スタッフコマースの可能性【第2回】 フルファネルで活用できるマーケティング手法
スマートフォンでショート動画を撮影して手軽にウェブサイトにアップできるのがスタッフコマースの大きなメリットですが、実際に取り組む際には越えなければならないさまざまなハードルもあります。
スマートフォンのソリューション「ザッピング」を開発したファナティックとその戦略パートナーであるアイレップ、そして博報堂DYグループのメンバーによるチームが目指すのは、スタッフコマースをよりスムーズに実現し、かつ「購買」に限定されないさまざまな顧客接点でこの手法を活用していくことです。
スタッフコマースの可能性を探る連載の第2回をお届けします。
野田 大介氏
ファナティック 代表取締役
瀬戸 航氏
ファナティック
戸田 充幸
アイレップ ソリューションビジネスUnit
岡本 和久
博報堂 DXソリューションデザイン局
武藤 重近
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
山﨑 恭嗣
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
ショート動画を手軽にアップできるソリューション
──前回はスタッフコマースのメリットや、どのような業種で活用できる可能性があるかをお聞きしました。一方、企業がスタッフコマースに取り組むことの大変さもあると思います。今回はその点から話を伺っていきたいと思います。
- 野田
- スタッフコマースの映像は、一般に10秒から30秒程度のショート動画です。現場のスタッフの皆さんにスマートフォンで自由に映像を撮影してもらって、そこからいいものをピックアップしてECサイトやオウンドメディアに掲載するというケースが多いのですが、自由な撮影といっても、当然ある程度のレギュレーションは必要です。どのような方針と方向性で映像を撮影してもらうか。その初期設定が第一のハードルです。
第二のハードルはインセンティブのルール設定です。前回も話に出たように、スタッフコマースでは、動画に登場するスタッフに対してインセンティブを設定する場合が多いのですが、視聴数を重視するか、売り上げを重視するかによってインセンティブのルールは変わってきます。スタッフコマースを始める前に、この2点をしっかり考えておくことが必要です。
- 山﨑
- 現場のスタッフの皆さんは日々忙しく働いていらっしゃるので、動画撮影のような付加業務が大きな負担になってしまうこともあります。
その点でも、インセンティブはしっかり用意しておかなければなりません。また、スマートフォンで気軽に撮影できるといっても、クオリティの高い動画を撮る方法や撮った動画を編集する方法などについてはレクチャーが必要です。その部分はプロのサポートが求められると思います。
──ファナティックが開発したスタッフコマースのソリューション「ザッピング」の機能を説明していただけますか。
- 瀬戸
- 縦型のショート動画を、投稿用アプリを使って自社サイトや自社通販サイトに簡単にアップできるツールがザッピングです。操作感はInstagramのストーリーズに動画をアップするのに非常に近いですね。
ソリューションとしての特徴は、これもInstagramのストリーズと同じように動画の連続再生が可能な点にあります。従来のECサイトでは、動画があってもそれぞれを個別に再生しなければなりませんでした。それに対してザッピングの場合は、ハンガーラックにかかった服を次々に見ていくような感覚で、動画を自動で連続して見ることができます。また、動画に商品ページへのリンクや特集やお問い合わせなど任意のページへのリンクを貼ることができるので、動画視聴から購買までのスムーズな導線をつくれるのも大きな特徴です。
──効果測定もできるのですか。
- 瀬戸
- その点もザッピングの特徴の一つです。
例えば、「動画が視聴された」ことを成果として設定したい場合は、何秒以上視聴されたら視聴回数としてカウントするといったことを決めることができます。一方、「どのくらい売れたか」を成果にしたい場合は、動画を視聴した後に、何日以内の購入であればその動画を投稿したスタッフの成果とするか自由に決めることができます。他にも同じ商品を複数のスタッフで紹介し、その結果その商品が売れたといったケースもあると思います。そのような場合には成果をシェアする設定にすることも可能です。成果の測定が正確で、かつ細かにカスタマイズできる。したがって、インセンティブの設定もしやすい──。それがザッピングの特性と言えます。
コラボレーションによって発揮されるシナジー
──ザッピングのリリースは2021年5月とのことです。これまでどのような導入事例がありましたか。
- 野田
- 大きくECの購入率アップとリアル店舗への集客に分けられます。ECに導入いただいたケースでは、これまでスタッフコマースに取り組んできたけれど、ツールの価格・静止画しか投稿できない・正確な成果を計測できないという課題をお持ちだったクライアントが多いですね。ザッピングを導入してから、動画をアップできることが可能になっただけでなく、コストが大きく下がり、売り上げが改善したという声を数多くお聞きしています。代表的な例では、ショート動画を閲覧した方としていない方で購買率が5倍近い差になったという例もあります。とくに高額商品の売れ行きは、動画があるのとないのでは格段に変わる傾向がありますね。
──リアル店舗の方はいかがでしょうか?
