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食のD2C「Neighbors」、立ち上げの舞台裏コミュニティ力でコマースは新時代へ ミライの事業室×ナレッジ連載VOL1
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食のD2C「Neighbors」、立ち上げの舞台裏コミュニティ力でコマースは新時代へ ミライの事業室×ナレッジ連載VOL1

博報堂・博報堂DYメディアパートナーズミライの事業室と博報堂DYメディアパートナーズナレッジイノベーション局のコラボ連載始まりました。第一弾のテーマは、食のEコマース事業。株式会社FOOD&COMPANYの白冰(バイ・ビン)氏、谷田部摩耶氏、武蔵野美術大学岩嵜博論教授と博報堂ミライの事業室の飯沼健太郎が、今年4月からスタートしたサステナブルな食と暮らしのコミュニティコマース事業「Neighbors」のスピード立ち上げの舞台裏や、コマース事業に欠かせない視点などについて語りました。

■売り手と買い手が共通の価値観でつながる新しいコマースのかたち

飯沼
今日は、オーガニックの生鮮食品やこだわりの食材を販売するFOOD&COMPANYの白さん、谷田部さん、そしてつい昨年まで博報堂ミライの事業室に在籍され、現在は武蔵野美術大学で教鞭を執られている岩嵜さんと一緒に、FOOD&COMPANYと僕ら博報堂が手掛ける新しいEコマース事業「Neighbors」立ち上げの裏側をお話していきたいと思います。

ミライの事業室では様々な自社事業を実践していますが、そのなかで「サステナブルな食と暮らし」といった社会テーマや価値観に基づいたコミュニティベースのコマースに取り組むべきではないかと考えました。

コロナ禍を受けて家の中で過ごす時間が増え、国内の食の宅配事やEコマース関連は大きく成長しました。海外では、ニューヨークなどの大都市圏で会員向けのオーガニック食品のサブスク利用者の増加が見られました。

生活者の買い物の仕方も、その都度検索して価格比較して様々なサイトで購入するというような購買行動だけではなくなってきている印象があります。信頼できるサービスの会員になり、世界観やコンテンツを楽しみながら、メンバーシップ特典などもうまく利用して、定期的に購入するという、売り手と買い手が共通の価値観でつながる新たなコマースのモデルが確立されつつあります。

日本でもこうしたコマースのあり方を実現できないかと考えていたところ、個人的にファンで何度も買い物に訪れていたFOOD&COMPANYに大きな可能性を感じました。個性的でこだわりのある多彩なブランドが選ばれ、オーガニックでサステナブルな食を暮らしに取り入れたいと考える多くのファンがいて、生産者や料理家の方たちとも共通の価値観でしっかりつながっている。お店以外にもマルシェなどを通じて、実際の生活者の場づくりも積極的に行われています。こうした活動やコミュニティをオンラインでも広げ、新しい形のつながりが創出できるのではないかと考え、お話し合いをしたことが始まりでした。

■コマース立ち上げの実装、具体的なフローと重視したポイント

飯沼
コマースの初期設計段階ではブランドの選定と仕入、お客様への販売、梱包とお届け方法など、一連の基本となる流れを作成しました。購入者、販売者、運営者、物流など、それぞれのオペレーションのフローがどのようになるかを正しく確認するためのシーケンス図と言われるものです。その後にプロダクトがどうあるべきか機能やコンテンツのワイヤーフレームづくりを行いました。

設計図の後は実装。設計した一連のフローがソフトウェアできちんと動く必要があります。これらをスクラッチでつくるのではなく、既存のSaaSを組み合わせて構築しました。具体的には、ECのアプリケーション設定とロジ周りのソフトウェアの統合。小さいチームでも増えていくTODOに対してはタスク管理ツールを使ってプロダクトのタスクマネジメントを効率的に行いました。情報の流れとともに、リアルの商品や物流のオペレーションフローのテストを実施。購入者が商品を受け取り、箱を開いたときの体験も非常に重要なので、梱包や対応の丁寧さなども確認していきました。

基本となるコマースの仕組みが出来上がった後、現在は会員向けのサービスやコミュニティづくりをオンラインとオフラインで行うための準備を進めています。

■「社会にどんな価値を届けたいか」から導き出した小売店という“答え”

