルヒューマンに演じてもらうといったことも可能になるかもしれません。
新倉
タレントから肖像権だけを借りて、CGで自由に動かすといった手法が出てくる可能性も大いにあると思います。
原田
タレントが人気者なのは、その人を取り巻くいろいろなコンテキストがあるからです。デジタルヒューマンを使って広告制作をするようになったら、バーチャルタレントのプロフィールやストーリーをつくるといった取り組みも広告会社の仕事になるかもしれません。

平沼
テクノロジーが進化していくと、広告会社で働く人たちの職務も変わっていくと考えられます。クリエイターやプランナーにも、これまでは必要なかったスキルが求められるようになるのではないでしょうか。
新倉
現在でも、クライアントのMA(マーケティングオートメーション)ツール活用をサポートするなど、数年前にはなかった仕事に携わる機会が増えています。おそらく、それぞれの職務に含まれる要件がどんどん変わっていくのでしょうね。例えば、コピーを自動生成するAIによって、コピーライターの仕事は「コピーを書く」ことから、「より優れたコピーを判断する」ことにシフトしていくかもしれません。

──2040年代には、「コミュニケーション」と「広告制作」はどう変化していくのでしょうか。

原田
先ほどの時間軸の話で出てきたように、この時代には、テクノロジーと生体、とりわけ脳との融合が進んでいくと僕たちは考えています。脳とテクノロジーが融合すれば、例えば、広告メッセージを脳に直接送るということも可能になるのではないか。そんな想像をしています。
平沼
ハンバーガーが食べたいと考えると、メニューが脳に送られて、注文までできるとか。
原田
SFのような話ですが、ブレインテックが進めば、それも夢物語ではないと思います。
さて、次に「広告出稿」についてですが2020年代は、生活者との新たなタッチポイントが出現し、媒体が多様化していく時代です。今後ドローンが発達すれば空中に広告を出せるようになるかもしれないし、鏡に映像を映し出すスマートミラーが普及していくかもしれません。技術進歩にともなって、媒体の種類がどんどん増えていくということです。30年代になると、媒体がより生体に近くなると考えられます。スマートコンタクトレンズに広告を表示するといった手法もこの時代には出てくる可能性があります。さらに40年代になると、先ほども触れたように、人間の脳に直接広告を出稿する手法も出てくるかもしれません。

──最後が「データ取得」ですね。

原田
2020年代の現在は、電子決済データ、位置データ、健康管理ログなどの取得が進んでいます。30年代には、IoTデータと生活者データがつながるようになり、データ活用を基盤としたスマートシティも実現していくと考えられます。40年代になると、生体に埋め込んだチップから身体データを取得することが可能になる時代になると予測しています。そうなると睡眠時にみる夢のデータや脳活動データなども可視化されるようになる。そんなイメージです。
新倉
意識や行動の結果としてのデータから、本人も気づいていないデータ、無意識のデータが取得できるようになり、それがマーケティングにいかされるようになるかもしれないというのが僕たちの見立てです。

──おっしゃるようにSFのような話も含まれていますが、100冊読んだ結果として、そういった未来も必ずしも非現実的とは言えないということですね。

平沼
そう考えています。しかし、テクノロジーがそれを可能にするとしても、レギュレーションや法制定、プライバシーの保護などはもちろん必須になると思います。脳内のデータがとれるようになったとしても、本人の許可なくしてそれを使っていいということにはなりません。テクノロジーを取り巻く環境を整備することも、極めて重要な取り組みになると考えています。

変化していくマーケターの職能

──そういった変化を受けて、広告マーケティング業界はどう変わっていくのでしょうか。

新倉
広告会社の役割は時代によって変わっていくと思いますが、コミュニケーションやマーケティングのプロはどの時代にも必要です。その領域のプロとして、テクノロジーを上手に活用しながら独自の役割を果たしていくことになるのではないでしょうか。
平沼
広告会社で働く人たちの仕事は、マルチタレント化していくと僕は考えています。データ分析ツールが汎用化することで、データサイエンティストではないマーケターがデータを扱えるようになるとか、コピーライティングツールが発達することで、コピーライターではない人がコピーをある程度つくれるようになるとか。そんな方向に進んでいくのは、そう遠くない未来な気がしています。
原田
テクノロジーのサポートによって、職種の垣根が低くなっていくということですよね。そうしてマルチプレーヤーになったうえで、どの能力をより磨いていくのかという判断が必要になると思います。いずれにしても、現在の職能が陳腐化していく危機感はもたなければならいと自分自身感じています。