- 野田
- ショッピングモールでのご利用が進んでいます。ザッピングのもう1つの特徴として、どれだけ参加人数や投稿数が増えても費用が変わらないという点があるので、ショッピングモールに出店するすべてのテナントが参加できる状態が安価に作れます。ですので、どのテナントの方でも新商品やフェアといった最新情報をショッピングモールのサイトに簡単に投稿できるようになっているので、飲食店のような静止画では魅力を伝えることが難しかった業種の方も動画になることでリアル店舗の集客に活用いただけております。
──2022年の10月には、アイレップがファナティックの戦略パートナーとなってザッピングの販売を始めました。この協業の経緯をお聞かせください。
- 戸田
- アイレップはもともとインターネット広告会社ですが、デジタルマーケティングをフルファネルでコンサルティングしていく事業にも力を入れています。博報堂のメンバーとも、新しいサービスやソリューション提供の可能性について話し合いを続けてきました。その動きの中で、私たちが着目したのがザッピングでした。
- 武藤
- 我々としても、以前からスタッフコマースに注目していました。これまでは主にアパレルやコスメ業界で活用されてきた手法であると認識していますが、ほかのカテゴリーでも活用できるポテンシャルが十分にあると感じていました。そんなときにザッピングを提供するファナティックの皆さんとの出会いがあった訳です。ファナティックと博報堂DYグループが協業することで、そのカテゴリーならではの体験の設計から、レギュレーションと言われる撮影方針の策定、スタッフのインセンティブ設計まで含めた形でクライアント支援を行うことができるのではないかと思っています。
- 瀬戸
- 僕たちはこれまで、ソリューションの開発と導入を手がけてきましたが、クライアントがスタッフコマースに取り組むにあたってのレギュレーションやインセンティブ設計はお任せしていました。博報堂DYグループの皆さんと協業することによって、クライアントに対してこれまでできなかった貢献ができるようになる。そんな可能性を感じました。
- 戸田
- ザッピングを活用してつくった動画は、野田さんからご説明があったとおり、ECサイトやモールのサイトなどにアップされるわけですが、それをSNSやLINEに転用して、そこから生活者とのコミュニケーションを広げていくことも可能です。そこで私たちアイレップの力が発揮されると考えています。また、そこからコンバージョンにつなげていくためのコミュニケーション設計や、それぞれの動画の成果測定、そこから見えてきた要素を次の動画作成にいかすコンサルティングなども私たちが得意とするところです。
スタッフコマースをフルファネルで活用する
──この協業の価値をクライアントにどのように提供していきたいとお考えですか。
- 岡本
- 博報堂DYグループは現在、生活者データ・ドリブンフルファネルマーケティングへの取り組みに力を入れています。認知、検討、購買から、さらにその先のCRMやロイヤルカスタマー化を一気通貫でサポートする取り組みです。これまでのスタッフコマースは、主に検討から購買のフェーズで使われていましたが、スタッフの皆さんが登場するショート動画をデジタル広告として使うという選択肢もあり得ます。
つまり、スタッフコマースの領域をアッパーファネルにまで拡大するということです。
また購買のポイントが実店舗である場合でも、店頭のデジタルサイネージでショート動画を流して顧客とコミュニケーションをとることも可能です。さらに、購買後も新しい動画がアップされるたびにSNSやチャット、メッセンジャーなどで顧客に通知される仕組みをつくって継続的な関係をつくっていくこともできるはずです。このように、スタッフコマースをマーケティングファネルのさまざまなポイントで活用して、顧客のエンゲージメントを高め、一人ひとりの顧客のLTV(生涯顧客価値)を最大化できるのが、この協業がもつ大きな可能性であると考えています。
- 武藤
- スタッフコマースにおける取り組みの中で、とくに博報堂DYグループは、生活者向けコア体験を起点としたフルファネル型プラニングの設計から実装領域において力を発揮できると考えています。そのカテゴリーや商品ならではのスタッフ動画を活用したコア体験を起点に、体験への興味喚起を促すSNSなどの接点づくりを考え、実際に体験を通じて、ファン化を促す仕組みを考える。まさしく、そのスタッフの「ファン」になる状態をつくることです。
興味喚起から動機付け、購買、ファン化に至るシームレスな顧客体験の提供を通じて、クライアントECの支援を行っていけるところが、博報堂DYグループの強みであると思っています。
- 戸田
- 私たちアイレップを含め、博報堂DYグループの企業がそれぞれの得意領域で力を発揮することによって、さまざまな業界のクライアントのさまざまなニーズに対してスタッフコマースの活用の仕方をご提案していくことができると思います。ファナティックの皆さんも含めたワンチームで、クライアントに貢献していきたいですね。
