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【Media Innovation Labレポート.3】「投げ銭」市場最前線(前編)
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【Media Innovation Labレポート.3】「投げ銭」市場最前線(前編)

動画配信サービスなどで、視聴者が配信者に対し、有料アイテムやギフト、お金を課金する――いわば現代版おひねりともいえる「投げ銭」システム。新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化を契機に、さまざまな新しいデジタルコンテンツが誕生し、複数のプラットフォームで「投げ銭」が大きな盛り上がりを見せています。すでに中国、米国でも大きな市場を形成している「投げ銭」の現状と今後の可能性について、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ※)の永松範之と江口英里に、博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局兼Media Innovation Labの島野真が聞きました。
(これまでのレポートはこちら)

■配信者と視聴者のインタラクティブなやり取りを盛り上げる「投げ銭」

――コロナ禍でリアルなイベントの開催が難しくなり、主催者側にとってはいかに収益を得るか、またファンにとってはいかにアーティストやプレイヤーを支援するかが課題となりましたが、その解決策の一つとして「投げ銭」の注目度が急速に高まっています。まずは投げ銭市場の概要から教えてください。

永松
投げ銭は何年も前からある程度の潜在的ニーズがありましたが、おっしゃるようにコロナ禍によって急速にニーズが高まっていきました。プラットフォーム、サービス側も、それに合わせてさまざまな仕組みを拡充させ、より“投げ銭しやすい”環境が整ってきたことが、急速に一般化した背景にあります。数年前にもちょっとした投げ銭ブームがあったのですが、当時はまだきちんとしたデジタルマネーも仕組みもなかったため、ブームは収束しました。また当時の投げ銭は単独のコンテンツに紐づいたものでしたが、最近はファンコミュニティの方に紐づいているといえます。アーティストのライブ配信で、応援する人たちが次々と投げ銭することでその場が盛り上がり、熱狂が生まれるのです。投げ銭する側も楽しくなり、熱くなれるような仕組みが整っています。
江口
私自身、コロナをきっかけにインスタグラムやYouTubeなどでライブ配信を見る機会が増え、投げ銭について知りました。現在誰でもスマートフォンひとつで気軽にライブ配信ができるので、アーティストだけでなく一般の配信者も非常に多いですし、受け皿としてのプラットフォームもたくさん存在します。そうした環境下で、投げ銭が広く活用されています。

――そもそも、投げ銭システムはどのように機能しているのでしょうか。

永松
投げ銭をするのは、視聴者、つまり生活者です。その対象は、シンプルに商品やコンテンツといった「モノ」の場合もあれば、イベントやスポーツの試合といった「場」に対して参加費として投げ銭する場合もあります。そして最近非常に盛り上がっているのが、ライブ配信者やチームといった「ヒト」に対する投げ銭。配信内容は、ゲーム実況だったり雑談的なトークだったりとさまざまですが、投げ銭してくれた人に対し配信者が感謝のコメントをするなどインタラクティブなやり取りが行われることで、ますます視聴者は投げ銭が楽しくなり、ある種の熱狂が生まれている。投げ銭自体も、デジタルマネーなど実際にお金に近いものもありますが、最近はデジタルギフト――LINEでいうスタンプのようなものがやり取りされているなど、お金を贈る以上にコンテンツ化しています。
江口
動きのあるアニメーション付きのスタンプなど、見飽きない凝ったデザインのものが増えてきています。ファンがデジタルギフトを購入し投げ銭すると、配信者はそれをお金として受け取ることができます。高額になるほど、ギフトもスポーツカーになったり東京タワーになったりと「高さ」を感じられるので、見ている側にも非常にわかりやすく、かつ楽しめる形になっています。また、代表的なファンに“ガーディアン(17LIVEにおける名称)”という称号を与え、その人のコメントを目立たせたりするなど、“ファンに役割を与える”演出も行われています。一方、ファン自身も自発的にコミュニティをつくり、SNS広報は誰、戦略担当は誰、といった役割分担をして世界観を築いていっています。そんなコミュニティの盛り上がりも、投げ銭をするきっかけにつながっています。
永松
ファンにとっても演出や報酬が用意されているので、多分にゲーム性があるとも言えます。そのため、はまりやすいのだと思います。