──プロジェクトの次のステップについてお聞かせください。

新倉
このマップを土台として、社内の人たちや、社外の有識者の皆さんとディスカッションしたいですね。このマップはあくまでも僕たちが考えた仮説です。いろいろな人たちと対話しながら、マップをアップデートしていくことが次の目標です。

もう一つ、これを実践に使う道筋を探っていきたいと思っています。すでに、テクノロジーを活用したマーケティング定性調査の新しい方法に僕たちは一度トライしました。定性調査の基本的な方法は、数十年前から変化していません。マーケターが質問して、回答者に答えてもらって、その内容を書き取るという方法です。

それを変えることはできないかと考えて、回答者の表情をカメラで捉えて、それを分析する手法を試してみました。とりあえず明らかになったのは、表情から読み取れる感情と、話している内容はおおむねリンクしているということです。そこからさらに進んで、言葉には表れない内容を表情から読み取ることに今後チャレンジしていきたいと考えています。

──このプロジェクトに取り組んでみて、今後それぞれ取り組んでみたいことを最後にお聞かせください。

平沼
新倉さんが今触れたような、生体データを活用したマーケティングに非常に興味があります。例えば、スマートコンタクトレンズを使って視線のトラッキングができるようになれば、これまで難しいとされてきた屋外広告の効果測定も可能になるはずです。生体データによって、生活者の無意識を捉えることができれば、マーケティングはさらに進化していくと思います。
原田
テクノロジーをうまく使えば、すでにこの世にはいない人をバーチャルで復活させることができるのではないかと僕は考えています。故人が残した過去の発言や映像などから、テキストマイニングや画像認識、音声認識の技術で、考え方、動き方 声調などを読み取り、その人を再現できるようになれば、故人との「対話」も可能になるかもしれません。これによって、過去の貴重なナレッジを企業活動などにいかすことがでできないだろうか。そんなことを想像しています。
新倉
企業やアカデミズムには、小さなテクノロジーの種がたくさんあると思います。しかし、それを社会や生活者の価値に変えていくことは簡単ではありません。そのような道筋づくりを、今後ぜひお手伝いしていきたいですね。
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  • 博報堂 第三BXマーケティング局
    プラニング三部 ストラテジックプラナー/テクノロジスト
    2015年博報堂入社。ストラテジックプラナーとして流通、自動車、プラットフォーマーなどの戦略プラニングを実施。並行してAIを使った発想支援装置、新規メディア開発、データを活用した商品開発を実施。個人でもAIを使ったアート作品を制作している。 2021 岡本太郎現代芸術賞入選、2020 文化庁メディア芸術祭審査員特別賞。
  • 博報堂 データドリブンプラニング局
    第二プラニング部 マーケティングプラニングディレクター
    2013年博報堂入社。経理財務局にて予算策定、業績管理業務に従事した後、ストラテジックプラナーとして、鉄道、エネルギー、男性用化粧品、自動車など、様々な業界のプラニング業務を担当。近年は、デジタルマーケティング部門とマスマーケティング、ブランド戦略部門を兼務し、両者を統合した戦略構築、及びPDCA業務に従事している。
  • 博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター
    研究開発1グループ テクノロジスト
    2018年博報堂入社。ストラテジックプラナーとして SVOD・ゲームアプリ・キュレーションアプリを始め獲得系案件や商品開発の案件など幅広く担当。2021年からはR&D部門であるマーケティング・テクノロジー・センター開発1Gに異動し、テクノロジストとしてXR/メタバース領域の業務に従事している。