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モビリティDXの新潮流 モビリティサービス開発と広告ビジネスの共通点
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モビリティDXの新潮流 モビリティサービス開発と広告ビジネスの共通点

DXの新潮流を取り上げる本連載の今回のテーマはモビリティです。近年、コネクテッドサービスやMobility as a Service(以下MaaS)のような移動に関連するサービスが次々とリリースされており、博報堂もサービス開発を手掛けています。グローバルでのサービス開発の動向や、実際のサービス開発を通じて実感したことなどについて、博報堂CMP推進局の野口、周、多田、古矢に聞きました。
※第一回:一般消費財におけるDXの新潮流はこちら

―自己紹介をお願いします。

野口
博報堂CMP推進局第一グローバルグループに所属している野口です。タイを中心にASEAN各国のデジタル・データマーケティングの推進に取り組んでいます。
同じくCMP推進局第一グローバルグループに所属している周です。台湾、中国などの中華圏と、タイを中心にしたASEAN各国のデジタル・データマーケティングを担当しています。
多田
CMP推進局第二グループに所属している多田です。国内の自動車業界のマーケティング支援や、データ系のソリューション開発をしています。
古矢
同じくCMP推進局第二グループに所属している古矢です。国内のMaaS事業や、マーケティングのためのサイネージ開発などに携わっています。

―コネクテッドサービスやMaaSという言葉をよく見聞きするようになりました。サービス開発が進んでいる理由を教えてください。

野口
複数の背景があります。一つ目は『生活者の情報接触行動・購買行動の変化』です。日本だけということではなく主要先進国全体に言えることですが、情報接触行動や購買行動のデジタルシフトが進んでいます。以前であればネットは特定の車について調べるためだけに使っていたのが、近年は複数の車をネット上で比較したりお店の担当者にオンライン上で相談したり、活用方法が高度化しています。また情報を調べるだけでなく購入まで完結する人も出てきており、購買行動の多様化も進んでいます。新型コロナ禍で加速した部分もありますが、その前からこうした動きは顕著になっていました。
 二つ目は『ICTを取り巻く環境の変化』です。ETCなど、ネットワークを使わないサービスは以前からあったのですが、近年は車そのものがネットワークに繋がるようになり、企業が取得出来るデータの量や種類が増えました。その結果コネクテッドサービスと呼ばれる新しいタイプのサービスを作りやすくなっています。
 三つめは『データ連携範囲の広がり』です。企業が取得出来るデータ量・種類が増えたことで、データの活用先は自社だけでなく外部企業にも広がり、サービス開発やマーケティング活動等の様々なシーンでデータを活用しやすくなっています。その結果、自動車以外の業種もモビリティ領域に参入出来るようになり、カーシェアやライドシェア等の車を保有せずに車を利用出来るサービスや、複数の移動手段を統合した移動サービスも出てきました。
多田
MaaSは、自動車を売る、ではなく、自動車を含むモビリティにまつわる生活全体サービスと考えています。このため、今まで自動車業界と関わりが薄かった通信業界、公共交通、プラットフォーマーもモビリティ領域に関わってくるようになり、今後さらに、他業界の企業も競合会社となりえますし、連携していくべき相手にもなっていくと思います。
野口
このような動向を踏まえて、「車を保有する流れ」と「車を保有しない流れ」の二つの流れが生まれていると我々は考えています。保有する流れに対応したサービスがコネクテッドサービスのように車の価値を高めるもので、保有しない流れに対応したのが公共交通等の自家用車以外の移動手段も使ったMaaSと考えると分かりやすいと思います。

―公共交通は従来からあると思うのですが、それが車を保有しない流れとどう関係するのでしょうか。

多田
例えば従来であれば、外出の際に自宅から少し離れたバス停まで歩き、そこからバスに乗って最寄駅に行くようなケースが多くあったと思います。それがMaaSによって、ライドサービスで最寄り駅まで行ったり、途中の区間でも他のサービスを使うことによって通勤時間を短縮出来たり、といったことが起きてくるというイメージです。公共交通機関を使って移動する方には自動車に乗る機会が少なかったと思いますが、新しいサービスによって自動車に乗る機会が増える可能性もあると考えています。

