おすすめ検索キーワード
スタッフコマースの可能性 【第4回】「スタッフコマース×Something」の多様な展開 (後編)
BUSINESS UX

スタッフコマースの可能性 【第4回】「スタッフコマース×Something」の多様な展開 (後編)

「スタッフコマース×Something」の可能性を探る座談会の後編では、スタッフコマースにおけるUI/UXなどについての意見を交えながら、さまざまな生活者接点やマーケティング手法の組み合わせをトータルなエコシステムとしていく方向性を探りました。「人」を軸とした新しいコミュニケーションの方法であるスタッフコマース。そのエコシステムのあり方とは──。

野田 大介氏
ファナティック 代表取締役

中嶋 洋巳氏
空色 代表取締役

榮多 一郎
アイレップ
ソリューションビジネスUnit

福島 天士
博報堂プロダクツ
リテールプロモーション事業本部 リテールテクノロジー部

根崎 佳菜子
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC) 
クロスマーティング本部 クロスコマース局 データフィードコンサルティング部

「デジタルサイネージ×スタッフコマース」の可能性

──デジタルサイネージを活用したスタッフコマースにはどのような可能性が考えられますか。

福島
さまざまな可能性があると思います。例えば、SNSでスタッフの皆さんが発信しているような限定セールの情報などを店頭のサイネージに表示するという方法が一つ考えられます。ショート動画をSNS感覚で店頭で展開するやり方ですね。

それから、先にも触れたように、会員情報、ECでの購買履歴といったデータをもとに、それぞれの顧客に最適なリコメンド動画を流すことも技術的に可能です。オンラインの情報をもとに店頭での購入を後押ししていくということです。デジタルとリアルを一体のものとして捉えて、購買行動を促していくコミュニケーションを僕たちは「Shopper DX™構想」と呼んでいます。その構想において、スタッフコマースは一つの軸になりうると思います。

──店頭での接客の際にショート動画を活用するという方法もありそうですね。

福島
あると思います。例えば、アパレルショップで接客しながら自分のコーディネート動画を見せたり、ほかのスタッフが提案している動画を見せたりすることで、顧客の多様な嗜好性に対応することができるはずです。
野田
接客のサポートツールとしてスタッフコマースという考え方ですよね。リアル店舗では、接客の主体はあくまでもスタッフです。その接客の質を高めたり、提案の幅を広げたりするためにショート動画を使うことはとても有効だと思います。
福島
スタッフコマースのショート動画の強みは、比較的手軽につくれる点にあります。例えば、食品スーパーなどで、今日のおすすめ食材や、それを使った調理の仕方といったタイムリーな動画をつくって、店頭のサイネージで配信する方法にも可能性を感じます。スター性のある販売スタッフや、日頃は表に出てこないバイヤーなどが登場するのも面白いと思いますね。

ECサイトのUI/UXは「SNS化」していく

──スタッフコマースにおけるUI/UXの考え方についてもご説明いただけますか。

中嶋
スタッフコマースのコンテンツと生活者との接点はさまざまです。Instagram、YouTubeといった多様な接点におけるコンテンツとの接点ををECサイトに統合する仕組みを僕たちは提供していきます。それぞれの接点で配信しているショート動画や画像をECサイトに集め、AIを活用してユーザーごとにコンテンツを出し分けたり、関連する商品やサービスと組み合わて表示する仕組みです。いわば、多様なコンテンツをマッシュアップして生活者に届けるわけです。

その際、従来のECのようなツリー構造、つまり、どこにどのような情報があるかをユーザー側が考えながら買い物をするというUI/UXでは、SNSから流入してきた人たちが離脱しやすい傾向にあります。必要なのは、SNSとECのUI/UXのギャップを埋めることです。SNSとECの閲覧時間を比較すると、現在はすでにSNSのほうが長くなっています。ですから、SNSのUI/UXをECに適用していくというのが自然な流れだと思います。

──コンテンツも「人」中心になっていくということでしょうか。

中嶋
販売スタッフの方など「人」が出てくるコンテンツには強いメッセージ力があります。SNSにおけるショート動画も人が登場してくるものがほとんどですよね。今後、Z世代を中心にSNSに慣れ親しんだ人たちがマジョリティ化していくと考えれば、SNS的な人中心のコンテンツがECでも主流になっていくのではないでしょうか。
根崎
生活者の消費行動は、モノ消費からコト消費へ、コト消費から「人消費」へと変化してきたと言われています。例えば20年くらい前だと、ファッションリーダーと呼ばれる人はほんの数人くらいしかおらず、みんながその人の装いを参考にして服を買ったりしていました。しかし現在は、SNSの中に無数のファッションリーダーがいる時代です。それぞれの生活者が自分の好みにあった「人」を見つけて、その人を介して買うものを決めていく。スタッフコマースは、そんなSNS時代の「人消費」における有力な方法の1つになると思います。

スタッフコマースを軸としたエコシステム

──スタッフコマースは、さまざまなマーケティング手法との親和性があることがわかりました。それらを「点」ではなく、トータルなエコシステムとして展開していくにはどうすればいいか。それぞれのお考えをお聞かせください。