- 山﨑
- 今後さらに5Gが普及していくと、動画を快適に見られる環境がいっそう整備されていき、スタッフコマースにとって追い風となります。これまでECに取り組んできたクライアントに、他社との差別化の新たな手法の一つとして、スタッフコマースを提案していきたいと思います。
──ファナティックとして、この協業の今後に寄せる期待をお聞かせください。
- 野田
- これまでスタッフコマースに取り組んできた中で大きなジレンマだったのが、この手法がなかなか業界を越えて広がっていかないことでした。博報堂DYグループの皆さんとタッグを組んだことで、スタッフコマースを適用できるマーケティング領域が広がるだけでなく、たくさんの業界の企業の皆さんにスタッフコマースを活用していただけるようになると思っています。
- 瀬戸
- ファナティックはツールを提供するベンダーであり、これまではツールの開発から導入支援までが主なミッションでした。この新しい座組みによって、ツール導入以降もクライアントに寄り添って事業成長に寄与できる体制が整いました。このチームで、スタッフコマースの可能性をどんどん拡大させていきたいですね。
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野田 大介ファナティック 代表取締役ファッション誌の編集、スニーカーブランドの生産管理、アパレルブランドでの通販責任者を経て、2016年に株式会社ファナティック設立。大手アパレル通販のリニューアル支援や売上改善の傍ら、2017年にLINE公式アカウントの自動配信ツール「ワズアップ!」を提供開始。2020年には日本で6人だけのLINEの認定講師 LINE Frontlinerに任命(2022年現在9名)。2021年には動画接客ツール「ザッピング」の提供を開始。
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瀬戸 航ファナティックファッション誌編集者、Webサイト/ECサイト/アプリの企画・開発・運用を経て2020年にファナティック入社。アパレル企業を中心に延べ100社を超えるデジタル領域での支援実績を持つ。ファナティックでは、LINE公式アカウントの自動配信ツール「ワズアップ!」、動画接客ツール「ザッピング」の機能開発や導入プロジェクト管理、カスタマーサクセスを担当し、クライアントECの売上向上を支援
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戸田 充幸アイレップ ソリューションビジネスUnit長年PR・広報業に携わり、総合PR会社の立ち上げ参画を経て、アイレップに入社。アパレルや化粧品・ラグジュアリーブランド・商業施設・金融機関など幅広いジャンルのSNSやLINEの運用を戦略立案からコンサルティングまで従事。セミナー(ウェビナー)や社内外向け勉強会へも登壇。フルファネルでのデジタルマーケティングコミュニケーションを支援。
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博報堂 DXソリューションデザイン局
イノベーションプラニングディレクターシステムインテグレーター、メディアサービス企業を経て、博報堂入社。システムインテグレーターでは資産運用会社向けのSaaSサービスの開発に従事。メディアサービス企業では分譲マンションデベロッパー向けにマーケティング、メディアプランニング、商品開発を担当。博報堂では、OMO、B2Bマーケティング、MaaSのプランニングチームを歴任し、事業開発、UX、DX、AI等のテーマで得意先業務をアップデート。JDLA Deep Learning for ENGINEER 2021#2。
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博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局テクノロジーを起点に事業・サービス領域の顧客体験からビジネスデザインまでを推進するクリエイティブビジネスプロデューサー。営業部門経験を経て、現在はクリエイティブ部門にて、OMO・コマース領域におけるビジネスデザインを見据えた顧客体験の設計から実装までを推進。
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博報堂 ショッパーマーケティング事業局通信販売会社、通信会社を経て、博報堂に入社。通信販売会社では、MD・海外生産地開拓・を行う。通信会社では、ECモール・ライブコマースのサービス立ち上げから事業戦略・実装までEC領域全般に携わる。博報堂では、「HAKUHODO EC+」に所属し、ECコンサルタントとして事業戦略から実装に至るまで推進。