―車を保有しない流れについて、自動車メーカーはどのように捉えているのですか。

多田
各自動車メーカーは、その流れにしっかり対応されています。ほとんどのメーカーがカーシェアサービスを運営していますし、サブスクリプションで自動車を提供するサービスも出てきています。どうやったら多くの人に長く使っていただけるか、今までとは異なる価値提供の仕方を考えていらっしゃるんだと思います。また、一部地域では公共交通を巻き込んだマルチモーダルのサービスも行っています。
野口
若年層だったり、まとめて大きな額を払うことが出来ない人であっても、車に乗るチャンスが生まれますからね。メーカーの方はそういった機会も重視しているんだと思います。

地域によって変わるコネクテッドサービスの主体

―コネクテッドサービスの最近の動向を教えてください。

野口
このサービスについては、ヨーロッパ、北米、中国など海外が先行しています。我々はまずこれらの地域の状況を研究することに注力しました。
コネクテッドサービスには、「基本サービス」「付加価値サービス」の2種類があります。基本サービスは運転をサポートするものです。イメージしやすいのは、カーナビです。カーナビは以前からありましたが、従来のものは一度ダウンロードしたデータを使っているのが通常でした。コネクテッド(常時接続)になると、常に最新の情報がダウンロードされ、工事情報や渋滞情報、空いている駐車場などがリアルタイムに把握出来ます。この他、中国で良く利用されているのが車に乗らずに遠隔操作する機能で、例えば車庫入れなども車から降りて操作することが出来ます。法規制の問題で中国以外ではあまり広まっていませんが、技術的には完成しています。
 付加価値サービスはカーライフ全般をより充実させるためのものです。例えば、自分の車を使わないときに他の人に有料でシェアして収入を得たり、コンシェルジュに車から様々なサービスをリクエストして要望に応えてもらう、といったことが可能です。基本サービスは開発済みのものばかりなのですが、付加価値サービスはまだまだ開発途上なものが多く、地域によって取り組みの状況も違います。
 例えばヨーロッパであれば、個人情報保護を重視する観点からメーカーが独自にサービスを開発しています。あるメーカーは5Gを利用したスマートシティに注力していて、他の車や通行人、信号機、施設など、車をあらゆるインフラと繋げることで様々な問題を解消することを目指しています。一方、北米ではメーカーが主導しながらプラットフォーマーと協業してサービスを開発しています。中国はプラットフォーマーがサービス開発を主導していることが特徴です。中国では外資系自動車メーカーは法規制の問題があり、自由な開発が出来ません。そのため中国の大手プラットフォーマーが開発したサービスを利用している状況です。

―現在は地域によって状況が異なるということですが、いずれは同じ方向に向かっていくのでしょうか。

国や地域によって変わると考えています。欧米は同じ方向になり、政府主導となる中国は別になるかもしれません。日本についても、メーカー主導になるのか、プラットフォーマー主導になるのか、現時点ではまだはっきり傾向がみえていません。

三つの型があるMaaS

―MaaSの動向についても教えてください。

多田
博報堂では、生活者視点でMaaSを大都市、地方都市、地方町村の3つに分けて考えています。
大都市では、鉄道、自動車、バスなど複数の手段から最適なものを組み合わせるマルチモーダル、地方都市では市と協力し交通を通しての街づくり、地方町村は、あまり公共交通機関が充実していないため、「望んだ時に来て欲しい」という要望に応えるオンデマンドが多いです。MaaSには、すでに自動車メーカー以外にも多くの企業が参画していて、その地域の自治体はもちろん、沿線のアセットを持っている鉄道会社、技術面で強い通信事業者などがサービス開発に取り組んでいます。
古矢
MaaSは、車だけでなくあらゆる移動が対象です。AI技術によるタクシー配車であったり、トラックを利用した移動販売車、高齢化が進んだ地域での乗り合いサービス、複数の交通手段統合などがあります。MaaSにおいてモビリティはあくまで移動のための手段であり、重要なのは移動の先にある生活者の目的を満たすことなんです。