ユーザーの動機をもう少し掘り下げると、感動の表現として、あるいは配信者やコンテンツに満足した、共感した、という場合に投げ銭をしています。配信者がゲームで1位になるなど場が盛り上がったその時々で、衝動的に投げ銭をしたくなるということもあるようです。また、プラットフォームでは配信者同士を投げ銭の額で競わせるイベントなども行っており、自分が応援している配信者を勝たせたいためにどんどん投げ銭をするということもあります。まさにアイドルの握手券を買うとか、人気投票の投票権付CDを買うといった感覚と同じですね。さらには、リアルのライブができないアーティストが行うオンラインライブに、視聴料だけでも払って支援したいという気持ちで投げ銭するなど、ドネーションに近い動機もあります。こうしたいくつかの価値が混じっているところも、投げ銭が広がっているポイントかもしれません。

――ビジネスモデルはどうなっているのですか?

永松
スマホの場合、投げ銭をしたお金はアプリストアを通すことになるので、そこで手数料が発生することがあります。その先で言うと、投げ銭されたお金はプラットフォーム、サービス側に入り、そこから配信者に報酬が分配されるというのが基本モデルです。通常プラットフォーム、サービス側が30~50%の手数料をとり、配信者には残りの50~70%が分配されます。配信者も多様化していて、一般人もいますが、いわゆるMCN(マルチチャンネルネットワーク)といわれるマネジメント会社に所属する人もいて、その場合は配信者と事務所で分配が行われています。

■中国、米国、日本それぞれの投げ銭市場を見る

――投げ銭先進国ともいえる、中国の市場について教えてください。

永松
中国では、もともと紅包(ホンパオ)と呼ばれる、親戚や友人同士でお金を贈り合うお年玉のような文化がありましたが、スマホとデジタルマネーの普及に合わせ、それが投げ銭の形で拡大しました。60%ほどの国民が、紅包には投げ銭を活用するというデータもあるほどです。もともとそうした文化、習慣があったことに加え、WeChat Payが国民の標準的な電子決済インフラとしてすでに普及していたこともあり、投げ銭市場も一気に拡大していきました。先ほどの紅包に加え、たとえば普段の生活の様子を配信しているお茶農家や、受験勉強の様子を配信している高校生に対して気軽に投げ銭したり、レストランの店員に対しチップ代わりに投げ銭したりなど、さまざまなシーンで活用されています。
江口
配信内容も、日本ではアイドルを目指している人や、素人とプロの中間にいるような人による配信が多い印象ですが、中国の場合はもっと多様です。お茶農家も高校生もそうですが、ごく普通の人が自分の専門知識や豆知識を共有したり、お笑いのネタをやったり、ユニークで幅広いジャンルのコンテンツが人気ですね。

――中国にはどんなプラットフォームがありますか?

江口
特に伸びているのは、TikTokの中国国内版であるDouyin。ゲーム実況が盛んなほか、配信者同士で投げ銭をどれだけ集められるか対決するゲーム機能もついていて、ARのエフェクトも特徴的。ゲーム性の強い使い方がされています。Bilibiliは、VTuberなど2次元キャラクターの配信でも多く利用されています。YYは日本のプラットフォームであるSHOWROOMの原型とも言われていて、投げ銭ビジネスを最初に始めたといわれるライブ配信サービスです。
永松
その中でももっとも規模が大きいのは、DAU(Daily Active Users)が1億人を超えているというDouyinでしょうね。データを見ると、1週間に3000万円を投げ銭から稼ぐ配信者もいて、日本、ひいては世界的に見ても市場規模が桁違いという感があります。

