顧客データを活用したプランニングVOL.2
マーケティング視点で向き合う”データ・インテグレーション”
CRMについて書かせていただくコラム、第2回目です。
(CRM・・・Customer Relationship Management)
前回はCRMが企業にとって、広告やコミュニケーションの領域だけでなく、あらゆるマーケティング活動においてこれまで以上に重要な要素となっている、その概況について整理してみました。
それを受け、今回からは「じゃあどうやって進めていくのか?」について書いていきたいと思います。
今回はまず、”データ”を取り扱う環境整備についてのお話です。
「使える」データが増えている。
マーケティング活動には、いろいろな情報インプットが必要な局面があります。
- 判断の精度を上げる材料をつくる(意思決定)
- 仕掛けたことの成果を検証する(PDCA)
- 結果に至るまでの過程を可視化する(管理)
などなど、です。
そうしたときに用いるデータの世界は、その種類や範囲、精度がここ数年でどんどん進化し、これまでの常識ではわからなかった部分が補完できるようになったり、より正確性の高いものに置き換えたりできるようになってきました。
例)
- 自己申告や記憶頼みのリサーチデータよりも、実際に残った行動や実績のデータ(アクチュアルデータ)を使う
ex. 「買いましたか?→はい/いいえ」よりも、実際の購買履歴で。 - リサーチ自体も、よりタイミングよく、あるいは本当に聞きたい人に絞って、精度を高めて収集する
- そもそも把握しようがなかった、位置情報やある時点での行動内容もデータで捉える
そうなってくると、これらのデータを自社で扱う情報として取り込んで、使いこなすことができれば、先に挙げたような、日頃のマーケティング活動の質をこれまで以上に高められる、ということに自ずとつながります。
例えば、「調査結果を元に施策を打ったが、なぜかうまくいかなかった(その検証も調査で、以降繰り返し・・・)」とか、「うちの商品・サービスがどのように利用されているのか、リアルな実態レベルでは把握できている自信がない」といった課題に対する解決の突破口として期待できます。競争下にある市場ではなおのこと、他社より正確に現状を捉え、機を見て仕掛けたほうが勝てる、ということに貢献できるようになってきます。
では、データをどのように持っておく必要があるか?
といっても、いま実際に社内外に散在しているデータの一つ一つは、どれだけ単体で深掘りしてみても意外と、「それで?」とか「まあ、そうだよね・・・」という程度のことしか見えないことが多々あります。しかし、複数のデータを「またいで眺める」と、そうでもなくなってくる(つまり、発見や示唆が出てくる)ことがあるのです。
唐突ですが、私が好きなガジェットネタでちょっと極端な例を上げてみますと、
(購入者リサーチだけの場合)
このスマートフォンを買った人は30代前後の男性中心で、指紋認証機能とハイレゾ対応に興味を持っている人が多い。
となっていたものが、
(購入者リサーチ & 検索キーワード & 生活者リサーチ & 購買データ より)
ハイレゾに対応したスマホの新製品情報を普段からWeb検索でよくチェックしていた人がいち早くリリース情報をニュースサイトでキャッチして、最終的には競合X社の専用プレーヤーと比べた結果購入に至っており、対応ヘッドホンとの同時購入率も高い。世代的には30代前後の男性が多く、プライバシー情報に普段からとりわけ敏感。また、買った人には大きく2タイプいて、もう1つのパターンは全く違う情報行動をとるBタイプがあり、こちらも○○万人いる。数こそ少ないが、購入ポテンシャルはむしろ高い。
といったところまで見えてきます。(前回のコラムで書いた、ターゲットとなる生活者の”解像度”を上げて可視化した、一つの例でもあります)
さらに、このような分析結果を素早く、わかりやすく出せるようにしておくには、各所にあるデータを「集めて」、さらに「繋いで」おく必要が出てきます。システム的にいうと、データベースとして、何らかの情報をキーにリレーションを張っておく、ということになります。最近こういう話題で出てくるキーワードの一つ「DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)」は、本質的にはこの要素を含んでいます。
マーケッター目線で、情報システム&データインフラ構築とも向き合う。
さらりと、「各所にあるデータを集めて、繋いでおく必要がある」と書きましたが、出所が同じデータで、それが2つや3つであるならともかく、形式も置き場所も異なるものが複数になってくると、どうしてもSI(システム・インテグレーション)的な領域として、それなりのデータベースを構築し、さらにそのデータを活用して、世の中に出ていく施策につなげるプラットフォーム要素や機能を実装しておくことが必要になってきます。
そこでマーケッターも、システム構築の世界でいう、[要件定義→設計→開発→テスト→カットオーバー]というプロセスのうち、少なくとも「要件定義」のフェーズでは、明確なマーケティング視点・狙いをもって「マーケティング要件定義」とでもいうべき深い関与をした上で、「システム要件定義」に引き渡しておくことが必要になります。でなければ結局、データをいちいち取り出して○営業日かかる、保守ベンダーに○○万円都度払う、あれがないこれがない・・・という本末転倒なことになりかねません。
ただしそれでも、それだけではただの「箱」。
よくDMPは「とはいえそれ単体では”箱”なんだよねえ~」と言われます。そのこころは、データを溜めておく置き場所(=データベース)ということで、そこに入っているデータをどう取り出して(集計)、眺めて(分析・考察)、打ち手を仕掛けながら改善を繰り返すか(エグゼキューション&PDCA)がキモ。ということです。
DMPもデータベース「システム」なので、放り込みやすく、取り出しやすくという状態を維持するための保守、より利用価値を高めていくための改修といったコストもある程度かかってきます。なので、そのコストもリクープできるだけの利用価値をあらかじめ見込んで作り、使いこなしていくことがそもそもの「マーケティング活用」のためにも重要になってきます。
「箱」になぞらえていうならば、DMPはちょうどよい大きさ、ちょうどよい仕切り板でわかりやすく整理されたメイクボックスのようなもので、大事なのはそこからさっと必要な道具(データ)を取り出して、素早くばっちりメイク(アウトプット)ができること、ということになります。で、あとはその効果最大化のために出かける(施策を打つ)、という・・・うまいこと言えてるようで言えた感じが全くしない締めですが、どうでしょうか。
次回はその「箱=DMP」をマーケティングにどうやって活かしていくのか、というテーマに移っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
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博報堂DYメディアパートナーズ ダイレクトマーケティングビジネスセンター ストラテジックプラニングディレクター通信キャリアでSE、広告宣伝、サービス開発を担当し、2006年に博報堂入社。以降、マーケティングプラナーとしてクライアントの企業のマーケティング支援に関わり続け、2013年より博報堂DYメディアパートナーズ。ここ数年はスマートデバイスアプリ活用や、企業が保有するデータと博報堂の生活者データを組み合わせた、統合型のマーケティングプランニングを推進中。家電大好き。