僕らは9年前に、オーガニックの食品や無添加にこだわる生産者の方々の食品を扱う小売業メインのFOOD&COMPANYという会社を創業しました。イメージしたのは、ニューヨークの街角にある、店主と気軽に話ができる、スーパーとコンビニの間のような“グローサリーストア”です。生産者やご近所がつながれる、人と人がちゃんとコミュニケーションがとれる場をつくりたいという想いがありました。

谷田部
白はもともとニューヨークでファッションを学び、帰国して大手アパレル企業に就職しました。私は同じくニューヨークで国際開発を勉強していましたが、いまの日本を見ると、経済発展の先に必ずしも精神的に豊かな社会があるわけではないと感じ、本当に豊かな社会をつくるにはどうすべきかを模索していました。だったらいっそのこと二人で起業して、それを追求しようと決め、その後一緒に国内外を旅しながらどういう価値観を社会に提示していきたいかを探りました。
いろんな場所を訪れいろんな人と会うなか、オーガニックという、栽培方法でもあり思想にたどり着きました。サステナブルな方法で、家族みんなでご飯を食べることを大事にするといった価値観こそが、自分たちの考えに合っていると思ったんです。そこでオーガニックの食品を売ることで自分たちの考えを世の中に発信しようと決めました。

谷田部
先進国ながらさまざまなひずみがある日本を、なんとか健康的でサステナブルな社会に変えていきたい。まずは間口の広いビジネス形態である食の小売、というところから問題提起していき、自分たちだけではなく仲間を増やしながら、課題解決につなげていきたいと考えたんです。そう決めてから、まず互いに自然食品店や流通でアルバイトをして経験値を積むことから始めました。
1号店の学芸大学店を開くにあたっては、他店で良い商品を見つけたら裏の表示を確認し、電話して卸先を教えてもらって…という感じで、わからないことは周囲に聞きながらゼロから店をつくりました。現在、店舗は学芸大学とニュウマン新宿店、湘南T-site店があり、今年3月には代官山T-site店がオープンしました。

岩嵜
最初に学芸大学のお店に行ったとき、店がきらきらと輝いていたのを覚えています。お店としての圧倒的な存在感がありました。
ありがとうございます。小売りだけだと経済規模として影響力が小さいため、ほかにコンサルティング事業もやっていて、僕らに賛同してくれる企業といくつかの取り組みを行っています。たとえばキッチン用品を扱うVERMICULARが代官山にフラッグシップ店をオープンされた際には、素材を最大限に生かす調味料の商品をセレクトしました。ある再開発エリアで開催したマルシェでは、出品だけではなくライブなども含めてプロデュースしました。そして今回博報堂とNeighborsという共同事業をご一緒することになりました。僕らも実はすでにECにチャレンジはしていたのですが、なかなかうまくいかずクローズしようとしていた折に飯沼さんから声をかけていただいたんです。博報堂は我々にはないリソースを豊富にお持ちだし、ゆくゆくは単なるECサイトではなく、コミュニティの要素を広げ、博報堂の既存のクライアント企業と一緒に商品開発を行ったり、B2B事業も模索していけたらと考えています。

■コミュニティの力で生産と消費の分断を乗り越える

飯沼
岩嵜さんは博報堂時代、長らくブランド・イノベーションデザイン局にいらしてコンサルをされており、最後の2年間はミライの事業室でコマース事業に取り組まれていました。武蔵野美術大学での最近の取り組みについて教えていただけますか。
岩嵜
現在私は、4年前に新設されたクリエイティブイノベーション学科において、ストラテジックデザインやソーシャルイノベーション、政策デザインを研究しています。出身地である滋賀県でのフィールドワークを通じて、政策のためのデザインやサーキュラーエコノミーに関連するリサーチも行っています。
飯沼
ちなみに2013年に設立されたFOOD&COMPANYですが、2015年、日経産業新聞で岩嵜さんの連載コラムですでに取り上げているんですよね。
岩嵜
はい。かれこれ10年ほど担当しているコラムですが、博報堂にいた当時、ずっと食品系の仕事が多かったこともあり、新しい時代の新しい豊かさを象徴するようなお店として注目していました。
ただ、商品をじかに手に取れる実店舗とは異なり、サイト上で商品単体を載せても、なかなかFOOD&COMPANY独特の店舗の魅力が伝わりにくいかもしれません。ECにおいては、商品をアソートにすることも含め、そこに文脈、コンテキストを持たせるということは有効だと思います。