―MaaSの運営主体として国や自治体、鉄道会社が挙がりましたが、プラットフォーマーはどうでしょうか。

古矢
日本は法規制等によってMaaSの領域に外資系のプラットフォーマーが入りにくいというのがあります。ただ、海外と同様のサービスを利用したいという需要は存在するので、日本の法律に合わせた形で近しいサービス提供することも必要だと考えています。

―大都市、地方都市、地方町村では、どこの取り組みが進んでいるのでしょうか。

多田
同じMaaSでも、大都市、地方都市、地方町村で取り組んでいる課題が異なるため、一概にどこが進んでいるかという比較は難しいです。
ただ、傾向としては、各社の強みを活かし、都市部では鉄道会社が、地方部では自動車メーカーの取り組みが盛んになっています。
古矢
それぞれ目的などが異なるので、各地域で様々な用途のサービスが立ち上がっていますが、今後発展していく中で、これらの垣根も無くなっていくことも考えられます。

博報堂の生活者視点はサービス開発に生かせる

―広告会社である博報堂が、なぜ移動にまつわる領域のサービス開発を手がけるのでしょうか。

野口
イメージは大きく違うかもしれませんが、広告ビジネスとサービス開発は近いところがあると考えています。サービス利用者のことを深く理解することだったり、使いやすい商品やサービスの在り方を考えることなどは共通しています。ですので、これまで広告ビジネスで培ってきたノウハウをサービス開発に応用出来る部分が多く、モビリティのサービス開発もご支援するケースが増えています。

―培ってきたノウハウとは、具体的にはどういったことでしょうか。

野口
生活者視点での体験設計やデータの利活用、UI・UXのデザインなどもそうですが、既にお付き合いのある自治体やクライアント企業、協力会社の業種の幅や数なども大きいと思っています。移動系のサービス開発においては一社で完結することがほぼなく、様々な企業が連携して取り組む必要があるので、そういった際に我々がお役に立てる機会は多いですね。
多田
MaaSでは、大都市、地方都市、地方町村のそれぞれ異なった課題に取り組んでいます。その課題の解決策を今まで培ってきた「生活者視点」を生かして見つけ、設計や開発に生かしています。
古矢
実際にMaaSに取り組む中で、需要をヒアリングしたり、パートナーを選定したり、継続的に使っていただけるように社会実装する、といったことのやり方が見えてきているのですが、特に実感しているのが、現場に行かないと分からないことが多い、ということです。現地の方が困っていること、ニーズなどを情報として得て想像するのと、実際に自分の目で見て感じるのでは、理解度が全く違うんです。

「ノッカルあさひまち」実証実験の様子

 例えば我々が開発に関わって、富山県朝日町で実証実験を行っている「ノッカルあさひまち」というMaaSの取り組みがあります。地域の方の送迎サービスなのですが、このサービスは停車する場所や時間がある程度決まっています。利用したいという住民の方のご自宅が停車場所まで徒歩5分だったので、問題なく利用出来るだろうと考えてしまっていたのですが、実際は雪が降るとその距離の移動すら難しい、東京の道の5分と、坂道の多い地域の5分とでは、とらえ方も異なることが分かりました。また、あるご家庭では「病院の開業時間中に病院に行くバスは沢山あるが、開業するとすぐに予約で埋まってしまうので、開業前に行きたい。でもその時間にはバスがない」と悩んでいらっしゃいました。こういった細かい話は、実際に現地に行ってお話をうかがわないと分からないんです。

 地域で高齢者の方を対象にサービスを作る場合、都市で使うことを想定したものとは設計が大きく変わります。スマホやwebなどではなく、現地での地道な広報活動がとても重要だったりするんです。
 「なんでこんな簡単なサービスが出来ないの」と地域の住民の方からお叱りをいただくこともあるんですが、法律の問題だったり、地元企業との調整が必要だったり、実現出来ないことも多々あります。そういったことを一つ一つ解消するためにも、地域の自治体の方としっかり連携を取ることが重要です。

