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「Social-Me Good」という新しい価値観──withコロナ時代の「eXpand」の形【後編】
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「Social-Me Good」という新しい価値観──withコロナ時代の「eXpand」の形【後編】

新型コロナウイルスの影響は、生活者の行動やマインドを変え、コミュニケーションのあり方を変えました。博報堂行動デザイン研究所が提唱する「PIXループ™」において、生活者の体験に関わる「eXpand」はどう変わったのか。前編に引き続き、行動デザイン研究所のメンバーが語り合いました。
(前編はこちら)

Withコロナ時代の「関係性」「売り物」「売り方」

──「Me」「Community」「Social」という3つの視点でデータの収集と分析をしていくというのはとても新しい視点だと思います。この視点は、データ活用以外の領域でも有効なのではないでしょうか。

池田
まさにそのとおりです。私たちは、withコロナ時代の「eXpandの発想マトリクス」という見取り図をつくりました。これは先に紹介した「関係性」「売り物」「売り方」という3つの軸を使ったもので、「関係性」を横軸に、「売り物」と「売り方」を縦軸にして6つの象限を設定しています(図参照)。

このマトリクスでは、「関係性」を「ひろげる/Me視点」「つなげる/Community視点」「みわたす/Social視点」の3つに分けています。これは、「Me」「Community」「Social」という3つの視点でのデータ活用という考え方に符号しています。「Social-Me Good」という新しい視点についてはすでに説明しましたが、このマトリクスのポイントは、MeとSocialの間に、もう一つCommunityという中間項を設定していることです。その3つの視点があることによって、eXpandのアイデアの引き出しが格段に増えると私たちは考えています。

──それぞれの視点について詳しく説明していただけますか。まず「ひろげる/Me視点」から。

池田
売り物を「ひろげる/Me視点」で捉えたときのキーワードが「コンテンツ・メディア化」です。例えば、アウトドアグッズを「家の庭でキャンプやバーベキューができるグッズ」という新しい文脈で提案するのが商品のコンテンツ化で、前に飲料の例で述べたように、プロダクトとアプリをセットで提供するのが商品のメディア化の一例です。

一方、売り方を「ひろげる/Me視点」で捉えると「ダイレクトtoカスタマー」というキーワードが出てきます。いわゆるD2Cですが、ここでいう「ダイレクトtoカスタマー」は、D2Cブランドを開発するというよりも、今ある商品やサービスを「D2C的」に売っていくことを意味します。ECによる直販、売り場の現場社員をオンラインに登場させるオンライン接客などがここには含まれます。

中川
もちろん、売り方はオンラインに限定されるものではありません。オンラインの活用が広がるほどオフラインが重要になるとも言えます。リアルがプレミアム化していくという意味で「プレミリアル」という造語を私たちは考えました。リアル店舗でしかできない体験を提供し、それをオフラインと組み合わせていくことによって、より豊かなeXpandの設計ができるという意味です。
山本
「ダイレクト」というのは、単に商品の提供の仕方だけでなく、コミュニケーションの質を意味するものでもあります。生活者のエモーションにダイレクトに働きかけ、生活者の「ウチ側」の欲求を満たしていくということです。それがすなわち生活者に「寄り添う」ということなのだと思います。
木村
そのような動きが進むことで、企業と生活者の距離はぐっと縮まることになります。すでに多くの企業が、これまで広告やPRを通じて行ってきた生活者とのコミュニケーションをより直接的に展開するようになっています。広告会社にも、これまでと違った力の発揮の仕方、価値提供の方法を考えることが求められていると思います。

コミュニティが重要な「単位」となる

──2つめが「つなげる/Community視点」ですね。

池田
この視点で売り物を捉えたときのキーワードが「シェアリングエコノミー」です。すでにカーシェアリングなどは普及しつつありますが、今後は例えば玩具や家電などのシェアも進んでいくことになると思います。シェアリングは生活者にとって便利というだけでなく、モノをシェアすることによって廃棄物を減らし環境負荷を下げることができるという社会的メリットもあります。一方、店舗などをシェアリングサービスの「場」としていくことには、リソースの有効活用という側面もあります。

売り方におけるキーワードは「ファンコミュニティ形成」です。コロナ禍によってデジタルコミュニティが非常に活性化しました。また、オンラインでのライブなども広く行われるようになっています。それらのオンラインコミュニティやイベントでファンを形成しながらモノやサービスを売っていくという方法がwithコロナの時代にはいっそう有効になっていくと思います。

木村
先ほど池田さんから、「Me」と「Social」の間にある「Community」に注目することがポイントであるという話がありましたが、まさにコミュニティはコロナショック下において非常に重要な「単位」になったと思います。バーチャルなコミュニティを形成し、そこに人々を集めるというモデルが如実に増えていて、そこで課金する仕組みも生まれています。これは一過性のものではなく、コロナショックが去った後でも継続的なコミュニケーションの単位になっていくと思われます。今のうちからバーチャルコミュニティに注力するかどうかが、のちのち大きな差となりそうな気がします。
中川
データ活用という視点で見ると、例えば、参加者同士のインタラクションをデータ化して、それをコミュニティの活性化に活かしていくという方法も考えられます。これは「Me」に紐づくデータ活用とは異なる、「Community」データとして捉える新しい方法論と言っていいと思いますね。

