おすすめ検索キーワード
生活者を魅了する「ライバー」の秘密とは  ~「テクノロジー×ヒト」で生まれる、新しい時間とお金の使い方~
MEDIA

生活者を魅了する「ライバー」の秘密とは ~「テクノロジー×ヒト」で生まれる、新しい時間とお金の使い方~

いま、生活者にとって「ライブ」の意味が変わってきています。受け手として視聴するだけでなく、配信者の「ライバー」として送り手サイドにまわる生活者も増加し、いま「ライブ配信」の領域では、新しい時間とお金の使い方が急速に拡大しています。そうしたなか、博報堂DYベンチャーズではこのほど、ライバーのマネジメント事業を手掛ける株式会社PRIMEに出資しました。コロナ禍で大きく成長しているというライブ配信市場の現場はどのようになっており、今後どのように成長していくのでしょうか。PRIMEの阿部伸弘CEOと博報堂DYベンチャーズの武田紘典、博報堂DYホールディングス戦略投資推進室の加藤薫が鼎談しました。

加藤
最近、「ライバー」「ライブ配信」という言葉を耳にすることが非常に増えてきました。これまでも放送やコンテンツ配信の世界で「ライブ」というものはあったと思うのですが、生活者にとっても「ライブ」というものの位置付けが大きく変わってきていると感じます。そんななか、配信者であるライバーをマネジメントする事業を国内で手がけられているPRIMEの阿部さんと、この領域に注目を寄せている博報堂DYベンチャーズの武田さんに、それぞれお話を伺っていきたいと思います。
武田
博報堂DYベンチャーズの武田です。博報堂DYベンチャーズは2019年5月に設立し、同年7月からファンドをスタートしました。基本コンセプトとして「スタートアップの皆様と一緒に未来をデザインする」ということを掲げておりまして、これまで幅広い分野の企業30社に投資しています。PRIMEの阿部さんとは、ある起業家の方が開催したイベントで知り合い、これまで何度か事業に関してディスカッションしてきました。そういった流れで、今回出資させていただくことになりました。
阿部
PRIMEの阿部です。PRIMEは私が学生だった2010年に作った会社で、現在12 期目になります。元々はスマートフォン向けのアプリ事業を行なっていたのですが、次第にマーケットが成熟し、ビジネスチャンスが減って来たと感じました。そこで、新規事業としてテクノロジーを活用したライバープロダクション事業をスタートしたのが2017年です。

日本でのライブ配信市場の立ち上がり

加藤
4年も前から取り組まれているのですね。立ち上げられた時は、日本ではどのような環境でしたか?
阿部
当時は、今では主流になっているライブ配信プラットフォームがリリースされて、各社大規模に広告を展開し始めるタイミングでした。その中でも弊社は、ある主力プラットフォームの提携プロダクションの最初の5社中の1つでした。他社は基本的に芸能事務所だったので、「ライバー専業」は実はPRIMEのみでした。ITスタートアップとして事業を開始したので、データ分析をしながらライバーの皆さんへフィードバックするなど、当初より他のプレイヤーとはかなり異なる動きをしていました。
加藤
現在、ライブ配信プラットフォームがいくつかあると思いますが、プラットフォームによって違いがあるのでしょうか。
阿部
最初はどれも同じだったと思います。ライブ配信アプリは、もともと世界的に中国が先行していたのですが、そこから学んだ日本のプラットフォームは、機能や画面配置などが皆、似ていた状態からスタートしました。しかし、現在ではそれぞれに特色が出てきています。視聴ユーザー数を増やすことに最も力を入れているものや、ライバーさんをスターにすることを目指しているもの、イベントの開催に軸足を置いているもの、といった具合で、様々です。
武田
いくつもサービスがあるということは、今はそれだけすそ野が広がっているということですよね。
阿部
そうですね。また4年間事業を続けて分かって来たことが多くありまして、その一つが、ライバーとして最も成功しやすい属性は、「決めた事を継続的に努力できる30歳前後の女性」だということです。「芸能人のような外見の人が活躍するんでしょ?」とよく言われるのですが、実際の数字の傾向は異なっています。
加藤
データをずっと蓄積してきたことで、支持されるライバーとそのリスナーが増えていくサイクルを、PRIMEさんはすでに把握されているんですね。「テクノロジーを活用したプロダクション」の秘訣は、後ほど詳しくお伺いしたいです。