アイデア提供だけでなく、サービス実装も可能

―MaaSのサービス開発をする上で、どのようなことが重要なのでしょうか。

博報堂の提供価値として、やはり生活者視点が一番重要です。コネクテッドサービスを例にすると、基本サービスは自動車メーカーだけで開発出来ますが、付加価値サービスは外部を巻き込む必要があります。どういったサービスが求められているかというニーズの洗い出しは勿論、駐車エリアをどうするか、コンシェルジュのコールセンターをどうするか、といったところで様々な企業や施設との連携が必要になり、そういった連携も我々広告会社が得意とするところです。
 もう一つは、ビジネス思考を持つことですね。例えば中国では、コネクテッドサービスのような先進的な技術の開発を融資で行うことが多いのですが、ビジネスとして利益をどう出すかまで考えずにスタートし、長続きしないものが多くあります。そのようなことが無いよう、開発段階からビジネスとしての設計もきちんとする必要があります。
野口
我々にはメディアのビジネス開発とその収益化に関するノウハウや生活者視点でデータからどのような価値を出せるのかを考えるノウハウもあります。サービス開発においても、そのノウハウは生かせると考えています。
多田
サービス開発の課題抽出などに関してはMaaSも、コネクテッドサービスと同じですね。交通インフラの場合、よりずっと使ってもらうことが重要になります。インフラになっていくものなので、コロコロと新しいサービスに置き換える、といったことは簡単には出来ません。全ての状況を踏まえ、街の課題をしっかりと把握し、解決策を考える必要があります。
古矢
MaaSの場合で言うと、特に地方町村に関してはユーザー需要をしっかりと掴むことが大事ですね。場所によって交通課題が大きく違うので、それぞれの課題にきめ細かく対応することが必要になります。実際にいくつかの地域で需要のヒアリングとそれぞれに最適なサービス開発に取り組んでいる状態です。

―地方町村のMaaSの場合、収益はどのように得ているのですか。

古矢
実はMaaS全体で見ても、まだマネタイズに成功している例は少ないですが、地方町村では、交通維持に必要な国の補助金を減らすことで、マネタイズに繋げようとしています。
我々は国内に強いイメージを持たれがちなのですが、海外でも様々なビジネスを手掛けています。海外のサービス開発においても、クライアント企業の事業構想からサービスの販促活動までサポート出来る体制が整っていますので、是非ご相談ください。
野口
「博報堂はアイデアを提供するだけでしょう」と思われる方もいるかもしれませんが、サービスの実装・運用支援も行っています。100%全てを自分たちでやるのは難しい部分もあるのですが、ノッカルあさひまちのケースのようにかなりの部分を博報堂グループが携わった事例もあります。新しいサービスを立ち上げられる際、何をやるべきか分からないといった企業のご担当者がいらっしゃいましたら、立ち上げから幅広くサポートさせていただきますので、お声がけいただけたらと思います。
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  • 博報堂 CMP推進局 ディレクター
    広告会社、コンサルティングファームなどを経て2017年博報堂入社。ASEANにおけるデータマーケティングの推進やデータ基盤構築に関連する業務に従事。マーケティングに関わる戦略策定からオンラインとオフラインの統合プランニング、データ分析に基づくPDCAまで幅広く取り組む。
  • 博報堂 CMP推進局 リサーチャー
    2018年博報堂入社。入社後中華圏、東南アジア等の海外エリアを担当。企業ウエブサイト、SNSなどのオンラインタッチポイントの改善活用やCDP基盤の構築運用など、デジタル、データ領域の業務に携わり、企業のマーケティングDXをサポート。
  • 博報堂 CMP推進局 ディレクター
    2010年IT企業に入社。ビッグデータ解析を用いてEC戦略立案、会員育成、施策改善など、デジタルマーケティングを中心に携わる。2019年に博報堂へ参加。これらの経験を活かし、デジタルマーケティングを中心に、ソリューション開発などに取り組む。
  • 博報堂 CMP推進局 ビジネスデベロップメントプラナー
    2016年博報堂DYメディアパートナーズ入社。DMPを用いたソリューション開発・分析に従事した後、2020年から現職。
    データを用いたビジネス開発経験を活かし、MaaSやサイネージ開発に取り組む。

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