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【Media Innovation Labレポート.2】 米国スポーツビジネスの最新動向
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【Media Innovation Labレポート.2】 米国スポーツビジネスの最新動向

コロナ禍により全世界的に中断を余儀なくされていたスポーツビジネスは、6月以降、欧州サッカーを皮切りに日本のプロ野球、Jリーグが次々と再開。米国でもようやくゴルフ(PGA)、カーレース(NASCAR)が再開しました。7月に入ると野球(MLB)、7月末にはバスケットボール(NBA)、そして8月1日からアイスホッケ―(NHL)と続々とメジャースポーツが再開しています。
米国のスポーツビジネスは以前よりデータやデジタルの活用が進んでいます。チケット販売でのダイナミックプライシングの導入や、チーム編成での統計解析の利用、スタジアムでの体験価値の向上に向けた顧客データ活用などが積極的に行われています。
本稿では、その米国スポーツビジネスをさらにより深く理解するため、米国のスポーツビジネスの基本構造やコロナ禍を受けての現状について、博報堂DYメディアパートナーズイノベーションセンター 兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ※)の吉田弘(シリコンバレー在住)にナレッジイノベーション局兼Media Innovation Labの田代奈美が聞きます。(vol.1 「米国動画配信サービスの最新動向」はこちら

■米国人の生活は常にスポーツと共にある

田代
スタジアムに行くなりテレビ観戦するなり、スポーツは多くの米国人の生活に密着しているという印象です。以前何かの記事で、“米国人にとってスポーツは教会と同じくらい身近な存在だ”と表現されていました。

LAのステイプルズ・センターでのNBAの試合の様子

吉田
確かにそうですね。ビジネスミーティングなどの自己紹介でも、たいていの場合出身地と好きなチームの話をすると打ち解けられますよ(笑)。もっとも人気が高いのがアメリカンフットボールで、少し差が開いてバスケットボール、野球と続き、また少し差が開いてアイスホッケーとなります。これが米国の4大スポーツです。国土が広く各地域にチームがあるため、たいていの人が出身地のチームを熱心に応援していますね。一方で日本の読売ジャイアンツのように多少ナショナルな雰囲気を持っているチームもあって、アメフトだとダラス・カウボーイズ、野球の場合はニューヨーク・ヤンキースがそれにあたります。

アメフトや野球の場合ローカルテレビのレギュレーションがあり、基本的に日曜日の昼間の放送は地元の試合中心になりますが、夜の試合だけは全国で放送されます。ですからほかの地域の試合が見たい場合は、それなりの契約料を払って別の有料放送やネット配信に加入することになります。また国内で時差があるため、東海岸の12時に始まる試合は西海岸では9時からの放送となる。夜のプライムタイムと一口に言っても、ニューヨークで試合が始まる20時は西海岸では17時となるため、私が住んでいる西海岸では、週末の夕方になると明るいうちから大勢がスポーツバーなどで盛り上がりながら観戦しています。

田代
そうなんですね。米国と言えば大学スポーツも盛んですね。
吉田
はい。アメフトの場合自分の出身大学を応援するのはもちろんですが、地域によっては地元の大学のチームが、“おらが街のチーム”になっていて、ほかのどんなプロスポーツチームよりも人気だったりします。8~10万人規模のスタジアムを持つ大学も珍しくありません。
大学が保有する10万人以上入るスタジアムは5つもあります。アメフトは土曜日に大学チームの試合を、日曜日にプロの試合を開催します。土日は観戦に行く人たちがスタジアムの駐車場でバーベキューをしていたりして、ある意味お祭りのような雰囲気になります。また、先程言ったように、スタジアムに行かずとも、西海岸では東海岸の12時キックオフの試合が9時から放送されていて、東海岸の15時キックオフの試合が12時から、と順次放送され、それが終わると17時、18時くらいから西海岸の試合の放送が始まるので、1日中テレビで観戦することになり、スポーツ好きにとって土日はかなり忙しくなりますね(笑)。

こうした状況が年間を通して続く――つまりシーズンオフがないことも4大スポーツの大きな特徴でしょう。アメフトのシーズンは9月に始まり、バスケットやアイスホッケーは10月末、11月あたりからスタートし、6月まで続きます。そして野球のシーズンが4月~10月となるため、4大スポーツをやっていない時期がない。何らかの地元のチームが、常に試合をやっている状態なのです。

田代
なるほど。どこに住んでいても常に何かしらのスポーツをやっているので、誰しも自然と応援するようになるのでしょうね。会場も人がたくさん入るし、テレビ観戦を楽しむ人も多い。オフラインもオンラインも、ビジネスとしては非常に大きいということですね。

