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NFTとは「共創」を促す技術である ─「NFT1.0」から「NFT2.0」へ
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NFTとは「共創」を促す技術である ─「NFT1.0」から「NFT2.0」へ

ブロックチェーンの技術を活用した仕組みであるNFT(非代替性トークン)に注目が集まっていますが、その技術や価値についてはまだ誤解が多いことも事実です。あらためてブロックチェーンやNFTとは。その本質的な価値は何なのか。そして、それによって実現される新たなビジネスとは──。『NFT1.0→2.0 インターネット以来のパラダイムシフト』(総合法令出版)を著したHAKUHODO Blockchain Initiativeのメンバーであり、一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブの代表理事を務める伊藤佑介に聞きました。

HAKUHODO Blockchain Initiative/博報堂 ビジネス開発局
一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ 代表理事
伊藤 佑介

インターネット以来のイノベーション

──伊藤さんとブロックチェーンとの出会いは2016年だそうですね。

伊藤
通勤途中にたまたま読んだオンライン記事がきっかけです。管理者がいないのにシステムが動いて、事実上データの改ざんが絶対にできない技術である──。そのことを知って、間違いなくインターネット以来のイノベーションだと確信しました。自分の人生でここまでのイノベーションに出会うことはもうないかもしれない、と。

ブロックチェーンの技術はのちにNFTに使われることになりますが、その時点では仮想通貨以外にまだ具体的な利用例はほとんどなく、広告業界でもブロックチェーンに関する動きはありませんでした。そこで、テックベンチャーや技術者のコミュニティに個人的に参加して、ブロックチェーンについての知見を深めていきました。

──その後2018年に、ブロックチェーン技術を活用したビジネスやサービスを開発する社内プロジェクト「HAKUHODO Blockchain Initiative(博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ)」を発足することになったのですね。

伊藤
はい。仕事としてブロックチェーンに関わるようになったのはそれからです。HAKUHODO Blockchain Initiativeは、これまでに外部のテックベンチャーと協業しながら7つのサービスを開発してきています。

──そして、その活動と並行して、一般社団法人であるジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ(以下、JCBI)も立ち上げたんですね。

伊藤
そうです。さまざまなブロックチェーンの取り組みを進めていく中で、「ブロックチェーンとは企業間の共創を促進する技術である」という信念をもつようになりました。その共創の基盤となる集合体として、メディアやコンテンツ関連の企業7社と2020年2月にJCBIを立ち上げました。

その頃から、NFTはデジタルコンテンツの売買に活用できる技術として注目が集まっていましたが、発足時のメンバーは、「NFTの本質は投機的なコンテンツ売買ではなく、共創型の企業間連携にある」という考え方を共有していました。その後、いろいろなプレーヤーが参加してくださるようになり、現在は加入企業が40社にまで増えています。加入を勧めてきたということではなく、ブロックチェーンという技術に関心がある方と自然にご縁が繋がってきた中で、みなさんが主体的に加わってくださっています。

ブロックチェーンの本質的価値は企業間の連携を進めること

──先ほど、「ブロックチェーンとは企業間の共創を促進する技術である」とおっしゃいましたが、その意味を教えていただけますか。

伊藤
ブロックチェーンの技術を活用した代表的な仕組みであるNFTを例に挙げてお話しします。NFTとは、「ある人があるものを所有している」ことを保証するデジタル証明書です。その内容は絶対に改ざんできず、かつその証明書はインターネット上で誰でも見ることができます。また、所有者が変わった場合もその履歴情報がすべてNFTに記録されます。

ビジネスの文脈で考えるならば、NFTとはユーザーが「自分はこういうものを所有している」と企業側に証明できる仕組みです。企業はその証明書を通じてユーザーのニーズや嗜好をつかみ、そのユーザーにどのようなサービスを提供すれば喜んでくれて、かつ自社の収益になるかを考えることになります。つまり、インターネット上のコミュニケーションにおける主権が企業から個々のユーザーに移るわけです。

NFTの情報はオープンなので、そのユーザーに対していろいろな企業がアプローチすることが可能になります。NFTを軸とした豊かなユーザー体験を提供するには、企業間の連携が最も有効な方法だと考えられます。なぜなら、一つの会社で提供できる体験には限界があるからです。豊かな体験価値を新たに生み出すために企業が共創し、その結果ユーザーと個々の企業の双方にベネフィットがもたらされる。それが「ブロックチェーンとは企業間の共創を促進する技術である」ということの意味です。