ただ「リアルタイム」だけではもの足りない、いま生活者が求める「ライブ」性とは

加藤
武田さんがライブ配信市場に興味を持った理由は何でしょうか。
武田
演者であるライバーの都合で配信時間が決まり、それにリスナーが集まる形なので、これまでのメディアやコンテンツにオーディエンスが集まるのとは異なる現象であると感じます。ヒトがヒトを集めて、そこで高いエンゲージメントが生まれているのが面白いですよね。インタラクティブなところも既存のメディアと違う部分です。
加藤
そこが「ライブ」の意味が変わってきているポイントのひとつめですよね。いつでもどこでもコンテンツが見られるという「オンデマンド」であることは、この10年でもはや当然の前提となってしまいました。いま生活者は「ライブ」というものに新しい価値を見いだしはじめています。
武田
我々としては、ライブ配信はこれからの生活者との新しい接点であると捉えています。まさに生活者インターフェース市場を形成する重要な要素ですよね。そこになんらかの形で関与したいと考え、今回の出資を決めました。
加藤
テレビの生番組もスポーツ中継ももちろん「ライブ」なのですが、生活者が今求めている「ライブ」には、次の二つのポイントがあると思います。今、生活者はただリアルタイムというだけでは、食い足りなくなっているんです。

まず「インタラクティブ」であること。動画配信サイトやサブスクリブションのコンテンツも生活者を魅了していますが、そこではあらかじめ出来上がった「完パケしたもの」が配信されています。視聴中にオーディエンスが関与して、内容が変わるということはあまりないですよね。ところがライブ配信ではそれが可能になる。

武田
これまでのメディアは、少量の厳選されたコンテンツを大量の視聴者が見るという形でした。しかしライブ配信は、大量の演者がそれぞれのコンテンツを、インタラクティブ性が維持される程度の人数が集まった形で届けていますよね。
加藤
インタラクティブ性が維持される程度の人数のかたまりのことを、博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所は「小部屋感」と呼んでいます。同一の放送や配信を大勢で一斉に見たり聞いたりする、という従来の体験とは違うんですよね。たくさんの小さい部屋があり、その中で居心地のいい部屋を自ら選ぶことができる、といった体験が支持されています。
武田
こうした、「完パケでなく、インタラクティブ性があること」かつ「一斉配信でなく、無数の小部屋があること」というのは、テクノロジーの進化によって可能になったと言えますね。
加藤
そうですね、5年前の通信環境とデバイスの普及状況では実現しなかったものですね。一部のアーリーアダプターだけでなく幅広い世代がスマートフォンを持つようになり、皆が、配信する「ヒト」にも参加する「ヒト」にもなりうる状況になったからこそ、実現可能になった新鮮な体験なのだと思います。

生活者を魅了するライバーとは

加藤
先ほど30歳前後の女性ライバーが最も成功しやすいというお話がありましたが、PRIMEに所属されているライバーの方はどういった方が多いのでしょうか。
阿部
その属性と重なる、20代後半から30代前半の女性の方が多いですね。固定リスナーが付きやすく、個人の収入が最大化しやすいので、配信を継続できる方が多いのが理由です。都市部とローカルだと半々ぐらいの比率です。
加藤
若い世代の方より、ある程度人生経験を積んだ方の方が受け入れられやすいということでしょうか。
阿部
そうですね。もちろんそれが全てではないのですが、人生経験はライブ配信には有利な点があります。多くのライバーさんが平日の夜に週5回、一回当たり3時間の配信を基本にしています。繰り返し配信をすることになるので、どうしても素が出ます。その場で、コメントに対して当意即妙に返さなくてはいけないので、嘘が付けません。人間性のみならず、人生経験のある方の方が臨機応変な対応ができ、ライバーとして成功しやすい傾向があります。
武田
ライブ配信に興味を持ってから最初に驚いたのは、このライバーの皆さんの配信のスケジュールなんです。平日は毎日必ず配信して、土日は休む。改めて考えてみると、毎日やることが欠かせない、というのは腑に落ちます。リスナーにとっても仕事と配信が一つの生活のルーティーンになります。いつも行っているお店が、今日行ってみたら閉まっていた、といったようなことがあれば行かなくなってしまいますよね。それと同じで、平日の夜に必ずライブ配信がある、というのはとても重要だと感じます。
阿部
「自由が利く隙間時間に配信しているのだろう」というイメージを持たれる方が多いかもしれませんが、ライバーには基本的に正しい生活リズムが求められます。リスナーの方のほとんどは働いている社会人の方で、仕事の後にお酒を飲みながら配信を見ている方も多くいます。ですから、日中仕事した後に夜はテレビを見たり晩酌をするように、リスナーの日常生活に入り込めるが肝になると感じてます。
武田
また、ライブ配信が毎日行われる、ということ自体がリスナーの熱量に繋がっていることも分かりました。オンデマンドや動画配信のアーカイブ、DVDのレンタルなどとは全く違うメディアだと感じます。決まった時間に人と人が向き合って、インタラクティブなコミュニケーションを取る。一度ライブ配信を見る習慣が付くと、なかなか無くならないのではないかと思います。
加藤
リスナーの方は、ライブ配信のどういった部分に魅力を感じていらっしゃるのでしょうか。
阿部
一つは先ほどお話したライバーの人間性の部分です。もう一つは、ライバーさんが作るリスナーコミュニティの雰囲気ですね。少人数でインタラクティブなコミュニティになるので、全体の雰囲気も非常に大切な要素になってきます。平均的なリスナーコミュニティ、グループの人数としては、30人くらいですね。その中で本当にコアなファンは5人、それに続く層が10~15人、といった内訳になります。リスナーからしてみたら、ライブ配信を見る事は学校生活における部活に近いです。学校ではメインは日中に授業を受け、そのあと部活で仲間と盛り上がったりしますが、ライブ配信でも他のリスナーの仲間と盛り上がってるのです。
加藤
このあたり、実際のデータで把握されているのがPRIMEさんの強みですね。