■オープンな市場で、スケールアップし続ける米国スポーツビジネス

田代
リーグがあり、ファン、スポンサーがいるというように、スポーツビジネスのエコシステムとしては日本とほぼ同じと考えていいのでしょうか。
吉田
同じようでいて異なります。というのも、金額の桁が桁違いだからです。野球ならMLB、フットボールはNFL、バスケットはNBA、アイスホッケーはNHLというリーグが非常に大きな力を持っていて、テレビの放映権やネット配信周りを一括管理・契約しています。放映権料は年々高騰していて、たとえばNFLの場合は1年で5000億円以上の規模になる。この放映権料を、リーグが各チームに分配するのです。さらに、公式スポンサーからの莫大なスポンサー料があり、オールスターなどの場合は試合の収入もリーグに入ってきます。スーパーボウルもNFLの主催となります。一方、チームが得る収入で一番大きいのはチケット代です。それから各スタジアムに出す看板などの広告料、ほかに、1点5000~10000円するTシャツやユニフォームといったマーチャンダイズの収入があります。そこに、1日停めるだけで5000円ほどする駐車場料金、1本12ドルくらいするビールなどの飲食代なども入ってくる。そういうビジネスモデルになっています。

当然選手が得る報酬も桁違いで、最近の例だと、今年スーパーボウルで優勝したカンザスシティ・チーフスのクオーターバック、パトリック・マホームズ選手が10年間約500億円で契約していました。年間だと50億円になり、これは日本の巨人軍の年俸をすべて合わせた額と同じくらいだそうです。またNFLで一番人気のチーム、ダラス・カウボーイズの年間収益は約1000億円で、日本で考えるとかなりの規模の企業と同等になります。それだけの巨額ビジネスなのです。

田代
放映権料が年々高騰してきた理由は何でしょうか?
吉田
娯楽や価値観が多様化するなか、スポーツそのものが“熱狂する時間を共有できる”唯一無二のジャンルになってきて、スポンサーにとって魅力度が増してきたことはあると思います。また、テレビドラマなどと違ってほぼリアルタイムで視聴されるのも、広告を入れるには魅力的でしょう。またスーパーボウルの2大スポンサーと言えばビールメーカーと自動車メーカーでしたが、おととしからコンシューマーグッズの会社も参入してきました。主に女性を対象にした商材を扱うスポンサーが入ってきたのは、家庭でのテレビ視聴における女性の視聴者も意識しはじめた結果でしょう。女性向けデートサイトのCMも入るようになるなど、スポンサーの傾向も少しずつ変化し、ビジネスとして大きく成長しています。
田代
なるほど。それだけの額のお金が動いているからか、テック的なものからライツホルダー向け、そして放送局のマネタイズに関するカンファレンスもかなり頻繁に行われていると聞きました。
吉田
カンファレンスのテーマを大きく分けると3つになります。1つ目はスポーツとオーディエンスの関係をARやVRなどの最新テックによって向上させ、新しい体験をつくっていくというもの。2つ目は選手の強化について。スウィングをいかに科学的に分析し練習に活かすか、ARやVRをトレーニングにどう取り入れていくかといったもの。3つ目は、お客さんにもっと足を運んでもらうためのプロモーション施策など、チームやリーグの利益を最大化するためのスポーツマネジメントについて。
田代
3つ目のスポーツマネジメント…マーケティングは特に、日本との差がはっきりしている領域ですよね。日本でダイナミックプライシングを取り入れたのは割と最近で、まだまだ年間を通して安くかつ定額で同じ席を扱っている。一方米国ではかなり以前からチケットの値段を変動させていました。
吉田
アメリカの場合年間シートという売り方が主流になっています。NFLの場合ホームゲームが1年間に8試合しかなく、例えばサンフランシスコ・フォーティナイナーズの本拠地リーバイス・スタジアムの場合、年間シートは特別席を除くと1試合あたり、9000円~2万5000円程度です。そして、試合に行けない場合にはその席を当然のようにセカンダリー・マーケットに出し、価格を自分で決めるわけです。売り手としてのチームと買い手としての観客という単純な構図ではなくて、チケットを買った人がセカンダリーで売ることも多いので、全体のチケッティングビジネスが非常にダイナミックだと言えます。日本だと転売禁止のルールがあるためにダフ屋のような存在も出てきますが、米国では転売が問題視されておらず、むしろ市場がオープンであることこそが健全であるというのが、根本の考え方です。
田代
そこは非常に米国らしいというか、合理的ですね。
試合以外の生活者とのかかわりなどで、米国らしい特徴は何かありますか?
吉田
根底に「地元主義」があるので、試合終了後の記者会見は地元メディアが仕切っています。それから各チームで基金をもっていて、地元の子どもたちへのスポーツ教室や進学サポートなどを行っています。たとえばNFLのサンフランシスコ・フォーティナイナーズは50億円くらいの基金を持っていて、フットボール教室の開催や教育支援などをあちこちで行っているし、MLBのボストン・レッドソックスは100億円くらいの基金を使って、街中でバッティングが学べるスポットを作ったりしている。どちらも、将来のファン育成という戦略的な意味合いも持っています。