──これまでユーザーは、企業が運営するプラットフォームや企業が提供するサービスにアクセスしたり、登録したりすることによってベネフィットを得ていました。その意味で、これまでのインターネットの世界では企業側に主権があったと言えるわけですね。

伊藤
そうです。つけ加えるならば、企業間の関係においても主権を握っている企業とそうではない企業がありました。データのやり取りで言えば、データをもっている企業がデータを使いたい企業に提供するという一種の主従関係があった。それに対して、ブロックチェーンで管理されるデータは誰のものでもありません。ブロックチェーンとは、いわば公共の広場のようなものです。その上で、イーブンでフェアな関係を結ぶことができるわけです。

──ブロックチェーンとNFTを基盤にしたユーザーと企業の関係のイメージをもう少し具体的に教えていただけますか。

伊藤
例えば、ある企業のプラットフォームでキャラクターのデジタルコンテンツを購入すると、現在はそのプラットフォーム上のサービスでしか使えません。しかし、そのキャラクターにNFTが付与されると他の企業もそのユーザーがキャラクターを所有していることを確認できるようになるため、プラットフォームの垣根を超えて、キャラクターを他の企業のさまざまなサービスでも利用できるようになります。具体的には、そのキャラクターをアバターにして別の会社のメタバースに入ったり、さらに別の会社のゲームでプレイしたりするといった使い方です。しかも、それを実現するために企業間のシステムを連携するなどといった大掛かりな開発は必要なく、各社がサービスにNFTウォレットを導入するだけです。

企業側から見れば、他の企業とアライアンスを組むことによって、立体的で多様な体験をユーザーに提供できるようになる。IPホルダーやメタバース運営企業、ゲーム開発会社……さらには今はまだ誰も思いつかないような業種の企業がアライアンスに加わることもありうると思います。そのような企業間アライアンスを可能にすることこそが、ブロックチェーンの本質であると僕は考えているんです。いろいろな企業がフラットに連携すれば、ユーザー体験の価値を何倍にもできます。

NFTは企業と生活者をつなげるツール

──そういった考え方をまとめたのが、今年6月にJCBIから発刊された書籍『NFT1.0→2.0 インターネット以来のパラダイムシフト』ですね。ここで言われている「NFT1.0」とはどのようなものを指しているのですか。

伊藤
現在のNFTは、コンテンツの二次流通の可能性におおむねフォーカスされています。つまり、転売ですね。確かに、NFTによってコンテンツの転売経路がトレースできるようになったり、著作権者に二次流通以降の利益を還元できるようになったりできるところは、これまでにない新しい仕組みです。

しかし、暗号資産投資家のようなアーリーアダプターではなく、一般のコンテンツファンの目線に立って二次流通の在り方を捉えると、今のNFTのままでは広く社会実装されていかないことがわかります。例えば、コンテンツファンの多くは、自分が好きで購入したものをあえて転売しようとは考えません。それを所有していること自体に価値があるからです。また、当たり前のことですが、二次流通が盛んになると、コンテンツ企業の事業の柱である収益率の高い一次流通の売上が下がってしまいます。みんなが中古品を買うようになったら、新品は売れなくなりますからね。つまり、単にNFTの二次流通の可能性だけにフォーカスした取り組みをしていても、そのままではキャズムを超えることはできず、マスアダプテーションは進んでいかないということです。

「NFT1.0」とは、そういったコンテンツの転売や投機のツールとしての側面に寄った現在の暗号資産投資家をターゲットとしたNFTのことを指しています。それに対し、企業と企業がつながり、企業と生活者がつながるためのツールとしての側面に着目している未来のNFTを「NFT2.0」と呼んでいます。

──NFTに関してはまだ誤解される部分もあるようですが、「NFTコンテンツ」というものがあるわけではなく、単にコンテンツの現在の所有者やこれまでの所有者の履歴を証明できる技術がNFTということですよね。

伊藤
そのとおりです。NFTとは証明書に過ぎません。さらに言えば、NFTはデジタル情報ですが、それが証明する対象はデジタルコンテンツに限りません。フィジカルなモノの所有者を証明することも可能です。むしろ、物理的なモノとの相性の方がいいと僕は考えています。なぜなら現時点において、多くの生活者に広く価値を認められ、その所有者を証明する必要があるのは、むしろモノの方だからです。