テクノロジーを活用したライバープロダクション事業とは

加藤
こうした「魅了するライバー」を育成するため、プロダクションとしてどう取り組まれているのでしょうか。
阿部
現在、当社が運営するライバープロダクションには約6000人のライバーの方々が所属しています。C向けサービスの多くに当てはまりますが、全てのユーザー一人一人の状況を逐一見るのは限界があります。そこで、当社では配信に関する様々なデータを集め、ライバーの配信状況をモニタリングできる環境を構築し、適切なタイミングでライバーの皆さんにアドバイスができるような仕組みを構築しています。
加藤
6000人というのは、お聞きしてびっくりしました。独自のマネジメントツールをお持ちなのですね。そうした分析データから浮かび上がってくる、「生活者を魅了するライバー」を目指す上で、最も重視している指標は何ですか。
阿部
ずはり、課金にて応援していただいたリスナーの人数が大事な指標になっています。ライバーの方々にとって、配信は仕事としての側面も大きく、応援してくれるリスナーの存在が重要になります。少しの方に大きな金額を負担いただくより、多くの方々に支持していただく方がリスナーも無理なく応援できるため、ライバーさんが上手く行きやすく配信の収益が安定するという傾向が分かっていて、この指標がとても重要です。そのためには、どうしたら配信として盛り上がるかの方向性をアドバイスしています。
加藤
コメントの数などは指標にはならないのでしょうか。
阿部
重要ではあるのですが、例えば一部の人のコメント数が異常に多いのは、内輪の盛り上がりになってしまったりして良いことではありません。ですから、単純な数だけでは指標にならないんです。全体が盛り上がることと、一部が盛り上がることの最適なバランスがあるので、その調整をすることがライバーには求められます。
加藤
かなり細かくみてらっしゃいますね。そうした分析のためのデータの取得は、プラットフォーマーと連携して行っているのですか。
阿部
そうです。早い時期からAPIをご用意いただくなどして、データ取得に必要な環境を整えていただきました。 数字は嘘を付かないので、良い時は良いデータが、悪い時は悪いデータが出ます。ライバーさんは人間なので、どうしても主観に囚われてしまいます。例えば、一部のリスナーさんから「イベントに沢山出演すると、リスナーが配信に来なくなっちゃうよ」といったことを言われて、配信の進め方に凄く迷ってしまい、悪循環に陥るライバーのような事例は少なくありません。でも、そういう時に客観的なデータを見ると、悪い傾向が出ていないことがほとんどです。正しくデータを活用すれば、悩む必要がないことなのが分かります。反対に、数字で問題が出ているのにライバー本人は問題ないと感じてしまっているケースも多くあり、それはしっかり対応しないといけないと思います。
武田
大量のライバーが大量のコンテンツを届けるという形は、コミュニケーションのプランニングが非常に複雑になります。データマーケティングを活用して、コンテンツやセグメントごとのフィードバックをしっかりと見ることが欠かせないでしょう。PRIMEさんはそれを標榜してライバーの方々を育成されているので、今の時代に即していると感じます。
加藤
これが「テクノロジーを活用したプロダクション」と言われる所以なんですね。スポーツでいうとアスリートが試合の活動データを記録するのと同じように、ライバーの活動データをプラットフォーマーと共に把握し、次のアクションに活かすマネジメントをされていることがよくわかりました。
武田
PRIMEさんの今の活動に対して、広告会社としてお手伝いできることとして一つあるのが、ライバーの方がプラットフォームの「外」で活動する際のサポートです。テレビや雑誌、企業案件などがあると、ライバーの皆さんがさらに大きな成長の実感を得やすいと思います。結果として、新しくライバーになりたい人が増え、ライブ配信市場の拡大に繋がるはずです。
阿部
そこは是非、博報堂さんに協力をお願いしたいところです。これまでもテレビやイベントを使ってライバーの方々を有名にしようという試みがあったのですが、それで有名になった人はまだいない状況です。そこを一緒に変えていけたらと思います。