――米国市場の特徴についても教えてください。

永松
米国ではeスポーツ、つまりPCでのオンライン対戦型ゲームが非常に盛んだったところへ、チャットを使ったゲーム内コミュニケーションが広がっていき、そこからプレイ中のゲーム画面を中継、配信するという文化が生まれていきました。ですから配信するユーザー、またそれを見る視聴者がもともと非常に多かった。そして、Twitchなどゲーム実況プラットフォームが投げ銭を導入したことで一気に普及していきました。Twitchにはゲーマー以外の配信者もいて、最近ではコスプレ的にさまざまな衣装を着こんで配信する人が人気を集めるなど、個人で自己プロデュースし、表現する人も増えてきています。

――では日本市場の特徴について教えてください。

永松
日本の場合、アイドルを応援する“推し文化”がもともとあり、その発展上に投げ銭の普及があると考えられます。通常、ファンからアイドルに対してリアルに金銭を贈ったり、直接プレゼントを贈ったりすることは許可されておらず、その代わりに握手券やCDを買って応援していた。投げ銭は、そんな応援したいという気持ちに応える新たなシステムとして支持されていったのです。ポイントとなるのはリアルタイム性。普通のグッズ購入と異なり、投げ銭を通じたリアルタイムなやり取りによって、相手の反応を得ることができるため、ファンにとっても刺激的で熱狂しやすい環境だと思います。
江口
プラットフォーム側も、応援の形が目に見えるように工夫しています。たとえば、投げ銭の獲得ランキングで1位になった配信者は人気女性ファッション誌の出演権を得られる、といったオーディション形式のイベントなど、視聴者にとって応援の成果が目に見えてわかるイベントがいくつも企画されていて、継続して応援したいという気持ちを持ち続けられるような仕掛けを施しています。

一方配信者側も、たくさんギフトを贈り続けてくれるようなファンがいれば、そのファンの名前を手元のスケッチブックに書いて掲示してお礼のコメントを言ったり、入室した一人ひとりに対して「来てくれてありがとう」といった言葉をかけたりしています。そういうインタラクションを通して、こまめにファンを把握し、応援したくなるような環境をつくっています。ファンが喜ぶさまざまな方法を実践し、演者の演出、企画力がどんどん磨かれていっていることも、市場が広がっている背景にはあると思います。

永松
また、日本市場特有の現象として、VTuberの圧倒的な存在感があります。日本で生まれたVTuberはそのキャラクター性も相まってデジタル上における新たなアイドル像を作っています。日本のVTuberへの投げ銭はYouTubeのコメント付き投げ銭「スーパーチャット」のランキングでも上位に並んでいて、日本の視聴者のみならず世界中の視聴者にも広がっています。実際に人気VTuberの動画を見るとさまざまな通貨での投げ銭が飛び交っていて不思議な感じもします。

※後編では各配信プラットフォームにおける活用事例、新たなビジネスの可能性などについて紹介していきます。

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アドトランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。
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  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局長
    2004年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社、ネット広告の効果指標調査・開発、オーディエンスターゲティングや動画広告等の広告事業開発を行う。2008年より広告技術研究室の立ち上げとともに、電子マネーを活用した広告事業開発、ソーシャルメディアやスマートデバイス等における最新テクノロジーを活用した研究開発を推進。現在はAIやIoT、AR/VR等のテクノロジーを活用したデジタルビジネスの研究開発に取り組む。専門学校「HAL」の講師、共著に『ネット広告ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター刊)等。
  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局 広告技術研究室
    2018年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社。広告技術研究室にて最新テクノロジー全般の調査や広告業界団体の情報収集を担当。5G、音声広告、ヘルスケアテックを個人調査テーマ(関心領域)としている。
  • 博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局局長 兼 Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ)リーダー
    1991年博報堂入社。主にマーケティング部門に在籍し、飲料、通信、自動車、サービスなど各企業の事業・商品開発、統合コミュニケーション開発、ブランディング業務を担当。2012年よりデータドリブンマーケティング領域で、マーケティングとメディアを統合した戦略立案・推進の高度化、DX推進に従事。2020年より博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局局長。メディア環境研究所所長兼務。共著:『基礎から学べる広告の総合講座』(日経広告研究所)

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