■コロナ禍により生じたさまざまな課題

田代
では、現在の米国スポーツ業界の課題は何ですか。
吉田
やはりコロナをどう乗り越えるかという一点に尽きます。せめて放映権料は確保できるように、無観客でもいいから試合をスタートしテレビ放送を再開させたいと思っているはずです。

7月末からバスケット、アイスホッケー、野球が再開しましたが、バスケットはフロリダの一カ所に集まって試合をし、アイスホッケーの東のチームはトロントで、西のチームはエドモントンに集まって試合をするというように、選手の遠征を最小限に減らす措置が取られています。野球も、試合数を大幅に減らして再開。従来のナショナルリーグ/アメリカンリーグという分け方ではなく、東部/西部で分けることで、こちらも移動のリスクを抑えるやり方にしています。一方で選手に感染者が発生したため急遽中止が決まった試合もあるなど、まだまだ先が読めない状況が続いています。

田代
NFLはどうなっていますか?
吉田
全選手を対象に事前に行った調査では、2.5%の陽性率だったようですから、そもそも本当に始められるのかどうかがわかりません。アメフトはプレーヤーや関係者の数が多いですから。またこれだけの市場規模なので、プロのリーグやチームはもちろん、大学も大きな困難に直面しています。大学スポーツもプロスポーツと同じように放映権があり、何万人も入るスタジアム収入があり、マーチャンダイズがあり、スポンサー収入がある。なかでもアメフト部は各大学のスポーツ局が運営していて、大学が得る収入の多くを稼ぎ出していますから、アメフトの試合ができないと他のスポーツ部が維持できなくなり、廃部を強いられるケースもあるそうです。全米でもっとも経済的に恵まれているとされるスタンフォード大学ですら、36あったスポーツ部のうち11が廃部になったことがニュースになっていました。

また特に規模が大きいのが、毎年3月に開催される「マーチ・マッドネス」と呼ばれる大学バスケットのトーナメント。国土が広い米国では地区トップを決めることはあっても全米No.1を決める大会というのはあまり例がないのですが、「マーチ・マッドネス」は全米各地で勝ち抜いた68の大学チームによるトーナメント戦で、開催される3週間ほどは全米が熱狂し、注目を集めます。放映権料は年間で1200億円とされていますが、今年はそれがありませんでした。9月からのアメフトのシーズンがなくなると、この放映権収入もなくなるのでスポーツに力を入れている大学にとっては大打撃となります。

田代
日本の大学スポーツは基本的にアマチュアなので、ビジネスの問題が絡むことが意外に感じますが、米国だと完全にビジネスとして成熟していて、大学経営の柱にもなっているというのは驚きです。

ほかに、コロナ禍により生じた課題で気になっているものはありますか。

吉田
中止や延期になってしまった開催スケジュールをどう整理していくのかが気になります。ゴルフも、4月のマスターズが11月に延期となっているので、アメフトのシーズンに食い込んでしまう。マスターズの放映権はCBSが持っているのですが、ゴルフとアメフトの試合が重なる日曜日の放送をどうするのかという問題は気になりますね。また、オリンピックがなくなったことで、NBCも大変な痛手でしょう。

通常は5、6月に行われるテレビのアップフロント(年間のテレビ広告枠の予約売買交渉)も今年は変則になっていて、7月に入ってからようやく始まったところもあります。当然その中にはスポーツ番組も入って来ます。日本も同じですが、スポーツ番組のスポンサードは一度手放すとなかなか取り戻せないものなので、各企業、維持したいと思いながらも先が見通せず、難しい判断を強いられていると思います。来年のスーパーボウルの行方も気になりますね。

田代
ひとまず現状では課題山積といったところですね。ありがとうございました。

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アドトランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

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  • 博報堂DYメディアパートナーズ
    イノベーションセンター
    1988年博報堂入社。事業局、研究開発局を経て、2004年より博報堂DYメディアパートナーズへ異動。メディア環境研究所長、メディアビジネス開発センター長を経たのち、2018年よりイノベーションセンター(シリコンバレーオフィス)エグゼクティブディレクター。20年より、Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)海外拠点リーダーを兼務。
  • 博報堂DYメディアパートナーズ
    ナレッジイノベーション局情報マネジメントグループGM兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ)サブリーダー
    1996年博報堂入社。テレビ局、メディアマーケティング局、博報堂香港、メディアビジネス開発センターなどを経て、2019年よりナレッジイノベーション局でメディアやテクノロジーのグローバルトレンドを研究。