これからの成長シナリオ 

加藤
今後のライブ配信市場について、武田さんはどのような成長シナリオをみていますか。
武田
まず、ライブ配信市場自体がまだまだ伸びると考えています。ライブ配信プラットフォーム自体はキャズムを越えつつあり、安定した成長期に入ったかなと感じています。仕事を辞めて、本業として生活費を稼げるようなライバーが増えてきているのもその証拠でしょう。今後は市場が大きくなるに従って、魅力的なライバーやコンテンツが増加し、エンタテインメントとしての魅力が更に増す、という好循環が生まれると思います。
加藤
中国ではライブコマースでの消費が大きくたちあがっていますが、日本ではどうでしょうか。
武田
そうですね、中国ではECプラットフォーム由来の大規模なライブコマースが注目されていますが、日本のライブ配信市場の中から、独自のライブコマースが立ち上がるシナリオはありますね。ライバーにはエンゲージメントの高いリスナーが付いています。まずは、ライバーによるD2Cブランドなどに対して、応援行動としての消費は考えられると思います。

一方で、先ほどもお話した通り、大量のコンテンツを大量のファンコミュニティに対して出していくことになるので、コミュニケーションプランの設計が難しく、しっかりとした分析が欠かせません。タレントであるライバーとプロダクションが一体になる必要がありますし、ライブコマースに向く商品を選別することも必要です。そういったところに我々広告会社が入り、ご協力できたらと考えています。

加藤
阿部さんは、今後どんなことを目指してらっしゃいますか?
阿部
日本に限らず、世界でライブ配信のマーケットを拡大したいと考えています。ライブ配信は、日本が世界のIT産業で優位に立てる契機になるのではないかと考えています。先にライブ配信が盛んになった中国では国内の環境などから、グローバル競争で世界一位を目指す、といった方針では無くなって来ているのを感じますし、欧米発のライブ配信プラットフォームではまだありません。かつて日本の製造業が世界を席巻したように、日本発のプラットフォームが世界中に広がっていく可能性は十分にあると思います。そうなった時、世界中のライバーをサポートする、世界一の会社になりたいですね!
武田
世界中のライバーをサポートするというPRIMEさんのビジョンを博報堂DYグループとしてもしっかり応援できればと思います。本日はありがとうございました。
sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 阿部 伸弘
    阿部 伸弘
    PRIME CEO
    早稲田大学に在学中、PRIME(旧:プライムアゲイン)を創業。スマホアプリ事業を立ち上げ。2012年にリリースした「DecoAlbum」は500万DL、50万MAUまで成長。2013年には米Ycombinatorに呼ばれ渡米。2017年にSNS系アプリ開発のノウハウを元に、ライブ配信アプリのライバープロダクション事業を開始。
  • 博報堂DYベンチャーズ
    取締役COO/マネージングパートナー
    監査法人、証券会社を経て博報堂に入社。博報堂DYホールディングス経営企画局にて、投資戦略立案、ベンチャー投資、M&A、グループ再編、事業開発を担当。2019年5月に博報堂DYグループのコーポレート・ベンチャー・キャピタルである博報堂DYベンチャーズを設立し現職に。
  • 博報堂DYホールディングス
    戦略投資推進室 インダストリーアナリスト
    1999年博報堂入社。営業職として菓子メーカー・ゲームメーカーなどの広告業務に携わった後、2008年から博報堂DYグループ内メディア系シンクタンク「メディア環境研究所」にて国内外の生活者調査やテクノロジー取材に従事。主席研究員として、これからのメディア環境についての洞察と発信を行う。調査分析と独自インサイトに基づく講演、寄稿など多数。2021年4月より現職。大きな産業再編が起こる中、幅広いインダストリーのこれからを洞察し提示することで、スタートアップ企業との連携を促進し、社会へのインパクトを創出すべく活動中。