例えば、人気のあるヴィンテージカーのオーナーであることNFTで証明する場合、その車体にNFC(Near Field Communication:近距離無線通信)チップを組み込むことで可能になります。NFCチップとは、交通系ICカードなどに入っているもので、偽造や改ざんをすることが困難です。スマホを車体にかざしてNFCチップをスキャンし、ユーザーのウォレットにオーナー証明書NFTを入れれば、デジタル上でオーナーであることを証明できるようになります。NFTのオーナー証明書は誰もが見ることができるので、自動車メーカー以外の企業も、そのヴィンテージカーのオーナーに対してデジタル上のさまざまな接点でアプローチし、新しい体験を提供して収益を上げることができます。一方で、自動車メーカーは自社がコストをかけなくとも、自社の車を所有するオーナーのCSを向上することができます。今後目指されるべきは、そのような生活者側のベネフィットに立った共創型の企業間連携ビジネスであると僕は考えています。

繰り返しになりますが、そこでは企業間アライアンスが大きな意味をもちます。これまでアライアンスを組むことがなかった、例えば自動車メーカーとゲーム開発会社、メタバース運営会社などの連携は大いにありうると思います。そのアライアンスによって、レースゲームを自分がリアルに所有している車でプレイできたり、メタバース空間内で自分の車に乗ったりといった、まったく新しい体験を提供できるようになるでしょう。

「パートナー主義」がいっそう意味をもつ時代に

──NFTを軸とした企業間アライアンスにおいて、博報堂DYグループはどのような役割を果たせると思いますか。

伊藤
さまざまな可能性があると思います。博報堂DYグループには、あらゆる産業領域の企業との接点があり、かつ企画力、プランニング力があります。NFTを活用して、これまでの常識では考えられなかったような企業間のアライアンスを実現し、生活者の想像を超えたユーザー体験を生み出すことができるのが我々のグループの強みだと思います。例えば、「オープンCRMアライアンス」のような枠組みをつくれば、多くのクライアントにメリットがもたらされるのではないでしょうか。このアライアンス構想にご興味を持っていただける方はぜひご連絡ください(笑)。

これからの時代は、一つの会社で利益を独占するよりも、企業間アライアンスによって提供できる価値を最大化する方が、それぞれの企業にもたらされるベネフィットが結果的に大きくなると僕は考えています。博報堂DYグループはもともと「パートナー主義」というグループポリシーを掲げていますが、今後はその意味が一層重要になってくるはずです。企業と企業のパートナー化を支援し、僕たち自身も多様なパートナーと連携していく。そして、それによって新しい生活者体験を生み出していく──。そんな方向を目指していけたらと思います。

──JCBIの今後の方向性についてもお聞かせください。

伊藤
JCBIのメンバーは「アクションにこそ価値がある」というフィロソフィーを共有しています。これまでの2年半は仲間づくりの時期でした。そしてこれからいよいよ具体的な共創を起こすフェーズに入っていきます。JCBIの仲間でたくさんの共創にチャレンジして、継続性のあるビジネスを生み出し、ブロックチェーン活用のエコシステムを拡大していくことが今後の目標です。共創のベースになるのは、企業と企業、人と人との信頼関係です。目指すべきは、「信頼関係のプラットフォーム」としてのJCBIです。

また、社会で働くいち生活者としても、共創が進めば、一つの会社の領域だけで働くというこれまでのいわば「閉じた働き方」が変わっていくと僕は思っています。企業間連携を通じて、まったく異なる業種の仲間と一緒に働くことで、他の会社の領域を経験をすることが可能になる。そしてそれが働きがいとなり、仕事のモチベーションが上がり、生産性も上がっていく。共創によって、そんな新しい働き方を実現して、働き手としての生活者もエンパワーメントしていきたいとも思っています。

『NFT1.0→2.0 インターネット以来のパラダイムシフト』
著者:伊藤佑介
判型:四六判、256ページ
定価:1,400円+税
出版社:総合法令出版
発売日:2022年6月13日
Amazonリンク:https://www.amazon.co.jp/dp/4862808530/

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  • HAKUHODO Blockchain Initiative/博報堂 ビジネス開発局
    一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ 代表理事
    2002年に東京工業大学理学部情報科学卒業後、システムインテグレーション企業を経て、08年博報堂に入社。16年からメディア、コンテンツ領域のブロックチェーン活用の研究に取り組み、18年にブロックチェーン技術を活用したビジネスやサービスを開発する社内プロジェクト「HAKUHODO Blockchain Initiative(博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ)」を発足。20年より一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブにて代表理事も務める。