──そして3つめが、「みわたす/Social視点」ですね。

池田
Social視点のキーワードは、「ソーシャルプロダクト」と「リソースのオープン化」です。売り物のキーワードである「ソーシャルプロダクト」は、例えば夏場でも心地よく装着できるマスクなど社会支援につながる商品や、生産の過程や原料の使用方法などの透明性が確保されている商品を意味します。これまでソーシャルグッドを目指す企業の多くは、CSR、キャンペーン、PRなどで社会貢献を行ってきましたが、ソーシャルプロダクトとは売り物そのもので社会に貢献できるようなプロダクトのことです。一方、売り場のキーワードである「リソースのオープン化」は、自社リソースにおける「場」や「人」や「メディア」などをシェアしていくことを意味します。
木村
例えば、レストランにおける料理のレシピは非常に重要なリソースで、ある意味では最も守秘しなければならない資産ですが、あえてそれをオープンにすることで人々の共感や信頼を獲得していくといった方法が考えられると思います。その共感や信頼が、人の行動を促し、結果的に売り上げにつながる。そんな考え方がwithコロナの時代には重要になると思います。
山本
忘れてはならないのは、コミュニティやソーシャルに役立つことが、おのおのの生活者のエゴを満たすことにもなるということです。生活者の欲求を満たしたり、課題を解決したりすることと、集団や社会の役に立つことがシームレスになるというのが「Social-Me Good」の重要なポイントです。

変化から新しい価値を生み出していきたい

──コロナ禍を経てeXpandの方法論がバージョンアップされたことで、PIXループ全体の見取り図もいくぶん変化していきそうですね。

池田
「Social-Me Good」という考え方はeXpandの分科会の中から生まれたものですが、PIXループ全体に関わる視点にもなりうると私は考えています。PIXループとは、ブランドをめぐる生活者のジャーニーが継続的に回転し続けていくモデルです。今後、そのモデルの中心に「Social-Me Good」という要素を置いてもいいのではないか。そんなふうに思います。
中川
私たちは以前から、ループが回っていく中で個人の自己実現と企業のパーパスが一致していくことになるのではないかという話をしていました。「Social-Me Good」は、まさにその議論をひと言で集約した言葉だと思います。今後、この視点をPIXループの中にどう組み込んでいくか、みんなで考えていきたいですね。

──最後に、PIXループをめぐる取り組みの今後の展望をお聞かせください。

木村
コロナショックは多くの企業にとって逆風ですが、逆風の中だからこそ考えられることがあると思います。PIXループのフレームを活用しながら、コロナ禍をチャレンジの機会に変えていく道筋をつくっていきたいと考えています。
山本
「Social-Me Good」の考え方は、社会も生活者も企業も得をする、まさに「三方よし」の今日的なモデルと言ってもいいと思います。生活者にとっては、「Social-Me Good」の視点をもって自分に寄り添ってくれるブランドと出会うことができれば、長くつき合うことができるし、モノや情報の選択で悩まなくても済むようになります。一方、企業にとっては「Social-Me Good」という視点とオンライン、オフラインのコミュニケーションをうまく組み合わせることで、生活者との継続的な関係を続けていくことが可能になります。その両者を上手に結びつける形をどうつくっていくか。それが私たち広告会社のこれからのチャレンジになると思います。
中川
「Social-Me Good」は多くの人に納得していただける考え方であるという実感があります。その考え方を仕組みはもちろん、アクチュアルデータでどう補完していくか。「コンテンツ・メディア化」や「ファンコミュニティ形成」など精度高く行っていくうえで、Pool・Ignite・eXpandが現状どうなっていてそれらをどう変化させられるのか、ループを回し関係醸成を進めていくためにもPDCAは重要だと考えていまして、弊社グループが構築しているカスタマーマーケティングプラットフォーム(CMP)を活かせないか検討を始めています。Data分科会とも連携していきたいと思います。
池田
新型コロナウイルスは世界中に大きな被害を与え続けています。しかし、コロナ禍の中で人々の価値観や行動の変容が生まれたこと自体はポジティブに捉えるべきだと思います。この変化から新しい価値を生み出していくためのアクションをこれからも続けていきたいと思っています。
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  • 博報堂 行動デザイン研究所 所長

  • 博報堂 統合プラニング局
    兼 行動デザイン研究所 研究員

  • 山本 泰士
    山本 泰士
    博報堂 統合プラニング局
    買物研究所 所長
    兼 行動デザイン研究所 研究員

  • 博報堂 統合プラニング局
    兼 行動デザイン研究所 研究員