飯沼
毎回新しい商品にフォーカスを当て、生産の背景も含めて紹介していくことで、商品の魅力を紹介していければと思います。その都度、生産者と生活者とのつながりも生まれていきます。FOOD&COMPANYの周囲には多様な生産者、関係者がいて、ゆるやかで心地よいつながりをつくっており、それがエコシステムになっている。そうしたコミュニティの魅力をNeighborsでも広げていきたいですね。
昔と違って、いまはネットによって地理的要因から解放され、同じ価値観の人たちが自由に集まれる場としてコミュニティがあります。僕ら若い世代も人とのつながりは求めていますが、昔ながらの近所づきあいのような面倒臭さはできれば避けたい(笑)。自分の好きな価値観、共感できる人たちとの人間関係で、心地いいコミュニケーションをとっていきたいという思いがあります。FOOD&COMPANYは価値観がはっきりしているし、生産者も消費者も立場の違いを超えてその同じ価値観でつながっている。いま求められている、新しいコミュニティがつくれているのかなと思います。
谷田部
コミュニティは一方通行のコミュニケーションでは成り立たず、オーディエンスが介入できる余白、役割を提供することも重要です。そういう意味で、私たちは不完全であるということを表に出し、「私たちはいまこう考えていますがあなたはどうですか?」と問いかけ、対話を大事にしています。
岩嵜
FOOD&COMPANYのリアル店舗に入ると、まずワークショップテーブルがありますよね。お客さんが関わっていけるのりしろがあることは非常に重要だと思います。いまは提供者と受け取る側の垣根がどんどんなくなっていて、受け取り側も提供者になりえるし、提供者もユーザーになりえる。そこを行ったり来たりすることがコミュニティの一つのあり方だと思うし、スーパーマーケット的な世界で僕らが便利さを手に入れた反面、失ってしまった世界なのかもしれません。
谷田部
背景がわからないから、やさしくなれないんですよね。背景がわかれば、少しはやさしさを取り戻せるような気がします。私たちが経営理念として掲げる「やさしい経済を通してリラックスした社会へ」というビジョン、「やさしい経済のしくみを日常にインストールする」というのは、そういうことなんです。
飯沼
現代の様々な問題は生産と消費の分断から起きている可能性があります。役割が細分化され、分断された社会のなかで上手に生活の中でその分断を再統合していくようなワークデザインを我々広告会社が率先して行わなくてはならないと思います。

これからも是非いろんな取り組みをご一緒できたらと思っています。
本日はありがとうございました!

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  • 岩嵜 博論
    岩嵜 博論
    武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科 教授/ビジネスデザイナー
    リベラルアーツと建築・都市デザインを学んだ後、博報堂においてマーケティング、ブランディング、イノベーション、事業開発、投資などに従事。2021年より武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科に着任し、ストラテジックデザイン、ビジネスデザインを専門として研究・教育活動に従事しながら、ビジネスデザイナーとしての実務を行っている。
  • 白 冰(ビン バイ)
    白 冰(ビン バイ)
    株式会社FOOD&COMPANY Co-Founder 代表取締役
    1987年北京生まれ。5歳から横浜に移住し日本で教育を受ける。米国NYに留学しファッションマーケティング&マネージメントを専攻。卒業後日本に帰国し、ファーストリテイリングに入社。退社後、2013年にオーガニック食材をメインに扱う食料品店、FOOD&COMPANYを設立。
  • 谷田部 摩耶
    谷田部 摩耶
    株式会社FOOD&COMPANY Co-Founder 取締役
    米国NY市立Hunter Collegeで国際開発専攻、修士号取得。2013年にFOOD&COMPANYを白と共に起業する。同社のコンセプト開発から商品選定・仕入全般を行なっている。
  • ミライの事業室 ビジネスデザインディレクター / iichi(株) Founder 取締役
    慶應義塾大学 環境情報学部卒。博報堂に入社。2011年に手仕事品のマーケットプレイス「iichi」を企業内起業。2016年に台湾「Pinkoi」と資本業務提携。2019年よりミライの事業室でコマース領域の新規事業開発に従事。