根崎
私たち自身もどうしても「点」で考えがちですが、今後は、SNS、ECサイト、店舗といった生活者接点の全体を見ながら、導線をしっかり考えてショート動画を有効に活用していくことが求められると思います。その際に、データフィードを活用することで、あらゆるチャネルへ効率的にショート動画を露出させることが可能になると考えています。 それが実現すれば、クライアントにとってのスタッフコマースの価値は大きく向上するのではないでしょうか。
榮多
エコシステムをつくるためには、スタッフコマースへの取り組みの事例を増やしていくことが必要だと僕は考えています。スタッフコマースは非常に幅広い業種・業態でお使いいただける手法ですが、現在の活用例はアパレルやコスメなどの一部業界にとどまっています。多くの企業にスタッフコマースにチャレンジしていただき、その可能性を感じていただくこと。それが出発点になると思います。もちろん、そのためのサポートをしっかりさせていただきます。
中嶋
ポイントは3つあると僕は考えています。まず、カスタマージャーニーをしっかり設計すること。そして、ジャーニーのフェーズごとに最適なUI/UXを考えること。それから、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)を活用していくことです。この3つに取り組むことによって、スタッフコマースをより強力なマーケティング手法にしていくことができると思います。

スタッフコマースは、広告文脈と購買促進文脈の2つに大きく分けられます。広告文脈では、よりアピール力のあるスタッフがコンテンツに登場し、人や商品を生活者の記憶にとどめてもらうことが重要です。一方、購買促進文脈では、生活者が店舗に来たときにスタッフとの会話の発生率が上がるようなコンテンツ展開を工夫する必要があります。SNSのショート動画に登場していたスタッフが店舗にいて、顧客の方から思わず声をかけてしまう。そこで会話が弾み、そのスタッフが提案した商品の購買率が上がる──。そんな展開が理想の形の一つだと思います。

広告文脈と購買促進文脈のスタッフコマースのそれぞれのKPIを設定し、その複合によって全体の売り上げが上がっていく。そのような方向を目指すべきだと僕は考えています。

──「Shopper DX™構想」もエコシステムづくりの試みの1つと言えそうですね。

福島
これまで別々の顧客接点と考えられていたECとリアル店舗をシームレスにつないで、ECにおける買い物体験をリアルにも適用していくというのが「Shopper DX™」の基本的な考え方です。そう考えれば、これもまさに一種のエコシステムと言えると思います。そのシステムの1つのコアツールがショート動画ということです。

──最後にショート動画作成ツール、ザッピングを提供する立場である野田さんから、今日の対話を締めくくっていただきます。

野田
ECは「エンタメコマース」になるべきであるというのが僕の一貫した持論です。
そう考えたのは、ECが「便利で効率的」というところにフォーカスされることによって、買い物の面白さや楽しさが薄れてきているという実感があったからです。その課題を解決するために開発したツールがザッピングです。「人」を中心としたショート動画で商品やサービスの魅力を伝えることによって、EC体験がより豊かになる。そう僕は考えています。

ショート動画を活用したスタッフコマースの特徴は、商品を紹介するだけでなく、それを紹介しているスタッフの皆さんの個性や感性が生活者に伝わることです。顔の見える人の個性や感性を通じて、魅力的な商品と出会い、それを買うことで生活が楽しくなっていく──。そんなマーケティング手法がスタッフコマースであるということを多くの企業の皆さんにお伝えしていきたいですね。

sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 野田 大介
    野田 大介
    ファナティック 代表取締役
    ファッション誌の編集、スニーカーブランドの生産管理、アパレルブランドでの通販責任者を経て、2016年に株式会社ファナティック設立。大手アパレル通販のリニューアル支援や売上改善の傍ら、2017年にLINE公式アカウントの自動配信ツール「ワズアップ!」を提供開始。2020年には日本で6人だけのLINEの認定講師 LINE Frontlinerに任命(2022年現在9名)。2021年には動画接客ツール「ザッピング」の提供を開始。
  • 中嶋 洋巳
    中嶋 洋巳
    空色 代表取締役
    2013年10月 株式会社空色を創業。チャットを軸としたウェブ接客ソリューション「OK SKY」の開発・提供を開始。2016年から直感的で楽しいWEB接客ソリューション「WhatYa」(ワチャ)を提供開始し、AIと人を組み合わせた
    新たな購買体験の創出に取り組む。
  • 榮多 一郎
    榮多 一郎
    アイレップ
    ソリューションビジネスUnit
    広告制作会社でのクリエイティブ領域における経験を活かし、株式会社アイレップに入社。統合ソリューションを主軸に、プロモーション提案・設計、メディア構築・利活用など幅広い領域を支援。
  • 博報堂プロダクツ 
    リテールプロモーション事業本部 リテールテクノロジー部
    大手車メーカー、大手通信会社、外資系車メーカー、大手流通のBTLプロデューサーとして従事。その間、全国ディーラーへのサイネージ導入やGMS全店1000台以上のレジ前サイネージの導入など、企画、施工コンテンツの制作、配信運用、保守までトータルプロデュース。2019年より現職。大手SMの全店サイネージ導入など、「場所や時間の制限を超えて、より質の高い買物体験を創っていく Shopper DX™」構想をもとに得意先の課題に対してリテールのDXを推進、プロデュースしている。
  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)
    クロスマーティング本部 クロスコマース局 データフィードコンサルティング部
    2016年にDAC中途入社。SNSプラットフォームのプランナーとして、ファッション/不動産/人材/BtoBなど幅広い業種のダイレクト案件を担当。2019年にプラットフォーム横断でダイナミック広告やショッピング広告を支援する組織の立ち上げおよびデータフィードマネジメントツール「seil」のローンチに寄与。現在に至るまで、自社ECの売上最大化に向けた各種プラットフォームの活用支援および新規サービスの開発に従事。